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9章
お祝いとレリーフ
アーノルドさんを連れて戻ってきたグレンから〈肉が食いたい!〉とリクエストを受けて、私とジュードさんは準備に追われることになった。
ジュードさんにカピバラを渡すと、ジュードさんはハーブを詰め込んで丸焼きに。
私はジルに手伝ってもらいながらオーク肉のステーキを大量に焼き、野菜も食べて貰おうと豚しゃぶサラダも山盛りで作った。
質素な生活をしている村人は、こんな豪勢な料理は見たこともないと興味深々。
お祝いならと私が持っていたビールを樽で出すと、アーノルドさんが「よっしゃー!」とガッツポーズをして喜んでいた。
夜ご飯には少し早い時間、村長が音頭を取ってみんなで乾杯。
私は追加で料理を作ることを考えて、王都で買った果実水にしておいた。
お酒を片手にガルドさん達に話しかける者、私にお礼を言いにくる者、ご飯に夢中になる者。様々だけど、みんな一様に笑顔を浮かべている。
そんな中、村長がファミリーを伴って話しかけてきた。
「セナさん。本当にありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
村長ファミリーは私に頭を下げた。
「セナさんのおかげで村は救われました。亡くなってしまった村人は残念ですが、セナさんがいなければ村は滅んでいたでしょう。この通り、家族で過ごせるのはセナさんの魔法のポーションと尽力していただいたおかげです」
「ううん。無理言って滞在させてもらったようなもんだからね」
「セナさんは五歳とは思えないほど聡明ですね。娘もセナさんみたいに優しく、知力溢れる女性になって欲しいと思います」
「いやいやいや!」
私みたいになるなんて将来に不安しかないよ! もっと明るい未来を夢見なきゃ!
「私みたいにはならない方がいいよ。子供は子供らしい方がいい……い!?」
私が苦笑いしながら呟くと、腕を引かれ村長の奥さんに抱きしめられた。
「セナさんはこんなに幼いのにとても苦労をしたのですのね……」
「いや、えーっと……」
「ジルベルト君にお聞きしました。セナさんは一人で何でもできると……何でもできるということは、一人で何でもしなければいけなかったのでしょう?」
違うよ! 日本で生きていた三十年の記憶があるからだよ!
そんなことは言えないので「ジルの方がすごいよ」と誤魔化しておいた。
「そう……」
「ねぇ、セナちゃんはジルベルトさんと恋人なの?」
「へ?」
奥さんに抱きしめられたままでどうしようかと思っていると、村長の娘さんが話しかけてきた。
奥さんの腕の中から脱して、どういう意味かと聞いてみると、そのままの意味だと返ってきた。
「違うよ。家族みたいな感じ」
「そっかー。村に残ってくれないかなー?」
「それは……難しいかな?」
「どうしてセナちゃんが答えるのー? 恋人じゃないならいいじゃん。セナちゃんは旅に出ていいよ」
「こらっ! すみません!」
七歳の娘さんはジルのことが気に入ったらしい。イケメンで優しいもんね。気持ちはわかるよ。
村長が怒っているけど、娘さんはよくわかっていないみたい。まぁ、子供の正直な反応だと思う。お気に入りのジルは自分のために残って欲しくて、おじゃま虫の私はいらないということ。素直だからストレートな言い方になったんだろう。
精霊達とクラオル達から怒りのオーラを感じて、村長に「大丈夫だよ」と伝えてその場を離れた。
『何よ! あの子!』
「まぁまぁ。優しいイケメンが相手してくれたら好きになっちゃうこともあるよ。ほら、機嫌直して。あーん」
『あーん……って、んもう、主様ったら! 怒っていいのに!』
素直に食べた後プリプリと怒るクラオルが可愛くてニコニコしていると、ペシペシと抗議された。
だってさ、ジルが残りたいって言ったら引き留められるワケないじゃん。いつも私を優先してくれるジルは、私が言ったらきっと嫌でも私を優先しちゃう。我慢して一緒にいてもらうのは私が嫌だもん。大切な家族であるジルには幸せでいてもらいたい。
一応中身は三十路だからね! 最近は自分で自分の感情のコントロールが上手くできなくて、よく泣いてる気がするけど……みんなが甘やかすのがいけない! 元々コミュ障で人見知りの私には、みんなの心が暖かくて居心地がよすぎなんだよ!
