100倍スキルでスローライフは無理でした

ふれっく

文字の大きさ
24 / 30
第一章 銀髪の少女

第二十四話 過去の憧れ

しおりを挟む
 ノーラさんと別れた後。街の状況や怪我人などの確認を済ませ、私は城へと戻っていた。地下に避難している住人たちの方はダネアに任せてある。今頃は危機が去った事を伝えてくれているはずだ。

「なるほど、外ではそんな事が……」
 
 報告を聞き、お母様は悶々とした表情を浮かべる。
 先程までの出来事を一から話すと長くなるため、要点だけを纏めてなるべく手短に説明を続けた。しかし、それでも多くの出来事が同時に起こっていた事には変わりはない。流石のお母様でも、終始困惑した表情を浮かべたまま頭を悩ませていた。

「つまり……今回起きた騒動の主犯である魔族は現在、召喚者と共に行動をしている、という事になりますが。本当に危険は無いのですか?」

「はい、心配は無いと思います。召喚者さまの様子を見る限り、魔族に意識を奪われている様子もなく、魔族の方からも敵意は感じられませんでした」

 絶対に安全だという確信は無い。それに魔族とは本来、誰かに付き従う事はしない。同族ならまだしも、私たち人間の下に就く事など有り得ないのだ。
 そもそも、人間と魔族とでは力の差が大きく離れているため、自分たちよりも弱い存在である人間が相手となれば尚更だろう。そんな魔族が一人の少女……ノーラさんに従え、さらには主様と呼んでいた。常にプライドが高いといわれている魔族が、冗談程度で私たち人間に対して主と呼ぶ事など無いだろう。

 あの戦いの場で、二人に何があったのか分からないが、二人とも嘘を言っている様には思えなかった。
 それに何度かノーラさんが武器に手を掛けた時、表情には出さなくとも魔族は少し怯えた様子を見せていた。もっとも、ノーラさんの言葉に納得してしまった以上、この事実をお母様に信じてもらうしかないが。

「……そうですか。疑問点は幾つかありますが、私がその場に居合わせた訳でもありません。あなたがそう言うのであれば、私はそれを信じましょう」

「ほっ……。ありがとうございます、お母様」

 渋々といった様子ではあるものの、何とか納得して貰えたようだ。私はそっと胸を撫で下ろしながら安堵する。

「ともかく、あなたが無事に戻って来てくれて本当に良かった。……あなたが外へ向かったと聞いてから、今まで生きた心地がしなかったのだから」

「……ご、ごめんなさい。街を守るという一心で、思わず身体が動いてしまって……」

 私が広間に入って来た途端、お母様は目尻に涙を浮かべながら私の元へ駆け寄り、優しく抱きしめてくれた。よほど不安にさせてしまっていたのだろう、つい先程まで離してくれなかったのだから。

「無茶だけは、絶対にしてはいけませんよ。授かった命は一つしかないのですから」

 また、お母様に迷惑を掛けてしまった。それも以前のように、ただ帰りが遅くなった時とは訳が違う。きっと私が命を落としてしまう可能性も考えていたのだろう。私自身、死を覚悟したうえで戦いに挑んでいたのだから無理もない。反省と罪悪感により、頷く事しか出来ずにいる私に、お母様は優しく頭を撫でてくれる。

「……本当に、あの人によく似ているんだから」

「あの人……。お父様の事、ですか?」

「えぇ。自分よりも周りの事を一番に気にかけて、ちょっぴりやんちゃな所もあったけれど。意思が強く、諦めないところが、まんまあの人にそっくり」

 お母様は笑顔を浮かべながらにそう呟いた。言われてみれば、確かに私の性格は少し、お父様に似ているかもしれない。……とはいえ、やはりお父様に比べれば何もかも程遠い。

「いえ、私なんてまだまだ。お父様の方が剣の腕も優れていて、ずっと逞しかったですから」

「……そうね。あの人は強く、とても逞しい人だった。ですがセレシア、あなたはそんなお父様と、私の娘なのですから。自信を持って良いんですよ」

「お母様……」

 何時も、お母様と居る時は気持ちが落ち着く。心が安らぐような、心地の好い安心感。……けれど、これと似たような感覚を、外で居る時にも感じていたように思う。多くの兵士たちといたから? それとも、街の危機が去ったから? ううん、どれも違う。一番この気持ちに近いのは……。

