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春嵐 〜Side T〜
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ほんのちょっとの期間だけど、二人で暮らしてるのが当たり前のようになっていた。
蒼司がいないから家事は俺が一人でしている。
今日も朝からちゃんと食器を片付けてから家を出てきた。
授業開始の時は一緒に出て、同じ電車に乗って大学に向かう。
疑問に感じることがなかった。
大学の最寄り駅に電車がつき、同じように駅で降りる乗客と共に出口へと向かう。
「貴俊!」
後ろから声をかけられ、振り返る。
そこには正悟がいた。
「はよ!」
「おはよう。珍しいな、一緒になるなんて」
「だな」
二人揃って駅を出る。
視界の端に、ロータリーに入ってきた白い外車のセダンが停まる。
ちょっと目がいっただけだった。
見知らぬ車から降りてきたのは、蒼司だった。
「あ……」
俺は蒼司に会えて嬉しくて、声をかけようとする。
けれど運転席から男性が降りてきて、蒼司がその男性に笑いかけるのを見てしまう。
その男性は後部座席から蒼司の大学用のトートバックを出して渡す。
蒼司がそれを受け取り男性に手を振って別れて歩き出す、一連の動作をながめていた。
男性はすぐに車に乗り込むことなく、しばらく蒼司の背中を見つめていた。
「貴俊……」
正悟の呼ぶ声にハッとする。
「俺らも行くか」
歩き出して大学へと歩き出す。
歩調によっては蒼司に追いつくか気付かれてしまう。
正悟は俺の機嫌が下降していくのがわかっているのだろう。
こちらをうかがっているのがわかる。
「貴俊の知ってる人?」
「いや、知らない」
そういえば、俺は蒼司のことをほとんど知らないことに気付く。
蒼司の交友関係なんて、大学のそれしか知らない。
「今、実家に帰ってるんだよね、蒼司くん」
「そのはず……」
そもそも実家から大学に通うというのだから、あの男性は佐々森家の関係者なのだろうと思う。
しかし、家族の誰かでもなく、運転手のようでもない。
あんな風に柔らかく笑う蒼司は、俺は知らない。
「あ!」
やっぱり前に行く蒼司に追いついてしまった。
「おはよう、貴俊!それと……」
「秋山だよ。覚えてほしいかも」
蒼司が俺の横に並ぶ。
「―――っ!!?」
ふわりと香る蒼司の匂いに混ざる、かすかなアルファの匂い。
基本的に蒼司はアルファには近寄らないと話していた。
では、この蒼司に絡みつくアルファのフェロモンはなんなのか。
大学や電車といった場所でつくアルファのフェロモンのそれとは違う。
蒼司に付けていた俺のフェロモンを上塗りするように纏わりついていた。
考えられるのは、このアルファのフェロモンの持ち主とずっと一緒にいたということだ。
「今日は実家からですか?」
俺に代わり、正悟が聞いてくれる。
「そうだよ。電車でも来れるけど、乗り換えが面倒くさいから送ってもらっちゃった」
「あの、白い車の人、だれ?」
俺の声のトーンが低くなり、横にいる正悟がビクリと肩を揺らす。
「ユウキさん?ユウキさんは、仕事関係の人」
「ふーん…ユウキサンね……」
俺の地を這うような声音に、蒼司はただ不思議そうに小首をかしげるだけだ。
「その『ユウキ』ってやつ、アルファじゃないのか?」
いくら首にガードを付けているからって、車という密室に二人きりなんて危なすぎる。
それとも、二人はそういう関係なのだろうか。
「ユウキさんがアルファだって、よくわかったね?」
「………当然だろ」
「そういうもん?」
「臭うんだよ」
なぜ、そんなに俺が『ユウキ』のバース性を言い当てたのが蒼司は不思議なのか。
