フューチャー・スペーシー・ワールド ①「天翔ける宇宙ザムライ」

蟻井草也

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第1章・大江戸シティー

楽屋裏の花魁ガールズ

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フラワー大通りの中央商店街にある「花魁ショーホール」の楽屋口へケンシーが顔を出すと、ベテランダンサーのリンダが真っ先に声をかけてきた。
「ケンシーちゃ~ん! お祝いに来たの~? サクラちゃんなら7番控え室よ~」
「ありがとう。で、それはどっち?」
「あっち、あっち、あっちよ~」
リンダが指差す方に歩きながらケンシーは再度お礼を言った。
「ありがとう」
「うん。いいのよ~。また、あとでね~!」

楽屋の狭い通路はダンサー達が右往左往しており、彼女達の化粧と汗の匂いが甘い空間を作り出している。
(ピッキーの奴がここに出入りしたがるのも、分からなくはないな)と思いながら歩く。
通路の両側に、番号を振られた控え室が並んでいた。
ケンシーは持ってきた花束の形が人混みの中で崩れないように気をつけながら進んでいった。
何人かの顔見知りのダンサーが声をかけてきたり軽く会釈したり手を振ってきたりするのに、そのつど応じながら目的の部屋の前までたどり着いた。
ドアにはお祝いの垂れ幕が飾られ、通路の部屋側の壁にはたくさんの花カゴが贈り主のネームカードと共に所狭しと並べられている。
ケンシーがドアをノックして「姉貴! ケンシーです!」と声を発すると「ああ! ケンちゃん! 入って、入って!」とサクラの元気な声が返ってきた。

控え室の中にはサクラの他に化粧やら衣装の担当らしいスタッフも数人いた。
「姉貴!グランプリ最優秀賞おめでとう!」と言いながら花束を前に出すとサクラは「ありがとう!岡ちゃんに聞いたのね~?」と言って受け取った。
「きれいなお花ね~? 香りもいいわね~? ケンちゃんにしては珍しいわね~? あっ、そうか! あの花屋の子にお任せしたのね~?」
「うん。オハナちゃんのお仕事です。俺には花の事は分からんからさ!」
「ん? ん? 分からんのはお花の事だけじゃないでしょ? まだ、オハナちゃんなんて勝手に呼んでて、いまだに本当の名前すら聞けないんだから~? 若いの扱い方も分からんのでしょうが~?」
そのからかいの言葉に若い衣装係の女性スタッフが反応して笑いながら「そうなんですか~?」と質問してきた。
ケンシーがなんと言っていいか困っていると、サクラが衣装係に「ね? こんななのよ、この子はね。岡ちゃんとは大違いよね~?」と言い放つ。
部屋中に笑いが起きて、ケンシーはいたたまれなくなった。
「俺は、あんなのに負けてるのかよ~?」と愚痴ると、サクラは「そうそう、その点はしっかりと自覚しなさいよ」と念押しする。
もう一度、部屋中に笑いが起こった。

「そんなに面白い話してたの~?」
と背後から声がしてケンシーが振り向くと、いつの間にか入ってきていたリンダがニコニコしていた。若いダンサーを連れている。
スタッフがクスクス笑いながら「また若い娘が来たよ?」と小声で言い合った。
「ほんとに楽しそうね~? なんの話をしてたの~?」とリンダが訊くとサクラが答えた。
「あのね。このケンちゃんが若い女の子が苦手でね。それをみんなで笑ってたら、そこにあなたが若い娘を連れてきたからみんなが面白がってるのよ」
「ええ? そうなの~? ケンシーちゃんって若い娘が苦手だったの~? あたしは全然気づいてなかったよ~?」
「それは姉貴が勝手に・・・」
ケンシーがいい終わらぬうちにリンダが言葉を重ねてきた。
「それなら、リンダちゃんよりも先にこの子を紹介するね~。新人ダンサーのミルサちゃんよ~!」
ミルサと呼ばれた若いダンサーが頭を下げる
「新人のミルサです。よろしくお願いします」
顔立ちと同じく、少女と言ってもいいような可愛らしい声だった。
あわててケンシーも挨拶を返した。
「あっ! 佐村・E・ケンシーです。そこにいるサクラの弟です」
「ケンシーちゃんはね~? 探偵さんなんだよ~? ミルサちゃんも困った事が何かあったらケンシーちゃんに頼るといいよ~」
とリンダが言い「では、こっち、こっち! サクラちゃんへの挨拶がメインだからね~。お祝いを言うのを忘れちゃダメだよ~」とミルサをリンダの前へ移動させた。
ミルサがリンダに言われるままにサクラへお祝いと挨拶の言葉を述べるのを、手を止めて一連の流れを見ているスタッフ達と共にケンシーも眺めた。

その「新人の試練」が終わるとサクラとリンダが次の出番の打ち合わせを始めた。話の邪魔にならない範囲でスタッフ達が動き出したので、ケンシーはみんなの邪魔にならないような位置に移動した。
ちょうどそこにあったイスに座り、上着のポケットの中を探って姉へのプレゼントの品の無事を確かめた。
(大丈夫だ。箱はつぶれてない)

ミルサは先輩ふたりの会話を集中して聞いているようだ。
だが、その仕草に何か腑に落ちないものを感じとってケンシーはそれとなくミルサへの注意力を高めてみた。
こちらの視線を上手くかわしているようだ。
まるで、顔をしっかりと覚えられたり行動を記憶されては困る諜報員がやる動きのように。
(なんらかの訓練を受けているな?)
と内心で結論付けたケンシーの所へ、一通りの話が終わったサクラがやって来た。
「ケンちゃん! お待たせ~! ちょっとからかっちゃたけど、お花ありがとうね~!」
そうあらためて礼を言う姉に対しては、弟としては照れた対応をするしかない。
「そんな~。分かってるって。それより、これ!」
と言ってポケットから小さな箱を出してサクラに手渡す。
「なに、これ?」とキョトンとしてる姉貴に「これが本当のお祝いの品だよ」と笑ってから「あっ、あとで開けてくれよ」と言葉を継いでイスから立ちあがる。
ちょうどリンダとミルサも部屋から出ようとしていたので「じゃあ!」とサクラに軽い挨拶をしながら一緒にドアを抜けた。

出口まで歩きながらリンダのおしゃべりを聞いていると背後から姉の声が聞こえてきた。
「わ~! ありがとう~! ケンちゃ~ん!」
とても嬉しそうな声だった。
でも、追いかけられてキスでもされたらかなわないので、リンダとミルサに「また、来るよ」と言ってから出口まで走った。
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感想 11

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みんなの感想(11件)

あみ
2017.05.19 あみ

ミルサさんがどんな方なのかミステリアスで今後が気になります!ケイシーさんは最後何を渡したのですか?それも気になりました…次回が気になります。

2017.05.19 蟻井草也

そんな風に「なんだろう?」「なんだろう?」と思いながら、読んでもらえると嬉しいで~す。
(≧∇≦)

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2017.05.19 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

2017.05.19 蟻井草也

まだ伏線張りの時期なので、怪しい人物を配置してみました。
興味を持ってもらえてよかったです。^_-☆
姉と弟の関係も面白い感じで描写できてますかね~?
そう感じてもらえたなら、狙い通りです。
今後もお楽しみにね~!

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LPS48なおたん

わかりやすいネーミングで良いと思います。近未来にありそうな展開w
さすが、ありいそうやさん(≧▽≦)

2016.12.10 蟻井草也

そう言ってもらえて幸せ~!(≧∇≦)

解除

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