1 / 1
第1話 ゼロ
しおりを挟む口から垂れた唾液が手にじんわりと触れた。
ポケットからハンカチを取り出して、すぐにそれを拭い、誰もみていない事を確認後、再度眠りについた。
「おい、起きろよ。リュウ」
細いと言われる目はさらにぼんやりとしていた。
横を見ると、ケイが立っていた。
手には雑誌のようなものが一冊。
「なんだ?漫画の新刊?後で読むから置いといて」
「なんだよ、漫画じゃないけど太々しい態度だな。折角面白いもの見つけたというのに」
「面白い?」
ケイの顔は見なくとも嫌らしい笑みを浮かべているに違いない。
それを見せつけられるのは自分的に面白くない。
「幽体離脱」
突発的な単語を発したケイに対して、ハテナマークが脳を埋め尽くした。
「幽体離脱?芸人のネタ?」
「違うわ!昨日買ったムーっていう雑誌に載ってたんだけどさ、実際に体験した人が何人もいるらしい。気になってYUTOBEで調べてみたら、透明なのが抜けてるの」
まるで10歳くらい歳が下がったくらい興奮して話すケイに少しニヤけた。
「幽体離脱できたら何したい?」
気づくと眠気は何処かに行き、どうケイを弄ぶかを考えていた。
「とりあえず、テストをカンニングし放題だろ。あとは‥」
「あぁ、分かった。分かった。出来たらの話だからね」
「冷めるなー。お前はどうなんだよ、リュウ」
数秒くらい黙った。
実際に考えてみると予想外に面白い。
「いや、思いつかないわ」
ケイが反論しようとしたタイミングで担任が入ってきた。
ケイはムーを持ち、自分の席に颯爽と戻っていった。
再度机に伏せて眠りについた。
休み時間になると生徒たちの声が教室中に密集し始める。
「髪切った?」
「うん、切った切った。分かる」
聞き覚えのある声。
一際、クラスの雑踏の中でも掻き分けるように聴こえてくる声。
伏せている状態から少しその声の源へと目線を向ける。
レイが立っていたことをすぐに確認できた。
髪を切っている。
なんであんなに女の子の髪の毛って綺麗で柔らかそうなのだろう。
なんであんなに華奢なのだろう。
すぐに折れてしまいそう。
かよわい存在に思えてならない。
考えるだけで広角が上がってしまう。
自分の変態的な面が出てしまう。
そんな日常が自分は好きだった。
レイとは時々話すような仲でしかない。
クラスでもカーストの下の方に位置する自分は話す機会も少ない。
明るい性格の彼女はクラスの中でも人気者だった。
「寝てないだろ、お前」
ケイの声が邪魔をする。
「寝てる寝てる。寝てるから邪魔すんな」
「今日カラオケいく?駅前に新しくできたカラオケ、名前忘れたけど超安いから」
外は雨が燦々と降り、教室の窓辺に位置する自分の席は少しジメジメした。
「やめとくわ、家で寝たいし」
「ならばテルと行くからいいや、また今度にしよ」
聞こえるか聞こえないか程度の声で返事をした。
時間は刻々と過ぎ、下校時刻になったが、外の雨はまだ降り続けていた。
雨で少し濡れた昇降口に立った時、フワッとした香りが頭を突き刺した。
「あぁ、降ってる。雨って嫌いだなー、だよね?」
恐る恐る隣をみるとレイがこちらの表情を覗いていた。
「うわぁ。う、うんうん」
「いや、驚き過ぎだよ。じゃあね」
突然の出来事に声帯に力が入らない。
だが雨は好きだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
恋愛
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます
久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」
大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。
彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。
しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。
失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。
彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。
「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。
蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。
地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。
そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。
これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。
数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
うわさの行方
下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。
すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。
戦場から帰るまでは。
三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。
ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる