○○○○の死亡推理

海夏世もみじ

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第3話 名探偵の遺し子-③

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「ケホッケホッ! え、助手くん……? 助手くん‼ ねぇ、返事を……いや、これは……無理、か……」

 突如としてボクの耳に響いてきた轟音に、倒れる寸前に走った背中の感触。気管に居候し始めようとする埃を咳で追い出し、ボクは助手くん〝だったもの〟を見下ろす。
 そこには先ほどまで存在しなかった血溜まりがあった。ボクの頬にまで彼の血は飛び散っており、屋敷のそこら辺りを赤で彩っている。割れたガラスの当たり所が悪かったのか、遠くに千切れた手らしきものが吹き飛んでいるのも見えた。

「っ! いくら何でも油断しすぎでしょボク……‼」

 下唇を噛んで、自分の愚かさに嫌気がさす。
 浮かれすぎていたのだ。彼の中からは、どこか他の人とは違う〝何か〟を感じ取った。それだけでなく単純に面白くて気に入ったのもある。彼は〝良い匂い〟がしたし、どこかで会ったような気もしていた。

 ただ、それらに気を取られて普段なら気が付くはずのことにさえ気が付かない始末。助手くんのせいだなんて責任転嫁するつもりはない。これはボクの不注意によって引き起こされた事故だ。

「まさか早速、こんなことになるなんて……。この状況はどう説明したら――……ん? は? なっ、なに、これはっ⁉」

 ボクの頬についた血は、重力に従順に従って垂れ始めた。そう思っていたのだが、その血は顎に差し掛かると首にまで移動し、次に服の中へ入り込む。まるでボクの肌を〝泳いでいる〟かのように。

 まさかと呟いて、地面や壁にべったりついた助手くんの血に視線を動かす。すると思った通り、それら全ては〝泳いでいた〟。餌付けされた魚たちが、水面に投げ入れられた餌を見つけて泳いでくるように、皆シャンデリアの下へと潜り込む。
 血だけでない。千切れた手も、タランチュラのようにカサカサと音を立てて主へと帰還しようとしていた。

「は……はは。あははっ! 助手くん、君は本っ……当に最高だよ‼ まさかこのボクも一杯食わされるとは思わなんだ‼ 助手くん、君は今まで自分のことをただの凡人だと思っていたのだろうが……君は正真正銘――」

 覚めることのない興奮を感じ、上がり切った口角を下げることなんかできず、ボクはシャンデリアの下で蠢き、彼に向かって叫んだ。

「――〝異人ニンゲンモドキ〟だ‼」
「うぅ、頭、痛い……。助かった、のか……? クウナ~、大丈夫かー?」

 助手くんはシャンデリアから手だけを生やし、僕の心配をしている。復活して開口一番、圧死した自分ではなくボクを心配するとは。優しすぎる。これは彼の長所であり短所だろう。
 やれやれと思いつつ、ボクは彼に近づいて手を握る。冷たい。ゴミ箱から救助された時や手を握った時よりも。死体……いや、これは〝変温動物〟。トカゲやヤモリなどを触っているような感覚に近い気がした。

「今君のことを助けるから『頑張ってクウナたん』ってボクのこと応援して‼」
「普通潰されたほうに向かって吐く言葉な気がするが⁉ えーっと……が、頑張れクウナた~ん‼」
「よっし、元気一億倍! 今助けるぜベイベー! ふんぬぬぬ~~っ‼」

 腕を引っこ抜く勢いで彼を引っ張り、スポンッと根菜類のようにシャンデリアから生まれる。ボクは彼を抱きしめて受け止めるが、引っこ抜かれた勢いを殺すことは叶わず、ボクを押し倒し、胸をクッションにして顔をうずめてきた。
 出会いの時とは真逆の構図で実に面白いと感じていたが、胸の中でフゴフゴと荒い呼吸をし始める助手くん。どうやらボクが抱きしめているせいで窒息死しそうらしい。対してボクも恥ずかしさで死にそうになってくる。

