○○○○の死亡推理

海夏世もみじ

文字の大きさ
8 / 26

第8話 血! 血! 血!-①

しおりを挟む
「む~~っ‼ 離してよ‼ 女子中学生という乙女への扱いがなってないと思うんですけど⁉」
「うるせぇぞ、騒ぐな。子供だからなんでも許されると思うな」
「これから私色んな事されるんだ‼ エロ同人誌みたいに‼」
「オイこの野郎、オレの悪評が広まったらどうする。お願いします黙りやがれください」

 現在、魚屋で魚を盗んだどら猫のように、刑事に服の襟元を掴まれて強制退去させられている。異能力の発動で驚いた拍子に、変装セットが崩れてバレてしまったのだ。異能力が発現して動揺するなと言われるほうが無理があると思うし仕方がなかったが、不覚である。
 このままこの刑事に職員室への直行便で連れていかれて、お説教タイムが始まってしまう……かと思いきや。

「ったく……とっとと失せろ。他のやつらに見つかんねぇ内にな」
「えっ?」

 ゴミ収集車に袋を投げ入れるようにポイッと私を投げ捨て、踵を返して歩き始める。てっきり、こってりと叱られると思っていたため、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてしまった。
 暫し呆然としていたが、ポケットにあの刑事のものらしき電話番号のメモが詰め込まれているのに気が付く。おそらく、見逃してやるから何かわかったら連絡しろ、ということだろう。

「た、助かった……! というか、まさか私にも異能力が発現するとは。蛙の子は蛙、異人の子は異人ってわけかな」

 発現した異能力はママのものとほぼ同じで確定だろう。私が被害者自身となり、事件を再現するというものだ。パパの異能力は驚異的な再生能力らしく、血をほんのり操ることのできるもの。私にはその能力はないが、多分〝体質〟として遺伝していると考察をした。昔から、切り傷とかができてもすぐに再生できてしまうし。

 閑話休題。

 異能力のおかげで、思わぬ収穫もあった。充分情報も集まったのだし、そろそろ本格的に脳味噌をフル回転させる時だろう。私が顎に手を添え、虚ろな瞳をしながらブツブツと言葉を唱え始める。

「私の異能力が真実なら、死因は入り込んだあの犬に喉を嚙みちぎられたことによる出血死だよね。犬とは思えない人間臭い動きをしていたし、多分犬は異能力で操られたもの……。やっぱり、あの三人にいる可能性が高い。異能力、何らかの動物がモチーフだけど、今回はおそらくアレ。けど……いや、まさか。だとしたらまずいかも……」

 思考がクリアになっていくにつれ、とある嫌な予感が浮き彫りになってゆく。私は急いでスマホを取り出し、コンちゃんに連絡をする。しかし、既読はつかない。電話にもコール音が響くのみ。雨音が耳にこびりつく。
 汗がこめかみから垂れ、焦燥感が募る。私は駆け出し、コンちゃんのもとへと向かう。私とコンちゃんはよく、放課後には使われていない空き教室で駄弁ったりしている。使ということから、

「嫌な予感が当たっていなければいいんだけど……‼」

 下駄箱からスリッパを取り出して履き替えて、靴は乱雑に脱ぎ捨てた。先生が「廊下は走ってはいけません」なんて言うが、緊急時などは先生たちも廊下を走っていることがよく観測できる。だから、今全力疾走している私を裁こうものなら自身も鑑みなくてはならないだろう。
 すっかり人の熱気を失い冷たくなった廊下の空気を走って切り、とうとう件の空き教室へと到着した。

「コンちゃん! 大丈――」

 そこには、誰もいなかった。が、私の思考は黒く染め上げるのに容易な光景が、そこには広がっていた。
 床に、水たまりがあった。無色透明ではなく、真っ赤な水たまりが。だが、それだけならよかったのだ。しかし、非常な現実を突きつけるような痕跡が一つ、そこに落ちている。そこに、いつもコンちゃんがつけている葉の髪飾りも一緒に鮮血で紅葉と化していたのだ。

 私は血の気が引いていたが、足は自然とその血の水たまりへと向かっていた。そして、そこから髪飾りを拾い上げる。最後の頼みの綱だった。何かの間違いであれと願っていた。しかし、地獄へ垂らされた蜘蛛の糸がプツンと切れたように、理解してしまう。
 これは紛れもなく彼女の物だ、と。