俺は蒼司の反応の理解に苦しむ。
そういえば、番になるつもりもない俺が触っても蒼司は動じない。
ソイツにも当然に触らせているのだろうか。
もしかしたら、それ以上のことも。
考えるだけで、殺気立ってくる。
もしかしたら蒼司は、『青い鳥』のフェロモンに惑わされないなら、どんなアルファでもいいのかもしれない。
蒼司はそんなヤツじゃない。そうは思うが、否定できるほど彼を俺は知らない。
「貴俊、大丈夫?もしかして、調子良くない?」
今にも怒りにまかせて蒼司を襲いたくなる感情を必死に抑えている俺の顔をのぞいてくる蒼司。
その朱い唇に今すぐ塞ぎたい。
白い首元に噛みつきたい。
獰猛なアルファの本能なんか気付かないのか。
「……なんでもない」
絞り出した俺の言葉に、蒼司はただ探るように見てくるだけだ。
「もし熱とか出たら、気にしないで連絡してきて。看病するから」
蒼司は、俺の体調は大丈夫だと判断したらしい。
俺から一歩、離れる。
「じゃあ、僕はこっちだから」
にこりと蒼司が笑う。
「体調、気をつけね!また、連絡する」
そう言って、俺から背を向けて歩き出した。
俺は引き止めたい気持ちを抑えるのに必死で、蒼司に伸ばしそうな右手を左手で握って押し留めていた。
「すごいね、彼……」
正悟がポツリとこぼす。
「俺、心臓止まるかと思ったんだけど……」
非難がましい目を正悟が俺に向けてくる。
「ごめん」
思いっきりアルファで周囲を威嚇していた自覚がある。
普通なら正悟みたいに冷や汗を流すか、最悪その場で気を失ってしまうだろう。
それなのに、『青い鳥』の蒼司は俺の体調不良で済ましてしまった。
とにかく今は大学の授業だ。授業が開始する前に、俺達も自分達の授業がある教室へと向かうため歩き出した。
『青い鳥』は『狼』に捕食されるとは思わないのか。
それとも、俺は眼中にないのだろうか。
モヤモヤとしたものが俺の中に沈殿していく。
蒼司がいないから家事は俺が一人でしている。
今日も朝からちゃんと食器を片付けてから家を出てきた。
授業開始の時は一緒に出て、同じ電車に乗って大学に向かう。
疑問に感じることがなかった。
大学の最寄り駅に電車がつき、同じように駅で降りる乗客と共に出口へと向かう。
「貴俊!」
後ろから声をかけられ、振り返る。
そこには正悟がいた。
「はよ!」
「おはよう。珍しいな、一緒になるなんて」
「だな」
二人揃って駅を出る。
視界の端に、ロータリーに入ってきた白い外車のセダンが停まる。
ちょっと目がいっただけだった。
見知らぬ車から降りてきたのは、蒼司だった。
「あ……」
俺は蒼司に会えて嬉しくて、声をかけようとする。
けれど運転席から男性が降りてきて、蒼司がその男性に笑いかけるのを見てしまう。
その男性は後部座席から蒼司の大学用のトートバックを出して渡す。
蒼司がそれを受け取り男性に手を振って別れて歩き出す、一連の動作をながめていた。
男性はすぐに車に乗り込むことなく、しばらく蒼司の背中を見つめていた。
「貴俊……」
正悟の呼ぶ声にハッとする。
「俺らも行くか」
歩き出して大学へと歩き出す。
歩調によっては蒼司に追いつくか気付かれてしまう。
正悟は俺の機嫌が下降していくのがわかっているのだろう。
こちらをうかがっているのがわかる。
「貴俊の知ってる人?」
「いや、知らない」
そういえば、俺は蒼司のことをほとんど知らないことに気付く。
蒼司の交友関係なんて、大学のそれしか知らない。
「今、実家に帰ってるんだよね、蒼司くん」
「そのはず……」
そもそも実家から大学に通うというのだから、あの男性は佐々森家の関係者なのだろうと思う。