なんて一人で考えていると、ジルに呼ばれた。
「セナ様! こちら、ジュードさんが作ったバガンタールの丸焼きです」
〈セナ! 我はオニギリが食べたい!〉
ジルとグレンが私の元へ来てくれると、ガルドさん達も「食ってるか?」と寄って来てくれた。
「食べてるよー」
「ん? グレンは何食ってんだ? そんなのあったか?」
〈オニギリはやらんぞ!〉
グレンに渡したオニギリにガルドさんが目を付けると、グレンは盗られると思ったのかバクンとひと口で口の中に入れた。
「ねぇー、オニギリって何ー?」
「これだよ。ジュードさん達もどーぞ」
オニギリを聞いてきたジュードさん達におかかのおにぎりを渡すと、不思議そうな顔をして食べた。
「うまーい!」
「美味しいですね」
「……美味しい」
「ん、これ俺が起きたときに食ったやつだな。これも美味い」
「何それ? オレっち食べてないよ?」
ガルドさんの言葉に反応したジュードさんに、みんながまだ眠っていたときだったと説明すると「ずるい」と言われてしまった。
「今度オレっちも食べてみたい! これ、初めて食べたけど何でできてるのー?」
〈んぐっ……シラコメだ! セナ、おかわり!〉
ジュードさんの疑問に自信満々にグレンが答えると、四人は口をポカーンと開けてフリーズした。
「まさか……シラコメってあのシラコメか?」
「うん。家畜のエサのシラコメだよ。私の故郷みたいな場所では、こうやって普通に食べてるけど。はい、グレン」
「あはははは! さすがだねぇー! まさか食べられると思ってなかったよー!」
ガルドさんはちょっと放心気味だけど、ジュードさんは笑いながら感心。モルトさんとコルトさんは特に気にした様子はなく、そのままモグモグと食べていた。
〈なんだ? 食べないなら我が食べてやろうか?〉
「食うよ! 食うから横から奪おうとするな! ってあぁー!!」
ガルドさんがおにぎりに伸びてきたグレンの手を避けると、ジュードさんが横からガブッとオニギリに噛みついた。
「んー! んまーい!」
「おい! ジュード! 俺の分がほとんどなくなったじゃねぇか!」
二人がじゃれ合う姿に笑ってしまう。
ガルドさん達にもおかわりのおにぎりを渡すと、ガルドさんは今度は奪われないようにパクパクと早々に食べ切った。
私達がワイワイと盛り上がっていると、前に跪いてお礼を伝えてきたおじいさんに呼ばれた。
「セナ様!」
「はーい」
「本日の午前にようやく完成いたしました!」
「へ? 何が?」
何も聞かされていない私はワケがわからない。グレンもジルもガルドさん達も何も知らないらしく、顔を見合わせている。
「こちらでございます!」
おじいさんが体全体で示すと、後ろから村の男性四人がかりで巨大な石をレリーフの隣りに設置した。それはレリーフと同じくらいの大きさで、何かの像のように見える。
「んー……ん!? まさか……これ、私!?」
「はい!」
満面の笑みの村人達に頭がこんがらがってくる。
像は肩にクラオルとグレウスを乗せ、右手にポーションの容器らしき物、左手にスープ皿のような物を持って笑っている……デカい私。
「え? いや、なんで私の像?」
困惑している私に、おじいさんは「村を救って下さった救世主です」と、とてもいい笑顔で答えてくれた。答えてくれたのはいいけど……ものすごく返答に困る!
私がどうしようかと考えていると「ぶふっ!」と吹き出す音が聞こえてきた。
音の方を見てみるとアーノルドさん。肩を震わせて笑いを耐えている。
「クククッ。いいんじゃねぇの? それだけお嬢ちゃんに感謝してるんだろ?」
「はい。もちろんです! こちらはこの辺でしか取れない鉱物で作りました。耐久性に優れていて、何百年も持たせることができるのです! セナ様のことは後世に伝えていきます」
何百年なんて聞いちゃった私は、顔が引きつるのを感じた。
「そんな……わざわざ伝えなくていいんだよ?」
「何を仰いますか! セナ様のポーションで痩せ衰えた孫娘が元に戻り、セナ様が尽力して下さったおかげで目を覚ましてくれたのです!」
「それは……そうかもしれないけど……」
返答に困っていると、アーノルドさんに笑いながら「諦めな」と言われてしまった。
確かに回復はさせたけど、チートなリンゴのおかげだし、まさか自分の像が作られるなんて思ってもいないじゃん?
村人達は「セナ様に乾杯だー!」と再び盛り上がり始めたけど、私のテンションは上がりそうもない。
テンションがガタ落ちした私を、クラオルとグレウスがスリスリと慰めてくれ、精霊三人は頭を撫でてくれていた。
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