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8章
モフモフ天国の危機【4】
夜も更けた夜中、ふと何かを感じて目が覚めた。
〈起きたのか?〉
「うん。何かくるよ。ジル、起きて」
揺するとすぐに目を覚ましてくれたジルにも警戒するように伝えて、感覚を研ぎ澄ませる。
辺りの魔物の気配がしない。静かすぎるくらいの静けさに包まれていた。
「! 下だ!」
私が気が付いて叫んだ瞬間、私達のすぐ近くに大きな穴が開いた。
瞬時にジャンプで後退して、穴から出てきた魔物を見てみると、でっかいカブト虫と蟻を合体させたような虫が二匹だった。
目の前にいるのにまるで存在を感じない。動きを目で追わない限り攻撃されそうになってもわからないと思う。
「ホーンビートルでしょうか?」
〈似ているがあれは地上で生活していて、土の中から出てきたりしない。角も逆向き……我も見たことない。そこそこ手応えはありそうだから、おそらく変異種だな〉
グレンとジルの話を聞きながら警戒していると、虫は何かを探すように口先の管のようなものをピクピクと動かしていた。
「!」
『『キャー! あ?』』
「あっぶな……」
カブト虫が狙ったのはシュティーとカプリコ。二人に管をピュンと伸ばして突き刺そうとしたところに、すんでのところで二人に結界を張ってギリギリ攻撃を防げた。
カブト虫達は周りにいる私達をそっちのけで、二人を囲っている結界を管で攻撃している。
〈ほう……我らを無視するとはいい度胸だな〉
グレンがカブト虫に大剣で攻撃を仕掛けると、ガギン! と音が鳴っただけだった。
〈クッ……硬い!〉
「えぇ!? グレンの大剣でもダメなの!?」
グレンは二度三度と大剣を叩きつけるけど、弾かれてガギン! ガギン! と音だけが辺りに響き渡っている。
ネラースとアクランも、もう一匹の方に魔法を使って攻撃してくれているけど一切効いている気配がない。
攻撃を受けているカブト虫達はグレンの攻撃も気にせず、シュティー達を守っている結界を管でチュパチュパと吸っていた。
「うわぁ……キモ」
カブト虫の管の動きは蚊やハエの口の動きみたいで、悪寒が走る。
私達はシカトされているため攻撃を仕掛け放題だけど、グレンの大剣を弾く硬さにどう対処したもんかと考える。
基本的に虫なら関節かおなか側のやわらかいところが弱点だとは思うけど……なんで私達をスルーしてシュティー達しか狙わないのか……
「私が攻撃してみる!」
〈硬いぞ? 大丈夫か?〉
「うん」
私がイグ姐にもらった短剣は武器の中で最強の一本のハズ。これがダメなら他の武器では傷つけられないと思う。
短剣と刀を両手に構えて、足の関節めがけて切りつけた。刹那――切りつけていない足ともう一匹が攻撃を仕掛けてきた。
「おわっ! いった……!」
一匹の攻撃はポラルとクラオルが防いでくれた。
間一髪で避けられたものの、カブト虫の足の先が私の左腕に掠って腕を切られてしまった。
薄く身に纏わせるように結界を張っていたのに、まさか貫通するとは……
ポタポタと傷口から流れる血が地面を赤く染めていく。
〈セナ!〉
「セナ様! そこは!」
「来ちゃダメ!」
〈なぜだ!〉
「何でも!」
駆け寄ってきそうだった二人に声を張り上げて止めさせる。
グレンとジルを止めたのは、私から流れた血の臭いに反応したのか、足を一本切り落としたからかわからないけど、カブト虫達の意識が完全に私に向いたのがわかったから。
足は切り落とせたし、左手に持ってた刀のおかげで攻撃してきた足も無傷とは言えないけど、今の攻撃がマジに当たってたら致命傷になるところだった。
心配してくれているクラオルとグレウスにも「大丈夫だよ」と声をかけておく。
その間も、カブト虫は管をウネウネさせて様子を探っている。
ピュン! と管を伸ばしてきたのをジャンプで避ける。管の先は私の血溜まりがあった。
チュパチュパと私の血が染み込んだ地面に管を押し付けて啜っているカブト虫の様子を窺いながら、自分の腕にヒールをかける。
(もしかして見えてない? あの赤い点は目じゃないっぽい?)
