10 / 43
第2章
絆
しおりを挟む
「整列!」
時は紀元前四二七年、夜明けの平原に号令がとどろいた。
戦争が始まって以来、既に何度目かになるプラタイア攻略戦だ。
これまでにその城壁で幾度となく敵の攻撃を跳ね返してきた城市プラタイアも、名将ブラシダス率いるラケダイモン・テバイ連合軍の連日の猛攻にさらされ、包囲されて十日目を迎えた今日、その運命はついに窮まろうとしていた。
ラケダイモンとテバイの連合軍はすでに完璧な隊列を組み、突撃の号令を待っている。
刻一刻と緊張感が高まり、限界まで引かれた強弓のように、ぎりぎりと空気の軋む音さえも聞こえそうだ。
《獅子隊》の面々もまた、盾と長槍とを携え、深紅のマントをまとって全軍の中央の後部に整列していた。
彼らの前には、テバイ人の歩兵たちからなる破城槌部隊が陣取っている。
テバイ人たちが城門を破り、《獅子隊》が先陣を切って突入するという二段構えの陣形だった。
無言で佇む《獅子隊》の戦士たちの視線は、たびたび隊列の右端の最前列に向かった。
彼らの心酔する指揮官、レオニダスがそこにいるのだ。
「今から、腕が鳴るというものだ!」
レオニダスのふたつ左隣に陣取ったフェイディアスが、興奮を抑えかねるといった調子で唸った。
ラケダイモン軍において整列中の私語は禁止されているが、フェイディアスは整列中、だいたいいつでも喋っていた。
それも、誰かに話しかけるというのではなく、自分だけであれこれ言うのだ。
少なくとも、表向きは。
「今、伝令が最後通牒を突き付けに行っているらしいが、ここまで来て穏やかに収まったんじゃ面白くない。
いざ戦いとなれば、俺の前に出たが最後、一人も生かしておくものか。
プラタイアの奴らを斬って斬って斬りまくり、まとめて戦神アレスへの捧げ物にしてやる!」
周囲の仲間たちは何も言わず、彫像のように前を向いたまま、ただ、にやりと笑った。
あの朝、彼らが《獅子隊》として初めて神殿の丘に集結したときから、五年以上の月日が流れていた。
戦士たちがくぐり抜けてきた激しい戦闘の記憶は、彼らの肉体に克明に刻み込まれている。
フェイディアスは三年前の戦闘で危うく片目を失くすところだった。
間一髪のところで失明は免れたが、額から頬の半ばまで、顔の右半分を切り裂かれた傷痕が残っている。
ただでさえ目がぎょろついて怖いと言われていた顔に、傷のせいで一層の凄味が増してしまったわけだが、本人は一向に気にかけず、
『《片目のフクロウ》というのも、なかなか格好がいいと思ったんだがな。敵の腕が悪かったな!』
などと包帯も取れぬうちから軽口を叩いて、死ぬほど心配していたパイアキスに本気で殴られたものだった。
「無茶だけは、しないで下さいよ」
今日も、思わず左隣から囁いて、釘を刺さずにはいられないパイアキスである。
レオニダスは、何の反応も見せなかった。
部下たちのほうも、彼のこういう様子には慣れているので、特に気にもしなかった。
フェイディアスもようやく黙って、城門を睨み据えた。
それぞれに、心の中で神に祈り、家族の面影を描き、精神と肉体のエネルギーを極限まで高めようとする。
レオニダスは無言のまま、わずかに頭を動かして左を見た。
そこに立つ若者の姿を見たとき、レオニダスの口許に、誰の目にもほとんど気づかれぬほどの微笑がよぎった。
五年余りの歳月は、かつて十六歳だった少年の肉体にも多大な影響を及ぼしていた。
クレイトスの背丈は、いまやレオニダスに並ぶほどになり、連日の訓練と実戦に鍛え抜かれた肉体はいくぶん細身ながらも歴戦の兵士らしく逞しく、傷だらけの鎧兜に身を固めたその姿は、まさしく一人前のラケダイモンの男と呼ぶにふさわしい。
また顔つきは、精悍な中にもどこか幼さを残したようで、ふとした瞬間に笑顔でも見せると、何とも言えず柔らかな印象を与えた。
年若い兵士の中には、すっかりクレイトスに夢中になっている者もいる始末で、そのことを巡って密かにあれこれと悶着が起こっていたりもするのだが、当の本人はまったく知らぬふうである。
どの戦闘でも、突撃の直前、レオニダスの視線はいつも我知らずクレイトスに向かった。
なぜ? 何のために?
