187 / 533
8章
モフモフ天国の危機【4】
しおりを挟む夜も更けた夜中、ふと何かを感じて目が覚めた。
〈起きたのか?〉
「うん。何かくるよ。ジル、起きて」
揺するとすぐに目を覚ましてくれたジルにも警戒するように伝えて、感覚を研ぎ澄ませる。
辺りの魔物の気配がしない。静かすぎるくらいの静けさに包まれていた。
「! 下だ!」
私が気が付いて叫んだ瞬間、私達のすぐ近くに大きな穴が開いた。
瞬時にジャンプで後退して、穴から出てきた魔物を見てみると、でっかいカブト虫と蟻を合体させたような虫が二匹だった。
目の前にいるのにまるで存在を感じない。動きを目で追わない限り攻撃されそうになってもわからないと思う。
「ホーンビートルでしょうか?」
〈似ているがあれは地上で生活していて、土の中から出てきたりしない。角も逆向き……我も見たことない。そこそこ手応えはありそうだから、おそらく変異種だな〉
グレンとジルの話を聞きながら警戒していると、虫は何かを探すように口先の管のようなものをピクピクと動かしていた。
「!」
『『キャー! あ?』』
「あっぶな……」
カブト虫が狙ったのはシュティーとカプリコ。二人に管をピュンと伸ばして突き刺そうとしたところに、すんでのところで二人に結界を張ってギリギリ攻撃を防げた。
カブト虫達は周りにいる私達をそっちのけで、二人を囲っている結界を管で攻撃している。
〈ほう……我らを無視するとはいい度胸だな〉
グレンがカブト虫に大剣で攻撃を仕掛けると、ガギン! と音が鳴っただけだった。
〈クッ……硬い!〉
「えぇ!? グレンの大剣でもダメなの!?」
グレンは二度三度と大剣を叩きつけるけど、弾かれてガギン! ガギン! と音だけが辺りに響き渡っている。
ネラースとアクランも、もう一匹の方に魔法を使って攻撃してくれているけど一切効いている気配がない。
攻撃を受けているカブト虫達はグレンの攻撃も気にせず、シュティー達を守っている結界を管でチュパチュパと吸っていた。
「うわぁ……キモ」
カブト虫の管の動きは蚊やハエの口の動きみたいで、悪寒が走る。
私達はシカトされているため攻撃を仕掛け放題だけど、グレンの大剣を弾く硬さにどう対処したもんかと考える。
基本的に虫なら関節かおなか側のやわらかいところが弱点だとは思うけど……なんで私達をスルーしてシュティー達しか狙わないのか……
「私が攻撃してみる!」
〈硬いぞ? 大丈夫か?〉
「うん」
私がイグ姐にもらった短剣は武器の中で最強の一本のハズ。これがダメなら他の武器では傷つけられないと思う。
短剣と刀を両手に構えて、足の関節めがけて切りつけた。刹那――切りつけていない足ともう一匹が攻撃を仕掛けてきた。
「おわっ! いった……!」
一匹の攻撃はポラルとクラオルが防いでくれた。
間一髪で避けられたものの、カブト虫の足の先が私の左腕に掠って腕を切られてしまった。
薄く身に纏わせるように結界を張っていたのに、まさか貫通するとは……
ポタポタと傷口から流れる血が地面を赤く染めていく。
〈セナ!〉
「セナ様! そこは!」
「来ちゃダメ!」
〈なぜだ!〉
「何でも!」
駆け寄ってきそうだった二人に声を張り上げて止めさせる。
グレンとジルを止めたのは、私から流れた血の臭いに反応したのか、足を一本切り落としたからかわからないけど、カブト虫達の意識が完全に私に向いたのがわかったから。
足は切り落とせたし、左手に持ってた刀のおかげで攻撃してきた足も無傷とは言えないけど、今の攻撃がマジに当たってたら致命傷になるところだった。
心配してくれているクラオルとグレウスにも「大丈夫だよ」と声をかけておく。
その間も、カブト虫は管をウネウネさせて様子を探っている。
ピュン! と管を伸ばしてきたのをジャンプで避ける。管の先は私の血溜まりがあった。
チュパチュパと私の血が染み込んだ地面に管を押し付けて啜っているカブト虫の様子を窺いながら、自分の腕にヒールをかける。
(もしかして見えてない? あの赤い点は目じゃないっぽい?)
〈ぬぁぁぁ! きぃさぁまぁぁぁぁ!〉
考えているとグレンから爆発的に怒気が膨れ上がった。それはダチョウにご飯を食べられたとき以上で、私でもビリビリと鳥肌が立つくらいの魔力。クラオルとグレウスが悲鳴を上げて私の首にしがみついた。
これはヤバい!
