100倍スキルでスローライフは無理でした

ふれっく

文字の大きさ
14 / 30
第一章 銀髪の少女

第十四話 熟練の感覚

しおりを挟む
 俺がまだ中学生だった頃、よく学校でいじめに遭っていた。

 一人に対して何人もが取り囲み、他の連中は見て見ぬふり。誰だって面倒事には関わりたくないだろう、俺だって同じことをするはずだ。
 だが、被害者側だったからこそ俺は周りの連中を憎んだ。いじめていた奴も、目を逸らして逃げていた奴も。……いや、そんな事は誰だってある、俺に限った話じゃない。ある一時の感情で決め付けるのは理不尽というものだ。

 例えば、いじめられているのが俺ではなく他の奴なら。俺はそいつを助けたのか? 割って入ったのか? 否、そんなこと俺に出来るはずがない。結局は俺も他の奴らと変わらないくずなんだ。何かから目を背ける事が正しい選択だとは言いきれないが、それは自分の身を守るための手段でもあるのだ。

 だから考え方を変えた、誰とも関わらなければいいと。

「まぁ、此処じゃそんな事も言ってられないか」

 一人で居ることこそが正しいものだと思っていた俺だが、この世界に来てから少し、考え方が変わった気がする。例え超人的な力を持っていても、一人じゃ何も出来やしない。人との関わりが一番大切なことなのかもしれない。

 例えばそう、救いの手を差し伸べてくれる人とか。

「……っと、此処か」

 多くの建物が並ぶ場所から離れた街の南西部、ひっそりと建つ小屋の前で俺は足を止めた。マップによると、この小屋の中に五つの赤い点が集まっていた。レナの言っていた男の仲間だろうか?

「さて。……ど、どうしようか」

 感情に任せて来てしまったものの、改まるとやっぱり怖い。確かに俺には異常なまでの力があるが、さすがにメンタルまでもが強くなった訳ではない。平気で人を殺すような連中の場所に単身で乗り込もうなど、普通なら考えないだろう。

 ひとまず俺は、中の様子を伺うべく扉に近づいた。

「ちっ、なんで俺が買い出しなんざ……ん?」

「あっ……」

 突然扉が開き、中から一人の男が姿を現した。隠れるような場所もなく、俺は男と鉢合わせしてしまう。

 ( なにこの謀ったかのような最悪のタイミング……! )

「なんだお前、ここで何してやがる?」

 男は俺を睨みつけながらじりじりと近寄ってくる。仮にも女子を相手に、そこまで威圧感を放たなくてもいいのでは? 普通の子供なら泣いててもおかしくないぞ。

「い、いやぁ……ちょっと道に迷ったと言いますか……」

「こんなとこまで道は続いてねぇはずだが?」

 定番となる言い訳もあえなく論破された。視線を泳がせていると、男は忌々しそうに舌打ちをした。

「あまり舐めた真似するなよ、俺は今ゲームに負けてイラついてんだ。ガキだからって容赦しねぇぞ」

「は、はぁ……」

 ボードゲームか何かでもしてたのだろうか。そもそも、ゲームに負けて怒る方がよっぽどガキなのではないかと思う。

「くそっ、あの野郎チョキなんざ出しやがって。俺があそこでグーさえ出しておけば……」

 ( って、ジャンケンかよ! )

「絶対イカサマしてやがる、許せねぇ……!」

 ( そんなもんにイカサマもクソもあるかぁ! 運と心理戦に負けたんだよお前はっ!)

 心の中で突っ込みを繰り出す。それより、この世界にもジャンケンの文化があることに驚きなのだが。

「しかし、ガキのクセに顔は上物だな。……この際だ、お前の身体でストレス発散させてもらうぜ」

 男は俺の顔と身体に視線を這わせ、不敵な笑みを浮かべる。すると男は、俺の服に掴みかかった。

「え? ちょ、やめ……っ!」

「別にいいだろ? 気持ちよくさせてやるからよぉ!」

 呼吸を荒くしながら俺に詰め寄ってくる。正直、かなり気持ち悪い。服を破ろうとしているのか、男は何度も腕に力を入れて俺の服を引っ張るが、まるで破れる気配がない。

「なんだこの服、ただの布じゃねえのか? ちっ、こうなったらナイフで……」

 しつこく迫ってくる男に、俺はついに堪忍袋の緒が切れた。

「───いい加減にしろ! 汚い手でベタベタ触ってんじゃねぇぇぇ!!」

 俺の服を掴む腕を払い除け、男に蹴りをお見舞いする。すると男の身体は " く " の字に折れ曲がり、扉を突き破って小屋の中へと吹き飛んでいった。

「ぐはっ……」

 まだ力の感覚を掴めていないため、ある程度加減したのだが……。男は奥の壁に激突し、そのまま床に伸びてしまった。

 ( 手加減してもこの威力かよ…… )

