文字の大きさ
大
中
小
227 / 500
11章
相談と国王権力
アーロンさんからの返事を待つ間に、匂い鉱石の使い道について話そうと、私はスモークチーズを出した。
「まず、私がなんでフィメィ村のことを聞きに来たのか、から説明しますね」
森で迷子のツィンク君達を助けたところから、村の様子、ツィンク君とその両親から聞いた話、匂い鉱石の採掘について、匂い鉱石の実験……と、順番に話していく。途中、プルトンとエルミスからの情報も混ぜておいた。
ところどころで、〝俺はその話、知らねぇぞ〟ってガルドさんからの視線を感じたけど、今はスルーさせてもらう。
ガルドさん、ごめんね! 後でちゃんと話すから!
「それで、できたのが……この、スモークチーズです」
「本当に食えるのか?」
「セナ様を疑うわけではないのですが、ちょっと信じがたいですね……」
クエバさんとシューネさんは二人共、チーズを見つめて悩んでいる。
そこへ、ギルド職員がバタバタとアーロンさんからの返事を持ってきた。
「ふふっ。さすがアーロンさん。話しが早い!」
読んだ手紙はグレン、ジル、ガルドさんと回してもらう。
クエバさんとシューネさんには私とは別に手紙が届いている。
「ですが、この街にはタルゴー商会はないのですね……」
「そうみたいだね。むしろ商会がないとは思ってなかったや」
アーロンさんからの手紙には、ここサフロムの街には商会がなく、個人店のみ。基本的に畜産と農業で生計を立てている住民が多い。新しいレシピはものすごーく魅力的だけど、販売者はよく吟味した方がいい。という内容が書かれていた。
手紙を読んだクエバさんとシューネさんは、「陛下が言うなら……」と放置されていたスモークチーズを食べた。感想は「エールが飲みたくなるな……」だった。右手をクイクイとしているのは、無意識のお酒を飲みたいアピールだと思う。
「これがあの匂い鉱石からできるなんて……」
「これがあったら、いくらでもエールが飲めちゃうね……」
「「ぜひ登録を!」」
示し合わせたかのようにハモった二人に笑ってしまう。
今回のレシピもカレー粉同様、作り方そのものがレシピ登録となった。私が許可を出した人物以外は販売不可。つまり、作り方そのものを秘匿できる人物じゃないとダメ。
「誰に許可を出しましょうか……」
「まずは場所じゃないか? これは売れると思うよ。他の街にも運ぶことを考えたら大量に作らなきゃだろ?」
「そうですね……」
シューネさんとクエバさんの相談が始まってしまった。
誰に許可をするかも重要だけど、先にあの村をなんとかしたい。
アーロンさんからの手紙では、この街の領主にも手紙を出したから、兵士と共に村の現状の原因を捕まえて欲しい。兵士への指示は一任するから好きに使え。と書かれていた。
領主も巻き込むなら、そちらにも説明が必要だ。
「領主に話さなくていいんですか?」
「ん? ああ。あの人は伺わなくても大丈夫なのさ。そろそろ来るんじゃないか?」
クエバさんがそう言うので、二人が相談し合っているのを見守る。
十分後、現れたのは〝一昔以上前のお袋〟だった。
ほっかむりのように頭に被った三角巾からキツいパーマがかかった前髪が覗いていて、ロングワンピースの上から割烹着を着ている。推定六十代前半だけど……タルゴーさんのような華やかさはなく、どっしりと構えているような雰囲気。キツめの眼差しと相まって、雰囲気は鬼嫁ならぬ鬼母。子供が悪いことをしたら容赦なくおしりペンペンとかしそう。
「来ると思ってたよ。領主の登場だね」
「アーロン陛下直々の手紙を受け取りました。奴隷のように扱われている住民がいるってどういうことですの?」
ドアの前で仁王立ちした領主は、開口一番にそう言った。見た目はキツそうだけど、さすが貴族たる所以か、口調は丁寧だった。
「この街じゃないよ。フィメィ村さ」
「フィメィ村……あの匂い鉱石の村ですわね……」
眉を寄せた領主にクエバさんが座るように促した。
座ってから私と目が合って、そこで初めて私達に気がついたらしい。
「まあ! お客様がいるところへ押しかけて失礼致しました。わたくし、この街の領主をしておりますルシールと申します」
私達も自己紹介をすると「まあ! あなたがセナ様ですのね! お会いできて嬉しいですわ!」と手を握られた。
さっきの威圧感のある雰囲気はなりを潜め、目元を和らげている。
変わり身が速い……
領主のルシールさんに村の様子を伝えると、ピクピクと眉と口元を引きつらせ、アーロンさんからの手紙をグシャリと握りつぶした。
相当怒ってるみたい。「あのクソジジイ……」と呟く声は低い。
領主とあの村長が知り合いなことに驚きだよ。
「元々、あの村は匂い鉱石で財を成しましたが、村長には歴代困らされておりました。一度、生活が苦しいのなら援助もできると、村長に村の現状を聞いたのです。しかし……『お前らは匂い鉱石をわかっていない!』と言うばかりで話しが通じませんでした。まさかそのように村人が奴隷のように扱われているなんて……確認を怠ったわたくしの失態です」
ルシールさんは悔しそうに唇を噛んだ。
その後、早い方がいいだろうと、今日中に村に戻ることになった。
ルシールさんや兵士さん達の準備の間、私達はお昼ご飯を済ませた。
◇
集合時間になり、門前に向かうと……この街にこんなに兵士がいたのかというほど集まっていた。おそらく六十人くらい。
さらにルシールさん、クエバさん、シューネさんも揃って向かうらしく、その三人にもお付きの人がいる。
冒険者ギルドに案内してくれた兵士さんを見つけて、声をかけた。
「ねぇ、お兄さん。兵士さん多くない?」
「陛下より、街の警備に必要最低限残し、その他は全員セナ様に協力するようにと」
「マジか……」
「はい! 陛下とセナ様のお役に立とうと、非番の兵も集合しています」
「わお……」
アーロンさんからの通達でやる気を漲らせている兵士さんに、規模を縮小してくれとは言えず……移動に時間がかかりそうだと思ったけど、魔馬車で休憩も最低限で向かうらしい。
陛下からの要請だと街の住民にも協力してもらい、街にいる魔馬を全て集めたとお兄さんは教えてくれた。
アーロンさんの権力を目の当たりにして、ガルドさんと私は苦笑い。
お馬さんを見に行き、この先のことを考えてヒールをかけてあげる。
「休憩少ないんだって。大変だけど、頑張ってくれる?」
私が話しかけると、お馬さんは鼻息荒く顔を擦りつけてきた。
魔馬達もやる気充分みたい。
クエバさんの号令で、総勢八十人ほどに膨れ上がった大所帯の一行は出発。
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。