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11章
女神のサプライズ
教会に帰ってから豚骨野菜スープの練習をして、無事にキアーロ国の王都でレシピ登録を済ませた。味付けはグレンが推した味噌バージョン。
まさか料理教室の現場に、王太子が直々に現れるなんて思ってなかったよ……
今回は二名の料理人だったんだけど、前回のスイートポテトのときとは違って、最初から真剣な様子だった。まぁ、それでも材料を見てめっちゃ驚かれたんだけど……
目の前で空間魔法を使わない方がいいとクラオルからのアドバイスを受けて、料理番組みたいに「煮込み済みのスープがコチラです」と出したら、それも何故か驚かれた。
豚骨野菜スープはカリダの街でも出せるように許可をしたから、ブラン団長達も食べられるハズ。それがいつになるかはわからないけど。
カレーがシュグタイルハン国から入ってきたことで、キアーロ国の王太子からアーロンさんに連絡がいったらしく、すき焼きも販売許可を出すことになった。
これももちろん、カリダの街のデタリョ商会が主導ならと許可。販売されたらブラン団長達は喜んでくれると思う。
ちなみに現れた王太子から直接、キヒターの教会の所有者は私になったと教えられた。「大々的に発表はしておりませんが、プラティーギアの邸もセナ殿の所有地としておきました」と、王太子はとんでもないことをサラッと口にした。隠し書庫の件があるから、他の貴族に手を出させないようにする処置らしい……
面倒事を押し付けられた気がしなくもない……
ジルが散々な目にあった家だから、あんまり連れて行きたくないんだけど……ジル本人は「セナ様の家にするには穢れていますので浄化が必要ですね」なんて言っていた。他に思うことはないらしい。洗脳は根深い。
シュティーとカプリコにネライおばあちゃんに作ってもらったエプロンを渡すと、二人共ものすごく喜んでくれた。
泣きながら思いっきり抱きしめられて、死ぬかと思ったけど……それはご愛嬌ってことで。
◇ ◆ ◇
ガルドさん達の疲れを取るのに一日インターバルを置き、私達はフォースタンケの街を出発。
ガルドさん達が依頼で一度街から出ていたおかげか、大してチェックされなかった。
街から離れたところでネラース達を影から呼んだ。
ジルとモルトさんが御者をしてくれているし、ネラース達が馬車と併走しているから魔物対策もバッチリ。ということで、私はコテージのドアを出した。
コテージに入った瞬間、見慣れない物が目に飛び込んできた。
「え? 何あれ……」
『えぇ!? なんで魔物がいるのよ!』
見た目は薄く赤みがかったアヒル。色以外は完全に地球と同じに見える。しかも五匹ほどが横一列に並んで私達を待ち構えていた。
『キキッ』
「あ、カイザーコングのお猿さん」
何でいるのかと一瞬思ったけど、そういえばおばあちゃんが簡単にコテージに来られるようにしたんだった。
小猿はすぐ近くまで走り寄ってくると、回転ジャンプをして挨拶してくれた。
『キ、キキキ、キッ』
『あぁ……なるほど……』
「クラオルさん、通訳お願いします」
『あのね、あれペコラプチャケって魔物らしいわ』
「何かその名前聞き覚えがあるんだけど……」
『主様が欲しがってた〝けちゃっぷ〟の魔物よ。あの人が言ってた準備っていうのがこのことだったみたいね。口から産んだ卵がその〝けちゃっぷ〟だって』
「口から!?」
『そうらしいわ。そしてこの空間の魔力で生きるから餌は必要なくて、放し飼いで大丈夫。畑に新しく設置した小屋に〝けちゃっぷの卵〟を産むから、そこから回収してって。ちなみに小屋は時間経過しないから痛むことはないそうよ』
「な、なるほど……えっと……よろしくね?」
一応、アヒルに声をかけると、『グワッ』と鳴かれた。言葉がわかるらしい。
小猿が声をかけると、アヒルは一斉に森の方にかけて行った。
『キキッ、キキー』
『ワタシ達の邪魔はしないから安心して……って、主様聞いてる?』
「え、あ、うん。聞いてるよ。邪魔しないんでしょ?」
マズイ、マズイ。アヒルのプリプリしたお尻に夢中になってたわ。
「定期的にケチャップが手に入るのは嬉しいね! グレンもあの魔物狩っちゃダメだよ?」
