320 / 537
第三部 12章
嫌われる女と好かれるモフモフ
翌日、部屋で朝ご飯を済ませたジャレッドはセナを連れてメイド長の部屋を訪れた。
部屋にはメイド長の他に五人ほどメイドが並ばせられていた。そのメイドは一人を除いて皆顔色が悪い。
ジャレッドからすればいつものことなので、そこには触れずに単刀直入に話題を振る。
「この子供付きの侍女を選ぶ」
「伺っております。私、メイド長をしております。お嬢様、よろしくお願い申し上げます」
挨拶をしてくるメイド長にセナは硬い表情で頷いた。抱きかかえているジャレッドはセナが自身を掴む手に力が入っていることを不思議に思う。
「お嬢様のお世話というお話ですが……私はこのアリシア・ブラウンよりも、こちらのウーヴィ・チスタの方が家格的にもよろしいかと」
メイド長はジャレッドとは目を合わせず、早口で言い終えた。
メイド長が推したのは豹族の女性。野心のある侯爵家だったとジャレッドは記憶している。
ウーヴィ・チスタという女は自信ありげにセナを見つめているが、セナの手には変わらず力が入ったまま。訝しげに一瞥した後、その女の隣りで俯いている昨日のメイドを見やる。
「セナ、お前は誰がいい?」
ジャレッドがメイド長含め順番に指をさすと、セナは昨日の栗鼠族の女性に迷わず手を伸ばした。
「やはりな。アリシア・ブラウン」
「は、はい!」
「お前は嫌か?」
「い、いえ……ですが……」
チラチラとメイド長と女を窺う様子にジャレッドは合点がいった。
「セナはお前がいいらしい。お前は今日からセナ付きの侍女だ。いついかなるときもセナを優先しろ。異論は認めない」
「は、はい!」
「付いてこい」
ジャレッドはアリシアを伴って部屋を後にする。
メイド長とウーヴィという女性以外の三人は、アリシアを同情的な視線で見送った。
廊下を歩きながらジャレッドはアリシアに話しかける。
「お前は通いか?」
「は、はい」
「住み込みが可能なら城に住め」
「え……えぇ!?」
「何だ?」
「あ、い、いえ。わたしなんかがよろしいのですか? お城に住めるのは近衛や王族専属侍女だけだと……」
「お前はセナ付きだ。専属だろう。可能なら部屋を用意させる。無理は言わんがな」
「あ、ありがとうございます……精一杯仕えさせていただきます」
そんな会話をしている間、セナはアリシアのしっぽに目が釘付けだった。
住み込みが決まったところで、ちょうど部屋に着いた。
部屋にある物の説明を手短に済ませ、ジャレッドは部屋のドアに手をかける。
「己は少々出てくる。お前はセナを見ていろ。危ないこと以外は自由にさせて構わんが、今日は部屋から出すな」
「か、かしこまりました」
ジャレッドがセナの頭を撫でてから部屋を出ていくと、アリシアは「ふぅ……」と息を吐いた。それを見て、セナはトテトテと何かを持ってきた。
「……え? こちらは?」
「жжж!」
セナに渡されたものを見てみると、貴族の子供に人気の砂糖菓子だった。
「わたしが疲れていると思ったんですね。ですが、わたしはメイドですので…………うっ……わかりました。いただきます。あ! 美味しい……」
グイグイと押し付けられ、断りきれなかったアリシアは少しだけ砂糖菓子を齧る。すると普段食べられない甘さに思わず頬が緩んだ。
その様子を満足そうに見つめるセナに、アリシアは少々特殊な子なのだと思った。普通であればメイドに自身のお菓子など分け与えたりしないからだ。
「セナ様、改めまして。わたしはアリシア・ブラウンです。よろしくお願いいたします」
「アーжж」
「呼び方はお好きになさってください。さて、何して遊びましょうか? 絵を描きますか? ご本を読み……図鑑をご覧になりますか?」
言葉がわからないのなら文字も読めないのではと、アリシアは図鑑を選んだ。
アリシアが笑顔で紙や図鑑を持ち上げるのを見て、一緒に遊んでくれることを理解したセナは笑顔でアリシアの手を取った。
◇
アリシアにセナを任せたジャレッドはアリシア用の部屋を用意するように指示を出し、誰もいない廊下の片隅で長年自身と共に生きてきた従魔を影から呼び出す。
『親びん、久しぶりー。どしたー?』
「少々調べてくれ。メイド長とウーヴィ・チスタという女だ」
『わかったー』
先ほどのセナの様子を不審に思ったジャレッドは先ほどの二人を調べるように命令した。
ジャレッドの従魔は【ダークアイ】という闇属性の魔物で、種族の名前の通り闇の一つ目である。空中に浮遊し、気配を殺せるため諜報に長けている。
「待つ間に古代語を調べておくか」
セナは従魔も面白がりそうではあるが、アリシアには刺激が強いと睨んだジャレッドは報告が来るまで書庫で時間を潰すことにした。
◇
お昼にジャレッドが部屋に戻ると、セナが笑顔で出迎えた。
「何だ、待っていたのか? わかったから引っ張るな」
引っ張られたジャレッドが席に着くと、同じテーブルにアリシアが座らされていた。
