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第二部 10章
マースールー迷宮たる所以【14】
光が収まると、ただの壁だった場所に扉が現れていた。
グレンを見上げると、了承したとばかりに頷いて扉を開けてくれた。
扉の先は石碑のある部屋よりは少し小さく、部屋の真ん中に噴水があるだけ。
小猿は開いた扉から噴水の縁に登り、また私達を手招きした。
「ん? ん~?」
『どうしたの?』
「あぁ! 魔女おばあちゃんだ!」
噴水の上部が魔女おばあちゃんの形をしていて、私は思わず指さした。
『魔女おばあちゃんって、あの雑貨屋の?』
「そう! そういえばクラオル達に言ってなかったね。ヒュノス村のあの泉で魔女おばあちゃんと会ったんだよ」
『はぁ!? 聞いてないわ!』
〈我も知らん。どういうことだ?〉
《儂らも知らぬぞ》
あれ? これ責められるパターン?
でもガルドさん達がいるのにパパ達の話をしても大丈夫なんだろうか?
「えっとね……」
「ヒャーヒャッヒャ!」
私が言い淀むと部屋に魔女おばあちゃんの笑い声が響き渡った。
ガルドさん達はいきなり聞こえた笑い声に「なんだ!?」と警戒して、一度下ろしていた武器を再び構えた。
「おばあちゃーん」
私が呼ぶと、前回の泉のときと同じように黒い粒子が噴水の上に集まり、人型を形作っていく。
「ヒャーヒャッヒャ。困っておるようじゃの。あの子らも焦っておる……呼んでやろうかの」
おばあちゃんのシルエットがそう言うと、両手を広げた。その両手から黒い粒子が溢れ出し、私達は真っ黒なモヤに覆われてしまった。
徐々にモヤが薄れていくと、私達は宇宙空間のようなキラキラと光の粒が瞬く黒い空間に立っていた。
目の前には若い魔女おばあちゃん。
おばあちゃんが指をパチンと鳴らすと、おばあちゃんの横にパナーテル様以外のいつもの四人の神様が落ちてきた。
「いってぇ……セナ!?」
「うぅ……え!? セナさん!?」
腰をさすりながら顔を上げたアクエスパパと目が合うと、グレンの腕の中にいたハズなのに、いつの間にか立ち上がったアクエスパパの腕の中に移動していた。
グリグリと私の頭に頬擦りしながら「心配したんだぞ」と呟くアクエスパパに、エアリルパパが抱きついてきた。
ギュウギュウと抱きしめられ、息ができない。
「パパ……苦っしい……」
「あぁ! すみません! 大丈夫ですか?」
「ヒャーヒャッヒャ!」
エアリルパパが離れると、優しくて温かい魔力が私を包んだ。そのまま私はフワフワと浮かんでおばあちゃんの腕の中へ。おばあちゃんは私の頭を撫でながら笑っている。
「セナさんに会えたのはいいけど、いきなり呼び出したのはなぜですかね?」
「ヒャーヒャッヒャ。困っておったゆえのぅ」
ガイ兄はガルドさん達が一緒にいることに気が付き、納得したようにため息をついた。「呼ぶなら呼ぶでもう少し方法があるでしょう……」と呆れたように呟くガイ兄におばあちゃんはまた笑っている。
「なら、妾達の紹介じゃな? ガルド、ジュード、モルト、コルト! 呆けてないでシャッキリせい!」
「「「「!」」」」
イグ姐がガルドさん達の名前を呼ぶと、ポカーンと放心状態だったガルドさん達はピシッと直立不動に固まってしまった。
そんなガルドさん達をそのままにパパ達は自己紹介を始める。
「か、神……なら、あの声は……」
「それは僕です。僕達のセナさんを助けてくれたあなた方に感謝しています」
「もしかしてあの薬草とポーションは……」
「はい。あなた方に死なれてしまったらセナさんが気に病みますので」
エアリルパパがニッコリと微笑むと、質問したガルドさんはパクパクと口を開け閉めした後、「ありがとうございます」と頭を下げた。
「あのー。ちょっと聞いてもいいですかー? セナっちはなんで呪淵の森に?」
ジュードさんがおずおずと右手を上げて質問すると、アクエスパパとエアリルパパが揃って気まずそうに目を逸らした。
「それはね、二人して別々の場所に送ろうとして失敗したんだよ。そのせいでセナさんも記憶を失っちゃったんだ。ね?」
「「う……」」
ガイ兄が答えると、二人はガックリとしょげてしまった。
「ならセナは……」
「あぁ。セナさんは神ではないよ。優しいセナさんに私達が加護を与えているけどね」
「でもパパって……」
「セナさんはちょっといろいろあって実の両親とはもう会えないんだ。……真実は時に残酷だからね……私達はセナさんを気に入っていて家族みたいなものなんだよ」
私が日本で死んで、異世界であるこの世界に来たことは言わないらしい。
ガイ兄の誤魔化した説明を聞いて、ガルドさん達に可哀想な子を見るように見られたんだけど……なぜ?