「ご、ごめんね‼」
「プハッ! せ、世界で最も幸せな窒息死をするところだった……‼」
「君ぃ……もういっぺん死んどくかい?」
「いえ、はい……すみません」

 ようやくおっぱい枕を卒業し、ボクの目の前で正座をした。
 パタパタと熱くなった顔を手で扇ぎながら、助手くんの体をまじまじと観察し始める。欠損部分なんてないし、かすり傷の一つも見当たらない。せいぜい服が破けた程度。

 泳ぐ血で確証は持てたが、実際に無傷の彼を見てこれは現実なんだとボクの脳に訴えかけてきていた。ああ、ダメだ。にやけるのが止められないや。

「よし、少し大事な話をするから場所を移そうか。ついてきてくれ」
「あ、ああ。ってか、だいぶでかい音がしたってのに警察は何で来てくれてないんだ……?」
「ボクが言い聞かせているんだ。推理をする時は必ず入らないでほしいってね。なんせ――ボクの異能力が多くに知られてしまうことを避けたいから、ね」
「え?」


  #  #  #


 異能力が多くに知られるのを避けるため、か。

 シャンデリアの下敷きからなぜか奇蹟的に生還した俺は、再びクウナに手を握られて引かれながら、先ほどの言葉を反芻させていた。
 俺たちはそのまま薄暗い路地裏に入る。傍らにある壁に取り付けられた換気口から、生暖かい風が漏れ出して俺たちの隙間を通り抜ける。

「さて、単刀直入に言うよ。君は……人間をやめているっ‼」
「な、何ィーーッ⁉ 俺……いつの間に石の仮面を……⁉」
「〝異人〟なんだよ、君は。異人になるウイルスの感染力はさほど強くないが、感染する時はする。助手くん、つい最近高熱が出たことはあるかい?」
「え、高熱なんて月に何回も出てるぞ。ちょっとやばい虫とか毒キノコよく食べてるしな!」
「そ、そうなんだね……。自慢げに話しことではないよ。じゃあいつ異人になったかの特定は無理そうだ」

 呆れた顔で、まともな食事はしなさいと彼女に叱られた。怒った顔も可愛らしい、そう言ったらまた叱られると感じたので、口は噤んだ。
 それにしても、まさか自分が異人だったなんて。テレビ越しでしか見たことなかった存在が自分自身とは、驚き通り越して感心する。

「異人というのは十人十色。そして、多くはこの地球上に存在する生命体がモチーフになっていると言われている。例えば、落下しても死ななくて体を液体のように柔らかくできる能力を持つ猫の異人、首が三百六十度回転できる能力を持つフクロウの異人などなど……」
「俺はなんの動物モチーフなんだ?」
「君は驚異的な再生能力を持ち、さらには異能力を発動して変化したその〝瞳〟からおそらく……〝爬虫類〟だね」

 クウナは懐から手鏡を取り出し、俺に手渡す。それで自分の顔を確認すると、明らかに変化している自分の瞳に驚嘆の声を漏らす。
 以前はただの黒い瞳だったが、今はルビーのようなギラギラ輝く紅蓮に染まっている。それだけでなく、爬虫類のような虹彩の真ん中に縦長の方錐形の黒い瞳孔があった。

「お、オイオイ、なんだよこれ……めちゃくちゃかっけぇ‼」
「助手くんは受け入れが早いねぇ。コホン、そして、ヤモリの異人のように目蓋が閉じないから君はトカゲの異人……と言いたいが、〝名は体を表す〟と言うしね。君は――〝トカゲモドキ〟がモチーフの異人だ‼」

 トカゲモドキ。確か、近年ペットショップで人気の爬虫類だったな。
 トカゲモドキは様々な種類がいるが、その中でも人気なヒョウモントカゲモドキ(レオパードゲッコー)というのがおり、〝レオパ〟の愛称で親しまれている。
 そのレオパと俺の名前である玲央羽(レオハ)が似ているからと、クウナは決めつけたのだろう。

