文字の大きさ
大
中
小
145 / 500
8章
かゆみとにおい
グティーさんの魂の叫びが執務室に響き渡った。
「「「「「…………」」」」」
「わかるか? わからないよな? 若いもんな……あのかゆさは集中力が途切れるんだ!」
若さは関係ないと思うけど、さすがに腕が痛くなってきたので無理やり離させた。
掴まれていたところは手形に赤くなり、ところどころ鬱血してしまっていた。
それを見たジルから不穏なオーラを察知して急いでヒールをかけて治した。
「ほら! もう大丈夫だから、ね?」
「セナ様はお優しすぎます! セナ様に怪我を負わせたのですよ?」
「まぁ、まぁ。可愛いクラオルとグレウスで癒されて?」
ジルの気を紛らわそうとジルの顔の目の前でクラオルの腕を上げ下げしてみると、ジルの眉間に寄っていたシワはなくなったけど、クラオルから“何やってんのよ”って視線を感じた。
「んと、グティーさんの気持ちはわかった。明日まで待ってくれる??」
「……わかった」
「ありがとう。リシータさん、ちょっとタルゴー商会に寄りたいので一緒に帰りましょう」
「はっ、はい!」
「じゃあまたねぇ~」
グティーさんの勢いに呑まれて茫然としていたアーロンさんとボンヘドさんを放置して執務室を出る。
我に返ったアーロンさんに引き留められないうちにタルゴー商会に行きたい。
急ぎめでリシータさんが乗ってきたという馬車に乗せてもらって「ふぅ」と息を吐いた。
「急がせちゃってすみません」
「いっ、いえ! な、何かご入用ですか?」
「タルゴー商会のわかる範囲で構わないので、一般的なブーツのサイズを調べて欲しいんです。女性、男性……キアーロ国よりもシュグタイルハン国の方が大柄な男性が多い気がするのでその辺も。あと、タルゴーさんへのお手紙を書きたいので」
「かっ、かしこまりました!」
お店に着くなりリシータさんはスタッフに指示を出し、私は執務室に案内してもらった。
タルゴーさんへの手紙を書きながら、ポラルにこっそりチェックしてもらったグティーさん達のブーツのサイズを違う紙にメモる。
「アーロンさんって足大きいんだね」
〔グティー、ボンヘド、フタリトモ、アシガクサカッタデス〕
「ぶっ! ちょっとポラル~、笑わせないでよ~! あ! 文字が!」
ポラルの衝撃発言で笑ってしまい、書いている途中で文字がグシャグシャになってしまった。
「そっかー、じゃあ消臭機能もあった方が良さそうだね」
「セ、セナ様! そんなこともできるのですか!?」
「実験しないとわからないからまだなんとも言えないんだけど……できる気はする。ただ量が作れるかは微妙なところかなぁ?」
今のところ消臭機能が期待できるのは炭しかない。コーヒーや消臭機能のあるハーブでもあればいいんだけど……乾燥させたハーブって消臭より芳香のイメージが強いんだよねー。私が知らないだけかもしれないけど。
紅茶のダシガラなら消臭するかな? いざとなったら炭窯作ってもらうしかないかな?
「よし! 書き終わった!」
「わ、わたくしも商会長に送るものがありますので、一緒に送っておきます」
「ありがとうございます! あと、この国のダンジョンで手に入るドロップ品の一覧表って作ってもらえたりする? 今まで使用用途がないものも全て記載して欲しいの」
「はっ、はい! もちろんです! 少々お時間かかってもよろしいでしょうか?」
「うん」
指示を出しに一度部屋を退出したリシータさんが戻ってくると、書類らしきものを持ってきた。
最初に頼んだブーツのサイズをまとめてくれたらしい。ただ、ここ王都だけの大ざっぱなもので、細かいことや周辺国との違いはもう少し待って欲しいとのことだった。
「とりあえずこれだけもらってってもいい? 他のは明日以降でも大丈夫だから、皆さんの負担にならない程度でお願いします」
「はい! 気遣っていただきありがとうございます!」
馬車を出してくれるという申し出を断って、ジルと手を繋いで街をプラプラしながら歩く。
寄ったお店のおじさんやおばさんに「仲良しの兄妹だねぇ~」とオマケをもらえてラッキー!
宿に着くと、グレンはまだ戻ってきていなかった。
ジルに断ってから私はコテージの作業部屋へ。
「なんかちょっと疲れたねぇ」
『主様休めてないもの。この国にここまで貢献しなくてもいいと思うわ』
「お城の料理に関してはあれだけど、カレーとこの中敷きは自分で撒いたタネだからねー。まさか晩餐会にカレーを出されることになるとは思ってなかったけど」
キアーロ国のときよりちゃんと教えた数日間で、思っていたよりも精神的に疲れてしまった。常に気を張って対人スイッチをオンにしていたからだと思う。
モヤモヤしたりもしないし、安全なのもわかってるんだけど、キアーロ国のブラン団長やサルースさん達とはちょっと違うんだよね……
「そう言えば、いつ街の食堂とか屋台で提供する人達に教えるんだろうね? 聞いてなかったや」
ポラル達に協力してもらって中敷きを作っている最中に、ふと疑問に思った。
まぁ、連絡してくるよね。
「明日はゆっくり休みたいなぁ~。癒されたい。あ! クラオルの実家にお邪魔してもいい??」
『もちろん! 主様が行ったらみんな喜ぶわ!』
「明日はお土産のパン作ろうか? パンって言えば精霊の子達に炭頼みたいからそっちの分も作らないとだ」
『主様、今さっき明日はゆっくり休みたいって言ってなかった?』
「言ったっけ?」
『言ってたでしょ! 誤魔化されないわよ! 明日はゆっくりしなきゃダメ!』
クラオルの意見にエルミスとプルトンも賛成してしまい、明日はお休みが決定してしまった。
「みんなに会うためならパン作りも苦にならないのに……」
『ダメったらダメよ!』
「はーい。よし、できた!」
グティーさんの足のサイズのと、王都でよく売れているサイズをいくつか作った。実際に試してもらって効果を確認してもらおう。
消臭は、また今度。もしかしたら炭以外で使えるものがあるかもしれないからね。
作っている間にグレンが戻ってきたので、宿に戻って明日はまったりすることを伝えると、グレンはまた明日出かけるらしい。
何をしているのかは聞いても〈楽しみにしていろ!〉と教えてもらえてないけど、楽しそうだから良かった。
冒険者ギルドのグティーさんとタルゴー商会のリシータさんへのお届け物を頼むと、〈それくらい構わん〉と請け負ってくれた。
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。