文字の大きさ
大
中
小
312 / 500
第三部 12章
王様達の計画
目の前に着いた途端、ギュッと抱きしめられた。
「天狐?」
「うふふ。心配で来ちゃった! これから入るの?」
「ううん。今さっき終わって出てきたとこだよ」
「あら! 流石セナちゃん! 早いわね! 体も冷えてるし、さっさと帰りましょ?」
私を抱えたまま、天狐がボソボソボソッと早口で何かを呟くと、ネラース達も全員、ジィジの部屋に転移していた。
あの人達そのまま置いて来ちゃったじゃん……まぁ、回復してあげたし、あの様子なら自力で戻れそうだよね。
「驚かせるな」
「ジィジただいま!」
「おかえり。手伝いに行ったんじゃないのか?」
「行ったわよ」
「あのね、ちょうど出たところで天狐と会ったんだよ」
「もう終えたのか。早いな。どうだったんだ?」
「みんなが手伝ってくれたからいっぱい手に入ったよ! あとね、生クリームあったの!」
「「なまくりぃむ?」」
ジィジと天狐、二人に首を傾げられ、私はダンジョンで手に入れた【ホイップフラワー】を出す。
「何だこれは?」
「これって確か、すごい寒いときに咲く花よね?」
「そう! 十一階層のセーフティーエリアで雪が降ってきてね、十二階層に降りたらいっぱい咲いてたの!」
「セナちゃんまさか……食べるの?」
「うん! 美味しいよ!」
ジィジはよくわかっていないみたいだけど、天狐は「これがねぇ……」と信じられない様子。
それなら作るしかないよね?
砂糖を混ぜたホイップクリームを食パンに挟んで二人に渡す。食べたジィジは「甘い……」と呟き、天狐は「おいしー!」と叫んだ。
「セナちゃん天才だわ!」
「女共が好きそうな味だな……」
ジィジには甘すぎたらしく、食べるのが遅い。そんなジィジから天狐が生クリームサンドを奪って食べ始めた。
「セナがダンジョンに行っている間に決まったことがある」
「決まったこと?」
「キアーロ国やシュグタイルハン国と話し合い、パーティーが開かれることになった」
「は!?」
ジィジの説明では――私がキアーロ国やシュグタイルハン国に戻ったら、ジィジとなかなか会えなくなる。それなら、キアーロ国やシュグタイルハン国と国交を結べば、情勢もわかるし、何かあったときに介入できると考えた。
……それで二ヶ国に手紙を送ったら、了承されたそう。
「セナの捜索に周辺国にも協力を求めたから、会わせたいらしい。セナに言うと嫌がるだろうからどうしようかと悩んでいたと書かれていた。パーティーなら一堂に会せるだろう?」
「えぇ……」
「己らも行く。ここから向かうと時間がかかるからな、ヴィーに送ってくれと頼んだ」
「マジか……もう決定事項じゃん……」
「あと、シュグタイルハン国のアーロン王から『俺達に心配をかけた罰だ。逃げるなよ』と伝言だ」
「う……」
くそぅ……釘刺された!
私抜きでやって欲しい……
天狐やアチャ、スタルティも一緒に行くらしく、天狐は「カッコイイ人いるかしら?」とテンションが高い。
しかも、すでに日程まですでに決まっているそう。
おばあちゃんが送ってくれるから、それまでは自由にしてていいらしい。
盛大に落ち込む私をクラオルとグレウスがスリスリして慰めてくれる。
もう腹をくくるしかないのかもしれない。
「そんなに嫌だったのか?」
「面倒じゃん……マナーとか言葉遣いとか……それに注目されたくない。自由がいい」
囲おうとされるのも嫌だし、利用しようと絡んでくるのも嫌。
「なんだそんなことか」
「え?」
「うふふ。セナちゃんに何かしてきたら……任せてちょうだい」
笑う天狐の紅い瞳がキラリと煌めいた気がした。
〈我がいるだろう〉
不満そうに口を尖らせるグレンに思わず笑みが浮かぶ。
「そうだね。みんなが一緒だもんね。一日だけ頑張ろう! それに国交が繋がったら、ホイップフラワーが向こうでも手に入るだろうし、悪いことばかりじゃないよね」
「そうね! ってことは、逆もあるわよね? こっちではなかなかない薬草や面白いものが手に入るわ!」
天狐も輸入品に興味があるらしい。
今まで私が見てきたものや採取したものを「こんなのがあるよ」と説明すると、俄然行く気満々になった。
「ふむ。そういった書類もまとめねばならんな……上手くいけば豊かになる」
「ホイップフラワーもリストに入れてね!」
「あれをか? 確かに女が好きそうではあるが……」
「ジィジ甘い!! 絶対売れるし、売る方法もあるんだよ!」
「売る方法? 一方的なのはいかんぞ」
ジィジをビシッと指さすと、やんわりと腕を下ろされた。
「むぅ。そんなことしないよ! 普通に売っても活用法がわからなそうだから、レシピ登録すればいいと思うの」
「レシピ登録って商業ギルドのか?」
「そうそう。料理の作り方と一緒に素材を売り込むんだよ」
「それが可能なら売れるだろうが……」
「レシピは任せて!」
ジィジのためなら一肌脱ぐよ! それに私も普通に手に入るようになったら嬉しいしね!
タルゴーさんに言ったら大喜びで広めてくれそうだ。
一番の問題は劣化。おそらく、要冷凍ないしは要冷蔵。
それを伝えると、それは問題ないと返ってきた。この国に多い雪族は氷魔法が使える人が多いらしい。天狐が口添えすれば村単位で協力が仰げるそう。
売れることを予想して、買い取りを強化しなければならない。
そのため、先んじてこの国でレシピ登録することになった。
「ねぇ、セナちゃん。前に登録したレシピってなーに?」
「えっとね……ジャムパンと、ナッツパンと、ドライフルーツパンと、カレーと、ベビーカステラと……あと何だっけ?」
「キーウィのスムージー、スイートポテト、すき焼き、トンコツスープでしょうか?」
〈スモークチーズやスモーク卵もあったぞ〉
天狐の質問に私が答えきれずにいると、ジルとグレンが補ってくれた。
それを聞いたジィジは「そんなにか……」と、ちょっと引き気味。
「パンってパンよね? それ以外は想像もつかないわ」
〈どれも美味しいぞ〉
「セナ様は料理だけではなく、便利道具も登録しています」
「はぁ……規格外だと思っていたが、ここまでとは……」
「流石セナちゃん! すごいわ! 料理が上手だとは思ってたけど、多才なのね」
ため息をつくジィジとは対照的に天狐はニコニコと私の頭を撫でる。
他にも料理や道具に使えるものがあるかもしれない。
ジィジと天狐にこの国で手に入るものを聞き、輸出可能品をリストアップしていく。
逆にジィジ達は、グレンやジルからこちらにはないものや、民が喜びそうなものを聞き、こちらも一覧表に。
アチャやスタルティも巻き込んで、ワイワイと賑やかに計画を練ることになった。
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。