「セナさんはまだまだ幼い。セナさんだけではどうしようもないことも出てくると思う。これからも今までと同じように私達のセナさんを護ってくれると嬉しいよ」
「それは……もちろん。そのつもり……です」
ガルドさんがガイ兄に頷いてみせると、ガイ兄は満足そうに頷いた。
『ねぇ、主様。有耶無耶にしないでちょうだい』
〈そうだぞ〉
《儂らも聞きたい》
「あぁ! 泉のときの説明だね! 一緒にいたポラルは知ってるんだけど……」
ガルドさん達はガイ兄とまだ話している。説明するなら今がチャンスだろう。
私は大ざっぱにしか話していなかったあの泉での出来事を説明していく。おばあちゃんが創世の女神であることに驚かれ、ドアノブを壊したところでグレンに笑われてしまった。
「――ってことがあったの。その後グレンがすぐ起きてくれたから、詳しく説明するの忘れてた。ごめんね?」
『まぁ、いいわ。でも、これからはキチンと話してくれなきゃ嫌よ?』
私が返事をするとクラオルはスリスリとしてくれた。
「ねぇ、おばあちゃん。このダンジョンってダンジョンじゃないの? 試練なの?」
ずっと私を抱っこして、頭を撫で続けてくれているおばあちゃんを見上げて聞いてみる。
するとおばあちゃんはこのダンジョンのことを説明してくれた。
――まず、初代国王であるシュグタイルハン・シュタインの希望を聞いて、神殿をダンジョンのように作り替えた。
おばあちゃんがダンジョンコアを精製し、魔物が自然発生するように。ドロップ品は国王が望んだ〝強くなれるモノ〟。トラップや魔物など一人では乗り越えられない試練。
それを乗り越えた者にはあの噴水で簡単なお願いを叶えてあげるようにした。
百年ほど経った頃……神殿を巻き込む形でダンジョンが自然発生。
おばあちゃんが精製したダンジョンコアと相まって中途半端に合体。神殿の影響をモロに受けたダンジョンは、他とは違う特殊なダンジョンに進化して、今の形になった。
ダンジョンの外にあったあのグーさんの家は、試練のことを伝え聞いた数百年後の国王が試しに入った後、危険だと簡単に一般人が入れないように建てた――
「なるほど……もしかして、ジルが前に言ってた願いを叶える泉って、あの噴水のこと?」
「ヒャーヒャッヒャ! そうかもしれんのぅ」
おばあちゃんの笑い声に私は脱力。
トレジャーハンターみたいで楽しそうだと思ったけど、あのえげつないトラップの数はネラース達がいなければ突破できる気がしない。そしてもう一回入りたいかと聞かれたら答えはノー。あのマッチョ軍団はおなかいっぱいだ。
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