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8章
国王推奨レシピ【1】
「それはワタクシ達も気になりますナ!」
「も、もも、もしかして……」
数日前に私が買い占めたことを思い出したのか、ガッチガチに緊張していたリシータさんが呟いた。
「リシータさんはわかると思うけど、あのときに買い占めたやつの一つだよ。タルゴーさんから新しいものを思い付いたらレシピ登録して欲しいって手紙に書いてあったんだよね。私が買い占めたからゾヌセアの街で買い取りを強化したらしいし」
「それはぜひ聞きたいな。登録したなら城での調理許可をもらおう」
「ここで作ってもいいけど、料理人さん達に説明しなきゃなんだよね?」
「はい」
リシータさんには敬語で話していた気がするけど、アーロンさん達と一緒に話すとタメ口になってしまった。リシータさん本人は気にしていなさそうなので、そのままにさせてもらおう。
昨日と同じく厨房に向かう途中で、レナードさんに他の人の感想も聞きたいと相談すると、兵士の人から数人見繕ってくれることになった。
厨房に着くと、料理人さん達は私を見て、握った右手で左胸をトントンと叩く仕草をする。
「これは国に伝わっている目上の方にする挨拶です」
首を傾げているとレナードさんが説明してくれた。
なるほど。敬礼みたいなものなのね。
「えっと……まず、昨日のすき焼きの説明からだね。ちょっと黒っぽい液体は割り下って言われているものなんだけど……見せた方が早いね」
キッチンの作業台に割り下の材料を並べて説明していくと、案の定ショユの実に驚かれた。
「ふざけるな! 我々をバカにしてんのか! これは食いもんじゃねぇ!」
料理人さんの一人が怒りながらにじり寄ってくる。
グレンとジルがサッと私を庇うように前に出てくれた。
〈セナがわざわざ説明してやってるのに、大人しく話を聞くこともできないのか?〉
「ふざけてんのはそっちだろーが!」
「黙れ。こちらがお願いしている側だ。分をわきまえろ」
アーロンさんがひと睨みすると、騒いでいた料理人さんは引き下がってくれた。納得していないらしく視線が突き刺さってくるけど、今はスルーさせてもらう。
「見た方が早いだろうから説明を続けるね。分量は……」
説明をしながら割り下を作っていく。
料理人さん達の様子を見ていると、つい先ほど怒鳴っていた料理人さんもメモを取っていた。私を睨む瞳の鋭さは変わらないのにそこは真面目らしい。
「昨日と同じ匂いだ……」
誰かが呟くとグレンがフンッと鼻を鳴らした。
「昨日のお肉が一番合うと思うけど、豚肉……オークのお肉でも鳥のお肉でも食べられるよ。ただ、卵は新鮮なものじゃないとおなか壊すかもしれないから気を付けてね」
「卵がないとダメなのか?」
「卵はお肉の熱冷ましと味の濃さの緩和とお肉の臭みを取るんだよ。鳥なんかは淡白だから味に深みを出す役割りもあったと思う」
疑問を呈してきたアーロンさんに説明すると「ちゃんと理論があるのだな」と納得してくれた。
「納得してくれたところで、付け合わせのスープの説明するね」
これもミソの実を出すと揃って驚かれたけど、ショユの実のときみたいに怒鳴られたりしなかった。
「すき焼きは別として、基本的にショユの実は炒め物で、ミソの実はスープに使うことをオススメするよ。その方が失敗しないと思う」
「炒め物だと?」
見なきゃ納得しないかと干し肉出汁のお味噌汁と簡単な野菜炒めを作って見せると、先ほど怒鳴っていた料理人さんがプルプルと震えだした。
再びサッとグレンとジルが私の前に出てくれたので、背中から顔を覗かせて様子を窺うと、俯いた料理人からポタポタと床に滴が落ちてギョッとしてしまった。
(え!? えぇ!? なんで泣いてらっしゃるの!?)
