文字の大きさ
大
中
小
194 / 500
9章
先人達は厨二病
◇
「謁見も終わったし、自由にしていいよね。ガルドさん達はどうするの?」
「それなんだが……元々、セナと森で別れなければ、街に着いたときに一緒に来るか聞こうと思っていた。だが今はセナもグレンとジルベルトがいるだろう?」
ガルドさんの発言で、隣りに座っているジルに緊張が走ったのがわかった。
手を握ってあげると小さく震えている。何か不安なのかもしれないと、念話で聞いてみたけど、言いにくいのか口ごもって教えてもらえなかった。
ガルドさん達にはまだパパ達のことも話していないし、コテージやキヒターの教会のことも知らない。一緒は嬉しいけどどうしようかと考えていると、グレンが口を開いた。
〈クランを組めばいい。昔と変わっていなければギルドで組める〉
「クラン?」
〈クランはパーティの集まりだ。普段は各パーティで行動できる。クランを組んでおけば、二つ以上のパーティで行動していても咎められる謂れはない〉
「んん? 二つ以上のパーティが一緒にいたら怒られるの?」
〈ガルド達はSランクだろ? 基本的に高ランクの冒険者を、国は囲い込もうとする。何かあったときの戦力になるからな〉
「あぁ……なるほど」
高ランク者がこぞって移動したら国は困るワケだ。でもクランを組んでたら文句は言わないと。私は高ランクじゃないけど、グレンがいるもんね……
それはいいかもしれない。常にベッタリだと、何か用があって転移で飛ぶときに困るし、パパ達から許可を得るまでコテージで作業もできない。でも一緒がいい、ワガママな私にピッタリじゃん!
「それができるなら俺達は構わないが……聞いたことないぞ?」
〈ふむ。そう簡単にギルドの仕組みは変わらないとは思うが……ダメだったらアーロンに言って許可させればいい〉
「そんなこと言えるかよ……」
〈我が言ってやる〉
グレンがガルドさんにニヤリと笑いかけると、ガルドさんは降参だと両手を上げた。
「じゃあ、早速行ってみよー!」
「セナっち元気になったねー」
「うん! みんなと一緒にいられる!」
私が満面の笑みでジュードさんに返すと、ガルドさんにガシガシと頭を撫でられた。
◇
冒険者ギルドに着くとすぐに会議室みたいな部屋に案内され、ガルドさん達は驚いていた。
「ここの待遇もすげぇな……」
〈いつもと変わらんが、今日は応接室じゃないな〉
「おそらく人数の都合じゃないでしょうか? 応接室だとソファが足りません」
〈そうか。ジルベルト、紅茶は? 冷たいのがいい〉
「かしこまりました」
グレンの変わらなさ加減にガルドさんは苦笑い。いつもだったらため息だけど、何か吹っ切れたみたい。
ジルはマジックバッグから作り置きしていたアイスティーをみんなに配っていく。
「冷たいのは初めて飲んだが美味いな」
「へぇー! 氷も紅茶なんだねー!」
「はい。この方が味が薄まらないと、セナ様が教えて下さいました」
「これもかよ……まったく、セナの頭ん中はどうなってんだ?」
ガルドさんとジュードさんにジルが言うと、ガルドさんに呆れられた。そんなガルドさんにジュードさんが「美味しいんだからいいじゃん」と肩を叩いていた。
グティーさんは息を切らせて会議室にやってきた。私のレシピの件で商業ギルドに行っていたらしい。
「急がせちゃってごめんね」
「構わない。どうかしたのか?」
〈クランを組みたい〉
グレンが言うと、グティーさんは「クラン?」と首を傾げた。
〈異なるパーティが手を組む仕組みがあっただろ〉
「…………あぁ! あるにはあるが、今は皆無と言っていいほどクランを組んでいるパーティはいないぞ?」
〈他のやつのことはどうでもいい。我の記憶では、ギルドマスターの許可が必要だったはずだ。許可しろ〉
「構わんが、署名が必要だったはずだ。待ってろ」
グレンの偉そうな態度を気にする様子もなく、グティーさんは席を立った。
戻ってきたグティーさんの両手には分厚い本といつものワープロ水晶玉が抱えられていた。
席に着くなり、その本を広げ「クラン……クラン……」と呟きながら指で本の文字を追っている。本はマニュアル本だったらしい。
「あった、あった。パーティリーダーの署名だけでいいらしい」
〈調べなきゃわからんのか……〉
「俺がギルマスになって初めてだぞ? 不備があったら困るだろうが。この紙に名前を書いてくれ」
グレンに答えたグティーさんから契約書みたいな紙を一枚受け取った。
「んん? パーティ名?」
「パーティ名というのは、ガルドさん達ですと【黒煙】です。パーティの通り名ですね」
私の疑問にジルが答えてくれた。
「ありがとう。でも私達そんなのないよ?」
「あぁ、そこは空白でもいいらしい」
「わかったー」
自分の名前を記入して、ガルドさんに渡す。
ガルドさんが署名を終えると、グティーさんがサインした。
「クラン名はどうするんだ? 過去には〝コッフア姫親衛隊〟とか〝女神の尻にしかれ隊〟とかあったらしいが……」
〈なんだそのふざけた名前は。他にまともなのはないのか?〉
「他は……〝常闇シンドローム〟〝漆黒の旅人〟〝迷宮大好き〟〝聖者の渾沌〟〝東の太陽〟……あとは〝KYO・PA・I〟……」
「却下だ。もういい」
グレンに言われて、グティーさんがマニュアル本に載っているクラン名を読み上げていくと、ガルドさんがすげなく拒んだ。
「セナ様? いかが致しました?」
「ぐふっ。だって……完っ全に、厨二病……ふふっ、ふふふ。闇属性多すぎ」
ジルは隣りでプルプルしている私を不思議に思ったみたい。
だって面白すぎでしょ! 長い詠唱の呪文でも厨二病っぽいって思ったけど、ここまでとは……
「気に、しないで。ふふふふふ……名前、どう、するの?」
「セナが主軸だからな。セナが好きな名を付けて構わん」
ガルドさんに丸投げされて、笑いが治まらないまま考える。
厨二病は嫌。絶対黒歴史になる! 私も類に漏れず、日本でやってたゲームのモンスターパーティ名に〝戦神ワルキューレ〟とか付けてたけどさ……あれはゲームだから許されたんだよ!
恥ずかしくない、仲間っぽいのがいいよねぇ……
「〝女神降臨〟などはいかがですか?」
「ぶっ! いや、ジル。私女神じゃないから」
突然ジルに言われて吹き出しちゃったけど、そのおかげか笑いが止まった。
私が断ると、ジルは「そうですか……」と肩を落とした。
いやいや、ジルさん。なんでそんなに残念そうなの? ジルまでキヒターみたいなこと言わないで。
「では〝慈愛の天使〟はどうでしょうか?」
「いやいやいや! まず、みんなが使う通り名だからね!?」
ご勘弁を! どんだけジルは私を神格化してるの! いや、信者なのはわかってるけどさ!
私が焦っていると「ジルベルトが普段セナをどう思ってるのかが丸わかりだな……」とガルドさんの声が聞こえた。
「もっと、こう……家族とか仲間っぽいのがいい……」
〈なら〝セナと仲間〟か?〉
「まんまじゃん……」
グレンの案は〝セナと愉快な仲間たち〟になりそうだから辞めていただきたい……まだファミリアの方がマシだよ。
「うーん……」
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。