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17章
試食会
ホプコンで塩、コンソメ、ブラックペッパー、カレー。ステコンでキャラメル、塩キャラメル、バター。ジャンコンは……膨化が難しかったので、油で揚げるタイプのジャイアントコーンにした。
欲を言えば、バター醤油とかチーズとか抹茶とかチョコレートとか食べたいところ。醤油に馴染みがないことと、チーズを粉末にするのはジュードさんから「セナっちしかできないと思うー」と言われたため、この味は登録を見送り。
フライドポテトのフレーバー登録のときもお店のお兄さんに「難しい」って言われて……チーズフレーバーは溶かしたチーズをかける、またはディップ型になったし、バター味も、溶かしたバターを揚げたポテトと鍋やボウルで混ぜるっていう強引な手段をとった。バターはまだ同様の手法で大丈夫であろうが、ポップコーンに溶けたチーズをかけるのはどうなの? ということでチーズ味は見送った。
抹茶とチョコは……素材を見つけられていないんだよね。私が持っているのはインプにもらったほうじ茶と紅茶くらい。ジルが持っているのもフレーバーティー。念のために粉末状にしてみたものの、煎茶になっただけでとてもじゃないが抹茶とは言えぬ味だった。レシピアプリによると 碾茶って種類の茶葉らしい。見つけたらぜひ作りたい所存。
ひとまず、おばさま方から買い取ったコーンを全て使って量産し、戻ってきたガルドさん達と試食。
「うまーい! 塩だけでも美味しーけど、味付けてあるやつがまたうまーい!」
「えぇ、美味しいですし、あの粒がこうなるとは思いもしませんでした」
「ねー! 作ってるときにさー、鍋の中でパンパン爆発してて面白かったんだよー」
「…………」
ジュードさんとモルトさんが会話している横で、コルトさんが無言で口に運んでいる。ハムスターみたいに口の中に詰めまくってモグモグしているのが可愛い。よく噎せないね?
「ガルドさんは気に入らなかった?」
「ん? いや、どれもうめぇよ。前に食った……フライドポテトとかベビーカステラってヤツとかとは違って腹には溜まらねぇな、って思っただけだ。美味いだけに際限なく食えちまう」
「あー……なるほど。スナック菓子だからねぇ」
そっか、この世界は味より満腹度が重要なんだったね。販売する分量を考慮しないとだ。
まぁ、クラオルとグレウス、ニヴェスも気に入ったみたいだから、売れないことはなさそうである。
◇
試食ついでに昼食を済ませ、村人達用のテーブルをセッティング。
おばさま方を待っていた私は違う気配が近付いていることに気が付いた。
「あれ?」
「どうした?」
「グレンとジルが戻って来たんだけど、サーシャさんともう一人いる」
「早くないか? あっちの目処が立ってからって話だったよな? それにもう一人って知ってるやつか?」
「うん、早い。もう一人は知ってる気配な気がするけど、あの女性騎士さんじゃない。何かあったのかな?」
こちらへ向かってくるスピードが速いから、かなり飛ばしているのは間違いない。
ニヴェスとフライングディスクで遊んでいたジュードさん達にも声をかけ、グレンを迎えに村の入口に向かう。
視界に映ったグレンの有様があまりの衝撃で、たまらず声が出た。
「え゛!? ちょっとグレン、何してるの!?」
「は? ……はぁぁ!?」
「えー!?」
「わ……」
「……っ……」
私の声から数秒後、ガルドさん達からも驚きの声があがった。
〈セナ! 我がいないのにズルいだろう! 我の分は!?〉
「いやいやいや! その前にサーシャさん達降ろしてあげてよ!」
〈我のは!?〉
「早く降ろしなさい!」
〈むぅ……〉
不服そうにしつつもケガをしないようにゆっくりと地面に降ろされた二人の安否を確かめるべく駆け寄る。
知ってはいたけど思い出せなかった魔力のもう一人は、ピリクの街でタルゴーさんが不在時に商会を守っていた代理人だった。
「大丈夫!?」
「あぁ……だ、大丈夫だ」
「はい、大丈夫です」
サーシャさんは顔色悪くギリギリ状態で、代理人は意外と元気な様子である。人型とはいえ簀巻状態でグレンの手にぶら下げられていたのに。
何故こうなったのかを問えば……
①私からの手紙を受け取ったタルゴーさんにより、代理人がピリクの街からパソヴァルの街まで人型ドラゴン便(ゴンドラ使用)で運ばれてきた(サーシャさんの許可は下りており、本日朝着)
②代理人を含めたギルドでの話し合いの最中に「新しいお菓子、すごく美味しかったよー」と、ジュードさんから魔通で連絡が入る。
③グレンが〈直接話した方が早い。さっさと戻るぞ!〉と宣言。
④ジルが二人を簀巻にし、超低空飛行で運んできた。
とのことだった。ジルだけ従魔であるクーヴェに騎乗していたのは、一応速さと安全性を考慮した結果らしい。
代理人が平気そうなのは二回目だからなのか、もともと根性が据わっているタイプなのか……いくら早くポップコーンが食べたいからって、なにも簀巻にして運ばなくても……
「グレンがごめんね」
「いや、大丈夫だ。貴重な体験だった」
「いえいえ、結構楽しかったです。商会長も経験したことがないとお聞きしましたので自慢します!」
タルゴーさんはゴンドラだったからね。自慢できることなんだ……確かにタルゴーさんならきっと、「世界で初めてですわ!」なんて言いそうだ。っていうか、ゴンドラに乗ってきたなら今もゴンドラを使えばよかったのでは? あ、ゴンドラはドラゴンが持って帰っちゃったんですか、そうですか。……置いてかれたの? って思うじゃん?
