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11章
腐呪の森【2】
翌朝、眠そうなコルトさんと一緒にご飯を食べ、コテージの前でストレッチ。
終わった後、クラオル達には影に入ってもらう。グレウスはギュッと抱きついて、可愛い惜しみ方だったのに……クラオルは『いい!? 無理はダメよ! ちゃんとグレンとジルベルトを使いなさい!』と私に言い聞かせてから入っていった。
〝使う〟発言をされた二人は気にしないどころか「うん、うん」と頷いていて、私の信用のなさが窺える。
(むしろ、いつも助けてもらってばっかりな気がするんだけど……)
気合いを入れてマスクとゴーグルを装着して空間魔法のドアを開けると……昨日採取したハズの湯の花が全て復活していた。
「わお! 夕方から朝までに全部復活するなんて……」
〈また採取するのか?〉
グレンは硫黄の匂いが嫌らしく、げんなりと聞いてきた。
「昨日いっぱい採取したからいらないよ」
〈そうか! ならさっさと離れよう!〉
採取しないと告げると、グレンは嬉しそうに急かしてくる。
ジルとコルトさんと笑いながら、先を歩き出したグレンに続く。
◇
しばらく歩いていると、トビウオのように羽を生やした魚がフヨフヨと飛んでいるところに出くわした。
これがウェヌスから聞いた異臭を放つ魔物らしい……
鑑定をかけていると、グレンとジルが武器を構えた。
「あぁ! グレン! 切っちゃダメ! ジルも弓ダメ!」
〈は!?〉
「え!?」
攻撃をしようとしていた二人を叫んで止め、私は急いで水魔法で溺死させる。
〈なぜだ?〉
「アンチョビだったの! アンチョビ!」
〈あん……なんだ?〉
「アンチョビだよ! 切ったら中身飛び出しちゃうから、その剣汚れちゃうよ?」
〈うげっ!〉
剣が汚れると聞いて顔を顰めたグレンに〝調味料みたいなもん〟だと説明すると、テンションが上がった。
〈なら、たくさん見つけないとな!〉
「そうだね! これはいっぱい欲しいね!」
《水魔法でいいなら儂がやろう。主は結界で魔力消費が激しいだろう?》
「ありがとう!」
人数が少ないから昨日の朝よりはマシなんだけど、エルミスが言ってくれたので任せちゃおう。
アンチョビの魔物を探していると、気配が集まっているところを察知。早速向かう。
「うわ~! いっぱい!」
フヨフヨと飛ぶトビウオ型のアンチョビに目を輝かせている横から、エルミスが水魔法で的確に仕留めていく。
「エルミス! あれとアレ、凍らせて!」
トビウオに紛れて、ブンブンと音を立てている蚊柱のような何かの大群を私は指さした。
すかさずエルミスが凍らせてくれた氷塊をコルトさん、アンチョビをグレンとジルが回収してくれた。
〈セナ、これはなんだ? 我の鑑定では〝シオッカラモト〟と出てくるが、こんな小さな虫が食べられるのか?〉
「ふふっ。虫じゃなくて小海老みたいな感じだよ。名前はそうだけど〝塩辛の素〟だって。これをそのまま食べるんじゃなくて、食材に一匹混ぜて時間を置くと、塩辛に変わるみたい。塩辛はご飯が進むよ」
〈おぉ! 美味しいってことだな!〉
「そうだね。これでちゃんとしたキムチも作れそう!」
私の話しを聞いて、普段は黙っているポラルが〔ホント、デスカ?〕と小首を傾げて聞いてきた。
本当だと言うと〔ヤッター!〕とお尻を振りながら喜ぶポラル。なんちゃってキムチ好きなだけあって、嬉しいらしい。
あまりの可愛さにナデナデしちゃったのは言うまでもない。
お昼ご飯はグレンとコルトさんのリクエストで早速アンチョビを使うことになった。
アンチョビ魚の解体の仕方がわからないから、優秀な無限収納任せ。解体を終えた物を出してみると、どこをどう解体したのか……アンチョビペーストになっていた。しかもビン入り。
どっからこのビンは現れたのか……ま、使いやすいからいいんだけどね!
アンチョビキャベツにアンチョビポテト。さっぱり系としてバーニャカウダ。メインはアンチョビピザにしてみた。
なんともお酒が進みそうなレパートリーに私は苦笑い。
パスタがあればもうちょいマシになったと思うけど、完全に私の好みの問題。今度飲み屋メニュー以外の物をちゃんと調べてあげよう……
「一応調整はしたけど、アンチョビはちょっとしょっぱいんだよ。この麦パン食べてね」
ワクワクと落ち着かないグレン達に説明してから、みんなで「いただきます」と食べ始める。
グレンはパンよりご飯がいいらしく、すぐに〈シラコメはないのか?〉と求められた。他のメンバーもお米の方がいいみたい。
完全に私に毒されてる……
ピザをおかずに「美味しい、美味しい」とご飯をおかわりする三人に、私は驚きを隠せない。
◇
大好評のアンチョビランチを終え、私達はテンション高く歩き出した。
森の中心に向かって臭いがキツくなってきて、私はみんなに張っている結界を強化しておく。
グレン達は臭いにやられ、だんだんとテンションが下がってきている。
ゴリゴリと魔力を消費しながら二時間ほど歩くと、森の木に小さな藁の塊が付いているのが見えた。
近付くとどうやら実っているらしい。一本だけではなく、ここら辺の木には大なり小なり藁の塊がぶら下がっていた。
「んあ! この匂いは! 納豆じゃない!?」
草魔法の蔓で藁をいくつか採り、開いた瞬間――グレンが〈ぐあ!〉と叫んで、ズザザッと私から距離を取った。
〈酷い臭いだ! それは食べ物じゃない!〉
「これ納豆だよ! 藁納豆! 立派な食べ物だよ!」
「セ、セナ様……僕もそれは……」
いつの間にか、ジルまで私から離れていた。しかもマスクの上から鼻をつまんで、警戒するように私の手の中の藁を見つめている。
「……これ、美味しいの?」
コルトさんだけは私のすぐ隣りにやってきて、美味しいかどうかの確認。
納豆臭は大丈夫みたい。
「私は大好きだけど、好き嫌いが分かれる食べ物ではあるかな?」
日本でも関西方面の人は嫌い、もしくは苦手な人が多かったと思う。生粋の東京人であるオタクの友人も「他に美味しい物があるのに、わざわざ食べる意味がわからない!」って言ってたから、関西に限定したものじゃないだろうけど……私の印象はそう。
「とりあえず、収穫するからちょっと待っててもらってもいい?」
「……手伝う」
《儂とアルヴィンも手伝おう》
《え!? ……わかった……》
アルヴィンは名指しされて、諦めたように了承。
無理しなくてもよかったんだけど、エルミスに「主の魔力が切れたら臭いが直でくるぞ」と脅され、率先して収穫してくれた。
よくよく確認すると、小さい物がひきわり納豆、中くらいが普通の小粒納豆、大きいのが大粒納豆だった。
私は納豆を食べるとき、黒酢を入れる。やっぱり酢が欲しい! ぜひとも欲しい!
納豆をゲットして再び探したけど、その後見つかったのは〝クサヤ〟と〝ナンプラー〟だけ。クサヤは三枚に下ろされた状態の魚が池を泳いでいて、ナンプラーは樹液だった。
なんとも不思議な食材だらけだけど、肝心の物が見つかっていない。
ここにはないのかもしれないと、頭の中を掠めていく。
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