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第三部 12章
天狐とお出かけ【2】
おじさんへのお礼を考えていると、違う村人達が通りかかった。
「あんれまぁ! 天狐さんとセナちゃんじゃないか。久しぶりだねぇ」
「久しぶり!」
私が返事をすると、おばさん二人は「あらあらあら!」と驚いた。
「喋れるようになったのねぇ!」
「うん!」
「それはよかったねぇ! ……って、あらヤダ。この子達寒そうだわ」
「そうね、上着とマフラーしかしてないわ」
私の頭を撫でていたおばさん達は、グレンとジルを頭からつま先までじっくりと見つめ、「うん、大丈夫そうね。ちょっとこれ持ってて」と小さな釣り竿とバケツを渡していなくなった。
〈何だったんだ?〉
「さあ?」
おばさん達の勢いで受け取っちゃった釣り竿を片手に首を傾げる。
おじさんはクスクス笑っているからおばさんの行動がわかっているのかもしれない。
首を捻っていると、後ろからおばあちゃんに呼ばれた。
「セナちゃん、この三つも熟成しているから持っていけるよ」
「ありがとう!」
「ん? お嬢ちゃんが飲むのか?」
「うふふ。違うわ。セナちゃんは料理に使うのよ」
「は!? これをか?」
「そうよ~。すごいでしょ?」
「い、いや、すごいっつうか……」
おじさんが何か言いたげに天狐と私を交互に見ていると、おばさん達が息を切らせて戻ってきた。
「「お待たせー!!」」
「年甲斐もなく走っちゃったわ! ん? あらヤダ、なーに?」
「何でもないわ。それよりその荷物は?」
おばさん達は二人して首を傾げたけど、天狐に流された。
「これを取りに行ってたのよ! じゃーん! どうかしら? ちょっと着てみてちょうだい!」
おばさんは早口でまくし立て、グレンとジルに持ってきた服やら帽子やらを着せていく。
グレンもジルも勢いに呑まれ、おばさん達のなすがまま。
「あ! 可愛い!」
「でしょお? 前に作ってたんだけど、着せる人がいなくてねぇ……ちょうどいいと思って。やっぱり若いと何でも似合うわね!」
おばさんはグレンをバシバシと叩きながら笑った。
グレンはニット帽とマフラー、ジルはニット帽とポンチョ。二人に共通しているのは、おばさんが編んだというノルディック柄のような模様がやたら似合っていること。
ジルを担当していたおばさんに「セナちゃんにはこれがいいんじゃないかしら?」と渡されたのは耳付きニット帽、ポンポン付き。これも同じ模様で編まれていた。
「もらっちゃっていいの? 売り物とか誰かに渡すものじゃないの?」
「アハハハ。趣味よ趣味! 昔は売ってたけど、昔ながらのこういう模様は売れないのよ」
「えぇ!? こんなに可愛いのに??」
ノルディック柄のようなこの模様はこの世界では伝統工芸みたいな扱いなんだろうか?
日本だと毎年冬のシーズンに一度は見かける柄だし、普通に可愛いと思うんだけどな……この世界の美的感覚とか流行りはよくわからん。
「あら、ヤダ! ちょっと聞いた!? 相変わらずいい子ねぇ。セナちゃんが嫌じゃなければもらってちょうだい」
「ありがとう! とっても嬉しい!」
「まぁ! そんな笑顔だとおばちゃん達も嬉しくなっちゃうわ!」
早速被ってみると、喜ぶおばさん達はちょっと目が赤かった。
「あら、ヤダ! ずっと持たせちゃってごめんなさいね」
「ううん、大丈夫だよ。この辺って釣りできる場所あるの?」
釣り竿を返して疑問を投げかける。
私は採取のときしか村から出ていないけど、周りは雪深くて海はもちろん川や池も見たことがない。それに村では魚料理も出てこなかった。
「あるわよぉ。池がね。凍った池に穴を開けて釣るのよ」
ふぁ!? それは……もうあれしかなくない!?
「ここ一年くらい天気が荒れてるでしょ? なかなか獲物が取れなくてね。例え小さな魚でもないよりマシなのよ」
おばさん達は日々の献立に苦労しているみたい。
非常食材みたいな扱いなのかな?
