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第三部 12章
地下帝国はお酒に強い
翌日、ジィジ達の下に送ってもらった私達は、改めてジィジ達に自己紹介。
スタルティは記憶を取り戻したことを喜んでくれた。
継母に邪険にされていたスタルティはジルと仲良くなり、魔法や剣の使い方の談義に花を咲かせている。
〈む……何だその目は〉
「古代龍なんて……調べてみたいわ」
〈は?〉
「ちょっと触らせてくれない?」
〈やめろ! セナ!〉
天狐に興味深げに見られたグレンは、何かを感じたのか私に助けを求めてきた。
珍しく狼狽えるグレンに笑ってしまう。
「ふふっ。天狐、止めてあげて?」
「あら、残念!」
天狐は無理矢理調べたりはしないようで、すぐにグレンから視線を離した。
「ジィジあっちは?」
「まだだな。今日は何もなさそうだ」
「そっか。じゃあ、街でお買い物していい? 冒険者ギルドでお手紙も出したいんだ」
「構わん」
ジィジに許可をもらった私達は、街に向かう。
道中、天狐に名前はないのか聞いてみると、〝天狐〟という種族は一人しかいないから、今まで名前が必要なかったそう。「何ならセナちゃんが付けていいわよ」なんて軽く言われてしまい、私は悩む。
日本で〝天狐〟といえば神の使いだったり、妖怪に分類されている。私の勝手なイメージだけど、似たような〝金狐〟や〝銀狐〟、〝白狐〟や〝黒狐〟は〝天狐〟より下な感じがするんだよね……
「あ! ニキーダは?」
「不思議な響きの名前ね。セナちゃんが考えたならそれでいいわ。ニキーダね……ふふっ。これからはそう名乗るわ」
特に不満はないらしく、天狐は嬉しそう。
ニキーダはダーキニー。荼枳尼天のこと。狐の神使を持つ仏教の神様だ。
私の頭では日本神話に出てくる宇迦之御魂神と荼枳尼天しか思いつかなかった。二神共、神使が狐であって神様自体が狐なワケじゃないんだけど……
勝手に名前を使って怒られちゃうかな? 今度パパ達に伝えてもらおう……
◇
街に到着した私達は冒険者ギルドでお手紙を出し、その後お買い物。
まずグレン待望の辛味酒を買いにきたんだけど……
「すごい量だね……」
酒屋さん自体も多かったけど、お店に置いてあるお酒もすごい……
ワインやエールはシュグタイルハン国と変わらないのに、辛味酒の種類が多すぎる。ざっと見ただけでも樽入りの辛味酒が二十はありそう。
「辛味酒は地域や作っている村、種族によって味が違うのよ。これなんかは濃くて喉が焼けそうになるわ」
「試飲ってさせてもらえたりするかな?」
「飲むのか?」
天狐――ニキーダの説明を聞いて、私が希望を伝えると、ジィジに鋭い目を向けられた。
ジィジは私に飲ませたくないらしい……
「グレンが飲んで決めたがると思って。私はカクテル作りたいから、薄くて甘口がいいな」
「店主、どうなんだ」
「はいぃ! 大丈夫ですぅぅ!」
ジィジを前にビクビクしている店主にジィジは冷たい視線を送っている。
ちょっと呆れ気味の雰囲気なのが私達にはわかるけど、店主には睨まれているようにしか見えないみたい。
〈飲んでいいのか!?〉
「大丈夫だって。グレンは店主さんに案内してもらってね。気に入ったやつ買うから」
〈わかった!〉
『飲みすぎないでよね!』
《飲みすぎたら置いていけばいいのよ》
テンションの上がったグレンにクラオルとプルトンから注意が入る。
グレンは店主を急かし、奥に入って行った。奥のから試飲するつもりみたい。
「セナちゃんはいいの?」
「私は匂いを嗅げば何となくわかるから、飲まなくても大丈夫だよ」
それに毎度ビビられるジィジがいい気分じゃないだろうからね。離れた方がジィジも気持ち的に楽だと思うんだ。
「その代わり、教えてくれる?」
「もちろんよ! 薄くて甘いやつだったわよね? それならこっちよ」
手を引かれてゾロゾロと移動する。
ニキーダの説明を聞いていると、寒ければ寒いほど強いお酒が造られていることがわかった。
ウォウォカ種と呼ばれている植物のタネと降った雪を樽に入れて放置すると辛味酒になるらしい……何とも異世界を実感……
同じように造ってるのに、濃さや甘さは地域によって異なるんだそう。それについては外気温で変わるんじゃないかな?
