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8章

バカとハサミは使いよう

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 朝早くにイペラーさんに許可をもらって、宿の井戸から水を大量に汲んでたるに移した。
 水が確保できたら最後の準備が完了。
 イペラーさんは昨日の夜指名依頼の話をしていたからか、お弁当を作ってくれていた。

 迎えの馬車に乗るとリシクさんから謝られてしまった。今お城では犯人探しの真っ只中で、街の武器屋にナイフについて聞き込みをすること決まったらしい。
 グレンが〈なくされそうだから証拠品のナイフは渡せない〉と言い張って、私がナイフの絵を描いた。

「ありがとうございます。助かります」
「いいよ、いいよ。ダンジョンの話聞いてもいい?」
「はい。もちろんです。今回案内させていただくダンジョンは街から馬車で三時間程にあります。洞窟型の三十階層から成立ち、中級のダンジョンに分類されております。こちらの紙に出現する魔物の種類を書きましたので、ご確認をお願いいたします」

 リシクさんから受け取った紙を見てみると、獣系・爬虫類系・虫系の魔物に混じってサンドスライムとクレイスライムが出てくることがわかった。
 中級というだけあってそこまで強い魔物は現れないらしい。

「この星印がついているのはなんですか?」
「それはまれに見られると言われている魔物になります。そして、黒い点が付いているものはその階層の中で一番素材が高いものになります」
「なるほど」

 この点はシミじゃなかったのね。インクが飛んじゃっただけかと思った。
 それにしても……アントって蟻でしょ? 蟻なのに高いのか……

「一番厄介なのがこのダートワームです」
「ワーム……」
「地面から現れるので不意を付かれることが多く、先日もCランク冒険者がケガを負ったと聞きました」
〈ソレは気配でわかる。われの敵ではないから安心しろ〉

 イモムシが苦手な私を安心させるように、グレンが頭を撫でてくれた。



 ダンジョンに着き、リシクさんに帰りのお迎えは不要だと伝えて別れた。
 リシクさんを見送ると、隠れていた暗部の人が二人現れて無言で会釈された。
 渡された手紙を読むと、今いる二人が交代で睡眠を取って警備してくれるんだそう。
 「お願いします」と挨拶したけど、頷かれただけだった。喋る気はないらしい。
 夜ご飯やお弁当を持ってるか聞くと黒パンと干し肉を渡されそうになった。もらいたいワケじゃなかったので、パンを麻袋に入れて「ご飯の足しにしてね」と渡してあげた。
 グレンが〈励めよ〉と声をかけると、パンを入れた麻袋を握りしめながらコクコクと頷いていた。



 ダンジョンに入って魔物を狩りながら進んで行く。目指すは十二階層。どの階層でもサンドスライムは出るらしいんだけど、そこが一番出現率が高いらしい。

 ネラース達を呼ぶと魔物を倒す時間が短縮され、サクサクと進む。
 道中、発見してくれた宝箱も回収した。

「宝箱、思ってたよりもあるねー。こんな早くから出るもんなんだね。中身は全部ポーションだったけど」
〈おそらく、過去一度も発見されていなかったんだろうな。それにしても早いな〉
「前みたいに魔物大量発生スタンピードとかじゃないよね?」
〈それはないと思う〉
「そっか。違うなら良かった。ただのラッキーってことだね」

 ネラース達が競い合うように魔物を倒してくれているため、私達は歩いているだけ。
 お昼ご飯はイペラーさんが用意してくれたお弁当と、作り置きしていたパンで簡単に済ませた。

 今回のダンジョン期間は三日間。その三日間でなるべくサンドスライムのドロップ品をゲットしたい。
 リシクさんが危険だと言っていたイモムシには遭遇しないまま進んで、ボス部屋まできた。
 十一階層のボス部屋では、ツキノワグマみたいな一メートルほどの熊が二匹だった。これはグレンがサクッと倒してくれて、ボス部屋滞在時間は五分もかからなかった。

 お目当ての十二階層に着くと、サンドスライムの出現率は本当に気持ち程度の誤差しかなかった。
 この階層にみんなに散らばってもらおうと思ってたんだけど、これなら十三階層も討伐対象にした方が良さそう。

