○○○○の死亡推理

海夏世もみじ

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第6話 ○○○○の死亡推理-③

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 私が狐ちゃんの作戦の内容を聴こうにもまだ内緒と、伝えられることはなかった。
 そして、気怠い授業を乗り越えて昼休憩の時間となった。どうやら彼女はまだ何かしらの準備をしているらしく、放課後まで待ってほしいとのこと。今もどこかで、何かしらの準備をしてくれているらしい。

「事件現場にはいけないだろうし、被害者の身辺調査でもしよっかなぁ」

 昼休憩が終われば、安眠術師の講師による歴史の授業が始まる。眠ってしまう前に情報をまとめ上げ、夢の中で頭の中を整理させておきたいところだ。……背に腹は代えられないし、不本意だけど頼るか。アイツに。

 私は歴史の教科書にいる織田信長にボールペンで鼻毛を生やすのをやめ、肺の空気全てを吐き出す勢いで息を吐きながら、席を徐に立ち上がる。

「はぁあ、今日は一体どれだけ搾り取られるかなぁ……」

 私が向かった先は、ほとんどの人が使っていない校舎の端にある階段だ。そこの下の空間にはデッドスペースがあるのだが、無断で占拠している生徒がいる。
 その人物はこの学校のありとあらゆる……とまではいかないが、多くの生徒の情報を持っており、対価を払えば教えてくれるという、いわゆる〝情報屋〟だ。

「おーい。ねぇ、いるんでしょ情報屋―」

 日の光がほんのり差し込む薄暗い空間。歩くだけで塵が舞うくらいに掃除が行き届いていない埃臭いが、私はその空間に足を踏み入れて件の情報屋を呼んだ。

「あー……? おお! このあたしの眠りを遮る不届きものは誰かと思ったが、探偵ちゃんじゃあないか‼ 相も変わらずオッドアイが奇麗だねぇ」

 ところどころ破れて中身が見えているマットの上で削られた鰹節のようにもぞもぞ動いたと思えば、ゆっくりと起き上がって不機嫌そうに体を左右に揺らす。頭には小さいゴミ箱をアイマスク代わりに被っている。私に気が付いた途端、縮地でも使ったかのように距離を詰めてきた。

 この女こそが、この中学校の情報屋である。ちなみに、彼女の名前は誰も知らないし、どの教室にもいないという、謎の存在だ。いつも埃を身に纏って、動く度にハウスダストが無駄にキラキラと輝く様から、私は心の中では彼女を「ダストクイーン」と勝手に呼んでいる。

「情報屋、ちょっと聞きたいことが――って、うわ近寄んないで! 埃臭い‼」
「なんだとぅ? 女の子に向かって臭いとはどうかと思うぞ‼」
「事実を言ってるまでだっての! マジで臭いんだって!」
「うわぁーーん! 誰か事実陳列罪でこの人現行犯逮捕してぇ~~‼」

 これ以上埃でのマーキングをされないためになんとか彼女を宥め、本題に入ることにした。私が口を開こうとしたのだが、それを防ぐように先手を取られる。

「〝旧校舎倉庫の密室殺人事件〟。探偵ちゃんが知りたいものってのは、この情報なんじゃあないかね?」
「……話が早くて助かるよ。それじゃあ――」
「それじゃあ、ね? あたしは情報〝屋〟だぜぃ。タダで上げるわけにはいかないんだなぁ」

 ふぁさっと手で髪を靡かせる情報屋。キラキラとしたエフェクトが見える。さすがはダストクイーン、キラキラの正体を知らなければ綺麗だと手放しで褒め称えていただろうに。
 しかし、その煌びやかさとは対照的に顔面のほうは悪徳商人のように悪い顔つきだ。私はジトっとした目で彼女を穿つ。

「ちなみに、ここ一週間で起こった学校の出来事はすべて把握している。まぁ、対価が欲しいのならば……探偵ちゃんの個人情報が欲しいかもねぇ」
「私の?」
「イエス、イエス、イエス! なんせ探偵ちゃんはこの学校において高嶺の花ッ! 君は何が好きなのか、普段何をしているのか、誰が好きなのか、エトセトラエトセトラ……! それら全ての探偵ちゃんの個人情報というのは、結構価値があるからさぁ‼」
「ふ~ん。あんまいい気はしないけどね」

