文字の大きさ
大
中
小
195 / 502
9章
先人達は厨二病
◇
「謁見も終わったし、自由にしていいよね。ガルドさん達はどうするの?」
「それなんだが……元々、セナと森で別れなければ、街に着いたときに一緒に来るか聞こうと思っていた。だが今はセナもグレンとジルベルトがいるだろう?」
ガルドさんの発言で、隣りに座っているジルに緊張が走ったのがわかった。
手を握ってあげると小さく震えている。何か不安なのかもしれないと、念話で聞いてみたけど、言いにくいのか口ごもって教えてもらえなかった。
ガルドさん達にはまだパパ達のことも話していないし、コテージやキヒターの教会のことも知らない。一緒は嬉しいけどどうしようかと考えていると、グレンが口を開いた。
〈クランを組めばいい。昔と変わっていなければギルドで組める〉
「クラン?」
〈クランはパーティの集まりだ。普段は各パーティで行動できる。クランを組んでおけば、二つ以上のパーティで行動していても咎められる謂れはない〉
「んん? 二つ以上のパーティが一緒にいたら怒られるの?」
〈ガルド達はSランクだろ? 基本的に高ランクの冒険者を、国は囲い込もうとする。何かあったときの戦力になるからな〉
「あぁ……なるほど」
高ランク者がこぞって移動したら国は困るワケだ。でもクランを組んでたら文句は言わないと。私は高ランクじゃないけど、グレンがいるもんね……
それはいいかもしれない。常にベッタリだと、何か用があって転移で飛ぶときに困るし、パパ達から許可を得るまでコテージで作業もできない。でも一緒がいい、ワガママな私にピッタリじゃん!
「それができるなら俺達は構わないが……聞いたことないぞ?」
〈ふむ。そう簡単にギルドの仕組みは変わらないとは思うが……ダメだったらアーロンに言って許可させればいい〉
「そんなこと言えるかよ……」
〈我が言ってやる〉
グレンがガルドさんにニヤリと笑いかけると、ガルドさんは降参だと両手を上げた。
「じゃあ、早速行ってみよー!」
「セナっち元気になったねー」
「うん! みんなと一緒にいられる!」
私が満面の笑みでジュードさんに返すと、ガルドさんにガシガシと頭を撫でられた。
◇
冒険者ギルドに着くとすぐに会議室みたいな部屋に案内され、ガルドさん達は驚いていた。
「ここの待遇もすげぇな……」
〈いつもと変わらんが、今日は応接室じゃないな〉
「おそらく人数の都合じゃないでしょうか? 応接室だとソファが足りません」
〈そうか。ジルベルト、紅茶は? 冷たいのがいい〉
「かしこまりました」
グレンの変わらなさ加減にガルドさんは苦笑い。いつもだったらため息だけど、何か吹っ切れたみたい。
ジルはマジックバッグから作り置きしていたアイスティーをみんなに配っていく。
「冷たいのは初めて飲んだが美味いな」
「へぇー! 氷も紅茶なんだねー!」
「はい。この方が味が薄まらないと、セナ様が教えて下さいました」
「これもかよ……まったく、セナの頭ん中はどうなってんだ?」
ガルドさんとジュードさんにジルが言うと、ガルドさんに呆れられた。そんなガルドさんにジュードさんが「美味しいんだからいいじゃん」と肩を叩いていた。
グティーさんは息を切らせて会議室にやってきた。私のレシピの件で商業ギルドに行っていたらしい。
「急がせちゃってごめんね」
「構わない。どうかしたのか?」
〈クランを組みたい〉
グレンが言うと、グティーさんは「クラン?」と首を傾げた。
〈異なるパーティが手を組む仕組みがあっただろ〉
「…………あぁ! あるにはあるが、今は皆無と言っていいほどクランを組んでいるパーティはいないぞ?」
〈他のやつのことはどうでもいい。我の記憶では、ギルドマスターの許可が必要だったはずだ。許可しろ〉
「構わんが、署名が必要だったはずだ。待ってろ」
グレンの偉そうな態度を気にする様子もなく、グティーさんは席を立った。
戻ってきたグティーさんの両手には分厚い本といつものワープロ水晶玉が抱えられていた。
席に着くなり、その本を広げ「クラン……クラン……」と呟きながら指で本の文字を追っている。本はマニュアル本だったらしい。
「あった、あった。パーティリーダーの署名だけでいいらしい」
〈調べなきゃわからんのか……〉
「俺がギルマスになって初めてだぞ? 不備があったら困るだろうが。この紙に名前を書いてくれ」
グレンに答えたグティーさんから契約書みたいな紙を一枚受け取った。
「んん? パーティ名?」
「パーティ名というのは、ガルドさん達ですと【黒煙】です。パーティの通り名ですね」
私の疑問にジルが答えてくれた。
「ありがとう。でも私達そんなのないよ?」
「あぁ、そこは空白でもいいらしい」
「わかったー」
自分の名前を記入して、ガルドさんに渡す。
ガルドさんが署名を終えると、グティーさんがサインした。
「クラン名はどうするんだ? 過去には〝コッフア姫親衛隊〟とか〝女神の尻にしかれ隊〟とかあったらしいが……」
〈なんだそのふざけた名前は。他にまともなのはないのか?〉
「他は……〝常闇シンドローム〟〝漆黒の旅人〟〝迷宮大好き〟〝聖者の渾沌〟〝東の太陽〟……あとは〝KYO・PA・I〟……」
「却下だ。もういい」
グレンに言われて、グティーさんがマニュアル本に載っているクラン名を読み上げていくと、ガルドさんがすげなく拒んだ。
「セナ様? いかが致しました?」
「ぐふっ。だって……完っ全に、厨二病……ふふっ、ふふふ。闇属性多すぎ」
ジルは隣りでプルプルしている私を不思議に思ったみたい。
だって面白すぎでしょ! 長い詠唱の呪文でも厨二病っぽいって思ったけど、ここまでとは……
「気に、しないで。ふふふふふ……名前、どう、するの?」
「セナが主軸だからな。セナが好きな名を付けて構わん」
ガルドさんに丸投げされて、笑いが治まらないまま考える。
厨二病は嫌。絶対黒歴史になる! 私も類に漏れず、日本でやってたゲームのモンスターパーティ名に〝戦神ワルキューレ〟とか付けてたけどさ……あれはゲームだから許されたんだよ!
恥ずかしくない、仲間っぽいのがいいよねぇ……
「〝女神降臨〟などはいかがですか?」
「ぶっ! いや、ジル。私女神じゃないから」
突然ジルに言われて吹き出しちゃったけど、そのおかげか笑いが止まった。
私が断ると、ジルは「そうですか……」と肩を落とした。
いやいや、ジルさん。なんでそんなに残念そうなの? ジルまでキヒターみたいなこと言わないで。
「では〝慈愛の天使〟はどうでしょうか?」
「いやいやいや! まず、みんなが使う通り名だからね!?」
ご勘弁を! どんだけジルは私を神格化してるの! いや、信者なのはわかってるけどさ!
私が焦っていると「ジルベルトが普段セナをどう思ってるのかが丸わかりだな……」とガルドさんの声が聞こえた。
「もっと、こう……家族とか仲間っぽいのがいい……」
〈なら〝セナと仲間〟か?〉
「まんまじゃん……」
グレンの案は〝セナと愉快な仲間たち〟になりそうだから辞めていただきたい……まだファミリアの方がマシだよ。
「うーん……」
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。