文字の大きさ
大
中
小
277 / 502
第三部 12章
閑話:頼られたい女
――時は少し遡る。
女は暇を見つけてはセナを見つめていた。
「何で私ばっかり! 私が一番のハズなのに!」
事ある毎に同じセリフを吐き、八つ当たりをするように己の眷属に仕事を割り振る。
「パナーテル様、仕事をして下さい。頑張ると言っていたではありませんか」
「頑張ったってセナちゃんは何も言ってくれないじゃない!」
言われた眷属は〝そりゃ知らないんだから当たり前だろ〟とは言えず、「まずは他の神達に許しを得てからではないですか?」と答えた。
「あの人達はちょっとミスしたくらいで怒りすぎなのよ! そりゃあ、あの教会の像を直すときのことはまずかったかもしれないけど……加護あげたじゃない!」
「まず、人ではなく神ですし、加護は転生時です。加護をやったんだから自分を好けというのは些か横暴かと。彼女の空間魔法の件もアクエス様がキチンとお話していたのに、適当に返事をしていたのは他でもないパナーテル様でしょう。しかもその後教会の件で印象はプラスどころかマイナスです」
「エアリルとアクエスだってミスして呪淵の森に落としたのよ! それにあの人まで出て来るなんて! ずっと行方知れずだったくせに!」
「ヴィエルディーオ様は創世の女神であられます。あの御方も人ではありません。それにあの御方やエアリル様、アクエス様はセナ様が喜び、かつ役に立つ物を差し上げていたでしょう」
「私だってそれくらいできるわよ!」
〝できたところで一度もやってないじゃないか〟と眷属は言ってやりたかったが、あー言えばこー言うパナーテルには言っても無駄なことが長年の付き合いから理解していた。
眷属からすれば〝どうでもいいから仕事をしてくれ〟というのが本音だった。
◇
セナがこの世界に来てから、パナーテルは前以上に仕事をしなくなった。セナのせいではないことは重々承知しているが、眷属にとっては厄介な子供だ。パナーテルが癇癪を起こす度にセナを責めたくなる。
眷属はパナーテルがしでかした過去を思い返す。
ある日、セナが他の神達と宴会をしているのを目撃したパナーテルは荒れに荒れた。
「ズルいわ! 私だってセナちゃんとセナちゃんのご飯食べたいのに!」
また別の日、セナがオークの巣の殲滅に行くことになり、頼られたいパナーテルがオークの数を増やした。しかしそれはグレン達によって無駄となったが、そのせいでセナはギルマス代理に迷惑をかけられてしまった。
パナーテルが強化した〝人に好かれやすくなる〟加護の弊害でシュグタイルハン国の王族にストーキングもされた。
「まぁ、セナちゃんは知らないから大丈夫よね。それに好かれるのはいいことだもの」
さらに別の日、セナがサーカスを見に行くことを知ったパナーテルは、眷属にサーカス団の魔物を開放するように命令した。セナはパナーテルの目論見通り、魔物を解放することにした。
〝これで私を頼ってくれるハズだわ! 助けてあげれば見直してくれるハズよ!〟とパナーテルは意気込んでいた。助けを求めるとすれば、他神であることは頭にない。
しかし、セナは自分で隷属化された魔物達を解呪してしまう。
「んもう! 何で全部解決しちゃうのよ! 私を呼んでくれれば一瞬で助けてあげるのに!」
教会の一件を知ったヴィエルディーオから、「自分本位の神力は使ってはならない」と注意されていたにも拘らず、パナーテルは他にも、他神にバレないようにチマチマと神力を使ってはセナの邪魔をしていた。
それらは全て、セナの従魔であるグレン達や従者となったジルベルト、一緒に行動しているガルド達……そして本人によって解決されている。
……そしてあの日、ついにパナーテルは強硬手段に出たのだ。
「ふーん……あの馬達に会わせるために森に向かわせるなんて、回りくどいことするのね…………あの森って確か……そうよ! やっぱり! ふふふふふ。セナちゃんはママを頼らざるを得なくなるわ!」
パナーテルは頭の中で計画を立て、これからのセナとの生活を思い描いた。
そのためには準備しておかなければならない。
「まずは……魔法陣に近い部屋に落とさないとでしょ……中は魔法を使えないハズだから……うん。これで魔法陣に落ちてくれるハズだわ! 魔法陣が起動した瞬間にあの人達の記憶を封印するようにして……あ、創世の女神の加護が厄介ね。精霊の指輪も使えないようにしなくちゃ。加護はママのだけで充分。早くママに慣れてもらいたいから、私の魔力をちょっとずつ送っちゃいましょ。直接送ると強すぎて気付かれそうだから……この魔石に溜めた魔力をちょっとずつ送ればいいわね…………よし! これで私のところに転移すれば完璧ね!」
〝記憶を封印したセナを自分の空間魔法内に閉じ込め、自分を頼りにするように仕向ければ、自ずと他神よりも自分を見てくれる〟とパナーテルは思い込んだ。
そんな自分本位のパナーテルが細工をしているのを眷属は黙って見ていた。ここまで固執されるセナを不憫に思いながら。
パナーテルは今か今かと期待しながらセナが罠にかかるのを待っていた。罠を仕込んで機嫌のいいパナーテルはこのときだけは仕事をこなす。
そのパナーテルにバレないように眷属はパナーテルの細工を少しいじる。
「あなたに来られたら、ますます仕事をしなくなるのは目に見えているのでね……悪く思わないで下さい。〝可愛い子には旅をさせよ〟とは、あなたの世界のことわざです。悪いようにはしませんから」
眷属はサーカス団で魔物を開放する前にセナと目が合っていた。サーカスを楽しみ、笑顔を振りまいていたセナは眷属から見てもとても愛らしい子供だった。パナーテルの加護がなくても大抵の人には好かれるだろうことが見てとれた。
だからあのとき、見た目とは裏腹に大人しいグランドタイガーを選んで牢を開けたのだ。
眷属によって転移先を変えられたため、他神はもちろん、パナーテルさえも行き先は知らない。
この一件が神界を揺るがし、この世界に影響を及ぼすことになろうとは……このときのパナーテルも眷属も予想できていなかった。
◇
パナーテルの罠にかかってしまったセナは眷属の目論見通り、冬の地域にいる天狐の下へ送られた。
張り切ったパナーテルの記憶封印によって、この世界の記憶も、三十年生きてきた地球の記憶も封印され、純粋な五歳の日本人として……
機嫌よく仕事をこなしたパナーテルはタイミングを見計らい、そのままのテンションで自身の空間魔法内の家を訪れた。
しかし、待てど暮らせど肝心のセナが現れない。
その場で細工した魔法陣を確認すると、セナがその場にいないことからキチンと起動したことがわかった。しかし、ヴィエルディーオの神使であるインプが魔法陣を調べているせいで、自身は調べられなかった。迂闊に今神力を使えば、神使から他神に計画がバレてしまう。
「何で!? ちゃんと起動してるのにセナちゃんは来ないのよ!」
パナーテルは自身の計画が破綻したことを受け入れられず、声を荒らげた。
しかしここはパナーテルの空間魔法内。誰にも聞かれることはなかった。
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。