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第三部 12章
閑話:頼られたい女
――時は少し遡る。
女は暇を見つけてはセナを見つめていた。
「何で私ばっかり! 私が一番のハズなのに!」
事ある毎に同じセリフを吐き、八つ当たりをするように己の眷属に仕事を割り振る。
「パナーテル様、仕事をして下さい。頑張ると言っていたではありませんか」
「頑張ったってセナちゃんは何も言ってくれないじゃない!」
言われた眷属は〝そりゃ知らないんだから当たり前だろ〟とは言えず、「まずは他の神達に許しを得てからではないですか?」と答えた。
「あの人達はちょっとミスしたくらいで怒りすぎなのよ! そりゃあ、あの教会の像を直すときのことはまずかったかもしれないけど……加護あげたじゃない!」
「まず、人ではなく神ですし、加護は転生時です。加護をやったんだから自分を好けというのは些か横暴かと。彼女の空間魔法の件もアクエス様がキチンとお話していたのに、適当に返事をしていたのは他でもないパナーテル様でしょう。しかもその後教会の件で印象はプラスどころかマイナスです」
「エアリルとアクエスだってミスして呪淵の森に落としたのよ! それにあの人まで出て来るなんて! ずっと行方知れずだったくせに!」
「ヴィエルディーオ様は創世の女神であられます。あの御方も人ではありません。それにあの御方やエアリル様、アクエス様はセナ様が喜び、かつ役に立つ物を差し上げていたでしょう」
「私だってそれくらいできるわよ!」
〝できたところで一度もやってないじゃないか〟と眷属は言ってやりたかったが、あー言えばこー言うパナーテルには言っても無駄なことが長年の付き合いから理解していた。
眷属からすれば〝どうでもいいから仕事をしてくれ〟というのが本音だった。
◇
セナがこの世界に来てから、パナーテルは前以上に仕事をしなくなった。セナのせいではないことは重々承知しているが、眷属にとっては厄介な子供だ。パナーテルが癇癪を起こす度にセナを責めたくなる。
眷属はパナーテルがしでかした過去を思い返す。
ある日、セナが他の神達と宴会をしているのを目撃したパナーテルは荒れに荒れた。
「ズルいわ! 私だってセナちゃんとセナちゃんのご飯食べたいのに!」
また別の日、セナがオークの巣の殲滅に行くことになり、頼られたいパナーテルがオークの数を増やした。しかしそれはグレン達によって無駄となったが、そのせいでセナはギルマス代理に迷惑をかけられてしまった。
パナーテルが強化した〝人に好かれやすくなる〟加護の弊害でシュグタイルハン国の王族にストーキングもされた。
「まぁ、セナちゃんは知らないから大丈夫よね。それに好かれるのはいいことだもの」
さらに別の日、セナがサーカスを見に行くことを知ったパナーテルは、眷属にサーカス団の魔物を開放するように命令した。セナはパナーテルの目論見通り、魔物を解放することにした。
〝これで私を頼ってくれるハズだわ! 助けてあげれば見直してくれるハズよ!〟とパナーテルは意気込んでいた。助けを求めるとすれば、他神であることは頭にない。
しかし、セナは自分で隷属化された魔物達を解呪してしまう。
「んもう! 何で全部解決しちゃうのよ! 私を呼んでくれれば一瞬で助けてあげるのに!」
教会の一件を知ったヴィエルディーオから、「自分本位の神力は使ってはならない」と注意されていたにも拘らず、パナーテルは他にも、他神にバレないようにチマチマと神力を使ってはセナの邪魔をしていた。
それらは全て、セナの従魔であるグレン達や従者となったジルベルト、一緒に行動しているガルド達……そして本人によって解決されている。
……そしてあの日、ついにパナーテルは強硬手段に出たのだ。
「ふーん……あの馬達に会わせるために森に向かわせるなんて、回りくどいことするのね…………あの森って確か……そうよ! やっぱり! ふふふふふ。セナちゃんはママを頼らざるを得なくなるわ!」
パナーテルは頭の中で計画を立て、これからのセナとの生活を思い描いた。
そのためには準備しておかなければならない。
「まずは……魔法陣に近い部屋に落とさないとでしょ……中は魔法を使えないハズだから……うん。これで魔法陣に落ちてくれるハズだわ! 魔法陣が起動した瞬間にあの人達の記憶を封印するようにして……あ、創世の女神の加護が厄介ね。精霊の指輪も使えないようにしなくちゃ。加護はママのだけで充分。早くママに慣れてもらいたいから、私の魔力をちょっとずつ送っちゃいましょ。直接送ると強すぎて気付かれそうだから……この魔石に溜めた魔力をちょっとずつ送ればいいわね…………よし! これで私のところに転移すれば完璧ね!」
〝記憶を封印したセナを自分の空間魔法内に閉じ込め、自分を頼りにするように仕向ければ、自ずと他神よりも自分を見てくれる〟とパナーテルは思い込んだ。
そんな自分本位のパナーテルが細工をしているのを眷属は黙って見ていた。ここまで固執されるセナを不憫に思いながら。
パナーテルは今か今かと期待しながらセナが罠にかかるのを待っていた。罠を仕込んで機嫌のいいパナーテルはこのときだけは仕事をこなす。
そのパナーテルにバレないように眷属はパナーテルの細工を少しいじる。
「あなたに来られたら、ますます仕事をしなくなるのは目に見えているのでね……悪く思わないで下さい。〝可愛い子には旅をさせよ〟とは、あなたの世界のことわざです。悪いようにはしませんから」
眷属はサーカス団で魔物を開放する前にセナと目が合っていた。サーカスを楽しみ、笑顔を振りまいていたセナは眷属から見てもとても愛らしい子供だった。パナーテルの加護がなくても大抵の人には好かれるだろうことが見てとれた。
だからあのとき、見た目とは裏腹に大人しいグランドタイガーを選んで牢を開けたのだ。
眷属によって転移先を変えられたため、他神はもちろん、パナーテルさえも行き先は知らない。
この一件が神界を揺るがし、この世界に影響を及ぼすことになろうとは……このときのパナーテルも眷属も予想できていなかった。
◇
パナーテルの罠にかかってしまったセナは眷属の目論見通り、冬の地域にいる天狐の下へ送られた。
張り切ったパナーテルの記憶封印によって、この世界の記憶も、三十年生きてきた地球の記憶も封印され、純粋な五歳の日本人として……
機嫌よく仕事をこなしたパナーテルはタイミングを見計らい、そのままのテンションで自身の空間魔法内の家を訪れた。
しかし、待てど暮らせど肝心のセナが現れない。
その場で細工した魔法陣を確認すると、セナがその場にいないことからキチンと起動したことがわかった。しかし、ヴィエルディーオの神使であるインプが魔法陣を調べているせいで、自身は調べられなかった。迂闊に今神力を使えば、神使から他神に計画がバレてしまう。
「何で!? ちゃんと起動してるのにセナちゃんは来ないのよ!」
パナーテルは自身の計画が破綻したことを受け入れられず、声を荒らげた。
しかしここはパナーテルの空間魔法内。誰にも聞かれることはなかった。
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