文字の大きさ
大
中
小
219 / 502
第二部 10章
姉弟喧嘩
一時間以上に亘って繰り広げられた姉弟喧嘩は、アーロンさんが姉の大剣を弾き飛ばしたことで終わったかに思えた……
アーロンさんは片手剣を握ったまま、拳で自分の姉を思いっきり殴り飛ばす。
見事なボディブローをくらって数メートルほど吹き飛んだ姉は、アーロンさんを睨みつけた。
「ゴホッ! なにする!」
「姉上? そんなに学習したいのか? まさか、国を治めるのに力だけでなんとかなると思ってないよな?」
「むっ……」
「そうか、そうか……ならば姉上もまた一から勉強が必要だな」
「い、いや……それは……」
「挑んできたのは姉上だろ? 敗者は勝者の言うことを聞く。さすがの姉上も知ってるよな?」
「ぐっ……」
あまりに腹が立ちすぎたのか、仄暗い瞳になったアーロンさんが低い声で言うと、姉は押し黙った。
その後、強制的に三人に正座をさせ、二時間ほどアーロンさんのお説教が続いた。
母親共々彼らは肩を落としていたけど……それでも、懲りていないのか「オレのことが好きなくせに」と少年の呟きが聞こえてきて、私もイラッとしてくる。
「その勘違い、迷惑なんだけど。むしろ嫌いだわ」
〈当然だな〉
「なっ!」
私がジト目で告げると、グレンが嬉しそうに相槌を打った。
「隣りで笑ってるけど、あなたもだよ」
「え!」
「そんなに驚くこと? 私とあなた達、一昨日が初対面だよね? 仮にも王族でしょ? 人の気持ちも考えずに、自分に都合よく解釈するなんておかしいと思わないの? 国の代表だよ? あなた達の言動一つで戦争だって起こりえるんだよ? 街の住民からの税金で生活させてもらってるのに……そんなこともわからない王族なんて国民が不幸になるわ。戦うにしても戦略が大事。戦略も練れない大将なんて、戦いに不必要でしょ。謝罪もないし、マジで今後私達に関わらないで」
この子達に仕えてる人達が不憫になってくる。どれだけ振り回され、尻拭いをさせられているのか……
大体、恋愛感情は別として、私の周りには顔も性格もイケメンが多い。どんだけ自信があるんだよ……と思ってしまう。
私が真顔で説いたからかはわからないけど、彼らは口を真一文字に結んで、俯いた。
このお説教がキッカケになるとは思えないけど、もう少し王族としての危機管理や責任を持って欲しい。まぁ、持ったところで王位継承権はないんだけどさ。
アーロンさんには次代をちゃんと育ててから引退してもらいたい……
お説教が終わったアーロンさんは、母親の方にも誓約書を書かせていた。
少年少女もそうだけど、母親の方も魔法ペンでの署名。神に誓うことになり、約束を違えることは叶わない。もし誓約を破ったら罰が下る。それは破り具合にもよるけど、おそらくパパ達が嬉嬉として罰を与える気がする。
クラオルが『ガイア様が〝どうしてくれようか〟って言ってたわ』って教えてくれたし……アーロンさんも「これ以上セナに迷惑をかけたら、姉上共々書庫に閉じ込める」と脅していた。その脅しに三人は「ひっ!」と声を漏らし、一番効いていそうで私は苦笑い。
◇
執務室に戻った私達は再びアーロンさんに謝られた。
「すまん。これで少しはマシになるといいんだが……」
〈マシにならなかったら?〉
「誓約書があるからセナ達には会えないだろう。それでもセナに迷惑をかけるようなら、僻地に飛ばすか、処刑も視野に入れる。廃嫡したところで変わらなさそうだからな……少しはまともになることを願う……」
お疲れ気味のアーロンさんにジャムパンを出し、気苦労を労う。
いつもだったらジャムのレシピを……って話になりそうだけど、そんな話題が出ることはなかった。ただ、グレンと競うように十個ほど平らげていた。
◇ ◆ ◇
あの一件が終わり、私達はのんびりと王都に一週間ほど滞在。
現在進行形で貴族のことを調べてくれているドナルドさん達にお礼のパンと、片手でつまめるラスクも渡した。
アーロンさんは次の日にはいつも通りに復活。プロテインの小ビンを二百個と腹筋ローラーの魔道具を「とりあえず」と、買い取ってくれた。お城の財源が復活したら、他のも徐々に買い取るらしい。〝他の人に売るなよ〟と何度もしつこいくらいに念を押された。私達が使うのはいいけど、売るのはダメらしい。
件の親子は私に会おうとする度にトイレに駆け込むハメになり、滞在中は平和だった。
誓約書にサインをしたせいか、家庭教師の授業をサボれなくなった少年少女は普段は大人しく生活。その反動か、訓練時はストレスを発散するかのように暴れまわっているらしい。
ただ、考えてから行動するようになり、少しは成長しているみたい。アーロンさんは「無駄な注意をしなくて済む」と喜んでいた。
◇ ◆ ◇
「セナっちー!」
「はーい!」
ガルドさん達は準備万端らしく、ワクワクが隠せていないジュードさんに呼ばれた。
今日からまったり旅が始まる。
「しゅっぱーつ!」
テンション高く私が声をかけると、馬車を引いたニヴェスが走り出した。
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。