「グレン!」
怒りを鎮めてもらおうと、グレンに駆け寄って抱きつく。
「大丈夫だから! もう治したから!」
〈アレはセナに怪我をさせたんだぞ! 聞けば城でも同じ場所をケガさせられたんだろ!?〉
「お願い! 落ち着いて!」
〈落ち着けるか!〉
「滅しましょう……」
ジルも怒っていて目が座っているし、プルトンは今にも攻撃を仕掛けそう。
どうしよう!?
おそらく、グレンのこの魔力はクラオルファミリーのところまで届いている。せっかく仲良くなったのに怖がらせたくないし、怖がられたくない。
私は半ばパニック状態で、みるみるうちに目に涙が溜まっていく。
「おねがい」
〈セナ? 泣いているのか?〉
「セナ様……?」
「おねがい……ファミリー怖がっちゃう……」
〈わかった……わかったから泣くな〉
私の目からポロリと零れた涙を拭ったグレンの魔力が霧散した。
〈泣くな。セナに泣かれるとどうしていいかわからん〉
「セナ様……」
《しかし、アレはどうするのだ? 儂らも許せぬぞ。まさか見逃すとは言わんだろう?》
グレンに抱っこされて背中をポンポンされている私に、見守っていたエルミスが眉間にシワを寄せて問いかけてきた。
「ぐずっ。あれね、多分目が見えてないんだよ。だから匂いに反応するんだと思うの」
〈あの赤いのは目じゃないのか?〉
「違うっぽいんだよね。どこが鼻なのかもわからないんだけどさ。日中土の中にいるんじゃないかな?」
私の予想では見えていないか、ものすごく視力が弱いんじゃないかと思う。モグラみたいな。
「だから光を当ててみようかと思って」
《なるほど。主よ、ウェヌスを呼んでくれ》
「はーい」
まだ血を舐めているカブト虫の様子を窺いながら、指輪でウェヌスを呼ぶ。すぐに現れてくれたウェヌスに説明すると、もう治したのにヒールをかけてくれた。
ウェヌスは《ふふふ。セナ様に怪我を負わせたやつは生かしてはおけませんね》と笑顔で剣呑なオーラを放ち始め、瞳が赤く色付いた。
グレンに降ろしてもらって、ウェヌスと並んで構える。
「じゃあみんな目を閉じてね。さん、にー、いち!」
カウントダウンをしてウェヌスとタイミングを合わせて瞳に焼き付くフラッシュをイメージしながら光魔法を発光させると、足を切り落としても今まで一切鳴いていなかったのにギョエエエエと鳴き声が聴こえた。
目を開けるとプスプスと煙りを上げながら倒れたカブト虫が転がっていた。
「終わった??」
〈我が確認する。セナは動くな〉
「はーい」
グレンが確認すると倒せていたらしい。ホッと息を吐いてシュティー達の結界を解除した。
『お嬢様大丈夫!?』
『あたい達のせいでごめんなさい!』
「二人のせいじゃなくて、自分のせいだから気にしないで。ウェヌスも回復してくれたから大丈夫だよ」
《セナ様、こちらの方々は?》
駆け寄って心配してくれたシュティー達をウェヌスに紹介すると、《セナ様に誠心誠意仕えて下さいね》と笑顔で信者発言をしていた。
「シュティー達はキヒターの教会で暮らすから普段は一緒じゃないんだよ」
《そうなのですね。では私からも精霊達に伝えておきましょう。キヒターのところに遊びに行った子が驚いてしまうと思いますので》
「ありがとう」
私の気配察知には気配がないけど、念の為グレンは周りを探りに行ってくれ、私は他のみんなと一緒にひと息ついた。
戻ってきたグレンが他に魔物が見当たらないと教えてくれた。
まだ暗いため明るくなるまで休むことにして、私はネラースを枕にして横になった。
ウェヌスが頭を撫でてくれて、安心感からすぐに微睡みに沈んだ。
1,250
あなたにおすすめの小説
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
4/10コミック1巻発売!【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
2026/01/20追記
『魔王様、溺愛しすぎです!』のコミカライズ情報、解禁となりました!
TOブックス様から出版、1巻が4/10発売予定です。
キャラクターデザインに『蒼巳生姜(@syo_u_ron)』先生! 以前表紙絵をお願いした方です(*ノωノ)
漫画家は『大和アカ(@asanyama)』先生です° ✧ (*´ `*) ✧ °
連載については改めて発表させていただきますね_( _*´ ꒳ `*)_
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2026/01/20 1巻発売日(4/10)発表!
※2025/12/25 コミカライズ決定!
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。