文字の大きさ
大
中
小
303 / 502
第三部 12章
流血王のイメージ
◇
その後、呆然とやり取りを見ていた貴族達を帰らせ、私達は執務室に移動した。
ジィジが「罪を犯した者は処罰する故、覚悟しておけ」なんて脅してたから、何人かは証拠隠滅に躍起になっていることだろう。
ジィジいわく、それが狙いで、普段とは違う行動をする人物を調べるらしい。
王妃が自供したころから王様は心ここに在らず。ジィジに促されて移動は普通にしてたけど、それから一言も発していない。
「あ、なるほど。ねぇ、ジィジ。この人魅了解けかけだよ」
鑑定してわかったことをジィジに伝えると、ジィジは「魅了……」と呟いて思案顔になった。
普通に光魔法で解いてもいいんだけど……ここはちょっとお灸を据えたいところ。
プルトンとウェヌスに念話で頼んで強固な結界を張ってもらい、クラオルとグレウスはグレンの肩に避難してもらう。
そこで私は無限収納からある物を取り出した。
それを放心状態の王様の鼻先へ持っていく。
「グァッ!! ヴーッ!!」
「気が付いた?」
「な、何だソレは! ゔぅ……や、やめろ……近付けるな……ぐざいぃぃ……やめてくだざい……」
鑑定で正気に戻ったことを確認してから無限収納にしまう。
王様は苦渋の表情で息も絶え絶え。
クラオルやグレンから「うわぁ……」と引き気味の声が聞こえた。
「セナ? それは何だ。何故結界を張った?」
「これ? これは腐呪の森で見つけたハカールの粉だよ。超臭いの」
部屋に浄化をかけ、臭いを消すとプルトンとウェヌスが結界を解く。
「魅了は解けたから大丈夫だよ」
「そ、そうか……話せるか?」
「……ゔぅ……何とか……鼻から臭いが取れません……」
〈当たり前だ。あれは強烈だからな〉
「……はい……とてつもないです……あの、あなたは?」
今気付きましたと言わんばかりにグレンを見つめる王様に簡単に自己紹介。
グレンが古代龍ということやクラオルを従魔にしていることに驚かれた。
「……魅了されていた私が悪いとは思いますが……もっと別な方法はなかったのですか……?」
涙目で聞いてくる王様に私はニッコリと笑顔を返す。
いくら魅了されていたとはいえ、今までスタルティを傷付けていた王様だからね。私としては充分甘い罰だと思うよ?
「どこからどこまで覚えてるの?」
「一応、記憶はあります。こう……ボヤーっとしていますが……」
私が話題を変えると、王様は鼻を押さえながらも気まずそうに答えた。
「今思えば、会う度に魅了をかけられていたようです……すまない。スタルティ……」
王様がスタルティに手を伸ばすと、スタルティはスーッと避ける。拒否された王様はハッ! と瞬き、悲しそうに目を伏せた。
「まぁ、当たり前よね。あなた元々乳母に丸投げで、スタルティとロクに話もしてなかったんでしょ? 虫がよすぎるわ」
「そう……ですね……何一つ父親らしいこともしていませんでした」
「お爺様とアリシア、それにセナ達がいるのでお構いなく」
天狐に追い打ちをかけられ、肩を落とした王様にスタルティが無表情のまま答えた。
幼少期に受けた傷は深い……
「うむ。このままではスタルティの父親とは認められん。それに……今後のことの方が優先だ」
ジィジは言葉を濁したけど、おそらく王様の進退問題のことだよね。
魅了され、利用されていた責任をどう取るか……って感じかな?
でもさ、この王様を引退させたとして、次の王様は誰になるんだろ? スタルティはまだ子供だし、ジィジが復権? もしくは王様の兄弟とか? 兄弟がいればだけど……誰がなるにしても、城下の人達がすごしやすいようにしてほしい。
「お前がアレにうつつを抜かしている間に不正や詐欺が横行し始めている。先日妖精売買の一端を捕らえた」
「そんなことが……申し訳ありません……身から出た錆。お爺様の処罰を謹んでお受けします」
「ん? 何故そうなる?」
「え……違うのですか?」
「はぁ……お前もか。どこかの誰かもクビにされると勘違いしていたな」
ジィジが言うと、アチャが気まずそうに顔を背けた。
天狐は「流石〝流血王〟だわ~」と爆笑。そんな天狐をジィジがジト目で睨んだ。
「己は罪も犯していない人をそんなホイホイ殺したりはせん」
「ですが……今後のこととおっしゃったのは進退の話なのでは?」
「違う。今後の政策や取り締まりのことだ」
あ、そっちね。ごめん、ジィジ。私も勘違いしてたわ。
「フッ。そんなに罰を受けたいと言うのなら、先ほどの粉と共に部屋に閉じこもるか?」
「あ、ああああれは勘弁して下さい……」
ジィジがニヤリと言うと、王様は慌てて鼻を押さえた。
確かに臭いけど、そこまでかな? 袋開けてなかったよ? 開けたらどうなったんだろ?