「さっき言っていた注意事項とはなんだ?」
「え、えっと……このショユの実とミソの実は木に実るけど、全部収穫すると実ができにくくなるらしいんだよね。だから乱獲に気をつけないと、手に入りにくくなるよっていう注意事項」
「なるほど。それは重大だな」
泣いている料理人さんを放置してアーロンさんの質問に答えた。
(これは放っておいた方がいいってことかな?)
「えっと、じゃあ私が元々登録する予定だった料理の説明に入りますね。今回は料理人さん達にも協力してもらいたいんですけど大丈夫ですか?」
「あぁ、やらせてもらおう」
涙を耐えてすごい顔になっている怒鳴っていた人が反応してくれたので、野菜のカットとひき肉作りをお願いした。
レナードさんが準備している間に兵士の人を呼びに行ってくれた。
「今回はこのカレー粉を使います」
「あぁぁぁぁ! そ、それを食べるのですか!? め、めめめめ目潰しですよ!?」
盛大に反応をしてくれたリシータさんに笑ってしまう。
「大丈夫。ちゃんと食べられるハズだから」
〈この匂いはタンドリーチキンを作るのか?〉
「ううん。アレは調整が難しいから今回はドライカレーだよ」
〈初めてのやつか! 我も食べられるのか?〉
「うん。そのために料理人さん達に手伝ってもらうんだよ」
トマト缶があれば普通のカレーの方でもいいんだけど、ホールトマトの説明が面倒なので今回はドライカレー。
フライパンがないので浅鍋で炒めたものを寸胴鍋に移してから、カレー粉やコクを出すためにウスターソースの粉を加えていく。
〈タンドリーチキンとは匂いが違うな〉
「なんだこの食欲をそそる匂いは……」
グレンやアーロンさんが何か言ってるけど、ちょっと真剣な私は反応できない。
この世界でのドライカレー作りは初めてなので、味を見ながら調整していく。レシピ登録があるからちゃんと記憶しておかないと……
「うん。大丈夫。できたよー!」
私がみんなに声をかけると、全員がギラギラとした捕食者のような瞳をしていてちょっと怖い。
レナードさんが呼んでくれた兵士の中には手紙を届けてくれた犬耳の人もいた。
もう既にお昼ご飯の時間を過ぎていたので、ドライカレーがお昼ご飯扱いになった。
お皿に盛り付けてみんなに渡してから食堂の席に移動する。
どうやって食べるのかと私の説明を求める視線を感じる中、ちぎったパンに付けて食べてと説明すると、早速みんなはパンに手を伸ばした。
「ピリッとくるスパイス加減が美味しいです」
〈んまい! これはご飯とも合いそうだな〉
「そうだねぇー。ご飯も美味しいけど、今は我慢して?」
カレーの匂いのせいか昨日よりも使用人や兵士さん達からの視線を感じてグレンにお願いすると、グレンもわかってくれたらしい。
ドライカレー自体は美味しいけど、ナンが食べたくなってしまった。
ドライカレーを使ってカレーパンもいいかもしれない。
「美味い! 美味すぎる!」
「陛下、美味しいのはわかりますが飛ばさないで下さい」
「むぐっ! もにひぃしゅ」
「アーノルド、口の中のものを飲み込んでから話してください。それにしてもあの粉がこんな料理に化けるなど思ってもいませんでした」
「…………」
「コレは素晴らしいですネー! とても美味しいデース!」
アーロンさん達は昨日よりも食べるスピードが早く、山盛りパンがすぐになくなって料理人の人に追加の指示を出していた。
リシータさんはひと口食べては何かをメモしている。
食べ終わった後、再び私達は厨房にお邪魔した。
「国を上げてこの料理を普及させたい」
「え」
「ダメか?」
「いや、構わないけど……」
困るとすれば私にカレー粉が回ってこなくなること。私もカレーが食べたい。
それを伝えると、リシータさん達タルゴー商会が私の分として一定量確保してくれることになった。
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