申し訳なさそうにしているアリシアに、セナは嬉嬉として料理を取り分ける。
「セナ様、わたしはメイドですので、一緒にお食事など……」
「アチャ!」
「構わん。お前の分も用意させている」
セナの様子を見て、アリシアは畏れ多くも食べなければいけないのだと悟った。
セナは両手を合わせて何かを宣言した後、すぐに食べ始める。おなかが空いていたらしい。
「それよりアチャとは?」
「わ、わたしのことです」
「おい、己は呼ばんのか?」
「?」
大きく口を開けて、パンを食べようとしていたセナはコテンと首を傾げる。
「己はジャレッド・ジュラルだ」
「ジжжжジ……ジィジ?」
「……ブハッ。己は爺か! 歳を食ってるからな。まぁ、よかろう。己にそんなこと言えるのはお前くらいだ! ハハッ!」
楽しそうに吹き出したジャレッドを見て、アリシアは目を丸くした。昨日見た微笑みでも意外だったのに、まさか表情を崩すくらいの笑顔を見ることになるとは、殊の外驚きだった。
「爺と呼ぶのは構わんが、それは食え。さり気なく己の皿に入れるな」
「アチャ!」
「己が食わんからといってそいつに渡すな。そんな顔をしても無駄だ。食え」
むくれるセナの世話を焼くジャレッドの姿に、アリシアは流血王のイメージがガラガラと崩れていく。
顔は怖いが、噂に聞いていたほど恐ろしい人物ではないんじゃないかという気になってくる。その一方で粗相をすれば殺されるという恐怖も拭えず、アリシアの頭は混乱していた。
驚きと混乱で味のしない食事を終え、食器を片付けたアリシアにジャレッドは天狐の護符を渡した。
「それを肌身離さず持っていろ」
「こ、こちらは?」
「ティンコ!」
「そう。こいつの親代わりのやつが描いた護符だ」
「護符……ありがとうございます」
アリシアは特に疑問に思わず受け取った護符を大事そうにポケットにしまった。
天狐の護符は強い。村などを守る護符は好意だが、天狐自身に理のない場合、普通の貴族には手が出せないくらいの法外な値段で取り引きされている。
知っていればアリシアの性格から拒否されそうだと思っていたジャレッドは、これからのことを考え、内心胸を撫で下ろした。
あなたにおすすめの小説
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜
シュガーコクーン
ファンタジー
女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。
その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!
「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。
素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯
旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」
現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
旧題:フェンリルに育てられた転生幼女。その幼女はフェンリル譲りの魔力と力を片手に、『創作魔法』で料理をして異世界を満喫する。
赤ちゃんの頃にフェンリルに拾われたアン。ある日、彼女は冒険者のエルドと出会って自分が人間であることを知る。
アンは自分のことを本気でフェンリルだと思い込んでいたらしく、自分がフェンリルではなかったことに強い衝撃を受けて前世の記憶を思い出した。そして、自分が異世界からの転生者であることに気づく。
その記憶を思い出したと同時に、昔はなかったはずの転生特典のようなスキルを手に入れたアンは人間として生きていくために、エルドと共に人里に降りることを決める。
そして、そこには育ての父であるフェンリルのシキも同伴することになり、アンは育ての父であるフェンリルのシキと従魔契約をすることになる。
街に下りたアンは、そこで異世界の食事がシンプル過ぎることに着眼して、『創作魔法』を使って故郷の調味料を使った料理を作ることに。
しかし、その調味料は魔法を使って作ったこともあり、アンの作った調味料を使った料理は特別な効果をもたらす料理になってしまう。
魔法の調味料を使った料理で一儲け、温かい特別な料理で人助け。
フェンリルに育てられた転生幼女が、気ままに異世界を満喫するそんなお話。
※ツギクルなどにも掲載しております。
過保護すぎる家族に囲まれて育ったら、外の世界が危険すぎました 〜冷酷公爵の父と最強兄たちに溺愛される日々〜
由香
恋愛
過保護な父と兄たちに囲まれて育った少女。
初めての外は危険だらけ——のはずが、全部“秒で解決”。
溺愛×コメディ×ほんのり成長の、ほっこり家族物語。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。