「魚ってこれくらいのちっちゃいやつ?」
「そうそう! 赤ちゃんみたいなやつよ」
「私も行ってもいい?」
「もちろんよ! ヒマだけど、それでもよければいらっしゃい!」
〈ん? セナ、料理か?〉
「うん」
「「料理……?」」
揃って首を傾げられ、私が料理を作ることを天狐が説明してくれた。
グレンとジルに行ってもいいか聞くと、クラオルに『主様釣り下手くそだったじゃない。二人を連れて行かなくてどうするの?』とツッコまれた。
「ごもっともでございます……」
〈我がたんまり釣ってやる〉
「僕も頑張りますっ」
「二人共ありがとう!」
村長には戻ってくることを伝え、おばさんの案内で道無き道を進む。
荒れてるんじゃなくて、雪で見えないの! おばさん達いなかったら迷子になりそう。
「ここよ! ちょっと待ってね。今、穴を開けてあげるわ」
おばさんが地面に広がる氷に手をかざし、「フッ!」と勢いよく息を吹きかけると……穴が開いた。
息吹きかけただけで穴が開くとかちょっと怖いんだけど……これも前に村長がやった魔法(?)と似た感じだろうか?
おばさん達はせっせと準備してくれ、大まかな説明を受ける。日本のわかさぎ釣りと同じように、針が何本も付いた糸を使うみたい。
釣り竿を貸してくれそうになって、持っている竿を見せると、糸だけ換えてくれた。
日本と違うのは、イスじゃなくてラグに座ること。お尻から冷えそうなもんなのに全然冷たくない。風はプルトンが結界で防いでくれた。
っていうか、おばさん釣り竿とバケツ持ってただけなのにどこから出したんだろ? ってポッケ!? マジックバッグならぬマジックポケットなの!?
驚いて言葉を失っていると、「準備万端よ」と声がかかった。
私も一応釣り糸は垂らすけど……
まぁ、期待はできないよね。グレンとジルに期待しよう!
「……なんて思ってたのにぃ! ぐふふふ。また釣れた~!!」
この世界に来てからまともに釣れたことなかったのに、今日だけは入れ食い状態。
私の代わりにグレンが釣れなくなっちゃって、天狐と一緒に狩りに行ってしまった。
しばらく釣りに没頭して、大漁大漁!
「セナちゃんすごいわ……こんなに釣れたの見たことないもの」
「そうそう。ジルベルト君くらいがいつもの感じよ」
ジルのは二十匹くらい。
三時間くらいでこんなに釣れたら、間違いなく多いと思うよ? わかさぎ釣りってそんなに釣れるイメージないもん。
「もう少し釣ったら戻るわよぉ」
「はーい!」
なるべく釣っておきたい私は気合いを入れて釣りを再開。
一時間後、グレンと天狐が戻ってきたのを合図に、釣りは終了。
大量の魚を見て、天狐が褒めてくれた。
釣りって、釣れると楽しいよね!
グレンもいい獲物を仕留めたらしく気分上々。ニット帽とマフラー姿で喜ぶ姿は可愛い。
◇
村に戻ってきた私は村のド真ん中でコンロを出し、グレウスに簡易竈を作ってもらった。
グレンが仕留めた巨大な猪と熊は村人総出で解体してくれている。
今回作るのは佃煮と天ぷらと猪鍋。
わかさぎっていったら鉄板だよね!!
ジルに手伝ってもらい、小さなわかさぎを甘辛く煮詰めていく。
その間に釣れた中でも大きめなわかさぎを天ぷらに。
解体が終わって戻ってきた村人達は嗅いだことのない匂いに、興味津々に見ている。
醤油と味噌があって本当によかった!
「完成ー!!」
「「「「おぉー!」」」」
「みんなで食べよー!」
「え? これはセナちゃん達のご飯じゃないのかい?」
村長のおばあちゃんに戸惑ったように聞かれ、「いっぱいお世話になったから」と伝えると、「ありがとうねぇ」と瞳をウルウルされた。
(そんな感動されるようなものじゃないんだけど……喜んでくれてるからいいのかな?)
食器は各々持参してもらい、パンも一緒に渡してあげる。
食べた村人達は驚きながらも、口を揃えて「美味しい」と言ってくれた。
村のご婦人方には作り方を矢継ぎ早に聞かれ、教えると毎度お馴染みの醤油と味噌に驚かれた。
男性陣は佃煮が「酒のツマミに最高だ」とめっぽう気に入ったみたいで、女性陣は「毎日釣りに行くわ! ミソの実もショユの実も採らなくちゃ!」と息巻いている。
いつの間にか、ただの夜ご飯がそのまま宴会へと突入し、暗くなっても村には明るい笑い声が溢れることになった。
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