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第三部 12章
天狐と元国王
しおりを挟むパチパチと瞬きしながら自身を見つめてくるセナから目線を逸らし、ジャレッドはひとまず天狐から渡された分厚い手紙を読んでみることにした。
手紙にはセナの好きな物、嫌いな物、好きなこと、嫌がること、注意事項……と詳細に書き綴られていた。
しかし、天狐が調べたことや通じない言葉、この世界の常識である魔法について、セナの不可解な行動……と読めば読むほど謎は深まるばかり。
読んでいるジャレッドの眉間には段々とシワが刻まれていく。
「……面倒な子供を押し付けられたもんだ……」
確かに、死ねない体となってから何千年と生きてはいるが、さすがに遠く離れた異国の辺境のことなど知る由もない。他人はおろか自身の子供にも恐れられ、まともに子供の相手などしたことがないというのに己にどうしろと言うのだ……とジャレッドは思った。
最後に添えられた「セナちゃんを護って。頼んだわよ? 流血王様」という言葉にも一片の皮肉が込められている気がする。
流血王――それはジャレッドを示す言葉だった。ジャレッドが進んで戦地に赴き、戦場を血に染めたことが由来している。
人族に限られたことではないが、戦時中はもてはやすくせに平和になれば厄介者扱い。恐れて近付くこともなく、たまにビクビクと機嫌を取りにくる。
そんな生活に嫌気がさし、早々に引退してはいるが……何千年と経った今でも流血王を知らぬ者はこの大陸にはいない。
思考の海に沈んでいたジャレッドがふとセナを見てみると、セナは紙にペンで落書きしていた。
セナの隣りに置かれている大きなカバンを見る限り、しばらく滞在することは確定だろう。
「あの天狐が随分と過保護だな……」
――天狐とジャレッドが巡り会ったのは、千年以上前。ジャレッドが死ぬことを諦めて放浪していたときだった。
ある雪山の洞窟で眠っていたときに、天狐がやってきたのだ。
「ちょっと、あなた大丈夫!?」
「あぁ……」
「……あら?」
顔を上げたジャレッドに天狐は首を傾げた。
「……あなた流血王?」
「……だったら何だ? 己が休んでるところを邪魔しにきたのはそっちだろ」
「いや、別に。もっとカッコイイ人を想像してただけ。安心して。タイプじゃないから!」
ビビるワケでもなく、あっけらかんと言い放つ天狐にジャレッドは虚をつかれた。
その後、天狐は何を思ったのか延々と自分の好みの男について朝まで語り、結局ジャレッドは眠れなかったのだ。
天狐との付き合いはそれ以来続いている。たまにフラりと城を訪れては手土産や土産話をして帰る天狐はジャレッドにとって数少ない友人と呼べる存在だろう。
本人に〝流血王〟などと冗談でも言えるのは天狐くらいである。
「今思えばあのときも薬草やスープを渡してきたな……あいつは世話焼きだったのか……仕方ない……」
ジャレッドはセナが読める本でも持ってきてやろうと、ソファを立ち上がった。
セナに「ここにいろ」とジェスチャーで伝え、頷いたセナを置いて部屋を出る。
――しばらく言われた通りに待っていたセナは、そろそろ空腹の限界が訪れようとしていた。
いつもだったら天狐や老婆がおやつをくれるが、今日は二人ともいない。
グゥグゥと鳴るおなかに耐えられなくなったセナはジャレッドを探しに向かうことにした。
部屋から出ると、地下故に薄暗く、魔道具でところどころに明かりが灯っていた。そこをキョロキョロと周りを窺いながら、セナは迷路のような城の廊下を歩く。
ここは流血王の住む王宮エリア。
ひと睨みされれば身がすくんで動けなくなるほどの恐ろしい人物が住む場所で働きたいと希望する人は少ない。故に、最低限の人材が流血王と遭遇しないように働いているだけ。
ジャレッドを探していたセナは、甘く心が惹かれる香りに気が付いた。
匂いを頼りに階段を降りて行く。
クンクンと鼻を頼りに辿り着いたのは、洗濯場だった。
あるモノを見たセナは顔を輝かせて、それに飛びついた。
「ひゃぁぁぁ!」
自身のしっぽに抱きつかれた洗濯を担当していたメイドは、予想外の出来事に悲鳴をあげる。
「な、何ですか? あっ、ちょ、ダメです! そんな、あっ、サワサワ触ったら……ひゃぁ! ぁぁぁ……」
大胆にしっぽに抱きつき、サワサワ、なでなで、さらにはしっぽに顔を埋められ、メイドは腰が抜けてしまった。
永遠にこの恥辱に耐えなければならないのかと気が遠くなりかけていたメイドは、セナの腹の虫に助けられた。
盛大に訴えられて一瞬止まったセナから、自身のしっぽを救出する。
「ハァ、ハァ……お、お嬢様。獣族のしっぽは……」
――グゥ~
「お、おなかが空いているのですか? 申し訳ありませんが、ここにはお嬢様にお出しできるものはありません。食堂に……」
「жжжжжж……」
「え……言葉が…………う……そんなウルウルとした目で見ないで下さい。案内したくても食堂に入る許可をもらっていないので案内できないのです」
――グゥ~
「……わ、わたしが作ったものでよければ食べられますか?」
メイドは仕事をクビになる覚悟でセナに手作りのおやつを見せる。
それを見たセナは途端に目をキラキラとさせて、齧り付いた。
◇
部屋に戻ってきたジャレッドはセナがいないことに慌てる。
「ここにいろと言っておいただろうが……」
ジャレッドは慌ただしく部屋を後にし、セナの気配を探す。
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