100倍スキルでスローライフは無理でした

ふれっく

文字の大きさ
15 / 30
第一章 銀髪の少女

第十五話 打ち解けた心

しおりを挟む
 あれから俺はいくつか店舗を訪れ、大量の食材や食べ物を購入してからレナの居る宿への帰路に就いていた。料理経験の欠片も無いため、とりあえず使えそうな食材を片っ端から買い漁ることにしたのだが。

「……さすがに買いすぎたかも」

 アイテム欄の中が食材で埋め尽くされている。まぁ、それでもスペースは全然余っているため大して気にはならない。途中まで大量の食材が詰められた袋を両手に抱えていたのだが、アイテム欄の中に入れられないかと試してみたところ全て収納することができた。つまり、今の俺は手ぶらに見えて大荷物を抱えている。

 ( 腐ったりしたら嫌だなぁ。何日持つのか知らないけど、やばくなったらセレシアにお裾分すそわけしよう )

 そう言えば最初に買い物しようとした時、店主がお釣りを数えるのにかなりの時間を掛けてた。無論、白金貨で払おうとした俺が原因なのだが……。その店主には少し悪いことをしたかもしれない。

 ( 今度また買いに行こうかな、次は買い占めない程度に )

 二回目ともなれば案外道を覚えているようで、迷うことなく宿へと辿り着くことができた。扉を開けて中に入ると、奥の部屋からひょっこりとレナが顔を出す。入ってきたのが俺だと分かると、レナは表情を明るくさせながら此方へ駆け寄ってきた。

「ノーラさま! おかえりなさいっ」

「ただいま、遅くなってごめんね」

 俺は反射的にレナの頭を撫でてやる。目を細めながらに擦り寄ってくるレナを見て、ちょっとニヤけそうになってしまった。まるで小動物のような可愛さに、思わず頬が緩んでしまいそうになる。

「あれ、何も買わなかったんですか?」

 手ぶらの俺を見てレナ首を傾げる。

「あぁ……いや、いっぱい買ってきたよ」

 俺はアイテム欄の中に入れてある大量の食材をテーブルの上に出した。さすがに全て取り出そうとすると床に転げ落ちるため、とりあえず半分ほどで抑えておく。

「わわっ! こんなにいっぱい……。それに今のって、ノーラさまは収納魔法が使えるのですね!」

 大量の食材に驚くものの、それよりもレナは俺の方に興味を示していた。

 ( 収納魔法……? アイテム仕舞うだけなのに魔法なの? )

「ま、まぁ……そんな感じ?」

 とりあえずその場の話に合わせつつ、俺は自分のステータスを確認する。魔法というからにはMPを消費するものかと思ったが、見たところMPは全く減っている様子はなかった。

「収納魔法は確かに便利ですけど、あまり多用してはだめですよ? たくさんの物を収納したり、長い時間収納し続けていると、魔力の消費が多いらしいので」

「……う、うん。気を付けるよ」

 恐らくレナの言う魔力が俺にとってのMPなのだろう。やはり本来は収納魔法を使用するごとにMPを消費するらしいのだが……。ひょっとすると、アイテム欄は収納魔法とは別なのかもしれない。まぁ、仮に魔力を消費したとしても、俺の数値的には無尽蔵に近いし、そこまで問題は無いか。

「それにしても……こんなにたくさん買ってもらってすみません、お金はいつかお支払いしますから」

 俺が大金ばかり使っていることに心配してくれているのだろう、レナは申し訳なさそうな表情で呟く。

「ううん。元々はレナの白金貨で買うものだったんだし、そんなの気にしなくていいから」

 ( そんなレナの大事なお金を奪って酒に変えた奴が悪いんだからな。……ぐぬぬ、なんか思い出したら腹立ってきた。仕方ない、今は存分にレナの微笑ましい姿で癒されよう )

「で、ですが! それではノーラさまのお金が……」

「いやぁ、それが……まだ大量の白金貨が余ってるから、そのことに関してはまったく問題ないよっ」

「……へ? 大量の白金貨が、余って……?」

 意識が遠い空の彼方へと飛んで行ったかのように固まるレナ。普通なら誰でもこんな反応になるだろう。こういった事は言わない方が身のためなのだが、レナは俺を悪用したりしないだろうし、問題ないはずだ。

「あとこれ、改めてレナに渡しとくね」

 呆然と立ち尽くすレナの手に、俺は硬貨の入った布袋を手渡した。買い物の最中、最初に立ち寄った店の店主が用意してくれたお釣りだ。半ば両替の様な扱いをしてしまったが。ともかくこれだけあれば、暫くはレナの生活費と宿の修繕費に使えるだろう。

「あ、えっと、ありがとうござ………ふぇっ!?」

 ずっしりとした重さに、レナは驚きの声を上げる。それもそうだ、なんせ金貨を含めて五十枚以上は入っているのだから。返されないようにと、俺はにっこり笑顔で圧をかけた。もはや新手の脅迫である。

「ぅ、……ありがたく、貰っておきます……」

 レナは渋々といった様子で受け取った。少し過保護かもしれないが、レナは今までずっと苦労してきたのだから。このくらいはしてあげたい。俺はレナの頭を数回撫でつつ、柔らかい笑顔を見せた。

「よし、それじゃあご飯にしようか」

「ふふっ、そうですね。今日は朝から何も食べてないですし、腕によりをかけて作っちゃいます!」

 袖をまくって意気込むレナ。そうして食材を手に取って何やら悩み始める。なにを作ろうか迷っているようだ。

「う~ん……。あれがあったら、ん~……」

「何か足りないの? 言ってくれれば出すけど」

 きょとりと首を傾げるレナを横目に、俺は他のテーブルの上に残りの食材を全て取り出した。

「まっ、まだあったんですか!?」

「あはは、ちょっと買いすぎちゃって……」

「ちょっとの量じゃありませんからっ!」

 レナは両手をパタパタと上下に揺らしつつ言ってくる。そんな様子を微笑ましく眺め、俺は口を開いた。

「今日も、此処に泊まっていいかな」

 そんな俺にレナは笑顔で答えた。

「───もちろんですよ、ノーラさまっ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...