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第三部 12章
癒し同盟
セナ付きの侍女となったアリシアは自由奔放なセナに振り回されていた。
何かあるごと……いや、何もなくてもしっぽに触れようとしてくるセナを注意、何にでも興味を持つセナを注意、散らかされた部屋の片付け、汚れも気せず遊ぶセナの服を洗濯、キッチンに邪魔して自ら料理したがるセナの付き添い……と、到底王族専属とは思えない、平民の子供を相手にしているような毎日。
ただ、見栄やプライドや権力とは程遠い天真爛漫なセナにアリシアは救われていた。
流血王のお気に入りの女の子ということで、不安しかなかったアリシアだったが今では吹っ切れ、年の離れた兄弟のお守りをするように接している。それは堅苦しいのを嫌うセナも喜んでいた。
この世界の単語をいくつか覚えたセナにより、以前よりは幾分か意思疎通もできるようになった。
ジャレッドはアリシアにセナを任せつつ、セナの言語について調べていたが、これはまだ解決していなかった。
かなりの時代を遡ってもセナが理解できる言葉ではなかったのだ。
◇ ◆ ◇
朝ご飯を終えたジャレッドに、アリシアが話しかける。
「あの……」
「ん?」
ちょうどそのタイミングでジャレッドに天狐から連絡が届いた。
「これから天狐が来るら……」
「セナちゃ~ん!! 会いたかったわぁ!」
「!」
ジャレッドが二人に言い終わる前に三人の前に天狐が現れ、セナに抱きついた。
いきなり現れた天狐に、アリシアは驚いてティーカップを落としそうになってしまった。
「ティンコ?」
「そうよ~。ちょっと疲れちゃったから、アタシを癒して?」
天狐がスリスリとセナの頭に頬ずりすると、セナはお返しに天狐の頭を撫でてあげる。これは天狐がケガをして戻ってきてからの天狐のお気に入りの行動だ。
「何だ。子供みたいに」
「セナちゃんとくっ付いてると癒されるのよ」
「わ、わかります! あ! 申し訳ございません……」
「いいわよ。あなたは?」
「セナ付きになった侍女だ。名をアリシア・ブラウンという」
「そうなの。アタシの子、可愛いでしょ?」
「はいっ!」
「……いつからお前の子供になったんだ?」
「ん~……最初から? 子供なんて面倒だと思ってたけど、可愛いし憎めないのよね」
悪びれもなく言う天狐にジャレッドはため息を吐いた。
「……まぁ、いい。どうだったんだ?」
「アタシが見た限りだけど、外はいつもより雪が多くて、魔物が全体的に増えてるわね。今のところそこまで被害は出ていないわ。ただ、この先も続くと危ないかもしれない……って感じ」
「原因は?」
「そこまでは至っていないわ。あら、ありがとう」
天狐はアリシアが淹れた紅茶を受け取って口を潤した。
「ねぇ、あなた目治ったの?」
「は? ……嫌味か?」
「前より傷痕薄くなってると思ったんだけど……」
「…………気のせいだ」
「あら。そう?」
ジャレッドは少し心当たりはあるものの、自分でちゃんと確認したわけではないので、話しを終わらせた。
「セナの方は何かわかったのか?」
「それが調べてるんだけど、わからないのよ。そもそも、やっぱりアタシの魔法陣が起動してなかったの。だから何でアタシのところに来たのか謎なのよね。全く困っちゃうわ。ね? セナちゃん」
膝の上に乗せたセナに同意を求めると、セナはコテンと首を傾げる。
「あぁ……んもう、可愛いんだから。そうそう。アリシアちゃん、あなたしっぽ気を付けた方がいいわよ?」
「え……あの……その……」
「もう手遅れだ」
「……はい」
ジャレッドがハッキリ言うと、アリシアは顔を赤くして俯いた。
「あら! セナちゃんったら。獣族のしっぽは触っちゃダメって言ったでしょ?」
「モフモフ!」
「ごめんなさいね? 他のことは言うこときくのに、しっぽだけは注意しても触るのよね……しかも幸せそうな顔して」
「そうなんです! だから強く言えなくて……」
「あなたとは気が合いそうだわ。この服もあなたが用意したの?」
「はい。セナ様はよくお洋服を汚されますので……」
「そうなのよ! 前にもね……」
「一気に姦しくなったな……」
天狐とアリシアの話が盛り上がり、ジャレッドは会話に入ることを止めた。
話に夢中の天狐の膝の上にいるセナを手招きで呼び、セナと一緒に図鑑を眺める。
しばらく経っても二人の話しは留まることなく、セナはジャレッドに助けを求めた。
「ジィジ……」
「ん? あぁ、腹が減ったのか。菓子食うか? ちょっと待ってろ……ほら」
セナの様子を見てピンときたジャレッドはセナ用のお菓子ストックからセナのお気に入りのお菓子を持ってきた。
受け取ったセナはジャレッドと半分こして食べ始める。
「お前はいつも分け与えるな」
「いっしょ、おいしい」
「ふっ。そうか……ん?」
ジャレッドは不意に訪れた沈黙に天狐とアリシアの方に顔を向けた。
「アリシアちゃん……見た?」
「はい」
「アレが笑ってたわ……」
「あの……セナ様とご一緒のときはよく笑われています」
「えぇ!? この朴念仁が!?」
アリシアは〝はい〟と言うわけにはいかず、曖昧に笑ってやりすごす。
「……お前……」
「だって知り合って此方あなたの笑顔なんて見たことなかったもの! いっつもブスっと無表情じゃない。そう……セナちゃんはジャレッドの心も癒したのね……」
ジャレッドは〝笑わないわけではない〟と言ってやりたかったが、普通に接してくるセナに過去のわだかまりが癒させてることは確かなので、反論することができなかった。
「いい傾向ね! セナちゃん、もっと表情豊かになるようにしてあげてね。あぁ、怖い、怖い。睨まないでちょうだい」
ジト目を送るジャレッドに天狐は大げさに怖がってみせる。
そのやり取りを見て、アリシアは「ふふっ」と笑い声が漏れてしまった。
「あ……申し訳ございません」
「いいのよ、いいのよ。この人にかしこまることないわ」
「それは己のセリフだ」
「そうね! アタシにもかしこまらなくて大丈夫よ! 元々そういうの好きじゃないし」
言い返したジャレッドを放置して、パンッと手を叩いた天狐にアリシアは驚いた。
「え……ですが……じゃあ、天狐さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」
ニコニコと笑顔を向けてくる天狐にアリシアが案を出すと、天狐はニッコリ笑って頷いた。
「もちろん。何なら敬語もいらないわ。アタシ達セナちゃんの可愛いツボ一緒だもの」
「敬語は……流石に……ですが、嬉しいです!」
「うんうん。やっぱり女の子は笑顔が一番ね! 敬語は慣れてからで大丈夫よ」
アリシアは〝敬語はなくせそうにない〟と思いつつも、天狐の気持ちが嬉しかった。
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