「な、なんだ!? 」

 部屋の中に足を踏み入れると、計四人の男が俺に視線を向ける。

「なんでガキが……。今のって、あいつが……?」

「んなわけ無いだろ、ただの女子供じゃねえか」

 ここまで派手な登場をかましてしまった訳だ、今更おどおどしていても仕方がない。彼らの言葉をよそに、俺は口を開いた。

「あの、私みたいな子供からお金を奪った人は居ますか?」

 すると、四人のうち奥に居た一人の男が俺の元へ歩いて来る。

「ああ、居るぜ。お前の目の前にな」

「そうか、あんたが……」

 余裕の態度で俺を見下す男。服の上からでも分かる腕の筋肉、その強靭な肉体はまさに冒険者と言ったところだ。

「ふん、ガキの知り合いにはガキしか居ねぇのかよ。それで、一人でのこのこと何しに来たんだ。まさかとは思うが、取り返しにでも来たってか?」

「うん、あの子から奪ったものを返してほしい」

 俺の返答を聞いて男は腹を抱えて笑った。

「ははっ! そりゃ偉いなぁ? けどよ、悪いがそいつは無理だ……もう使っちまったからなぁ!」

 見せびらかすように男は酒瓶を手に取った。見れば、部屋中に酒や食べ物が散乱している。

「だが、最初に奪ったのはあいつの方だろ? あんな大層なもんを貧乏くせぇガキが持ってる訳ねぇよ」

「あれは私が、あの子にあげたものだ」

「……お前がだと? 」

 男は俺をまじまじと見つめ、不敵な笑みを浮かべる。

「ほう、貴族の娘か何か知らねぇが……だったら丁度いい。残りの金もここに置いていけ、そしたら見逃してやるよ。死にたくはねぇだろ?」

 ……どこまでも腐った奴だ。俺は深くため息をついて男を睨む。

「ああ、死ぬのは怖い。誰だってそう。……けど、あんたは人を殺したんだろう?」

「殺したなぁ。……だが、それの何が悪い? この世界はな、強い奴こそが───」

 俺は男の腹部目掛けて拳をめり込ませる。その衝撃によりメキメキと肋骨の砕ける感覚が指に伝わるが、今の俺には罪悪感など一切感じなかった。

「かは……っ」

 かすれた声を漏らしつつ、男は後方へと吹っ飛ぶ。やがて壁に背中を勢いよくうちつけた事により、ようやく勢いが止まった。

「……は?」

「おい、冗談よせって。なぁ……」

 残された三人は今の光景に唖然としていたが、みるみるうちに顔が青ざめていく。

「……ちっ! 舐めんじゃねぇクソガキがぁぁ!」

 先程殴り飛ばした男が怒りを顕にしつつ、剣を抜いて向かってくる。あれだけのダメージを与えても倒れないとは、腐っても冒険者という事か。ならばと、俺は腰に携えた刀に手をかける。

「死ねやァァァ!!」

 肩から斜めにかけて勢いよく剣が振り下ろされる。……しかし、俺はそれよりも先に刀を抜いていた。

「ざまぁみやがれ! 雑魚が俺に歯向かうから……って、は?」

 俺に攻撃を弾かれる事もなければ避けられることもなく、男は確かに剣を振り切った。だが、俺に傷らしいものは何一つ与えられてなどいなかった。

「なっ……無傷だと!? お前、一体なにを……」

「よく見ろよ、自分の剣を」

 俺の言葉に、男は自分の剣へと視線を移す。しかし、男の持っていた剣は刀身のほとんどを失っており、バラバラの破片となって足元に散らばっていた。

「は……はぁぁぁ!?」

 状況に理解が追いつかない男。だが、同時に俺も内心少し驚いていた。
 刀を抜き、目の前の "敵" に攻撃を仕掛ける刹那せつな。俺の身体はまるで、何度も刀を振るってきたかのような洗練せんれんされた動きを
 勿論、俺は刀なんて振った事はおろか、手に持った事すら一度もない。つまり、これは俺の……アバターに残っていた感覚なのだろう。

「……それで。強い奴こそが、なんだって?」

 刀をさやに戻し、俺は再度男を睨み付けた。

「ひっ……! か、勘弁してくれ……頼む! 死にたくねぇ……まだ死にたくねぇよぉ!」

 男は俺の前で膝をつき、何度も頭を下げて命乞いをし始めた。

「誰だって死にたくない。けど、それでもあんたは人を殺した。……それが事実だ」

「もう殺しはしない……二度としねぇから! なぁ……!?」

 男の言葉に、俺は大きくため息を零す。逆手で刀の柄を掴むと、男の額目掛けて柄頭つかがしらを突き出した。その衝撃により男は脳震盪のうしんとうを起こしたらしく、意識を失い倒れ込んだ。

「一度でも人を殺めたら、その時点でもう人として終わりだろ」

 とにかく、これで少しは懲りただろうか。その光景を見ていた他の男達は腰を抜かしており、襲ってくる気配はなさそうだ。俺はボロボロになった小屋から出ると、一つのウィンドウが表示されていることに気付いた。

〘 スキル【抜刀・翠閃すいせん】を習得しました 〙

「これは……」

 さっき刀を振るった時に覚えたのだろうか? スキルの項目を確認してみると、空白だった欄の中に【抜刀・翠閃】というスキルが確かに追加されていた。ついでに、以前覚えた【 探索サーチ】も追加されている。

「まぁ、考えるのは後でいいか」

 ウィンドウを閉じると、俺は商店街へと向かって歩き出した。
 昨日セレシアと食べ歩いた店、まだ空いてるかな……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...