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11章
隠れ宿【1】
ナタデココを使用したフルーツポンチモドキをデザートで出すと、これはモルトさんのお気に入りになった。
ゆっくりとおなかを休ませた私達はパパ達と別れて教会へ戻ってきた。
神界は時間経過が遅いため、まだお昼すぎ。
今はおばあちゃんの手紙で聞いた宿に向かっている。
『ねぇ、もしかしてココなの?』
「多分? おばあちゃんが言ってた通りに進んできたし、マップで確認してもここだと思うんだけど……」
クラオルが戸惑うのも無理はない。
私達の目の前にはボロボロの廃屋のような石造りの倉庫が建っている。
宿どころか人が住んでいそうな雰囲気がない。
建物自体はそこにずっとあるのか、通行人は気にも止めず、完全にスルー。周りの建物と比べると明らかに浮いているのに……
「セナ様……いくら神に言われたからといって、ここはあまりにも……違う宿に致しましょう」
ガルドさん達もジルの意見に賛成らしい。
私達が冒険者ギルドに向かおうと小屋に背を向けた瞬間、後ろから声がかかった。
「イッヒッヒ。セナ様……こちらへどうぞ」
「!」
全員が驚いてバッ! と振り向くと、私達の後ろに見るからに怪しい人が立っていた。
前髪が鼻先まであり、表情はおろか顔がわからない。後ろ髪は本人の膝くらいまで。ツヤのないドストレートの黒髪。真っ黒なローブのような物を着ていて、裾は引きずりそうなほど長い。
背の高さと声質から男性だと思われる。
〈気配がなかったぞ……〉
「私も気が付かなかった……」
「イッヒッヒ。お褒めいただきありがとうございます。イーッヒッヒ。〝魔女おばあちゃん〟から連絡がきております。さぁ、どうぞ……」
怪しい人物にそう言われて、私達は顔を見合わせた。
ヴィエルディーオ様のことを魔女おばあちゃんと呼んでいるのは私だけ。それを知っているのは、ここにいるメンバーとパパ達、そしておばあちゃん本人。
わざわざ〝魔女おばあちゃん〟と言うからには……
「行く……しかなさそうだね」
「セナ様!?」
〈正気か? ……何かあれば遠慮せずに暴れるからな〉
グレンは〝暴れる〟のところで怪しい人物を睨み付けたけど、当の本人は「イッヒッヒ」と怪しく笑うだけ。
ガルドさん達は、一応私の判断に任せてくれるみたい。「俺達から離れるな」と腰にある武器に手をかけながら注意された。
怪しい人物の先導で外れかけているドアから中に入ると、見た目そのままの朽ちた空間。物は何も置かれておらず、ホコリ臭い。
怪しい人物はグレンの〈何もないじゃないか〉と咎める声もスルーして、真っ直ぐ裏口と思われるドアに向かう。
「イッヒッヒ。こちらですよ」
裏口の手前で一度振り向き、私達にそう告げた後、彼はドアに手をかざした。
ドアはキィィと軋む音を倉庫に響かせながら勝手に開いた。ドアの先は真っ暗で何も見えない。
私達が困惑している間に、彼はそのまま暗闇の向こうに歩いて行ってしまった。
「えぇ……」
〈どうするんだ?〉
「一回行って、ヤバそうだったら即行逃げよう」
「入ったら最後、出られないとかならないよな?」
「イッヒッヒ。ならないのでご安心下さい」
「「「「!」」」」
私達が話していると、先に行っていた彼が真っ黒な空間から顔だけこちらに覗かせていた。
宙に浮く生首みたいで不気味すぎる……
「イッヒッヒ。セナ様は気に入ると思いますよ」
「わ、私?」
「イッヒッヒ」
聞き返したのに、笑いながら顔を引っ込ませてしまい、答えてもらえなかった。
全員ではぐれないように手を繋ぎ、先頭のグレンから黒い空間に足を踏み入れる。
グレンが入った瞬間――繋いでいた手が引っ張られて、なだれ込むように全員が中に引きずり込まれた。
「え゛!? って、えぇぇぇ!?」
「すごい……ですね……」
「な、何だよ。これ」
グレンは驚いて、繋いでいた手を引っ張ったみたい。
目の前にはテレビでしか見たことのないような、日本の超高級旅館を彷彿とさせる玄関。
スリッパが用意されていて、その奥にはカウンターがある。
「イッヒッヒ。靴は脱いで下さいませ」
呆然としたままブーツを脱いで、土間玄関から畳敷きの床に一段上がる。
これって小上がりっていうんだっけ? 踏み込み? この端っこのやつも枕木みたいな名前だったよね?
「え? っていうか、なんで?」
「イッヒッヒ。宿泊料は一人当たり金貨七枚です」
何故純和風なのか聞きたくて聞いたのに、またもや答えてもらえなかった。
「一泊の値段か?」
「イッヒッヒ。金貨七枚です。あなた方は二十八枚、セナ様方は二十一枚。お釣りのないようにお願い致します」
ガルドさんの質問とは別の答えが返ってきた。まともに答える気がないっぽい。
日本ならまだ納得できたとしても、この世界で一泊七万は高い。
私達は顔を見合わせ、とりあえず言われた金額を払った。
「やっぱりいいです」とは言えない雰囲気だった。
他の従業員はいないのか「では案内します」と、彼がそのまま歩き始めた。
廊下も畳敷きで、窓辺には一輪挿し。
階段を上がるときに〝ゆ〟と書かれた暖簾が下げられているところがあったから、大浴場があるのかもしれない。
〈((セナ、こいつを鑑定できるか? 我が弾かれる))〉
「((マジ!? あ、私も見れない……))」
グレンに念話で言われて鑑定をかけてみると、弾かれないものの全て文字化け表示だった。
以前、おばあちゃん関係が文字化けだったから、この人物もおばあちゃんの関係者なのかもしれない。
私達が案内されたのは三階の部屋。彼は廊下も階段も、音もなく滑るように進んでいて、「足あるよね?」と確認したくなってしまった。言えなかったけど。
「イッヒッヒ。こちらです。鍵はありません。入るときは、この魔石に魔力を流せば開きます。お食事は部屋食、何かあればドアに貼り付けてある板に付属のペンで書き込んで下さい。ではごゆっくり」
言うが早いか、また音もなく、ススーっといなくなってしまった。
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