 「さて、やりますかね。みんなには散らばってもらいます!」

 今まで使ったことのなかったリュック型とショルダー型のマジックバッグもみんなに着けさせてもらった。
 ジルは念の為クラオルと一緒に行動してもらう。
 みんなに討伐をお願いして、私は精霊達とグレウスと一緒に十一階層のボス部屋の続き部屋に戻った。
 ここはセーフティエリア。魔物が出ないから何をしてても大丈夫。

 精霊とグレウス以外にはドロップ品を集めてもらうけど、私は核から砂作り。また頼まれたら面倒だからね。
 これは偽装じゃないよ! 核はさっき十匹からゲットしてきたからちゃんとこのダンジョン産だよ! モノと頭は使いようでしょ!?

 グレウスに簡易かまどを作ってもらい、コンロもフル活用して鍋でサンドスライムの核を煮る。
 私の魔力を使わないために宿の井戸から汲んできた水を使った。
 私はダンジョンドロップ品に似せた小瓶を作るつもりだったんだけど、私の魔力で普通の小瓶より頑丈になっちゃうため、精霊達三人にダメだと言われてしまった。
 道具を作っているとき、無意識に魔力が流れているらしい……知らなかった……

 結局、砂を入れる小瓶は精霊の子達が超特急でドロップ品そっくりな物を作ってくれていて、ウェヌスが精霊の国から運んでくれている。
 ウェヌスが魔法で鍋をかき混ぜて、エルミスに水分を飛ばしてもらい、プルトンが砂を小瓶に入れていく。
 鍋のかき混ぜを代わろうかと思ったのに、ウェヌスが魔法でやってしまうため私は手持ち無沙汰。

「むぅ……私また役に立たないじゃん」
《ゆっくりなさるのはどうでしょう?》
「みんなが頑張ってくれてるのに……」
《精霊の子に渡すパンを作るのは?》
「そうする……」

 プルトンの案で私はパン作りをすることになった。



 コテージのオーブンも使ってパンを量産して、せっかくならと生クリームの絞り袋も作ってショートケーキや練乳飴なんかも作ること三日。
 これでもかと砂も量産して、ドロップ品もみんなのおかげで手に入った。

「もう充分でしょ!」
〈おぉ! 戻るか?〉

 グレンも飽きてきていたらしい。
 他のみんなも空が恋しいらしいので、まだお昼だけど戻ることにした。

「その前に、デザート食べようか?」
『甘いものがいいわ!』
〈セナのは何でも美味しいからな!〉

 ここ毎日スイーツは食べていたけど、飽きることはないみたい。
 最後だからと、作ったホールケーキを出すと「おぉー!」と声が上がった。

『主様、これはなーに?』
「これはケーキだよ。この状態だとホールケーキ、こうやって切ったのをショートケーキっていうんだよ。ちなみにこれは、シュティーの生クリームです!」

 私が満面の笑みで材料を言うと、みんなが固まってしまった。

「美味しいよ?」
『そ、そうよね。主様飲んでたものね……』
「い、いただきます」

 ジルが覚悟を決めたようにくちに入れるのを、みんなは固唾を飲んで見守っている。
 ジルが目を見開いて一口ひとくち二口ふたくちと食べ進めると、ようやくみんなはショートケーキに手を付けた。

『おっ、美味しーわ!』
《な、なにこれ!》
〈セナ! おかわり!〉
「だから美味しいって言ったのに。ジルももっと食べる?」
「はい。いただきたいです」

 ホールケーキを八つも焼いたハズなのに、みんながおかわりして全部なくなってしまった。
 大満足らしいみんなはおなかを撫でながらジルが淹れてくれた紅茶を飲んで休んでいる。ネラース達もお気に入り認定したらしく、満腹からかウトウトし始めていた。

『また食べたいわ』
「ん~、しばらくは無理かな? シュティーに搾乳してもらわないと、残ってないんだよ。むしろあの短時間でこのケーキ分の生クリームを出してくれたシュティーに感謝しないとね」
『そうなのね……残念だわ』
〈早く取りに行こう!〉
「ふふっ。とりあえずダンジョンから出ないと」

 おなかがいっぱいで重い腰を上げ、ボス部屋の続き部屋にある転移魔法陣を起動してダンジョンの入り口まで戻った。

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