「う~ん……かっこいい、のか?」
「いいじゃないか。トカゲモドキのニンゲンモドキで面白いし! しかも助手くん、昆虫を食べているらしいしピッタリだよ~。今から〝レオパくん〟って呼ぶか!」
「他のトカゲでも昆虫は食べるだろ。まあ、別にいいけど。……というか、クウナも異人なのか?」
「もちろん! 能力がなきゃ、異能力を用いた殺人事件を解くのは骨が折れるからね~」

 一体どんな異能力なのだろう。彼女は「死んでも死なない」と言っていたが、それも関係しているのだろうか。
 そんな俺の思考が読まれたかのように、クウナは自身の異能力について説明し始めた。

「ボクの異能力の名前は【死亡推理メメント・モリ】」
「かっけぇ♰」
「ふふん、でしょう? それで能力の詳細は、殺人事件の現場に行けば犯行をそのまま再現できるというものだ。再現中に殺されようとも、ボクは蘇れる。他にも、謎を解けば終人以外の殺された人たちも蘇る。これがボクの異能力さ‼」
「なんかすげぇ能力だな。でもなんの動物がモチーフなんだ? そんな力を持つ動物なんていたか?」
「〝ヘビ〟だよ。んべーっ」と彼女は下を出す。それは二又に分かれており、蛇そのものだ。
「うわぁあ⁉ え、エッチすぎる……‼」
「君は変態さんなのかな……。まぁ、ただのヘビではなく、自分の尾を噛んだヘビだけれどもね」
「それって確か……ああ、〝ウロボロス〟か。ファンタジーチックなやつもいるのな」

 自分の尾を噛んで環状となったヘビ、ウロボロス。〝死と再生〟や〝不老不死〟を表す象徴と言われている存在だ。
 チート級の能力だなと感心していたが、「だけどね」と神妙な面持ちで続ける。

があるんだ。能力を発動させてから一年以内に謎を解かなければ、どんどんと己の存在がんだ」
「存在が? もしかしてその名前も能力の代償だったり……?」
「その通り。覚醒したての頃はどうやらこれに振り回されていたらしくてね、記憶も、自分の苗字も、名前も、戸籍も消えていたんだ。手記やデータなどに残しても、その存在が消えてゆく。人の記憶からも、ね。おそらく、次謎が解けなければボクという存在は……」

 クウナはどこか遠い目をしながら、黒ずんだ汚い路地裏の壁を見上げる。
一息吐いた後、そろそろ今回の事件の話へと戻ろうかと言って、懐から一丁のを取り出した。そして、その銃口を俺の額に突きつける。リアクション芸人だったとて、唐突にこんなことをされたら反応できやしないだろう。

「え、っと……エアガンとかガスガン、だよな……?」
「にひひ、そりゃもちろん――〝実銃〟さ。はい、ど~ぞ」
「えっ、ちょ⁉」

 テレビのリモコンでも手渡すかのように軽々と、その手に持っていた拳銃を俺に渡してくる。
 それはずっしりと重く、ところどころ金属が剥げていて年季が入っているようだった。これは本物なのかと信じれば信じるほど、みるみる重くなっていくように感じる。

「今から【死亡推理】を行う。助手である不死身のレオパくんには、〝巻き込まれて〟一緒に推理をしてもらいたいんだ。巻き込まれる条件は、とある行為をすることで仮契約。その後、僕を殺すことで本契約というわけだ」
「え……人殺しになりたくないんだが⁉ まあ一応聞くが、その〝とある行為〟ってのは?」
「……すぅー、はぁー……。よし。レオパくん、目を瞑るんだ」
「? 了解」

 何度何度も深呼吸をし、紅潮した顔をしながら俺にそう促した。とりあえず言われた通り目を瞑り、少し身構える。
 ペチッと乾いた音が響いてきたが、おそらく自分の肌を叩いたのだろう。本当に予測ができなくて怖くなって目を開けようとしたが、そう思った時には既に彼女が行動に移していた。

