文字の大きさ
大
中
小
152 / 500
8章
閑話:あの人達はどうなった――無口な男
コルトは焦燥にかられていた。
リーダーであるガルドが休みを設けるようになり、前よりも移動のスピードが格段に落ちたからだ。
各街での依頼は以前よりも多くなり、依頼にかける日数も増えていた。依頼にかかる日数が増えれば休息の日数も増える。
なるべく村で休みを取ってはいるが、街に行かなければ少女の情報は手に入らない。
少女の情報を得ようと街を訪れれば依頼が待ち構えている。
コルトはもどかしくてもどかしくて仕方がなかった。
◇
「なんでそんなにイライラしている?」
暇さえあれば触って存在を確かめるようになった少女の短剣をベッドの上で撫でていると、双子の片割れであるモルトに話しかけられた。
ガルドとジュードは買い物に出かけていて部屋にはいないからか、モルトは口調を崩していた。
「……このままだと会えるのはいつになるかわからない」
「焦っても仕方ないでしょう」
「……会いたくないの?」
「会いたいに決まってる」
「……急げられるのに急いでない」
「ガルドさんはみんなの体調を考えてるんだよ。疲れればケガするリスクが上がる。常識だろ?」
「……わかってる。わかってるけど……」
コルトも頭ではわかっていた。
依頼の量も増え、難易度も高いものが多い。休みがなければ確実に誰かはケガをしてしまう。休みと言っても最低限で余分な休みはないことを。
頭ではわかっていても、心が追いつかない。だから焦ってしまう。
「はぁ……そんなイライラするな。みんなあの子に会いたい気持ちは変わらない」
「……うん。早く会いたい」
「そうだな」
「ただいまー」
「戻った」
ガルドとジュードが宿に戻ってきて、話は流れてしまった。
イライラするのはお門違いなのもわかっているが、他の三人が普通に過ごしているのにもイライラしてしまう。
(なんでみんなは普通にしていられるのか……本当に会いたいの?)
みんなより自分の方が会いたいんだとコルトは思ってしまう。
実際は、普通にしていないと少女のことを考えてしまうから、ガルド達三人はあえて普通にしていた。それにコルトは気が付いていなかった。いや、気が付かないフリをしていた。少女のことを忘れてはいけない気がして……
◇
その後も依頼をこなし、やっと……山を越えたら自国を出て隣りのシュグタイルハン国に入るところまできた。
コルトは少女ともう何年も離れ離れになっている気持ちだった。
(長かった。やっとこれで一歩近付ける気がする)
コルトは久しぶりに気分が高揚していた。
「この村から先はシュグタイルハン国の村までは野営になる。準備は大丈夫か?」
「食材はバッチリだよー」
「ポーションも薬草も買ってあります」
ガルドが確認してジュードとモルトが答えた。
「コルト、コルトも大丈夫か?」
コルトはガルドに名指しで聞かれたので頷いた。
自国を出たら指名依頼も少しは落ち着くだろう。そしたら進むスピードが上がると考えていたコルトに、「気を抜くなよ」とガルドが声をかけた。
冒険者や商人にメインで使われているのは街から続く道。
ガルド達が歩いている道はあまり使われていない道だった。依頼で村に寄らなければならなかったからだ。
ただガルドは初め、街からの道を使おうとしていた。コルトが「旧道を使えば早い」と指摘したことで、この道を使うことになった。
道があるならあまり使われていないとは言っても、そこまで魔物は出ないと予想しての行動だった。
だが、実際山に入るとその予想は裏切られてしまった。
「クソッ! こうも魔物が出てくるとは!」
「もしかしたら、街道側から追い立てられてこっちに流れてきてるのかもー!」
予想外の魔物の多さに驚きながらも、ガルド達は魔物を倒していく。
◇
十日ほどかけて峠を越えたころには回復アイテムが心許なくなっていたため、途中で薬草も採取しつつ山を下る。
「あー! あれじゃない!? あの小さく見えるやつー!」
ジュードがテンション高く指さしたのは、シュグタイルハン国の村だった。
自国を出た事実に四人全員の気分も上がった。
◇
あと二日もあれば村に着けるというときに事件は起こった。
モントモンキーの群れに囲まれてしまったのだ。
「クソッ! ここへきてCランクの大群かよ!」
「殺るしかないですね」
Cランクとは言っても大群であれば難易度はグッと上がる。
四人は頷きあってモントモンキーと対峙した。
魔法と武器を駆使して戦い続ける。
「ぐあっ!」
「コルト!」
コルトは一瞬の隙を付かれてモントモンキーからの攻撃をモロにくらってしまった。
流れる血で意識が朦朧としてくる。
(ガルドさんが気を抜くなって言ってたのに……ごめん……みんな無事でいて……最後にあの子にひと目でも会いたかったな……)
コルトは責任を感じ、パーティメンバーの無事と少女のことを想って瞳を閉じた。
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。