しかし、家族の誰かでもなく、運転手のようでもない。
あんな風に柔らかく笑う蒼司は、俺は知らない。
「あ!」
やっぱり前に行く蒼司に追いついてしまった。
「おはよう、貴俊!それと……」
「秋山だよ。覚えてほしいかも」
蒼司が俺の横に並ぶ。
「―――っ!!?」
ふわりと香る蒼司の匂いに混ざる、かすかなアルファの匂い。
基本的に蒼司はアルファには近寄らないと話していた。
では、この蒼司に絡みつくアルファのフェロモンはなんなのか。
大学や電車といった場所でつくアルファのフェロモンのそれとは違う。
蒼司に付けていた俺のフェロモンを上塗りするように纏わりついていた。
考えられるのは、このアルファのフェロモンの持ち主とずっと一緒にいたということだ。
「今日は実家からですか?」
俺に代わり、正悟が聞いてくれる。
「そうだよ。電車でも来れるけど、乗り換えが面倒くさいから送ってもらっちゃった」
「あの、白い車の人、だれ?」
俺の声のトーンが低くなり、横にいる正悟がビクリと肩を揺らす。
「ユウキさん?ユウキさんは、仕事関係の人」
「ふーん…ユウキサンね……」
俺の地を這うような声音に、蒼司はただ不思議そうに小首をかしげるだけだ。
「その『ユウキ』ってやつ、アルファじゃないのか?」
いくら首にガードを付けているからって、車という密室に二人きりなんて危なすぎる。
それとも、二人はそういう関係なのだろうか。
「ユウキさんがアルファだって、よくわかったね?」
「………当然だろ」
「そういうもん?」
「臭うんだよ」
なぜ、そんなに俺が『ユウキ』のバース性を言い当てたのが蒼司は不思議なのか。
俺は蒼司の反応の理解に苦しむ。
そういえば、番になるつもりもない俺が触っても蒼司は動じない。
ソイツにも当然に触らせているのだろうか。
もしかしたら、それ以上のことも。
考えるだけで、殺気立ってくる。
もしかしたら蒼司は、『青い鳥』のフェロモンに惑わされないなら、どんなアルファでもいいのかもしれない。
蒼司はそんなヤツじゃない。そうは思うが、否定できるほど彼を俺は知らない。
「貴俊、大丈夫?もしかして、調子良くない?」
今にも怒りにまかせて蒼司を襲いたくなる感情を必死に抑えている俺の顔をのぞいてくる蒼司。
その朱い唇に今すぐ塞ぎたい。
白い首元に噛みつきたい。
獰猛なアルファの本能なんか気付かないのか。
「……なんでもない」
絞り出した俺の言葉に、蒼司はただ探るように見てくるだけだ。
「もし熱とか出たら、気にしないで連絡してきて。看病するから」
蒼司は、俺の体調は大丈夫だと判断したらしい。
俺から一歩、離れる。
「じゃあ、僕はこっちだから」
にこりと蒼司が笑う。
「体調、気をつけね!また、連絡する」
そう言って、俺から背を向けて歩き出した。
俺は引き止めたい気持ちを抑えるのに必死で、蒼司に伸ばしそうな右手を左手で握って押し留めていた。
「すごいね、彼……」
正悟がポツリとこぼす。
「俺、心臓止まるかと思ったんだけど……」
非難がましい目を正悟が俺に向けてくる。
「ごめん」
思いっきりアルファで周囲を威嚇していた自覚がある。
普通なら正悟みたいに冷や汗を流すか、最悪その場で気を失ってしまうだろう。
それなのに、『青い鳥』の蒼司は俺の体調不良で済ましてしまった。
とにかく今は大学の授業だ。授業が開始する前に、俺達も自分達の授業がある教室へと向かうため歩き出した。
『青い鳥』は『狼』に捕食されるとは思わないのか。
それとも、俺は眼中にないのだろうか。
モヤモヤとしたものが俺の中に沈殿していく。
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