 直に伝わってくるクウナの体温や、漂ってくる先ほどよりも強い彼女の香り。そして――唇に触れた柔らかい感触。これは紛れもなく〝キスされている〟。しかもこれは〝深いディープ〟のほうだ。

「んむぅ⁉」

 ファーストキスはレモンの味。そんな言葉を聞いたことはあるが、そんなのはまやかしだったらしい。口内に広がるのは、鉄の味だった。

「ぷはっ! な、ななな何すんだクウナ⁉」
「こ、これが【死亡推理】に巻き込まれるために必要なことなんだ……。ボクの唾液と血液を接吻で与えるのが必要らしくてね。……冷静になって考えてみたら、出会って一日も経ってないのにちゅーしちゃうとか……‼ だ、誰にでもしてるわけじゃないからね⁉ ちょっと気持ちが先走っちゃっただけなんだ‼ いやだったらごめんよレオパくん~~っ‼」
「だ、大丈夫だって! お前みたいな美少女とキスできて悪い気はしなかっ――……いや、でもファーストキスが血の味というのはいかがなものか……」
「あ、あぅう……確かにお互い初めてが血の味ってのはよくないような……。も、もっかいする⁉ ってかしようか‼」
「嘘嘘! 冗談だから‼」

 顔を真っ赤にして、頭のてっぺんから煙をもくもくと噴かせているクウナ。さらに、目もグルグル回っていてズイズイと顔を近づけてきていた。
 その姿はさながら暴走機関車のようで、今彼女を止めなければ必ず脱線事故が発生すると思い、なんとかして宥める。

「ふぅ、よし、落ち着いたよ。ありがとね」
「どういたしまして。そんで? 巻き込まれるって何なんだ?」
「ふむ、実際にお見せしようか」

 そう言ってさらに路地裏の奥へと手を引かれた。相も変わらず薄暗く、生暖かい風が少々不快に感じる。しかし、壁と床に赤いシミのようなものが目に入り、思わず瞠目して視線を外す。

「さあさあ。それじゃあ君に見せてあげよう! 我が異能力をっ‼」
「ドンドンパフパフ~~。キャー、クウナサンカッコイー!」
「なんか棒読みだね……まあいいや。【死亡推理メメント・モリ】、〝Repeat〟‼」

 彼女が一言叫ぶと、足元の〝影〟がぐつぐつと沸騰する湯のように湧きあがる。さらに、それは次第に気化してあたり一帯が影に包まれた。
 濁流に揉まれるかのように影が体にまとわりつき、思わず目を閉じる。次に目を開けた時には、俺は彼女に銃口を向けていた。

(――は? なんだこの状況!? ってか体が動かないんだが……‼)

 いや、違う。体は動いている。ただ、まるで操り人形のように俺の意思に反して体が動いていたのだ。クウナは壁にもたれて座り込んでおり、俺の拳銃は無常にもそのクウナに向いている。
 そして、パンッと乾いた銃声が響く。

「――うわぁああああ⁉ あ、え……体が動く……?」
「やあ。初めての異能力はどうだったかな?」
「え、はっ⁉ 死人が喋ってる……⁉」
「死んだけど蘇ったんだヨ~」

 クウナには傷一つどころか、飛び散った血の跡もなかった。いきなりのことで焦り、怒りも湧いてきたが、どっきり大成功と言わんばかりにイェーイと言いながらピースする彼女の姿で許してしまう。

「本来ならば、この異能力はボクが被害者となり、加害者は〝影〟で生成される。他に人はこの影の領域に入ることさえできないが、〝巻き込まれ〟が発動している君は〝加害者〟として入れた。今回被害者が蘇らなかった理由は……まぁ、また今度話そうか」
「すごかったが、めちゃくちゃ焦ったぞ……。ってか、俺いるか? いてもいなくても変わらないような気がするんだが」
「君はボクの助手さ。何かとドジな部分もあるからさ、君にボクの足りないところを補ってほしいんだ。率直に言うと、君が欲しい。君がいいんだ」
「お、おう……。なんか照れるな」
「……ん? あ、あっ⁉ 恥ずかしいこと言わせるなよ~~‼」
「えぇ……俺のせいなの?」

