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9章
消された記憶
「まず、ジ……トリスタン君が幼い頃、家の書庫からどこかに飛んだんだよね?」
「なぜそれを……」
「どうやって行って、どうやって戻ってきたの?」
「知らん」
「本当に?」
「本当だ……」
うーん……。嘘つくなって言ったし、本当に知らないのか……
「それなら質問を変えるよ。その場所に心当たりはあるんだよね? それはどこなの?」
「祖先の隠れ家だ。ワシすらも……ワシですらも行けなかったというのにっ! ワシが行けぬのに、使えんアレが祖先に選ばれたなど許せんっ! だから……」
「だから?」
「記憶を封印した」
なるほど。記憶をいじったんじゃないかと思ってはいたけど、僻みと妬みからか……
たぶんジルは先祖返りだから、何かが反応したんだろうな……っていうか、ジルって覚醒してないときも、お城の私の部屋に侵入しようとしてた諜報員を軽~く葬ってたし、充分強かったと思うんだけど……
祖先ってイグ姐が前に言ってた強いハイエルフかな?
「そんな簡単に記憶って消せるの?」
「消すのではない、封印だ。禁忌魔法だができなくはない。封印するために殺す寸前まで痛めつけたからか、魔法の代償からかアレの髪が黒くなったが」
老害に怒りをぶつけたかったけど、ウェヌスが握りしめていた私の手を取って止めた。
《お待ち下さい。セナ様のお手が汚れてしまいます》と言うウェヌスと『そうよ。神達にお仕置きしてもらいましょ』と言うクラオルも、怒りのオーラを纏っている。
「ふぅー。ヒュノス村って聞いたことある?」
「ない」
「創世の女神は?」
「創世の女神……世界を作ったと言われている神か」
「それだけ?」
「他に何がある?」
全然めぼしい情報が手に入らない! 私の質問の仕方が悪いのか……
「書庫から隠れ家にいけるって、言わば転移でしょ? やり方、もしくは起動のし方って伝わってないの?」
「わかっていたらとっくにやってる。アレに聞いたが、わからんとぬかしおった」
「やり方はわかるのに、自分は行けない……とかかと思った。トリスタン君に言って欲しい情報仕入れてきてもらえばよかったのに」
「全て終わり、倒れたアレを見て気が付いた。だが、一度封印したものを解く魔法はない」
(んん? じゃあ、何で今回夢に見たんだろ? パパ達が何かしたのか……それとも村の何かに反応したのか……自然に思い出すってこともありえなくはない……かな?)
「じゃあ……眠ったまま起きない病気については?」
「それはいろいろやり方がある。ひとつ目は……」
老害は〝眠ったまま起きなくさせる〟方法を語った。
体の機能を麻痺させる毒薬、強い睡眠薬、状態異常の魔法……中でもエグいと思ったのは植物のタネを埋め込み、体を侵蝕させるやり方だった。
(うぅ……気持ち悪っ……聞いてるだけで具合悪くなってきちゃう)
「もういいよ……そんなグロい話を聞きたかったんじゃない……」
「そうか。まだあるがな」
「起こす方法を知りたいんだよ」
老害は記憶を探しているのか、空を見つめた後、ポーションや薬草について話し始めた。
老害の薬草についての知識は、知らないことがないんじゃないかというくらい造詣が深かった。私が本で読んだ初級ポーションの作り方は、本当に初級だったらしい。
「まさか、お茶の葉の一番茶みたいに葉っぱの新芽のみを使うとか、作る物によって使用する葉っぱを選択するとかで効果が変わるとは……」
「より効果が期待できる。祖先はワシより詳しい。ワシの知識は祖先の書物によるものだ」
「マジか……奥が深いのね……」
薬草について語る老害は少し楽しそうだった。私がちょこちょこ質問していたせいで知識を披露できるのが嬉しかったのかもしれない。
(そういう知識を、人を陥れるために使うんじゃなくて、助けるために使えば良かったのに……)
「……貴様は祖先の隠れ家に行くつもりなのか?」
