文字の大きさ
大
中
小
239 / 500
11章
子供好き村
二日ほど滞在した北パラサーの街を出発してから、道中の街や村にはあまり寄らず、私達は腐呪の森に一番近い村に着いた。
「あいや~! 立派な馬車だ!」
「こんな辺鄙な村によく来なすった。ゆっくりしてけ~」
「まぁ! 可愛い子! ちょっと待ってて! 昨日、山フラゴラ採れたのよ!」
村は久しぶりの旅人だと、私達を歓迎。
おばさんが山フラゴラ――木いちごを私とジルにプレゼントしてくれた。
この村はバロータ村。
腐呪の森は異臭がして、近付けない。さらに手前には沼地が広がり、運が悪いと埋もれて動けなくなってしまう。そのため、村人も近付かないし、村を訪れる人もいないそう。
村人は二、三ヶ月に一度、街に行くくらい。ほぼ自給自足の生活で、主に農業と狩りで生計を立てているらしい。
宿そのものがなかったんだけど、使われていない建物を超特急で修理までして、好きに使っていいと言ってもらえた。
「すごい歓迎だね」
「おかずまで分けてくれるなんて中々ないよねー」
「ね! みんな優しい!」
夜ご飯を食べ終わって、みんなでまったり。
修理してくれた家はベッドも布団もないけど、キッチンとトイレはある。隙間風も入ってこないし、何より誰かの家にお邪魔するより気を遣わなくて済む。
心温かい村人に感謝しながら、毛布にくるまってみんなで雑魚寝。
────────────────────
翌朝、私達がストレッチをしていると、昨日とは別のおばさんが野菜をおすそ分けしてくれた。
笑顔でお礼を伝えると、おばさんは「いいのよ、いいのよ~」と私とジルの頭を撫でまくってから去って行った。この村の住民は子供好きが多いみたい。
◇
とりあえず、足がとられると聞いた沼地を見に行くと、沼地というよりも泥地や泥炭地と言った方がしっくりくる〝ぬかるみ地帯〟だった。湿気でジメジメしているから湿地とも言えそう。
馬車はおろか、普通に履いているブーツでは入りたくない。
これは……井戸掃除のときみたいな完全防備が必要だ。
私達が村へ戻ると、すぐに村長に話しかけられた。
私達がもう出発したのかと心配してくれていたらしい。
「あの魔物の話をしていなかったので、皆で誰が知らせに走るか相談しておりました」
「魔物?」
「はい。あの沼地に地面の中から急に現れる魔物がいるのです。その名もマーシュセンチピード」
〈あれは小さい。そんな危険はないだろう?〉
確か図鑑だと十五センチくらいのムカデだったと思うんだけど……
私達の疑問に村長はブンブンと頭を振って否定した。
「とんでもない! 三メートルはありますよ!」
「マジか……」
「あの魔物に遭遇したら最後、泥に引きずり込まれ、食べられてしまうのです」
「うげぇ……」
三メートルもある巨大なムカデなんて遭遇したくない……気持ち悪すぎる。
っていうかそれ、突然変異か別の種類な気がするんだけど……多分、鑑定できないからわからない感じかな?
村長にお礼を伝え、私達は家に戻った。
腐呪の森へは沼地を通るしかない。迂回するとかなりの遠回りになっちゃう。
私は数日かけてガルドさん達用の防水ズボンを製作。
その間、沼地を歩くのに埋もれにくいという〝かんじき〟みたいなものを村人が教えてくれた。日本の昔の映像とかで見る、雪国の人が靴の下に装着する輪っかみたいなやつね!
ぬかるみ用だからか、輪っかじゃなくてお皿みたいなやつだったけど……おばさん達が作り方を教えてくれて、それも全員分作った。
それにはクラオルの蔓が大活躍で、おばさん達からクラオルが大絶賛されていた。
一週間以上滞在させてもらって旅立つ前日、私はお世話になった村の井戸を【浄化玉】を使って掃除。
ガルドさん達はおじさん達と狩りに行き、大きな鹿を仕留めてきていた。
◇
翌朝、私達の家の前には既に村人が勢揃いしていて、お土産をいっぱいくれた。
「寂しくなるわ~」
「またいつでもいらっしゃいな!」
「あの魔物が出たら、これ、投げつけろよ!」
村のおじさんが最後に渡してきたのは、まさかのカレー粉だった。
そういえば目潰しで使われてたんだっけ……
優しい村人に別れを告げて、私達は出発!
途中までの道のりは馬車。ぬかるみ地帯直前で防水ズボンに着替え、村人に教えてもらった〝かんじき〟を装着。
「おぉ~。本当に沈まないね!」
「教えてもらえて正解でしたね」
「ね! みんな優しかった!」
〝かんじき〟のおかげで、泥の上でも想像以上に歩きやすい。
先人の知恵って素晴らしい!
「サクサク進もー!」
期待に胸を膨らませて、ひたすら歩く。
一時間、二時間と歩き続けているのに、一向に森が近付いている気がしない!
湿気が霧のように辺りを霞ませ、数メートル先は見えない。そのため、風魔法でなんとか十メートルほど視界を確保。
しかもこんな場所でも魔物はいる。
村人から聞いていた三メートルのムカデは出てきていないけど、二十センチほどのハゼみたいな魚とカエルがちょいちょい現れるせいで歩みが遅い。
「さすがに疲れてきたが……休憩できる場所がないな……」
〝かんじき〟を着けているとはいえ、立ち止まると足が少しずつ沈んでいく。体が全て埋まることは稀だろうけど、泥に嵌ったら抜け出すのが一苦労。
それを考えると、立ち止まれない。
〈我が運ぶか?〉
「グレンがドラゴンになったら、離れててもわかっちゃうよ。『ドラゴンが現れたー!』って騒ぎになりそう。羽だけなら大丈夫かもしれないけど……」
《セナちゃーん! こっちに地面が固いところがあるわよー!》
グレンと話している途中でプルトンが私を呼んだ。休憩できる場所を探していてくれていたらしい。
プルトンに教えてもらった場所に着き、私達はビニールシートに腰を下ろした。
念の為に作っておいてよかった!
「このジメジメした空気が気持ち悪いですね。余計に体力を消費する気がします……」
「……ベタベタする」
モルトさんとコルトさんは湿気にやられてお疲れモード。ガルドさんとジュードさんもあまり顔色がよくない。
とっくにお昼の時間は回っているけど、みんなは食欲がないみたい。
そんなみんなにサラダうどんを作り、果実水を渡す。
「あぁ……生き返るな……」
「ですね。さっぱりしていて、ペロリと食べられました」
ガルドさんが縁側のおじいちゃんのように果実水を飲みながら呟くと、モルトさんが相槌をうった。
少しは復活できたみたい。
「セナっちー、さっきから何やってるのー?」
みんなが休憩している間に思い付いた物を作っていると、ジュードさんが不思議そうに聞いてきた。
私が作ってるのはサンドスライムの砂と、同じくサンドスライムの核を使ったネックレス。
「この砂撒いたら、歩くの楽にならないかな? って思って。ネックレスは除湿用だよ。できた! ポラルありがとう!」
お礼を言うと、ポラルはスチャッと手を挙げていつものポジションへ。
みんなに声をかけて、核のネックレスを着けてもらう。
核に穴を空けてポラルの糸を通しただけの不格好なネックレスだけど、ないよりはマシだと思う。
【スライム砂】を作り終わったら出発!
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。