 ───ノーラさんが来てくれた時だ。

 たった一人の友達が助けに来てくれた事が、私に大きな安心感を与えてくれたのだ。その時はノーラさんが召喚者だとは知らず、犠牲が増えてしまうという考えもあったが。それ以上に、私は彼女の勇士に救われた。

「……今の私では、まだまだ役不足に思うかもしれません。ですが、何時か必ずお父様のように、多くの人から頼られる存在になれるように精進します!」

 お父様のように逞しく。そして、ノーラさんのように強く。同じようにはなれなくても、そのくらい私も努力しなければ。

「ふふっ、楽しみにしていますからね、セレシア」

 私とお母様は、お互いに笑顔を浮かべ合った。

     ◆

 翌日の早朝。
 窓から差し込む光を浴び、俺は目を覚ました。

「……ふぁ、もう朝か」

 小さなあくびを零しつつ目を擦る。昨晩はテレサを叱るなり、レナを説得するなりで忙しいものだった。寝ようとすればテレサが部屋まで着いて来るものだから何度も追い返し続け、結局俺が眠り始めたのは明け方くらいだった。当然、テレサに話を聞く機会も逃してしまったが。

「ぁ~……、寝た気がしない……」

 凡そ二時間ほどしか眠れてない訳だし、無理もない。
 俺は身体を伸ばしつつ布団の中で腕を広げた。すると、むにゅりと左手から柔らかな感触が伝わってくる。

「……ん? なんだこれ」

 むにゅ、ふにゅ、と幾度か触れてみる。柔らかなそれに指が沈み、その度にポヨンと跳ねる弾力の良さ。確か……これに近い感触のものを以前に何度か触った事があるような。これほど大きなものではなかったが、この感触、触り心地は確か……。

 まるで、ノーラの胸みたいな……。

「……まさかっ」

 俺は勢いよく掛け布団をひっぺがす。すると案の定、テレサが俺の隣で横になっていた。

「んもぅ……主様の、エ ・ ッ ・ チ」

「お前ぇぇぇ! 部屋に入るなとあれほど……!」

 咄嗟に飛び起きて後ろに手を付いた。すると今度は、右手に柔らかい感触が伝わってくる。

 大きさはテレサの胸とさほど変わらない。けれど、その柔らかさとは違ってハリがある感じが……。
 俺は恐る恐る、右手が触れているものに視線を向ける。その正体は、テレサとは反対側で眠っているレナの、可愛らしくも小ぶりなお尻だった。

「あっ……のーらさまぁ、それ以上は……んっ、だめ、れすよぉ…………っ」

「うぁぁぁあ! ご、ごめんレナっ! わざとじゃ……って、あれ……?」

 俺はレナの方へと視線を向けた。見たところ、どうやら寝言のようだった。

「んぅ、あ……そんな、だめぇぇ……っ」

 ( レナよ。年頃なのはわかるが……その、一体どんな夢見てるんだ? 純粋に夢の内容が気になるというか、ちょっと不安になってくるんだが…… )

「ちょっと主様! 私の時とは随分と対応が違うじゃないのよ……っ!」

「あー、ごめんごめん。柔らかかったよ、うん」

「ひどぉい!? もっと優しくしてくれても良いじゃないのよぉ~!」

 ぷくっと頬を膨らましつつ、テレサは俺に訴えかける。何というか、最初に会った時と比べてかなりイメージが変わりつつあるように思う。可愛くなったとは思わない、意地でも思わない。
 そんなこんなで、俺は騒がしい朝を迎えるのだった。何時もの静かなモーニングルーティンは一体どこへ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
ファンタジー
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...