「まぁ、冗談はおいておこう。スタルティはどう思う?」
「そうですね……取り締まりを強化し、その報告を随時お爺様が受け取れば把握できるのではないかと思います。私兵を動かすのも最小限に抑えられるでしょう」
「ふむ。よく考えたな」
スタルティはジィジに頭を撫でられて嬉しそうに目を細めた。
その後ジィジ達は今後の話し合い。
私達は暇なので、執務室にテーブルとイスを勝手に出してティータイム。
「セナ様、こちらは新しいお菓子でしょうか?」
「あ! それね、アチャが作ってくれる焼き菓子だよ! 【丸ぼうろ】そっくりで大好きなんだ~」
〈ふむ。なかなかだな!〉
「あら、これ、セナちゃんがいつも食べてるやつじゃない。アリシアちゃんの手作りなのね。……うん。ふんわりとした甘さが美味しいわ」
「あ、ありがとうございます……」
天狐に褒められて照れるアチャに、ジルがレシピを質問。アチャはコツや隠し味なんかも教えてあげている。
私? 私はアチャにねだって一緒にキッチンにお邪魔してたからバッチリよ!
グレンの催促やクラオルからの希望でクッキーやラスクも出すことになった。
天狐もアチャもジャムサンドクッキーが気に入ったみたいで「美味しい!」と喜んでくれた。
しばらくお菓子の話で盛り上がり、そういえば聞きたいことがあったと思い出した。
「あ、そうだ。ねぇ、アチャ」
「はい。何でしょう?」
「街で新鮮な野菜とかこの地域の特産品みたいなの売ってるお店わかる?」
「えっと……申し訳ありません。お恥ずかしながらあまり裕福な家ではないので、他の貴族が行くようなお店はよく知らないのです」
〈セナはその方が喜ぶ〉
「え……そ、そうなのですか? 平民のお店でよければわかります」
「やった! 今度一緒に行こ?」
「……はい。かしこまりました」
笑顔で了承してもらえて、私の頭の中は買い物で埋めつくされる。
アチャが懇意にしていたところなら、この前みたいなぼったくりも、店員が嫌なやつってこともなさそう。
(うふふふ。楽しみ~)
感想 1,825
あなたにおすすめの小説
親に放置された四歳の末娘ですが、前世の知識で家のお金の使い込みを見つけて追放されました〜もふもふ聖獣と、おいしいものを食べる旅に出ます〜
子爵家の末娘リリア、四歳。家族の誰にもかまわれず、屋敷のすみで育ちました。
でも私には、前の人生の記憶があります。数字を見ると、勝手に計算してしまうんです。
ある日、お父様の帳簿のお金の使い込みを、うっかりその場で言ってしまいました。
返ってきたのは「出来損ない」の一言と、追放でした。持たされたのは銅貨23枚だけ。
いいでしょう。それなら、この銅貨23枚を開業資金にします。
森で助けた銀色のもふもふな子犬のフェンと一緒に、つぶれかけのお店を立て直しながら、おいしいものを食べる旅に出ます。
つぶれかけのパン屋さんは村一番の人気店に。ガラクタだらけの雑貨屋さんは町一番のお店に。
私はただの経理顧問。なのに、まわりが勝手に大騒ぎしていきます。
え? 今さら「家がつぶれそうだからお金を何とかして」?
……ふふ。数字は、うそをつきませんよ。
※本作は、既存作品を全面的に改稿(リライト)した作品です。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
結婚式の夜に愛人を連れてきたので、署名せずに帰ります
結婚式の夜、夫となったはずの侯爵さまが、披露宴の席に愛人を連れてまいりましたの。
「彼女も今日からこの屋敷に住む。君は正妻なのだから、寛大に受け入れるように」ですって。
義母は「騒げば恥をかくのはあなたよ」と微笑むし、お客さまたちは見て見ぬふり。まあ、皆さまそろって、なし崩しにするおつもりですのね。
けれど、おあいにくさま。この国の結婚は、式を挙げただけでは成立しませんのよ。婚姻誓約書に夫婦双方が署名し、三日以内に神殿へ納めて、はじめて夫婦。
――そしてわたくし、まだ署名しておりませんの。
既成事実は、事実ではございませんのよ。
捨てられた赤ちゃんを拾ったら、創世神様でした。世界を救うより、お父さんを幸せにしたいそうです
山で捨てられていた赤ちゃんを拾い、家族として育てることを決めた青年。
その日から、枯れた大地は実り、病は癒え、伝説のもふもふ神獣たちが次々と家へ集まってくる。
実はその赤ちゃんの正体は、この世界を創った創世神だった。
「いっぱい育ててくれてありがとう。今度は私がお父さんを幸せにする番だよ。」
これは、神様が初めて手に入れた”家族”との、優しくて温かな奇跡の物語。
夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。
七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!!
初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。
2024年5月 書籍一巻発売
2025年7月 書籍二巻発売
2025年10月 コミカライズ連載開始
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
側妃を紹介されたので、その婚約はお断りいたします
公爵令嬢ヴィオレッタは、王子の婚約披露の日に、もうひとりの令嬢を「側妃に」と紹介された。
逆らってはいけない――そう信じて微笑んだわたくしは、濡れ衣を着せられ、お腹の子を奪われ、雪の離宮でひとり息を引き取った。
けれど目を開けると、そこはあの婚約披露の日。時間が、巻き戻っていた。
今度は、飲み込まない。今度は、微笑まない。
前の生で覚えた数字も、罠も、あの女の手口も、ぜんぶ覚えている。
「その婚約、謹んでお断り申し上げます!」
涙を武器にする令嬢に、二度は負けない。そして――誰も見ていないと思っていた場所で、ずっとわたくしを見ていた騎士がいた。
これは、運命に流されるだけだったわたくしが、自分の人生を"選び直す"物語。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。