「コン、ちゃん……。あ、ああ……あぁあああ‼」

 顔も頭も、何もかもぐちゃぐちゃにされておかしくなりそうだった。頭痛も激しくなっていって発狂する。あの時、一緒に行動をしていれば。あの時、コンちゃんを一人にしてしまったから。あの時にあの時にあの時に。後悔の波が押し寄せ、私を飲み込んでゆく。行き場のない感情が溜まって濃縮された。
 手からギチギチと怒りを表す音が生じ、掌に自分の爪が食い込む。そして掌は爪に耐えられず、傷跡が生じて赤い血が溢れ出す。私の怒りに呼応するかのようにぐつぐつと煮えたぎっていた。

「事件を解決すれば、コンちゃんが蘇るかもしれない……私のママがそういう異能力だったらしいから。また死ぬのは嫌だけど、コンちゃんが死ぬのはもっと嫌だ! なら、進むべき道は決まっている……! それには、それが必要……だから、この力を利用するまで‼」

 血が溢れる掌を地面に叩きつけ、異能力を発動させた。
 先ほどと同じように、血が口や手に纏わりついて私の行動を制限する。勝手に体が動いて近くに転がっていた椅子に座る。コンちゃんはおそらく、ここで私を待っていたのだろう。

(絶対に犯人を特定して、ぶん殴る……!)

 心に殺意を宿し、しばらく椅子に座っていると、扉から誰かが入ってくる。その人物は血で作られていたのだが、大柄で、筋骨隆々な人の形をした人物だった。色合いも相まって、ファンタジー作品に出てくるオーガのようだ。
 ガタッ音を立てて椅子から立ち上がって後退して、この犯人に驚いている行動を示す。犯人はジリジリと距離を詰め、手首をつかまれて引き寄せられ、私(コンちゃん)の首が締め上げられる。

「ぁ……ぐぁ……ッ‼」

 必死に振りほどこうと爪を立てて犯人の腕を引っ掻くが、痛覚が遮断されているかのように無反応だ。しかし、なぜかその抵抗を中止させて、ポケットに入っていた手帳らしきものを廊下に投げつけた。断定できないのは、それも血で作られていて詳細がわからないからだ。
 それを最後に、身体は脱力して人形のように動かなくなり、熱が失せて冷えていく感覚がする。

「――はっ⁉ 蘇った。あんの脳みそが筋肉に吸われたみたいなムキムキ野郎が……! コンちゃんに手ぇ出しやがって。……はぁ、考えをまとめよう」

 血の世界から戻ってきて、私は自分の体を確認した。傷一つないことを確認して、はぁと溜息を吐く。そして、深く深呼吸をして怒りを一旦心の内にしまって、異能力から得た情報から思考を加速させる。

 今回、この空き教室内では謎の大柄の人物がコンちゃんを襲った。この血の水たまりは、首筋を噛まれたことでできたものだろう。
 そして、サッカー部の皆は基本的に身長が高い。今朝、私たちの事情聴取から解決されることを恐れて、コンちゃんから狙ったという可能性も大だ。私には〝不良を思いっきりぶん殴って撃退した〟という話を直近で話しているし。

「うーん……けど、まだ足りない。何かないかな……。あっ、そういえば最後になんか廊下に投げてたっけ」

 何かを投げた方に足を進め、血眼になりながら証拠を探す。ただ、その何かが落ちているというわけではなく、細かい砂がスリッパの裏の溝に入り込むのみだ。
 誰かに助けを求めて廊下に投げたのだろうか? けれど、コンちゃんのポケットには確かペンも入っていたはず。そっちのほうが音が出るのに、なぜ投げなかったのか。ただ単に手に取ったものがそれだったからか、それとものか……。
 なぜ? もしや……そこに他の誰かがいたから?

「誰かがいたって痕跡という痕跡は特に……――あ」

 あった。扉のすぐ横の壁、そこに淡い白い何かの痕があったのだ。楕円形で、色斑がある痕跡。
 瞬間、今まで得た情報のシナプスが次々と繋がる。

「あ……わかった。旧校舎密室殺人事件、そして空き教室の殺人事件が……! にひ、事件解決と洒落込もうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...