文字の大きさ
大
中
小
218 / 500
第二部 10章
姉弟喧嘩
一時間以上に亘って繰り広げられた姉弟喧嘩は、アーロンさんが姉の大剣を弾き飛ばしたことで終わったかに思えた……
アーロンさんは片手剣を握ったまま、拳で自分の姉を思いっきり殴り飛ばす。
見事なボディブローをくらって数メートルほど吹き飛んだ姉は、アーロンさんを睨みつけた。
「ゴホッ! なにする!」
「姉上? そんなに学習したいのか? まさか、国を治めるのに力だけでなんとかなると思ってないよな?」
「むっ……」
「そうか、そうか……ならば姉上もまた一から勉強が必要だな」
「い、いや……それは……」
「挑んできたのは姉上だろ? 敗者は勝者の言うことを聞く。さすがの姉上も知ってるよな?」
「ぐっ……」
あまりに腹が立ちすぎたのか、仄暗い瞳になったアーロンさんが低い声で言うと、姉は押し黙った。
その後、強制的に三人に正座をさせ、二時間ほどアーロンさんのお説教が続いた。
母親共々彼らは肩を落としていたけど……それでも、懲りていないのか「オレのことが好きなくせに」と少年の呟きが聞こえてきて、私もイラッとしてくる。
「その勘違い、迷惑なんだけど。むしろ嫌いだわ」
〈当然だな〉
「なっ!」
私がジト目で告げると、グレンが嬉しそうに相槌を打った。
「隣りで笑ってるけど、あなたもだよ」
「え!」
「そんなに驚くこと? 私とあなた達、一昨日が初対面だよね? 仮にも王族でしょ? 人の気持ちも考えずに、自分に都合よく解釈するなんておかしいと思わないの? 国の代表だよ? あなた達の言動一つで戦争だって起こりえるんだよ? 街の住民からの税金で生活させてもらってるのに……そんなこともわからない王族なんて国民が不幸になるわ。戦うにしても戦略が大事。戦略も練れない大将なんて、戦いに不必要でしょ。謝罪もないし、マジで今後私達に関わらないで」
この子達に仕えてる人達が不憫になってくる。どれだけ振り回され、尻拭いをさせられているのか……
大体、恋愛感情は別として、私の周りには顔も性格もイケメンが多い。どんだけ自信があるんだよ……と思ってしまう。
私が真顔で説いたからかはわからないけど、彼らは口を真一文字に結んで、俯いた。
このお説教がキッカケになるとは思えないけど、もう少し王族としての危機管理や責任を持って欲しい。まぁ、持ったところで王位継承権はないんだけどさ。
アーロンさんには次代をちゃんと育ててから引退してもらいたい……
お説教が終わったアーロンさんは、母親の方にも誓約書を書かせていた。
少年少女もそうだけど、母親の方も魔法ペンでの署名。神に誓うことになり、約束を違えることは叶わない。もし誓約を破ったら罰が下る。それは破り具合にもよるけど、おそらくパパ達が嬉嬉として罰を与える気がする。
クラオルが『ガイア様が〝どうしてくれようか〟って言ってたわ』って教えてくれたし……アーロンさんも「これ以上セナに迷惑をかけたら、姉上共々書庫に閉じ込める」と脅していた。その脅しに三人は「ひっ!」と声を漏らし、一番効いていそうで私は苦笑い。
◇
執務室に戻った私達は再びアーロンさんに謝られた。
「すまん。これで少しはマシになるといいんだが……」
〈マシにならなかったら?〉
「誓約書があるからセナ達には会えないだろう。それでもセナに迷惑をかけるようなら、僻地に飛ばすか、処刑も視野に入れる。廃嫡したところで変わらなさそうだからな……少しはまともになることを願う……」
お疲れ気味のアーロンさんにジャムパンを出し、気苦労を労う。
いつもだったらジャムのレシピを……って話になりそうだけど、そんな話題が出ることはなかった。ただ、グレンと競うように十個ほど平らげていた。
◇ ◆ ◇
あの一件が終わり、私達はのんびりと王都に一週間ほど滞在。
現在進行形で貴族のことを調べてくれているドナルドさん達にお礼のパンと、片手でつまめるラスクも渡した。
アーロンさんは次の日にはいつも通りに復活。プロテインの小ビンを二百個と腹筋ローラーの魔道具を「とりあえず」と、買い取ってくれた。お城の財源が復活したら、他のも徐々に買い取るらしい。〝他の人に売るなよ〟と何度もしつこいくらいに念を押された。私達が使うのはいいけど、売るのはダメらしい。
件の親子は私に会おうとする度にトイレに駆け込むハメになり、滞在中は平和だった。
誓約書にサインをしたせいか、家庭教師の授業をサボれなくなった少年少女は普段は大人しく生活。その反動か、訓練時はストレスを発散するかのように暴れまわっているらしい。
ただ、考えてから行動するようになり、少しは成長しているみたい。アーロンさんは「無駄な注意をしなくて済む」と喜んでいた。
◇ ◆ ◇
「セナっちー!」
「はーい!」
ガルドさん達は準備万端らしく、ワクワクが隠せていないジュードさんに呼ばれた。
今日からまったり旅が始まる。
「しゅっぱーつ!」
テンション高く私が声をかけると、馬車を引いたニヴェスが走り出した。
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。