この美しい若者を見ていると、彼をしつこく悩ませ続けるあの問い、答えの出ない疑問が、ふと和らぐのを感じるのだ。
死なせるわけにはいかない。
そう、強く思った。
その瞬間、クレイトスがふと何かを感じたように顔を振り向け、こちらを見た。
目が合って、ようやくレオニダスは自分がクレイトスを熱心に見つめていたことに気づいた。
急に視線を逸らすこともできず、そのまま見返す。
クレイトスはわずかに首を傾げた。
薔薇の花、柘榴の実と崇拝者たちから讃えられる唇がふっとほころび、ほとんど聞き取れぬほどかすかな声を発した。
「何でしょうか?」
「いや……」
燃え盛るような情熱ではなく、もっと静かで、鋼のように力強く潮の流れのように抑え難い感情があった。
このような感情を自分が持つようになるとは、以前には想像もできなかった。
五年ものあいだ、あらゆる日常の起居と戦いを共にしてきたことは、炎が鋼を鍛えるように、レオニダスのクレイトスに対する感情を揺るぎなく、余人には量りがたいほどに深いものとしていたのだ。
「油断するな」
口から出たのは、五年前と少しも変わらぬ、何の意味も持たぬことばの切れ端ばかりだったが。
「はい」
クレイトスは力強く頷き、兜に半ば隠された青い目でプラタイアの城門を射抜くように見据えた。
「あなたのメイラクスの名に恥じぬ働きをお目にかけます」
あなたの。
この響きを耳にするたびに、レオニダスは軽い満足を覚える。
これも、五年のあいだに変化したことのひとつだ。
昔は、レオニダス様としか呼ばれたことがなかった。
いつからだったろう。
クレイトスが、あなたの、と言うようになったのは――
不意に、一糸乱れぬ陣形の中からざわめきが上がり、《半神》の意識を現実に引き戻した。
プラタイアの城壁の上に、数名の人影が現れたのだ。
「あれは……」
クレイトスが呻いた。
人影のうちの二人は、テバイ人の伝令だった。
プラタイアに無条件降伏を迫る最後通牒を携え、城市に送り込まれた男たちだ。
遠く、か細い悲鳴が上がった。
二人が城壁から蹴落とされたのだ。
乾いた固い地面に激突する前に悲鳴は止まった。
伝令たちの首には、処刑用の縄が巻かれていた。
プラタイアの城門前に、死体がふたつ吊り下げられた。
「あれが返答か!」
自らも盾を携え、丘の頂上から様子を見ていた将軍ブラシダスが憤然として叫んだ。
「よかろう! ならば我らも、その流儀で応えるまでだ。全軍、突撃に備えよ!」
戦太鼓が一斉に打ち鳴らされた。
戦士たちの戦闘本能をかき立てるようにどんどん早まってゆく太鼓の響きとは裏腹に、レオニダスの心は急速に平静になっていった。
戦いの前には、いつもこうなるのだ。
静まり返った世界に、自分自身の鼓動の音が引き延ばされて聞こえる。
なぜ? 何のために?