〈ぬぁぁぁ! きぃさぁまぁぁぁぁ!〉
考えているとグレンから爆発的に怒気が膨れ上がった。それはダチョウにご飯を食べられたとき以上で、私でもビリビリと鳥肌が立つくらいの魔力。クラオルとグレウスが悲鳴を上げて私の首にしがみついた。
これはヤバい!
「グレン!」
怒りを鎮めてもらおうと、グレンに駆け寄って抱きつく。
「大丈夫だから! もう治したから!」
〈アレはセナに怪我をさせたんだぞ! 聞けば城でも同じ場所をケガさせられたんだろ!?〉
「お願い! 落ち着いて!」
〈落ち着けるか!〉
「滅しましょう……」
ジルも怒っていて目が座っているし、プルトンは今にも攻撃を仕掛けそう。
どうしよう!?
おそらく、グレンのこの魔力はクラオルファミリーのところまで届いている。せっかく仲良くなったのに怖がらせたくないし、怖がられたくない。
私は半ばパニック状態で、みるみるうちに目に涙が溜まっていく。
「おねがい」
〈セナ? 泣いているのか?〉
「セナ様……?」
「おねがい……ファミリー怖がっちゃう……」
〈わかった……わかったから泣くな〉
私の目からポロリと零れた涙を拭ったグレンの魔力が霧散した。
〈泣くな。セナに泣かれるとどうしていいかわからん〉
「セナ様……」
《しかし、アレはどうするのだ? 儂らも許せぬぞ。まさか見逃すとは言わんだろう?》
グレンに抱っこされて背中をポンポンされている私に、見守っていたエルミスが眉間にシワを寄せて問いかけてきた。
「ぐずっ。あれね、多分目が見えてないんだよ。だから匂いに反応するんだと思うの」
〈あの赤いのは目じゃないのか?〉
「違うっぽいんだよね。どこが鼻なのかもわからないんだけどさ。日中土の中にいるんじゃないかな?」
私の予想では見えていないか、ものすごく視力が弱いんじゃないかと思う。モグラみたいな。
「だから光を当ててみようかと思って」
《なるほど。主よ、ウェヌスを呼んでくれ》
「はーい」
まだ血を舐めているカブト虫の様子を窺いながら、指輪でウェヌスを呼ぶ。すぐに現れてくれたウェヌスに説明すると、もう治したのにヒールをかけてくれた。
ウェヌスは《ふふふ。セナ様に怪我を負わせたやつは生かしてはおけませんね》と笑顔で剣呑なオーラを放ち始め、瞳が赤く色付いた。
グレンに降ろしてもらって、ウェヌスと並んで構える。
「じゃあみんな目を閉じてね。さん、にー、いち!」
カウントダウンをしてウェヌスとタイミングを合わせて瞳に焼き付くフラッシュをイメージしながら光魔法を発光させると、足を切り落としても今まで一切鳴いていなかったのにギョエエエエと鳴き声が聴こえた。
目を開けるとプスプスと煙りを上げながら倒れたカブト虫が転がっていた。
「終わった??」
〈我が確認する。セナは動くな〉
「はーい」
グレンが確認すると倒せていたらしい。ホッと息を吐いてシュティー達の結界を解除した。
『お嬢様大丈夫!?』
『あたい達のせいでごめんなさい!』
「二人のせいじゃなくて、自分のせいだから気にしないで。ウェヌスも回復してくれたから大丈夫だよ」
《セナ様、こちらの方々は?》
駆け寄って心配してくれたシュティー達をウェヌスに紹介すると、《セナ様に誠心誠意仕えて下さいね》と笑顔で信者発言をしていた。
「シュティー達はキヒターの教会で暮らすから普段は一緒じゃないんだよ」
《そうなのですね。では私からも精霊達に伝えておきましょう。キヒターのところに遊びに行った子が驚いてしまうと思いますので》
「ありがとう」
私の気配察知には気配がないけど、念の為グレンは周りを探りに行ってくれ、私は他のみんなと一緒にひと息ついた。
戻ってきたグレンが他に魔物が見当たらないと教えてくれた。
まだ暗いため明るくなるまで休むことにして、私はネラースを枕にして横になった。
ウェヌスが頭を撫でてくれて、安心感からすぐに微睡みに沈んだ。
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