177 / 537
8章
三時のおやつは
執務室に戻ると、早速ワクワクした様子で「何か面白いことはあったか?」とアーロンさんが聞いてきた。
(ん~……そんな面白いことはなかったと思うんだけど……)
かいつまんでキアーロ国の王都を出てからの話しをすると、そもそもなんでウツボ退治をするハメになったのかの話しになり、結局ブラン団長達との出会いから話すことになった。
「呪淵の森ですか……しかも記憶喪失なんておいたわしい…………あの……お怪我は大丈夫なのですか?」
「うん。記憶も戻ったし、もう大丈夫だよ」
リシクさんに今にも泣きそうな顔で聞かれてしまい、ニヘラっと笑って返すと揃って安堵の表情をされた。
「セナの故郷はどんなところなんだ?」
「ん~……どんな? どんなねぇ……」
王政じゃない民主主義とか言っても通じなさそうだしなぁ……この世界じゃ義務教育とかも微妙だろうし……
「うんとね、ご飯美味しいよ」
〈うむ。セナのご飯は美味い〉
「そういえばセナは料理も商業ギルドに登録していたな」
「うん。やっぱ調べてたんだね」
「あぁ。セナの役に立つ情報が何かわからなかったからな」
なるほど。私に情報を流すためだったのか。まぁ、それ以外の意図もあるかもしれないけど。
〈セナのおやつが食べたい〉
「おぉ! それはいいな! オレも食いたい!」
「いいけど、何がいいの? ラスク? ポテチ?」
〈それも好きだが……腹にたまるものがいい〉
お腹にたまるものって言うとパンケーキとかパウンドケーキとか? ご飯を食べた後だからそんなにガッツリ食べたくないな……
「あ! いいこと思いついた! 新しいの作ってあげるよ」
〈おぉ! それは楽しみだ!〉
「調理場を使われますか?」
「あっ、ここで作ったらまずい?」
「構わん」
レナードさんに聞き返すと、レナードさんが答える前にアーロンさんから許可が下りた。
材料を出していくとみんな興味津々に覗き込んでくる。
「えっと……こちらは?」
ん? と顔を上げると、レナードさんが指をさしていたのはダチョウの卵。
私が説明すると「これが怪鳥の卵ですか……」と少し困惑気味。
日本で本物のダチョウの卵を見たことがないけど、たぶんそれより大きいと思うから戸惑うもの無理はないと思う。
カンガルーでも子供が袋に入っていたらモッコリするのに、あの怪鳥の体の袋に入っていた卵はどうやって隠していたのか三十センチくらいある。
私一人だと割るのが大変なのでグレンに頼んで割ってもらうと、思っていたより中身が多くてボウルから溢れそうになってしまった。
「さすが大きいだけあるね……」
これは今回だけで使い切るのは難しいだろうから分割して使わないと……しばらくはお昼ご飯に卵料理かなぁ?
卵を使う食べ物は何があったかと頭を働かせながら、他の材料を混ぜてタネを作っていく。
「あとは焼くだけだよ」
「セナ様、たこ焼きでございますか?」
「ん? アハハ。違う、違う。たこ焼きプレート使うけど、ちゃんとおやつだよ」
まん丸の方が可愛いかと二つを合体させて丸くなるように焼いていく。
私がクルクルと返していくと「これは技術が必要そうだな」とアーロンさんが呟いていた。
「あ! レナードさん鼻大丈夫?」
「はい?」
「獣族は鼻敏感だよね? 気が回らなくてごめんなさい。キツかったら窓開けて」
執務室に甘い匂いが充満し始め、獣族には香りがキツイかと聞いてみると、今気が付きましたと言わんばかりにハッとして窓を開けていた。
二つ三つでは済まないグレンに、アーロンさん達の分も……となると結構量を作らなきゃならず、ジルに協力してもらって生地を作りつつ焼いていく。
私の頭の中では、昔日本で見たネコだかクマだかわからない人形が踊っていたCMの曲がひたすらリピート再生されている。
「お待たせ~」
〈待ってた!〉
大皿に乗せるとグレンが全部食べちゃいそうなので、全員分のお皿を用意してみんなに配った。
「私共もよろしいのですか?」
「あれ? いらなかった? みんな食べるかと思って全員分焼いちゃった」
「っ! ありがとうございます」
〈んまいっ!! セナ! これはなんだ?〉
レナードさんと話しをしているとグレンがお皿を凝視しながら聞いてきた。
「これはベビーカステラだよ。中身入れたら人形焼みたいになるけど」
〈はふっ。中身ってなんだ?〉
「そんな勢いよく食べなくても……あんこがないから、カスタードクリームで作ってあげるよ。おかわりするでしょ?」
〈うむ!〉
ベビーカステラをつまみつつカスタードクリーム入りを作っていると、アーノルドさんが空になったお皿と焼いている人形焼を交互に見ていて笑ってしまった。
焼けた先からみんなのお皿に乗せていくと、アーノルドさんはもちろん、レナードさんやドナルドさんまで嬉しそうな表情になった。
「美味いな。セナ達はいつもこんなに美味いものを食べているのか……」
〈ふふん。羨ましいだろ?〉
「あぁ、羨ましいな。食堂のクッキーに惹かれない理由がわかった。これはレシピ登録されているのか?」
「ううん。これはグレン達にも初めて作ったからレシピ登録してないよ」
「してくれないか? 毎日でも食いたい」
レシピ登録はいいんだけど、たこ焼き器はゲーノさんのお手製だからゲーノさんに作ってもらうか、似たようなものを作る許可をもらわないといけない。
ゲーノさんだと話しがすんなり通る気がしないので、タルゴーさんにも協力してもらいたい。
私が説明すると、アーロンさんはすぐに手紙をしたためた。私からの手紙とアーロンさんの手紙を持って、アーノルドさんが窓から商業ギルドに飛んでいった。
「セナはタルゴー商会が気に入っているのか?」
「気に入ってるっていうか、タルゴーさん本人と知り合いなんだよね。さっき途中で商人助けたって言ったでしょ? その商人がタルゴーさんだったの。それでお礼にホットプレートもらったんだよ。その伝手でホットプレートを作っている人にこのたこ焼き器を説明して作ってもらったの」
「なるほどな。元々タルゴー商会は幅広いが、セナのおかげで飛躍的に成長しそうだな」
ここ王都ではタルゴー商会は小さい部類入るものの、シュグタイルハン国の各街にあるんじゃないかと言われるくらい支店があるらしい。
タルゴーさんすごいな!
「ふむ。なぁ、セナ……」
「ん? なーに?」
「夕食も作ってくれないか? 材料は全てこちらが用意する」
真剣な様子で声をかけてくるから何かと思えば、夜ご飯かいっ!
「いいけど……グレンがいっぱいお肉食べるよ?」
「それくらい構わん。オレはセナの料理が食べたい」
うーん……何がいいかなぁ?
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
過保護すぎる家族に囲まれて育ったら、外の世界が危険すぎました 〜冷酷公爵の父と最強兄たちに溺愛される日々〜
由香
恋愛
過保護な父と兄たちに囲まれて育った少女。
初めての外は危険だらけ——のはずが、全部“秒で解決”。
溺愛×コメディ×ほんのり成長の、ほっこり家族物語。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。