〈わかった〉
それにしても……口から卵産むなんて……体の構造どうなってんだろ……
◇
気を取り直して私はジュードさんとキッチンへ。他のメンバーはみんなそれぞれ好きにすごしてもらう。
おばあちゃんが言っていた森まではニヴェスの足で三日ほど。
グレンから美味しいご飯が食べたいとの要望を受けたので、ちょっと手間のかかるお昼ご飯を作る。
お昼ご飯はガルドさん達は食べていなかったセミエビ料理。同じものだとグレンが飽きると思って、セミエビのオーブン焼きやビスクも作った。
ジュードさんは「殻も食べられるなんてー!」と料理中ずっとご機嫌だった。
作った料理はガルドさん達も気に入ってくれたみたい。ニヴェス達はオーブン焼きのセミエビの殻までバリバリと食べて『美味しい!』と喜んでいた。
午後はひたすらポーション作り。
シュティー達がケガしたときのために目一杯教会に置いてきちゃったんだよね。
◇ ◆ ◇
みんなのおやつやお手軽ご飯を量産すること三日、夕方近くに森の入り口に到着したとジルから念話が届いた。
「本日は星がキレイに見えるらしいですが、外で食事になさいますか?」
「そうなの? じゃあ、今日は野営にする?」
期待の眼差しを向けてきていたニヴェス達に問いかけると、四人共大喜びだった。
「ふふっ。決定ですね。では、ガルドさん方に伝えて参ります」
「ありがとう」
ジルに伝言を頼み、私はテーブルのセッティング。ご飯を作っている間はみんな暇になっちゃうから、ダーツや吹き矢なども出しておいた。
今日の夜ご飯はグレンの希望でザ・肉。ステーキにハンバーグに唐揚げと肉料理のオンパレードになった。お供はパンじゃなくてみんな大好きな白米。
「あぁ……本当にセナの飯はうめぇな……あのインプの宿の飯も美味かったが……」
「えぇ。先日は久しぶりに黒パンと干し肉の三日間でしたからね」
噛み締めるように食べていたガルドさんが呟くと、モルトさんが苦笑いで答えた。
私達がキアーロ国に行っている間の護衛依頼のことらしい。
依頼主は領主だったんだけど、依頼内容は近くの村の村長を送ること。村長本人は腰が低く、とてもいい人だったそう。ただ、その村長が黒パンと干し肉で食事を済ませている手前、スープを作るとは言い出せなかったみたい。
行きで想定より時間がかかったため、帰りは急いだらしい。
「急かしちゃってごめんね?」
「いや、お前さんのことも心配だったが、依頼が三日で戻れって内容だったんだよ。領主が次の日に予定があるとかで、依頼完了の報告が聞きたかったんだと」
「へぇ、そうなんだ。そんな依頼もあるんだね」
「あるあるー。今回はその分報酬が高かったけど、上乗せしてくれない貴族もいるよー」
マジか……私だったら断っちゃいそう。
「断れないの?」
「難しいな。それに後からイチャモンつけてくるやつもいる」
「うへぇ」
「一番大変だったのが、以前、まだアプリークム国にいたときに受けた討伐の護衛依頼ですね」
モルトさんが話し出すと、ガルドさんは眉間にシワを寄せ、ジュードさんは「あぁ……アレねー」と苦笑いを零した。
「貴族の子息が友人に自慢するために魔物を狩りたい、ただ本人は戦えるハズもないので、一緒に行って狩ってきて欲しいという内容でした。いざ向かえばその子息は体力もなく文句ばかり、あげくに『こんな魔物、オレでも倒せる!』と魔物に向かって行ったんですよ」
「うわぁ……」
「ケガをされたら困るので、フォローが大変でした」
「しかもさー、何とか魔物を狩ったはいいけど、『獲物が小さい』とか『帰りは歩きたくない』とかゴネたんだよー。で、完了報告したら逆に報酬減らされたんだよねー」
「えぇ!?」
「思い出させんな。セナの美味い飯がまずくなる」
ガルドさんは相当嫌だったのか、苦虫を噛み潰したような顔をしてステーキに齧りついた。
〈そんなやつ捨て置けばいい〉
「んなことできっかよ……あんときは受けちまったけど、もう二度と受けねぇ」
私も関わりたくないけど、思い出して不機嫌になったガルドさんにデザートのきな粉プリンを出してその場を収めた。
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