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9章
奪われる覚悟
「うーん……どうしようか? 老害に聞きに行った方がいいかな?」
「……その方が確実だな」
ブラン団長が私を抱っこしようと一歩踏み出すと、再びカチッと音が鳴った。
「ん!? わっ!」
「「「!」」」
私達の足元にあった床がパカッと開いて、浮遊感に襲われた。
咄嗟にウェヌスが抱えてくれて私は難を逃れられた。
ブラン団長達は、フレディ副隊長が間一髪で縁を掴み、ブラン団長とパブロさんはフレディ副隊長の足にぶら下がっていた。
「うひぃー! マジびびった」
「……すまん」
私達が床がある場所に移動すると、落とし穴となった床が、何事もなかったかのように閉じた。
「もしかして、トラップがガチで作動するようになった感じ?」
《そうだと思います。先程より、壁の中からカチカチと何かの音が聞こえますので》
「マジか……」
ドコに何のトラップがあるかがわからないと、下手に動けない。
「これは転移して老害に解除方法聞かなきゃダメかも……」
《セナ様、コレは何か意味があるのでしょうか?》
「ん?」
ウェヌスに言われて壁を見上げると、一つだけ違う色の魔石があった。
ただ、私の身長だと届かない。
「……どうした?」
「あそこの魔石だけ色が違うの。持ち上げてもらってもいい? これがダメだったら、老害に解除方法聞きに行く」
「……わかった」
ブラン団長に私がお願いすると、パブロさんとフレディ副隊長がトラップに対抗するために武器を構えた。
床を鑑定して、みんなにトラップを避けてもらう。
パブロさんとフレディ副隊長に挟まれて緊張感が漂う中、私が魔石に魔力を流すと、ブォンと音が鳴って半透明のパネルが現れた。
パネルには古代文字の単語が並んでいる。統一性のない単語が九つあって、何が言いたいのか意図がわからない。
「何これ?」
「……セナ、なんて書いてある?」
ブラン団長は王族だから古代文字も勉強しているかと思ったけど、これは古代文字でも種類が微妙に違うらしい。
パネルを指さしながら書いてある文字を読むと、ブラン団長達は意味がわからないと顔を顰めた。
アナグラムかと思ったけど、一つ一つ文字が分かれてはいないので違うっぽい。
ジルに何か心当たりがあるか念話で確認すると、悩んだ後、昔読んだという本の一節を教えてくれた。
「あぁー、わかった。これスライドパズルだ」
「それは何でしょう?」
聞いてきたフレディ副隊長に「見てて」とパネルに書いてある単語を動かしていく。
「自然、愛、精霊、共に、生きる、世界、全て、神、感謝」
最後のパネルをカチリとスライドさせると、壁に淡く発光する魔法陣が浮かび上がった。
グルグルと動く魔法陣の光が収まるとそこには、ドアが出現した。
「おぉ! 成功したっぽいね!」
「……こんな大がかりな細工がしてあるとは……」
「とりあえず入りましょう。何があるかわかりませんので、警戒は解かないように」
パブロさんがドアを開けると、普通の書庫だった。ただ、部屋自体に明かりの魔道具はなく、トラップ部屋からの明かりでかすかに判別できる程度。
【ライト】を部屋の中に飛ばして見てみると、六畳くらいの大きさの部屋で、壁は一面本棚。本棚のせいで、真ん中のスペースは四畳くらいしかない。
パブロさんを先頭に中に入り、私は手近にあった本を手に取ってパラパラと捲ってみる。
古い本だったけど、現代の文字で書かれているものだった。
「あぁ……これヤバいやつだ」
「……ヤバいとは?」
「この本、禁忌魔法が書かれてる」
「「「は!?」」」
二冊目を手に取って確認すると、大昔の人体実験ノートだった。
「うへぇ……禁忌魔法だけじゃなくて、人体実験の記録もあるね……」
「……これは問題だぞ……」
書庫の中はトラップがないみたいなので、伝えるとブラン団長達も読める範囲で本をチェックし始めた。
老害が言っていた、記憶を封じる魔法が載った本も見つけたけど、やり方が違うっぽい。この内容だとわざわざ対象を痛めつけなくてもいい。古い記録だから、時代を経てやり方が変わったんだろうか?
読んでいた本から目線を外すと、奥の本棚の隅にある本が目に付いた。
引き寄せられるように本を手に取って開いてみると、昨日の隠れ家で読んだあの先祖の筆跡と同じだった。
魔法や薬草の研究について書かれていて、読んだだけで頭がよくなった気がしてくる。
最後、本を閉じようとして違和感に引っかかった。
斜めにしてみたり、ライトに透かしてみたりしても何もない。
ブラン団長達にも声をかけて魔力を流してみると、裏表紙の見返しに文字が浮かび上がった。
「汝、魔法に驕ることなかれ。生きとし生けるもの、全て神の僕なり。我が領域に足を踏み入れしとき、汝の時は奪われる。それでも望む覚悟はあるか? 覚悟ある者のみ光を通せ……」
「セナさん? 急にどうしたの?」
浮かび上がった文字を声に出して読むと、不思議そうにパブロさんに聞かれた。
「これ、読んだんだけど」
「読んだ? 何を?」
浮かび上がった文字を読んだことを説明すると、三人は困惑した表情になった。
みんなに見えてると思ったのに、どうやら私にしか見えていないらしい。
(時が奪われるってなんだろ? 光を通せってのも意味わかんない。さっきからずっとライトに当ててるのに何も変わらないし……)
「……セナ。時が奪われるとは死ぬということじゃないのか?」
「たぶん違うと思う。死ぬなら死ぬって書くと思うんだよね」
「……危険なことには変わりない。これ以上はダメだ」
「ヤダ! ブラン団長……ごめんなさい。私はグレン達を助けられる可能性があるなら、何でもしたいの。足掻くって決めたの」
ブラン団長は私の気持ちが伝わったのか、深く長い息を吐いてから「わかったから泣くな。そのかわり俺達も一緒だ」と頭を撫でた。
泣いたつもりはなかったんだけど、グレンとガルドさん達のことを考えて涙目になっていたらしい。
既にちょっと巻き込んでいるけど、なるべくならブラン団長達を危険な目に合わせたくない。
「光とはなんでしょうか?」
「このライトじゃなさそうだよね。太陽に当てなきゃいけないのかな?」
フレディ副隊長が私の頭を撫でながら話題を変えると、パブロさんが乗ってくれた。
「そういえば、ジルって光魔法受け継いでたっけ」
本人は驚いてたけど、あれ覚醒したせいだと思うんだよね。イグ姐が先祖返りって言ってたから、ハイエルフの祖先に似てるんじゃないかな?
「レッツ・チャレンジ!」
警戒しているブラン団長達に囲まれながら、私は手記に光魔法を注ぎ込んだ。
予想は当たっていたらしく、光魔法に反応して裏表紙に浮かび上がった文字が一つ一つ剥がれて空中を漂い始めた。
文字はポワポワと浮遊しながら、姿形を変え、だんだんと魔法陣を形成していく。
十五センチほどの魔法陣になると、本の上に浮いたままキラキラと瞬いた。
私が魔法陣に触れると、魔法陣のキラキラとした光が私にまとわりつき、チカチカと発光した刹那――空気が動いた。
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