275 / 537
11章
鬼ごっこ
翌日、領主関係者を回避しつつ、対岸へ渡る船の乗船券を買いに販売所へ訪れると、「出航は三日後だ」と言われてしまった。
毎日出てるのかと思ってたのに違ったらしい。
どうするか相談した結果、今日も釣りに行くことになった。
昨日とは違う場所にしようと、小型の船が係留されている埠頭の方へ向かう。
小型の船は漁師達の船らしく、ちょうど魚を船から降ろしているところだった。
ある物が気になった私は、忙しなく動いている男性達の邪魔にならないように見守り、一段落付いたタイミングを見計らって声をかける。
「おはようございます!」
「んあ? おはよう? 何か用か?」
「お兄さん、お兄さん。あの茶色い塊はなーに?」
私が指さしたのを見て、お兄さんは「あれは赤カワクサっつー草だよ」と教えてくれた。
茶色なのに赤なのか……
塊だと思っていたけど、よく見ると山のようにまとめてあっただけだった。
漁の網によく絡まり、邪魔なんだそう。他の網に絡まないように陸に上げて処分するらしい。
「食べられないの?」
「あれをか? …………ハハハハハハハ!!」
お兄さんは私の質問に虚をつかれたように一瞬固まってから爆笑。読んで字の如く、おなかを抱えて笑っている。
「嬢ちゃん面白ぇこと言うなー! ヌルヌルしてるだけの草だぞ? 味もしねぇし、食うやつなんかいねぇよ!」
「見てもいい?」
「ハハハ! いいぞ、いいぞ! なんなら持って帰って構わねぇ! そんかわり、いらなかったら処分場に持って行ってくれよ!」
お兄さんは笑いが治まらないまま、許可を出してくれた。
処分場の場所を尋ねると、今いる埠頭からほど近い場所。手押し車に積まれたカワクサを受け取ると、お兄さんは「荷車は後で持って来てくれ。腹壊しても知らねぇからなー」と一言添えて、船に戻って行った。
「食べられるの!?」
「まだ調べてないからわかんない。そうだったらいいなーって思って」
「ここでは邪魔になってしまいますので、先に移動しましょう」
ワクワクした様子のジュードさんと話していると、モルトさんに移動を促された。
ゴミだった場合のことを考えて、お兄さんに教えてもらった処分場へ。手押し車はジュードさんが運んでくれた。
処分場は広く、ゴミ集積場そのもの。山のようにカワクサが積まれているのに混じって、網やブイ……よくわからないものまで捨ててあった。ただ、なぜか臭くはない。
カワクサは太さ五センチ、長さは一メートルないくらいの茶色い葉っぱ。見た目は細長い笹の葉みたい。
みんなに見守られながら鑑定をしてみると……
「んあ! これは……」
『どうしたの?』
「これ、昆布になるんだって!! やったー! クラオル! 昆布だよ、昆布!」
『ちょっ! 落ちっ着きなさい!』
あまりの嬉しさにクラオルをガクガクと揺すって怒られた。
〈美味しいのか? 我の鑑定では〝河に生える草。ヌルヌルしていて味はない〟としか出てこないぞ〉
「毒じゃないけど、このままだと無味無臭って書いてあるよ」
「何かすると食べられるのー!?」
「高濃度の塩水で茹でた後、乾燥させると昆布になるって! 昆布はいい出汁が出るよ!」
期待の眼差しを向けてくるジュードさんに説明すると、ジュードさんはパァっと顔を綻ばせた。
この処分場にもいっぱいカワクサはあるけど、いつ捨てられたのかわからないものは触りたくない。
持ってきた手押し車のカワクサを回収して、お兄さんの元へ戻る。途中、また領主関係者と遭遇しそうになった。本格的に探されているっぽい。
先程のお兄さんに手押し車を返し、カワクサがもっと欲しいことを伝えると、「他の船にも言っておいてやるから、また明日来い」と了承してくれた。めっちゃ笑われたけどね!
予定していた釣りは領主関係者がウロチョロしているため断念。
ササッと買い物だけして宿に戻った。
宿からコテージに移動して、ジュードさんと昆布作り。
茹でると赤茶色に変化して、赤カワクサと呼ばれている理由がわかった。
グレンはそのままで食べられないことに肩を落としていたけど、昆布だしはそこそこ気に入ったみたい。
◇ ◆ ◇
次の日、約束していたカワクサを受け取りに埠頭へ。
「おっ! 来たな」
「じゃあ、この嬢ちゃんが?」
「そうそう! 物好きだろ?」
「ハハハハハハハ! ちげぇねぇな!」
お兄さんは漁師仲間に言っておいてくれたらしく、大量のカワクサを用意してくれていた。
お兄さんだけじゃなく、他の漁師にも笑われたけど、昆布が手に入るなら気にしない!
ただ、ガルドさん達が「お前ら、もっといいもん食わせてやれよ」って誤解されちゃって、申し訳ない……
今回、レシピ登録はしないでおくつもり。登録しちゃうと、昆布にする工程から、それを使った調理法まで教えなきゃいけなくなっちゃう。船のチケット買っちゃったし、変わらず領主に探されているから早めに街を出たい。
◇ ◆ ◇
船が出航する日、朝ご飯を食べているとプルトンが慌て始めた。領主宅にいた人物が、宿に近付いているらしい。
それを聞いた私達は急いで食べ終え、精算を済まして宿を出た。
プルトンの指示通りに街の中を迂回しながら移動して、船着き場へ着くとギルマスが待っていた。領主の追っ手が迫っていることを察知して、先回りしていたらしい。ギルマスの口利きで並んでいたお客さんより先に乗船。
「助かったな」
「だねぇ。プルトンもありがとう」
《気付いていないっぽいけど、まだ近いから安心はできないわ》
私達は次々に乗ってくる乗客に紛れ、気配を殺す。
船が出航するタイミングに合わせて甲板に出ると、あの偉そうな騎士の怒鳴り声が聞こえてきた。
グレンに持ち上げてもらって甲板から下を覗いてみると、騎士の周りには魚が散乱していた。どうやら、魚を運んでいた人とぶつかったみたい。騎士の近くでギルマスが満足そうに笑ってるから、ぶつかった人物はギルマスの差し金だと思われる。
「わーお。ギリギリだったっぽい?」
「あぁ。だが、もう船も動いているから大丈夫そうだな」
「ギルマスに感謝だね」
「そうだな」
ガルドさんもホッとした様子。
無事に船に乗れたことを実感した私達は笑顔で頷き合った。
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。
赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。
アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。
その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。
そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。
街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。
しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。
魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。
フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。
※ツギクルなどにも掲載しております。
過保護すぎる家族に囲まれて育ったら、外の世界が危険すぎました 〜冷酷公爵の父と最強兄たちに溺愛される日々〜
由香
恋愛
過保護な父と兄たちに囲まれて育った少女。
初めての外は危険だらけ——のはずが、全部“秒で解決”。
溺愛×コメディ×ほんのり成長の、ほっこり家族物語。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。