ジルや精霊達にも欲しい辛味酒がないか聞いてみたんだけど、彼らは特に希望はないそう。むしろ私が言ったカクテルの方が気になるらしい。
みんなも飲むならいっぱい買わないとね!
「あれ? あのお世話になってた村の辛味酒はないんだね?」
「あぁ~。あそこはあんまり他と交流しないのよねぇ」
「そっかぁ。ないならしょうがないね」
「あら、何言ってるの? 村に直接もらいに行っちゃえばいいじゃない。セナちゃん仲良くなってたから、きっとくれるわよ」
「いいの? 大変じゃない?」
「うふふ。大丈夫よ。ママに任せなさい」
「ありがとう!」
流石頼りになるママ!
いつ行くか相談していると、グレンから〈セナー! 決まったー!〉と大声で呼ばれた。
〈我はこれがいい!〉
上機嫌のグレンがバンバンと叩く樽のウォッカの匂いを嗅がせてもらうと、嗅いだ瞬間、鼻がガッ! となった。
ものすごく濃くて超辛口だ。
私が飲んだら口から火を吹きそう……
「イグ姐も強いの好きって言ってたから、まとめて買っちゃおうか? えっと……これ、どれくらいありますか?」
「じゅ、十はあります!」
「じゃあ、これを十樽と、向こうのジィジが立ってるところにある辛味酒をあるだけ下さい」
「あるだけ……」
「ダメですか?」
「い、いえ! すぐご用意します!」
アタフタと店主がどこかに行くと、一人の屈強なゴリゴリマッチョが樽を運んできた。
「配達は城か?」
「ううん。買うのは私だから持って帰るよ」
「嬢ちゃんが!? ……ハッハッハ! 全部運んでくるからちっと待ってろよ! ハッハッハ!」
何故笑われたんだろうか……
笑いながら去っていったゴリゴリマッチョに首を傾げる。
全て持ってきてもらうと、カクテル用に頼んだウォッカが三十樽以上だった。
ゴリゴリマッチョいわく、薄すぎてなかなか売れないけど、酒に慣れる練習にはいいだろうな。とのことだった。
グレンの方は逆に濃ゆすぎて一般的ではないものの、一定数は買い手がつくらしい。
「酒に慣れなきゃ一人前とは言えねぇからな! 頑張んだぞ! ハッハッハ!」
ゴリゴリマッチョは私の頭をガシガシと乱暴に撫で、笑いながら戻って行った。
この国……というか、周辺諸国も赤ちゃんのころからお酒を飲ませて体を慣れさせる習慣があるそう。
(日本だったら大問題だね……流石異世界……)
昼からお酒~よりも、朝目覚めの一杯飲んでから仕事に向かう人が多いらしい。
一杯で済めばいいけど……でもお酒臭い人いないんだよね。アル中にならないのかねぇ?
気を取り直してお会計をすると、思っていたより安かった。私が頼んだウォッカが売れないから大幅に値下げしてくれたらしい。
ありがたいのでそのまま支払いを済ませる。
「次はどこに行きたいの?」
「食材とか薬草見たいんだけど、商会とかある?」
「薬草に関してはアタシがいいところ知ってるからそっちに行きましょ? 商会は……ジャレッドの方が詳しいんじゃない?」
ジィジは少し考えた後、「城に出入りしている商会ならわかる」と案内してくれることになった。
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