代理人いわく、タルゴーさんはパソヴァルの街に出店するつもりらしい。で、そこの店長として代理人が来たんだって。
タルゴーさんの信用できる知り合いがいたら紹介してほしいって手紙に書いたハズだったんだけどな? タルゴー商会はこの国の王都にも出店したから、出店自体は違和感はない。あのタルゴーさんのことだから「新しいお菓子なんて……素晴らしいですわー! ダーリ!」って叫んだんだろうな。
サーシャさんも動けるは動けるようなので、セッティングしたテーブルのところまでご案内。
サーシャさんの休憩がてらポップコーンのお披露目だ。グレン用は確保していなかったので、騎士用に確保しておいたやつを出した。ごめんよ、騎士。
ペロリとたいらげたグレンはもちろんのこと、代理人もサーシャさんも気に入ったようで私は胸を撫で下ろした。ガルドさん達が大丈夫だったから大丈夫だとは思っていたけど、輸出入に関してはサーシャさん次第だからね。
「ピリクの街ですぐに集められるだけ集めたモロコンを商会長より預かっております」
「街を出る前までのものになりますが、シュグタイルハン国やキアーロ国などの各街からギルドに送られてきたものは僕が。僕達が出た後はギルドが保管しておく手筈になっていますので、持ってきたものが全てではありません」
「おぉ、ありがとう。とっても助かる」
大ざっぱにどれくらいか教えてもらったらすでに結構な量。仮に村人が納得しなくても、今この村に存在するホプコンと交換くらいはしてもらえそうである。
それからちょっとして、おばさま方がゾロゾロと村人を引き連れて戻ってきた。タイミング的にはバッチリだ。
連れられて来た村人は女性だらけで、思ってたよりも人数が少ない。そして朝より騎士がお疲れっぽいのは気のせいかな?
「……サーシャ様?」
「あぁ」
「え、いつの間にこられたんですか?」
「ついさっきだな」
サーシャさんがいることに村人達もザワザワしている。簀巻の宙ぶらりんでグレンが運びました、とは言いづらい。というか言いたくない。サーシャさんも言わないでいてくれている。深くツッコまれたくない私は近くにいたおばさまの袖を引っ張った。
「ねねね、これで全員?」
「え、えぇ。畑の関係者は全員よ。で、この人が村長」
あ、そっか。この村は男性が畜産業、女性が農業(自分のとこの家畜のエサ用)に分かれてるご夫婦が多いんだっけ。
おばさまに紹介してもらい、麦わら帽子っぽいものを被った村長と初めましてのご挨拶。サーシャさんがいるおかげか、ただの子供である私にも丁寧だった。
「みなさん、初めまして。私がセナです。騎士のお兄さんから聞いたと思いますが、ホプコンでお菓子を作りました。味付けも種類があるので、まずは食べてみてください」
「自分もいいですか?」
「もちろん」
「どれがオススメなんですか?」
「ん~、好みがあるからな……甘いのが好きな人はモルトさんがいるテーブル、甘いのが好きじゃない人はガルドさんの前のテーブルがいいと思う。一番オーソドックスな塩味はコレだよ」
名前を呼んだモルトさんとガルドさんは村人達にわかるように片手を上げてくれてた。
「私も一足先にいただいたが美味だった。どれも美味しかったが私は……コレがイチオシだな。コショウのピリッと感が好みだ」
サーシャさんの言葉でおばさま方の雰囲気が困惑から期待に変わったのがわかった。
では……と手を伸ばしたのは騎士だけ。ひとまずおばさま方は様子を見ることにしたらしい。
一粒食べて首を傾げたと思ったら、二粒、三粒……と口に放り込んでいく。目を見開いたり、味わうように目を閉じたりしているのが私達からは見えているけど、背中を向けている村民達からは見えていないだろう。無言で手を止めることなく各味を試していた騎士は村長から「あ、あの、騎士様?」と声をかけられてハッと振り向いた。
「あ……申し訳ありません。あまりにも美味しかったので夢中になってました。あれ、みなさん食べないんですか? あ、自分が邪魔でしたね。失礼しました、どうぞ。最初はセナ様がおっしゃっていた、このオーソドックスという塩味からがいいと思います」
おそらく夢中になってたのは本当なんだろうけど、誘導の仕方がうまいな。
騎士に促された村人達は村長を押しのけ、ポップコーンに殺到。弾き飛ばされた村長は騎士が支えたため、ケガをせずに済んだ。ドンマイ村長。
「あら! 本当に硬くないのね」
「ん!? 何この味!」
「これなんて甘いのにしょっぱいわ」
「……本当にバターの味がする」
お気に召したようで、ボウルのような大皿に山盛りにしたポップコーンはみるみるうちに減っていく。
結局、村長はほとんど食べられず仕舞いで、全ての皿は空っぽになってしまった。
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