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第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【3】
翌朝、ジュードさんはルフスの羽毛布団でよく眠れたらしく元気いっぱい。ガルドさんとコルトさんが羨ましがっていて、コルトさんはさりげなく……でもガッツリとルフスを撫でていた。
朝ご飯を食べて二十二階層へ降りると、森エリアに変わっていた。この階層は広場型。
広場型も迷路型もダンジョンの森は危険。私には鬼門だ。
また虫が降ってくるかもしれないと、厳重に何重にも結界を張るとガルドさん達に驚かれた。
「そんなに結界張れるのかよ……っつーか、今まで結界なんか張ってなかったよな?」
「ダンジョンの森は危険なんだよ!」
「は?」
《主よ。踏むのは嫌だろう? ほら》
エルミスが大人サイズになって手を広げてくれたので、遠慮なく飛びついて抱っこしてもらった。
《うふふ。セナちゃんはワーム系が苦手なのよ~。前にグレンに泣かされたの。それ以来、こういう森タイプは炎厳禁よ》
〈あれはわざとではない!〉
不思議そうにしているガルドさん達にプルトンが理由を話すと、グレンが反論した。
わかってるから大丈夫だよ。ただ、正直なところ炎系は使わないで欲しいけど……
エルミスに抱っこしてもらった状態で進んでいると、現れる魔物の系統がガラリと変わったことに気が付いた。
ハエ・蚊・蜂・セミ・カメムシ……と、飛ぶ虫だらけ。しかも全部大きくて一メートルは優に超えている。
ブンブンと羽音がそこかしこから聞こえて、カメムシの悪臭が鼻をつく。不思議なことにセミは鳴いていなかった。
中でもカメムシの臭いが大問題で、体育会系の掃除していない部室の汗臭さと土ぼこりの臭いを数十倍濃くした感じ。
ガルドさんが片手剣で切り倒してくれたんだけど、体液が剣にこびりついて悪臭を放った。
「だー! くっせー!!」
「ガルドさん臭いー!」
「俺じゃねぇー!」
ジュードさんが鼻をつまみながらガルドさんに言うと、ガルドさんが叫びながら否定した。
「武器は使わない方がいいですね。臭いがこびり付きそうです」
「……臭い。強烈」
「俺……ここ出たら買い替える」
モルトさんとコルトさんにも鼻をつままれながら言われてしまい、ガルドさんはガックリと肩を落とした。
その間にもわらわらと虫が飛んできて、私達は魔法で応戦。
戦えば戦うほどカメムシの臭いが濃くなり、頭痛はするし目に染みる。挙句に吐き気がハンパない。
私はエルミスの腕の中で風魔法と氷魔法を魔物に叩きつけ、少しでも臭いを軽減しようと合間に【クリーン】をかけまくる。
炎を禁止したのでグレンは威圧で敵の動きを鈍らせ、そこにジルが闇魔法を放っていた。
『ゔぅ……ねぇ、あ゛うじざま。じょうができない?』
クラオルがボロボロと涙を流し、私に訴えた。
グレウスは私にくっ付いたまま意識が朦朧としている。
「試そう! ウェヌスー! ルフスー! 手伝って!」
《はい!》
『何すればいいっち?』
すぐに寄って来てくれた二人に浄化の話しをして、タイミングを合わせて三人同時に【浄化】をかけた。
私の可愛いクラオルを激臭で泣かせた罪は重い!
怒りを込めながら、広場全体に行き渡るように魔力をぶちまけた。
「マジかよ……」
「あ! 臭くなくなったー!」
「すごいですね……」
「……すごい」
ガルドさん達の声が聞こえた。
ごっそりと魔力が抜け、フラついた私を抱っこしたままのエルミスが支えてくれた。
《主よ。魔力を込めすぎだ。敵が全滅したぞ》
「マジ? よかった……もう大丈夫だよ」
苦笑いのエルミスに言われ、後半はクラオルに向けて返すと『主様が大丈夫じゃないわ!』と、しがみつかれて泣かれてしまった。
クラオルの涙を止めたかったのに……
私を心配してくれてみんな近くに寄って来てくれた。
『主様に無理させたかったワケじゃないの……ごめんなさい……』
「クラオルのせいじゃないよ。私がちょっと魔力込めすぎただけ。それにマジックポーション飲めば大丈夫だから……そんなに泣かないで?」
『うぅ……無理はダメよぉぉ……』
泣き止まないクラオルを撫でながら、マジックポーションを飲んで魔力を回復。クラオルとグレウスは私の首にヒシッとくっ付いたまま離れない。
私はよく見ていなかったんだけど、ガルドさんいわく、浄化をした瞬間魔物が塵と化したらしい。魔物がいたと思われる場所には、ドロップ品が散乱していた。
この層のドロップ品は、【堅骨粉】という名の小ビンに入った白い粉と蜂蜜。蜂蜜は蜂が落としたんだと思う。
【堅骨粉】を鑑定すると〝骨が強くなる粉〟と書かれていた。
試しに舐めてみるとスキムミルクだった。
やっとまともないいものが出た! 料理にもお菓子にも使える!
「セナの浄化のおかげで剣を買い替えなくて済みそうだ。助かった……」
「ふふっ。それはよかった!」
ガルドさんが心底安心したように言うから笑っちゃったよ。
「嬉しそうだねー」
「うん! この白い粉料理に使えるんだよ!」
「ホント!?」
ジュードさんに話しかけられて笑顔で答えると、ジュードさんの瞳がキラキラと輝いた。
使うときは一緒に料理することを約束すると、「約束ねー!」と嬉しそうに言うジュードさんが可愛かった。
その後、魔物がリポップする前に下層に行きたい私達が階段を探していると……冒険者のドッグタグが落ちているのを発見した。
「これって……」
〈大昔に入った冒険者のだな。赤色だからここで死んだんだろ。骨がないのは、魔物に踏み荒らされて粉々になったんだろうな〉
『それ、あっちにもあったですン』
ニヴェスはそう言うと、走って拾ってきてくれた。それを見たアクラン達も散らばって集めてくれた総数は十二個。
あの臭気にやられて集中力を失ったのかもしれない。
「階段見つけましたよ……ってどうしました?」
「モルトさん……これ……」
「これは冒険者の……そうですか。回収してギルドへ持って行きましょう。ダンジョンにはこういうことが付き物です。自分達も気を付けて進みましょうね」
モルトさんは私を気遣いながら、頭を優しく撫でてくれた。
ダンジョンは過去二回入ってるけど、私が入ったのはド初級のスライムダンジョンと未発見のダンジョンだ。未発見の方は魔物大量発生だったけど……
実際本当にドッグタグが落ちているのを拾うことになるとは思っていなかった。
(こうならないように家族は何がなんでも守らねば!)
「次の階層も気を付けた方がよさそうですね。セナさん、先ほどみたいな無理はしちゃダメですよ?」
「はーい」
モルトさんは子供に言い聞かせるように私に優しく注意した。
階段前で待っていてくれたガルドさん達と合流して、下層へ降りた。
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