「そのつもりだよ」
「貴様なら行けるのかもしれんな……今、話していて思い出したことがある。祖先は隠れ家をいくつか持っていたと伝わっている。邸の書庫から全てに行けるのかはわからん。まぁ、もう既になくなっている場所もあるかもしれんがな」
「なるほど」
もし、書庫からいくつかの場所に通じていた場合……ジルが行った場所に飛べるとは限らないのか。でもこれは現場を調べなきゃわかんないんだよね。
「ありがと」
「なぜ礼を言う」
「ん? 答えてくれたじゃん。薬草のことも教えてくれたし、何かしてもらったらお礼を言うのは当たり前でしょ? それが例え、その首輪のせいでもね」
「そうか……当たり前か……なんの裏もない礼など言われたのはいつぶりだったか……」
遠い目をし始めた老害を見て、もしかしたら老害も被害者だったのかもしれないなと思った。
ジルを虐待していた事実は覆らないし、老害の過去を確かめる気もないけど。
話し終わった私が離れようとすると、呼び止められた。
「待て。アレが隠れ家に移動した書庫は四階だ。貴様が何を調べているかは知らんが、地下七階にある隠し書庫も調べてみるといい」
「わお! ありがと!」
今度こそ牢から離れると、待っていたブラン団長に抱っこされた。
ブラン団長達はさっさと離れようとしているのか、来たときよりも早足で塔の階段を登っていく。
「地下七階に書庫などなかったと思いますが……」
「さっき隠しって言ってたから、僕達じゃ見つけられてないのかも」
「……また調べる必要があるな」
「ん? 調べたときに老害に確認してないの?」
「……いや、した。確か、あのときは……〝貴様らが見つけられなかったのならそうなんだろう〟と、言ってたな……」
視点が合っていなかったから、目が見えないのかと思っていたと、ブラン団長は続けた。
「たぶんだけど……魔力に反応するとか、隠蔽されてるのかもだね。もしかしたら、老害が知らない隠し部屋もあるかも」
「……そんなことあるのか?」
「可能性としてはね。ジルは行動を制限されてたから、邸の全部はわからないって言ってたよ。それが代々受け継がれてたら、ありえると思う」
私の発言でブラン団長達は顔を見合わせ、どうするか相談し始めた。
結局、調べられるほどの人材がいないので、王族私有地として立ち入り禁止のままにするらしい。
そのうち暇になったら私が調べてもいいけど、今はグレンとガルドさん達の方が比べるまでもなく優先。いつ暇になるかはわからないし、ブラン団長も私に頼む気はないみたい。
塔から出ると既に日が暮れかけていた。時間が惜しい私は、お願いしてそのまま老害の邸に連れて行ってもらった。
老害の邸は前に一度、貴族エリアを回ったときに見ていたけど、他の貴族宅とは比べ物にならないくらい大きい。ブラン団長に聞いたところ、地上五階、地下十階から成り立っているらしい。
門を通るときに、一瞬だけ何かプヨンとした弾力を全身で感じた。おそらく結界だと思う。
ブラン団長達は何回も訪れているみたいで、慣れた手つきで鍵を開けてくれた。
目指すは、教えてもらった四階の書庫。ブラン団長達も覚えきれてないみたいで、見取り図を見ながら案内してくれた。って言っても、大変だからとフレディ副隊長が抱っこしてくれたので、私は楽ちんだ。
ブラン団長達を巻き込みたくはないので、書庫の前で待っていてもらうことにした。ものすごく渋られたけど、私ならどこか知らない場所に飛ばされたとしても、転移で戻ってこられるからね!
転移魔法陣が作動するかもしれないから、一週間は居なくなっても騒がないこと、あまりに遠くてすぐに戻れない場合は近くの街から連絡することを約束した。大陸外とかからならわからないけど、たぶんクラオルファミリーのところにはすぐ飛べると思うんだよね。そしたらすぐに戻って来られる。
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