 前回はとある生徒について知っていることを洗いざらい全て吐かされたが、今回は私の情報ときた。
 一体、どれほどの個人情報を流出させなければ情報を交換してくれないのだろうか。ニヤニヤと悪魔の取引を持ち掛けてくる彼女に、私の背中に嫌な汗が伝う。生唾を飲み込み、情報屋の腹を満たすようなメニューを提示していく。

「私の好きな趣味」
「探偵ごっこ。他には虫取りや魚釣り、キノコ狩りとかもあったっけかねぇ」
「じゃあ好きな料理」
「コオロギの佃煮。変わってるねぇ」
「ぐっ……。わ、私の好きな人!」
「パパだろう? のろけ話を散々友人に話しまくっているみたいじゃあないか。それらはもうあたしが知っているものだ。もっと刺激的な情報をくれたまえ!」

 基本的な私の情報はすべて筒抜けと言ったところだ。私は思わず眉間にしわを寄せてしかめっ面になるが、情報屋は「可愛い顔が台無しじゃあないか」とずいぶん楽しそうにケラケラ笑っている。
 ここは何か、私しか知らない情報を吐くしかなさそうだ。……正直この情報を渡すのは憚られるが、恥を忍んで出すしかないようだ。

「……スマホ、出して」
「ほう? データの情報かな。……って、なんだいこの重いデータ。にっひっひ、面白そうじゃあないか‼」

 私は情報屋にとあるデータを送信した。彼女は、皿にかぶせられた金属製のクローシュを取るかのようにワクワクしながらそのデータの中身を確認する。が、次の瞬間にフリーズし、次いで私とスマホを見比べて始めた。

「今送ったのは――〝私がパパのことを思って書き綴った日記〟みたいなものの一端。ふ、ふふふ……ひ、人に見せられるようなものは書いてないんだからね‼」
「お、おぉう……思ったよりヤバいもんが出てきた……。コレ、どうしようかねぇ……」

 顔面が真っ赤を通り越して赫灼しているのではないかと思うほど熱く、目は遠心分離機並みにグルグルと回っていだろう。

 思春期というものは、知性が刺激され、あらゆる感情が発生するものだ。それらは必ずしも人に言えるものとは限らないため、発露せぬようにと心の奥底にしまっておくものである。しかし、時にはそれを発散させなければいつか爆発してしまうやもしれない。
 そこで私は、日記としてコレを書いていたのだ。異人やらなんやらが書かれていない部分を抜粋したが、人に見られるのは恥ずかしいという次元ではない。殺してくれと懇願するほどのものだ。

「そ・れ・で⁉ これでいいのかってことなんだけどっ‼」
「あ、あぁ。もちろん大丈夫さ。ハハハ……」

 真夏のコンクリートみたく熱くなった顔を手で扇ぎ、スーハ―と深呼吸をして何とか平常心を取り戻す。情報屋はひくひくと口角を引きつかせ、苦笑いをしていた。
そして、ようやく本題である情報をもらえることに。

「さて、それじゃあ情報を渡すとしよう。超絶ド級のファザコン探偵ちゃん、君はどんな情報が欲しいんだい?」
「サッカー部の部長と、桐生、輝夜、雄吾の身辺について知りたい……って思ってたけど、あの情報を渡したんだし、事件の詳細についても――」
「にひひ、了解した。四人の関係についてのみだね! 任せたまえ‼」
「ねえ、ちょっと……本っ当にさぁ……‼」
「わ、わかったから! 胸倉を掴むのとその振り上げられた拳を下ろしてくれ‼」

 思えば、私がヤンキーみたいな情報が流れているのもコイツが原因なのでは? そう思い沸々と怒りが湧き、情報屋の胸倉を掴む。彼女は魚のようにビチビチ暴れて食い下がってくれたので、この拳に込められた力の行き場は失われた。

「うむ、だが事件の詳細はあたしでも限られた情報しか持っていないからねぇ……」
「少しでもいいの。さっさと教えてって」
「ハイハイ。……コホン、事件は一昨日の土曜日に起こった。時刻は、八時四十分から九時の間。被害者である時彦、マネージャーの輝夜、部員の雄吾が旧校舎の倉庫へと向かった。被害者はなぜか自分から倉庫の鍵を閉め、他二人からは犯人はちょうど見えなかったとのことだ。その後、二人は先生を呼びに行き、連れてこられた先生はドアを蹴り開けて死体を発見。被害者は喉元をえぐられて死亡した、と。……ふぅ、こんな具合かなぁ」

 もしついて行った二人が共犯ならば、口裏合わせで難を逃れられるだろう。いや、でも先生がドアをこじ開けたのならば鍵は本当に閉まっていたのか。だけど外側から鍵を閉めることができれば可能……?

