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第三部 12章
古い友人
それから一ヶ月、天狐が他の村の護符を強化しに行っている日中の間、セナは老婆宅に預けられていた。何にでも新鮮な反応を示すセナは村人から可愛がられ、薬草採取や雪遊びと楽しい毎日を送っている。
護符の強化が一段落した天狐は老婆宅で夜ご飯を食べ終わったタイミングを見計らってセナに話しかけた。
「あのね、ちょっと異常すぎるから本格的に調べに山頂の方に行きたいんだけど、しばらく帰って来られなくなりそうなのよ」
「?」
言葉のわからないセナに天狐は絵を描きながら再び同じ説明をする。しかし、天狐が描いた絵はセナには理解されなかった。
「お前さん……絵が壊滅的じゃないか……いくら察しのいいセナちゃんでも、これは……」
「ムッ。仕方ないじゃない! 絵なんか描くことなかったんだもの……」
「護符の文様は描けるのにねぇ……どれ、ちょっと貸してごらん」
下手過ぎる天狐からペンを渡された老婆は紙芝居のように絵を描き、セナに内容を教えてあげる。
「……」
「そんな悲しそうな顔しないで。私も寂しいわ。それでね、この村だと魔法で手紙を送れる人がいないから、連絡が取りにくいのよ。だからすぐに連絡が取れる人のところにお願いしようかと思ってるんだけど……それなら、もしかしたらセナちゃんの言葉がわかるかもしれない人のところがいいかなって思って。その人はちょっと顔が怖いけど、とっても強いからセナちゃんを護ってくれると思うの。それにセナちゃんの好きな本もいっぱいあるわ」
天狐が話す横で老婆はサラサラと紙芝居の続きを描く。
内容を大まかに理解したセナは頭を振って、上目遣いに天狐を見つめた。
「困ったわね……」
「ふむ。セナちゃん、何か言いたいことがあるなら紙に描いてごらん」
老婆に促されて描かれたセナの絵は、子供らしいタッチだが、何かと戦う天狐だということがわかった。
「……なるほど。セナちゃんはお前さんのケガを心配しているんだよ。前にケガして戻ってきたから余計に気にしてるんだろうね」
「セナちゃん……んもう、いい子なんだから! 大丈夫よ。任せて」
セナのせいで寝不足だったのが原因……とは言えない天狐は、セナを抱きしめながら、安心させるように「大丈夫」と繰り返し言い聞かせる。
天狐がセナの右手の小指と自身のそれを絡めて、ようやく頷いた。
◇
翌日のお昼過ぎ、セナを抱きかかえた天狐は目的の人物目指して転移魔法を展開した。
「あら? 連絡しておいたのにいないのかしら?」
小さな応接室のような部屋に飛んできた天狐は、部屋の主がいないことに首を傾げた。
魔力を辿ると、どうやら続き部屋である隣りの部屋にいるらしいことがわかった。
繋がるドアには鍵がかけられていたが、天狐は無遠慮にドンドンとドアを叩く。
五分ほど叩き続けると、右眼に眼帯をした男性が眉間にシワを寄せて「うるさいぞ」と出てきた。
その男性はカラスのような漆黒の髪の毛に金色の瞳の持ち主。眼帯の下には裂傷が走り、目をケガしていることが見て取れる。不機嫌さが隠されていないため、無事な方の三白眼の目がさらに鋭く見える。
「あら、寝てたの? 久しぶりね。連絡しておいたじゃない。っていうか、寝癖付いてるわよ?」
「いつとは言ってなかっただろうが……」
目付きの鋭い男性はぞんざいに頭を撫で付けながら、ソファに座った。
「で? そいつか?」
「紹介するわね。セナちゃん、五歳、人族。これはギルドのネックレスからわかったことよ。塩スープより薬草スープやコンソメスープの方が好きで、甘すぎるものは嫌い。魔法は使えないけど、魔力はすごいわ。ただ、その魔力のせいだと思うんだけど、回復魔法が効きにくいのよね……」
「余計な情報はいらん」
「あら。全部大事な情報よ。セナちゃん、この悪人顔の人はジャレッド・ジュラル。この地下帝国の古~い元国王様。見た目じゃわからないけど、もう何千年って生きてるの。顔ほど怖くないから大丈夫よ。さ、自己紹介して」
「жжжжж!」
セナが挨拶をすると、男性は片眉をあげた。
「己ですら聞いたことない言葉だぞ」
「城には文献たくさんあるでしょ? 調べてよ。私、いろいろとやらなきゃいけないの。細かいことはこの手紙に書いておいたわ。セナちゃん、この人の言うことよく聞いてね? 愛してるわ。待っててね」
「ん? あ、おい!」
セナの額に口付けを残し、男性が止める声をスルーして、天狐は転移してしまった。
ほんの数分前に初めて会った少女と残された元国王は、どうしようかと思考を巡らせる。
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