 ポカポカとダメージゼロの攻撃をしてくる彼女を、甘んじて受け入れた。
 コホンと咳払いをし、スイッチを切り替えたように彼女の顔は真剣な者へと変化する。

「……さて、ではレオパくん。ここからは君に選択してもらう。〝ボクを殺して非日常を手にする〟か、〝ボクを殺さずに平穏な日々を続ける〟かをね」
「…………」
「君は撃ってもよいという権利がある。撃たなくてもよいという権利も同じくある。ここで君が撃たずとも、ボクは君の両親の件を捜査すると約束するよ。だから、成りたい君に成れ。本能のままに。〝一般人《ただのニンゲン》〟か、それも〝逸般人《ニンゲンモドキ》〟か……ね」
「俺は……」

 両親の死の真相を暴き、俺の中から〝恐怖〟を取り除くことが人生の目標だった。恐怖を克服し、強くなってこその人間だ。
 だが、克服して何になる? 強くなってどうする? 俺は実のところ、何がしたいんだ……?

 この目標が果たされれば、俺は貯金を切り崩してまで探偵を雇わなくてもよくなる。野草や昆虫の食事を食べずとも、まともな食材が買えるようになる。人並の暮らしができるようになる。普通の青春を送れる。両親の仇もとれるだろう。
 ……そのあとは?

 時に、〝ベニテングダケ〟というキノコがあるのは知っているだろうか。それは有名な毒キノコで、某ゲームで見たことがあるビジュアル赤に白の斑点模様をしたキノコだ。それは毒キノコであるが、通常のキノコよりも何十倍も美味いのだ。
 俺は、短い時間だが〝異人のクウナと過ごす〟というニンゲンにとって毒だが、いつもより数倍楽しいというのを味わった。引き金を引けば、もっと強い毒が味わえる。一度、毒の美味さを知ってしまえば、中々後戻りできないものだ。何度も毒キノコを食っている俺がそうだから。

 だから俺は……。

「クウナ、一つ聞かせてくれ。お前は俺にとって……〝毒〟か?」
「ふむ……いいや、違うね。触れればひとたび肌が爛れ、取り込めば即死する――さ」
「……ははっ、そうか。そう断言してくれて嬉々としている俺はやっぱり……普通のニンゲンとして生きるのは向いてないっぽいわ」

 震える声でそう答えながら銃口をクウナの額に向けると、彼女は口を三日月のように不気味な形となる。
 彼女のその顔を見て、悪魔の契約かもしれない、そう感じた。先ほどの「異能力を見せる」というのも、引き金を軽くするための罠だったのかもしれない。だが、もう後戻りは無理そうだ。

「そうと決まれば話は早い! さあ、君が手に持っているその拳銃のトリガーを引くんだ。そして、この名探偵であるボクを殺せ」

 この秩序が求められる現代社会。今から行われようとしているという行いに、かろうじて脳に残るニンゲンとしての意思が、目の前の光景を拒絶する。二回目とはいえ、慣れないものだ。
 しかし俺はあの時、シャンデリアの下敷きとなって死に、ニンゲンじゃない存在として蘇った。ニンゲンモドキとしての体は、反逆の意思を持ってトリガーを引く力を徐々に徐々に強めていく。

「さて、と……それじゃあ始めようか。ボクらの――〝死亡推理〟を」

 ダンッ‼
 乾いた銃声の音が、火花の光が、頬にかかる彼女の血の感触が、硝煙の香りが、目に映る赤が……。この一瞬で、五感全てに衝撃が走る。退路は今まさに、崩れ去った。
 荒い呼吸でなんとか空気を肺に取り込み、深く目を閉じて現実だと言い聞かせる。だが、次に目を開けると……。

