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6章
アイドル?
朝ごはんを食べて部屋から出ると、外が騒がしいことに気が付いた。
壁が薄いので外の声がよく聞こえる。やたら“お医者様”って単語が飛び交っているみたい。
この世界にも“お医者様”なんて単語があることに内心驚いた。
「お医者さんがきたのかな?」
〈わからん〉
一階に下りると門番さんが待ち構えていて、村長の元まで案内してくれた。
「おはようございます。昨日は村人を助けていただきありがとうございます。本日倉庫に案内するつもりだったのですが、ケガが治った村人がお礼を言いたいと集まっておりまして……皆様の安全と案内のためにこやつを呼びました」
「ってことは、お医者様って私のこと?」
「はい」
「私医者じゃないんだけど……」
「あんなポーションを無償で飲ませたんだ。勘違いもするだろ」
呆れ顔で門番さんに言われたけど、ただのポーションだ。エリクサーみたいに死にかけを治すポーションとかじゃないのに、すごい勘違いをされたもんだ。
訂正をお願いしてから本題に入る。
「ねぇ、お兄さんもアーマーウルフと戦ったんだよね?」
「あぁ」
「戦っている最中に不思議なこと起こらなかった?」
門番さんに聞くと、少し悩んだ後に村人の一人が何かを投げた後戦闘状況が一変したと教えてくれた。
「やっぱり……その村人って?」
「ちょっと変わったやつで、人見知りのためあまり他人と関わりたがらないやつだ」
詳しく聞くと、普段は農業の方をしていて戦うタイプではなく、今回の戦闘に参加したことにも驚きだったらしい。
「なるほど……」
「あいつがどうかしたのか?」
「うん。ちょっとねー。村長、解毒しようとしたけど無毒草で治らなかったんでしょ?」
私の言葉にわかりやすく動揺した村長を見て、門番さんが険しい表情に変わった。
「どういうことだ? 村長は毒に侵されていることを知ってたのか?」
今にも村長に突っかかっていきそうな門番さんを宥めて、村長に説明を求めた。
以前訪れた商人から魔物に効くという毒薬を件の村人と共に口車に乗せられて買ったらしい。村長は毒薬がどのように影響するのかわからなかったため使わないことに決めたそうだけど、今回のアーマーウルフとの戦闘で村人が使ったことを終わった後で知ったんだそう。ケガをした村人の様子を見て毒薬の影響だとわかったため、無毒草で解毒しようと思ったけど解毒できなくて途方に暮れていた……とのことだった。
その村人が毒薬の研究でもしているのかと思ったけど、違ったらしい。
「その毒薬見せてもらえる?」
「はい……少々お待ちください」
村長が持ってきたのは赤黒い液体が入った小瓶だった。
鑑定してみると名前は【腐蝕毒】。体を腐敗させ理性をなくしていく毒薬で、普通の解毒ポーションでは解毒できないらしい。製作者の名前はコンジョタ・グラヴ。
誰だよ。知らないけど、この名前は覚えておいた方が良さそう。こんな危ない毒を使用方法も教えずに渡すなんて頭おかしい。
「これは腐蝕毒。体を腐らせてゾンビ化させる毒薬だよ」
「「!」」
「おそらくアーマーウルフを介して毒に侵されたから、すぐに体が腐らなかったんだろうね。倒したアーマーウルフが腐ってたから埋めたんでしょ?」
「はい……セナ様の仰る通りです……」
「私が解毒しなかったら毒に侵されてた村人はゾンビ化してたと思うよ」
脅すつもりじゃないけど、おそらくそうなっただろう未来を言及すると村長と門番さんは顔を真っ青にさせて震えた。
「その村人はどうしてるの?」
「……やつも毒薬のせいだとわかったらしく、無毒草を集めに森へ向かいました」
「無毒草だけじゃ解毒できなかったのに?」
「量が足りないのかもしれないと……責任を感じておるのでしょう」
「なるほど」
悪い人物じゃなさそうだ。でも昨日私が解毒させたからもう無毒草集めはしなくていいはず。その人物がどこにいるのか確認すると昨日は戻ってきていないらしい。
この村から一番近いのは私達が寄った森とは反対方向の、歩いて一日ほどの距離にある小さな森。
「おそらく無毒草を集めるまで戻ってこないと思います」
「戦う術がないなら危険じゃないの?」
「いてもたってもいられなかったのでしょう。追い詰められた様子でしたので」
放っておいてもいいんだけど、後味が悪くなるのはいただけない。ジーっとグレンを見上げると、ため息をつきながら頭をクシャクシャされた。
〈ハァ……仕方がない。我が探してやる。近くの森にいる人間を連れてくればいいんだろ?〉
「グレンありがとー!」
抱きついてお礼を言うと、さっさと捕まえてくると窓から飛んでいった。
村長と門番さんは、グレンが飛んだ姿にこれでもか!ってくらい目を見開いて驚いていた。
グレンが従魔ってことを説明していなかったけど、隠すことをしなかった私が悪い。王都ではすでに周知されているから今さらな気がして、本来の目的をすませることにした。
「グレンが迎えに行っている間に倉庫見せてもらってもいい?」
「はっ、はい! ご案内致します」
村長宅を出ると、村人に囲まれてしまった。村長、門番さん、ジルベルト君が盾になってくれたおかげでもみくちゃにならずにすんだ。ボディーガードに守られているお偉いさんみたいに守ってもらったけど、なんでこんなに感謝されているのかがわからない。
「よう! 昨日は助かったぜ!」
ほとんどの村人が集まる中をかき分けてきたのは一番最初にポーションを飲ませたお兄さんだった。
「みんなアンタに感謝してるんだ。村にあった薬草じゃ回復が追いつかなかった。薬草を取りに行くにも戦えないやつじゃ死にに行くようなもんだからな」
私達からしたら全然強くない魔物も村人からしたら脅威になるらしい。
「気まぐれでも助けてもらえてありがとうよ」
「わざわざお礼に?」
「こんだけ騒いでたら村にいたら嫌でも聞こえるからな。ちょっと待ってろ」
そう言うと集まった村人の注目を集め、家に戻るように言ってくれた。お兄さんの言葉を聞いて、口々にお礼を言いながら村人達は解散していった。
「あの! 握手してください!」
「へ?」
一人の少年が近付いてきて、顔を真っ赤にさせながら右手を差し出されて呆気にとられてしまった。
握手って……ポーション飲ませただけでこんな偉人扱いになるの?
首を傾げながらも握手してあげるとコチラが戸惑うくらい大喜びされた。
少年に握手してあげると、僕も私もとちびっ子を中心に列ができてしまった。
私はアイドルですかね? これは握手会ってやつでは?
握手会を終えるころには隠しきれない疲れに襲われていた。大人も合わせて20人ほどしか並んでなかったけど。
こんなのとは比にならないくらいの大規模な握手会を、笑顔でずっとこなす本物のアイドルはすごいと心から尊敬します! そして私にはアイドルは無理です!
「セナ様、大丈夫ですか?」
「うん……なんとか……」
「断っても良かったのでは?」
「一人に握手したのに自分はダメなのかってなるでしょ? それが原因でモメるのとかやめて欲しいじゃん?」
私の発言に瞳をキラキラさせながら「セナ様はやはりお優しい!」なんてジルベルト君が感動してたけど、そうじゃない。
自分が原因でイジメとかに発展したら後味悪いからっていう自分の都合なんだけど……
ただの自分可愛さだったのに否定しても謙遜と捉えられてしまった。洗脳は根深い。
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