そう問いかける声も、今は聞こえなくなった。
この戦いを生き延びる。
クレイトスを、部下たちを、死なせはしない。
リュクネ……
「突撃!」
鬨の声が響き、平原が揺らいだ。
地獄の饗宴の始まりを告げるかのように。
時は紀元前四二七年、夜明けの平原に号令がとどろいた。
戦争が始まって以来、既に何度目かになるプラタイア攻略戦だ。
これまでにその城壁で幾度となく敵の攻撃を跳ね返してきた城市プラタイアも、名将ブラシダス率いるラケダイモン・テバイ連合軍の連日の猛攻にさらされ、包囲されて十日目を迎えた今日、その運命はついに窮まろうとしていた。
ラケダイモンとテバイの連合軍はすでに完璧な隊列を組み、突撃の号令を待っている。
刻一刻と緊張感が高まり、限界まで引かれた強弓のように、ぎりぎりと空気の軋む音さえも聞こえそうだ。
《獅子隊》の面々もまた、盾と長槍とを携え、深紅のマントをまとって全軍の中央の後部に整列していた。
彼らの前には、テバイ人の歩兵たちからなる破城槌部隊が陣取っている。
テバイ人たちが城門を破り、《獅子隊》が先陣を切って突入するという二段構えの陣形だった。
無言で佇む《獅子隊》の戦士たちの視線は、たびたび隊列の右端の最前列に向かった。
彼らの心酔する指揮官、レオニダスがそこにいるのだ。
「今から、腕が鳴るというものだ!」
レオニダスのふたつ左隣に陣取ったフェイディアスが、興奮を抑えかねるといった調子で唸った。
ラケダイモン軍において整列中の私語は禁止されているが、フェイディアスは整列中、だいたいいつでも喋っていた。
それも、誰かに話しかけるというのではなく、自分だけであれこれ言うのだ。
少なくとも、表向きは。
「今、伝令が最後通牒を突き付けに行っているらしいが、ここまで来て穏やかに収まったんじゃ面白くない。
いざ戦いとなれば、俺の前に出たが最後、一人も生かしておくものか。
プラタイアの奴らを斬って斬って斬りまくり、まとめて戦神アレスへの捧げ物にしてやる!」
周囲の仲間たちは何も言わず、彫像のように前を向いたまま、ただ、にやりと笑った。
あの朝、彼らが《獅子隊》として初めて神殿の丘に集結したときから、五年以上の月日が流れていた。
戦士たちがくぐり抜けてきた激しい戦闘の記憶は、彼らの肉体に克明に刻み込まれている。
フェイディアスは三年前の戦闘で危うく片目を失くすところだった。
間一髪のところで失明は免れたが、額から頬の半ばまで、顔の右半分を切り裂かれた傷痕が残っている。
ただでさえ目がぎょろついて怖いと言われていた顔に、傷のせいで一層の凄味が増してしまったわけだが、本人は一向に気にかけず、
『《片目のフクロウ》というのも、なかなか格好がいいと思ったんだがな。敵の腕が悪かったな!』
などと包帯も取れぬうちから軽口を叩いて、死ぬほど心配していたパイアキスに本気で殴られたものだった。
「無茶だけは、しないで下さいよ」
今日も、思わず左隣から囁いて、釘を刺さずにはいられないパイアキスである。
レオニダスは、何の反応も見せなかった。
部下たちのほうも、彼のこういう様子には慣れているので、特に気にもしなかった。
フェイディアスもようやく黙って、城門を睨み据えた。
それぞれに、心の中で神に祈り、家族の面影を描き、精神と肉体のエネルギーを極限まで高めようとする。
レオニダスは無言のまま、わずかに頭を動かして左を見た。
そこに立つ若者の姿を見たとき、レオニダスの口許に、誰の目にもほとんど気づかれぬほどの微笑がよぎった。
五年余りの歳月は、かつて十六歳だった少年の肉体にも多大な影響を及ぼしていた。
クレイトスの背丈は、いまやレオニダスに並ぶほどになり、連日の訓練と実戦に鍛え抜かれた肉体はいくぶん細身ながらも歴戦の兵士らしく逞しく、傷だらけの鎧兜に身を固めたその姿は、まさしく一人前のラケダイモンの男と呼ぶにふさわしい。
また顔つきは、精悍な中にもどこか幼さを残したようで、ふとした瞬間に笑顔でも見せると、何とも言えず柔らかな印象を与えた。
年若い兵士の中には、すっかりクレイトスに夢中になっている者もいる始末で、そのことを巡って密かにあれこれと悶着が起こっていたりもするのだが、当の本人はまったく知らぬふうである。
どの戦闘でも、突撃の直前、レオニダスの視線はいつも我知らずクレイトスに向かった。
なぜ? 何のために?