「情報屋、旧校舎の扉って古そうだし、外側から閉めれたりしないの?」
「旧校舎は旧校舎でも、事件現場は倉庫だ。普通の扉とは違うから難しいだろうねぇ」
「そっか」
「ま、この段階で深く考えても無駄だと思うがねぇ。パンピーには理解できない力が作用しているのならば、名探偵にだって完全推理は不可能だろうし」
「ん? それって……『異人ニンゲンモドキが関わっている』ってこと?」
「……おぉっと! ここからは追加料金が――って、嘘です嘘です! 本当に知らないんで暴力は反対‼」

 ポキポキと指を鳴らすのを中止し、呆れ混じりの溜息を吐く。
 含みを持たせていたが、これは本当に知らなさそうだ。商魂が素晴らしくて、ついつい拳という名のチップを支払ってしまうところだった。

「そんじゃあ、次は四人の関係についてだねぇ。まずは映画部兼サッカー部の女子マネージャーである輝夜、彼女は被害者とカップルの関係だったそうだ。仲睦まじい様子で、よく一緒に散歩してる姿なども目撃されていたが……つい最近喧嘩していたそうだ。
 そして二人目、副部長の桐生。趣味は生き物観察。彼と被害者は小学校からの仲とのことだ。そして、マネージャーの輝夜のことが好きだったみたいだが、被害者である時彦に先を越されたと。それからというもの、部員などに愚痴を呟いていたらしい。
 そしてラスト、部員の雄吾。彼と被害者との接点はあまりなかったが、ついこの前の試合で部長に選ばれず、ベンチだったとのことだ。そこから被害者のことを憎んでいると情報は入ってきているねぇ。あと書道部への兼部をしようと考えてて、最近勤しんでいるとかなんとか」

 三人の関係を言い切った情報屋は「疲れたから一服してくる」と言って、ハウスダストを吸引していた。思わずうわっ、と声を漏らしてドン引きしながら、私は顎に手を添えて考えを整理する。

 三人と被害者を殺害するという動機は一応ある。被害者について行った二人のうちどちらかが犯人か、それとも残った一人が犯人か……。
 普通に考えれば残った一人、もとい副部長の桐生は犯人の候補から外されるだろう。しかし、この事件は異人が関係しているとなると、そうとは言い切れなくなる。遠距離でも発動する呪い的な能力や、遠隔で操作する能力かもしれないのだから。

「う~ん……わかんない」
「だろうねぇ。実際に事件現場に行くが吉だとあたしは思うぜぃ?」
「ん、そうするつもり。ま、色々ありがと。助かった」
「ちょい待ちぃ。これ持って行ったほうが吉……うんにゃ、〝大吉〟と見た」
「ん? ――危なッ⁉」

 ヒュンッと風を切る音が聞こえ、その何かは私の頬を掠って壁に刺さる。手で拭うと、血が少し垂れているのがわかった。
 いつか絶対、機会を伺ってみぞおちに良い一発ぶち込む。そんなことを内心思いながら、私は壁に刺さったものを手に取る。どうやらそれは名刺らしく、シンプルなものだったのだが、妙な点があった。

「えーっと。――〝異人専門探偵事務所・○○○○〟? なにこれ。名前が空白なんだけど」

 異人専門の探偵事務所。私の両親も昔はこのように仕事をしていたらしいけれど、これと何か関係があるのだろうか? なぜ名前がないのだろうか? 知らないはずなのに、この胸騒ぎは何なのだろうか……?
 詳しくを聴くため、後ろを振り向いて情報屋に問いかける。

「ねえ、これってなんなの――……あれ、いない……」

 そこには、まるで最初から誰もいなかったように、薄暗い空間だけが広がっていた。
 ここは私の前を通らなければどこにも行けないし、抜け道やら隠し通路なんかもありやしない。情報屋は一体何者なのだろうかと推理してみたくもなるが、それをしてしまえば何か良くないことが起こるような……〝災厄〟でも降り注ぎそうな、そんな気もする。

「……はぁ。ま、情報は手に入ったし、追及すんのはやめとこ」

 そういえば、差し込んでいた陽の光もいつの間にか消えている。窓の外を見て見ると、暗雲が立ち込め始め、嫌な予感というのを増幅させる効果が十分にあった。
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