「よ~~し! ボクを殺したから巻き込まれ発動だねっ! それじゃ、早速推理にレッツゴー‼」
「ぎゃぁあぁあ! だからいきなり蘇るな‼」
「えっ、ごめん。もうちょっと死んでたほうがよかったかな⁉」

 血だらけのクウナの姿は消え失せており、ピンピンしているクウナが目の前に現れる。彼女の蘇りというのは、どうやら一瞬の内に行われるらしい。
 まあ何はともあれ、これで俺は〝巻き込まれた〟らしい。

「さて、ボクもレオパくんを巻き込んだ張本人として責任を取らなきゃね。君を退屈させないつもりだから、覚悟していてよね?」
「そりゃ楽しみだ。これからが楽しみで眠れないや」
「睡眠はきちんとしなきゃだめだぞ? お肌が荒れちゃうからねぇ。……ふふっ。これからよろしくね、レオパくん」
「ああ、よろしくな、クウナ」

 こうして、俺たちは正式に探偵と助手という関係へとなった。


 これから彼女の異能力を駆使した推理がいざ始まる! ……と、言いたいところだが、この話はここまでだ。

 結果としては、無事に事件は解決して犯人も捕まえられた……らしい。その後、俺の両親についての捜査もスタートしたが、舞い込んでくる異人絡みの依頼は多く、多忙を極め、飽きない日々が続く。

 しかし俺の両親の死の謎は、いくら時間をかけたとて解けることはなかった。みるみる日が進み、というタイムリミットが刻一刻と近づいてきていて焦りが見え始める。
 一目惚れか、単純接触効果か……理由は多々あると思うが、俺はクウナのことを好きになっていた。あちらも同じらしく、俺のことを好いていた。消えてほしくない。消えたくない。その俺たちの思いから、ある日、彼女の口からこんな提案が飛び出した。

「レオパくん。君さえよければ、ボクは君といた証が欲しいんだ。……君と子供を作りたい」

 タイムリミットの約一か月前。俺はまだ高校生だ。子供を養える貯金も、技量も、何もかもが足りていない。けれども、彼女が望むことを、俺ができることを叶えてあげたい。俺は覚悟を決めた。
 そして、クウナは懐妊した。タイムリミットの一年がやってきたが、なぜか彼女が消えることなかった。子を成したからだろうか。

 俺は心の底から安堵したが、不安は拭えないままだった。なんとか謎を解こうと必死に動いた。けれどやっぱり、〝わからない〟。その一言に尽きた。
 そのまま季節をいくつか越え、ついに出産の時がくる。この世界では異人同士の結婚は認められているが、子供を作ることは禁止されている。何が生まれるかわからないからだ。なので、のこのこと産婦人科やら病院に行けるはずもなく、出産場所は自宅だった。

「ぁんぎゃあ‼ おんぎゃあ‼」

 俺や元々クウナに仕えていたメイドさんで協力し合い、子供は無事に生れ落ちる。
 可愛い女の子だった。俺は娘を抱え、クウナに抱かせようとした。

「クウナ! よく頑張ったな……! ほら、この子も元気に泣いているから、クウナも抱いて――……クウ、ナ……?」

 生まれてきたばかりの娘。ここに至るまで必要不可欠であった命綱であるへその緒。それを辿った先には――。まるで最初から何もなかったように、誰も。

「ぅ、あぁっ……‼」

 血の気が引いて、言葉にならない声が口から零れ落ちる。
 どれだけ傷ついても死なない不死身の肉体を手にしたとて、この心にぽっかりと空いた空虚感だけで死んでしまえそうだった。

 「終わりがあるから美しい」なんて言葉は、無理やり人を納得させるために作られて綺麗ごとにすぎない。ずっと、終わりたくなかったのに……。

 ――この瞬間、この子を遺して……世界から一人の名探偵の存在が消えた。
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