この美しい若者を見ていると、彼をしつこく悩ませ続けるあの問い、答えの出ない疑問が、ふと和らぐのを感じるのだ。
死なせるわけにはいかない。
そう、強く思った。
その瞬間、クレイトスがふと何かを感じたように顔を振り向け、こちらを見た。
目が合って、ようやくレオニダスは自分がクレイトスを熱心に見つめていたことに気づいた。
急に視線を逸らすこともできず、そのまま見返す。
クレイトスはわずかに首を傾げた。
薔薇の花、柘榴の実と崇拝者たちから讃えられる唇がふっとほころび、ほとんど聞き取れぬほどかすかな声を発した。
「何でしょうか?」
「いや……」
燃え盛るような情熱ではなく、もっと静かで、鋼のように力強く潮の流れのように抑え難い感情があった。
このような感情を自分が持つようになるとは、以前には想像もできなかった。
五年ものあいだ、あらゆる日常の起居と戦いを共にしてきたことは、炎が鋼を鍛えるように、レオニダスのクレイトスに対する感情を揺るぎなく、余人には量りがたいほどに深いものとしていたのだ。
「油断するな」
口から出たのは、五年前と少しも変わらぬ、何の意味も持たぬことばの切れ端ばかりだったが。
「はい」
クレイトスは力強く頷き、兜に半ば隠された青い目でプラタイアの城門を射抜くように見据えた。
「あなたのメイラクスの名に恥じぬ働きをお目にかけます」
あなたの。
この響きを耳にするたびに、レオニダスは軽い満足を覚える。
これも、五年のあいだに変化したことのひとつだ。
昔は、レオニダス様としか呼ばれたことがなかった。
いつからだったろう。
クレイトスが、あなたの、と言うようになったのは――
不意に、一糸乱れぬ陣形の中からざわめきが上がり、《半神》の意識を現実に引き戻した。
プラタイアの城壁の上に、数名の人影が現れたのだ。
「あれは……」
クレイトスが呻いた。
人影のうちの二人は、テバイ人の伝令だった。
プラタイアに無条件降伏を迫る最後通牒を携え、城市に送り込まれた男たちだ。
遠く、か細い悲鳴が上がった。
二人が城壁から蹴落とされたのだ。
乾いた固い地面に激突する前に悲鳴は止まった。
伝令たちの首には、処刑用の縄が巻かれていた。
プラタイアの城門前に、死体がふたつ吊り下げられた。
「あれが返答か!」
自らも盾を携え、丘の頂上から様子を見ていた将軍ブラシダスが憤然として叫んだ。
「よかろう! ならば我らも、その流儀で応えるまでだ。全軍、突撃に備えよ!」
戦太鼓が一斉に打ち鳴らされた。
戦士たちの戦闘本能をかき立てるようにどんどん早まってゆく太鼓の響きとは裏腹に、レオニダスの心は急速に平静になっていった。
戦いの前には、いつもこうなるのだ。
静まり返った世界に、自分自身の鼓動の音が引き延ばされて聞こえる。
なぜ? 何のために?
そう問いかける声も、今は聞こえなくなった。
この戦いを生き延びる。
クレイトスを、部下たちを、死なせはしない。
リュクネ……
「突撃!」
鬨の声が響き、平原が揺らいだ。
地獄の饗宴の始まりを告げるかのように。
0
あなたにおすすめの小説
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
対ソ戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。
前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。
未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!?
小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ワスレ草、花一輪
こいちろう
歴史・時代
娘仇討ち、孝女千勢!妹の評判は瞬く間に広がった。方や、兄の新平は仇を追う道中で本懐成就の報を聞くものの、所在も知らせず帰参も遅れた。新平とて、辛苦を重ねて諸国を巡っていたのだ。ところが、世間の悪評は日増しに酷くなる。碓氷峠からおなつに助けられてやっと江戸に着いたが、助太刀の叔父から己の落ち度を酷く咎められた。儘ならぬ世の中だ。最早そんな世とはおさらばだ。そう思って空を切った積もりの太刀だった。短慮だった。肘を上げて太刀を受け止めた叔父の腕を切りつけたのだ。仇討ちを追って歩き続けた中山道を、今度は逃げるために走り出す。女郎に売られたおなつを連れ出し・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる