文字の大きさ
大
中
小
315 / 500
第三部 12章
魅了しないで魅了される
「ははは! 思いついた嘘がおやつ抜きって……」
「ふふっ。可愛らしいね」
「いやぁ、あんたら面白いな!」
ん? そんな面白いことだった? 笑いのツボが浅いのかな? そんなことより……
「ダンジョンはお風呂よりボスに気を付けて欲しいんだよね」
「あぁ、強いって言ってたな。だがユキシタダンジョンは雪が降ると中級ダンジョンレベルの魔物が出たりする」
〈あれは上級ダンジョン以上の強さだ。寒すぎて鑑定できなかったのが悔やまれる〉
「何だと!? 本当か!?」
「本当だよ。私達が戦ったようなボスは滅多に出ないと思う。ただ、〝雪が降る中、ボスに挑むときは気を付けて〟って、冒険者に注意喚起して欲しいの」
元々ジィジ達と話したときに「そんな魔物知らない」って言われて、クラオルに頼んでガイ兄に聞いてもらったんだよね。
パパ達が調べた結果、めっちゃレアな魔獣だったらしくて、〝なかなか出ないけど、全く出ないわけではない〟ってことだった。腕に覚えのある者からすれば、ドロップ品が豪華になるためラッキー。初心者からすれば不運でしかない。
ユキシタダンジョンはそういうダンジョンなんだって。
だから一応、注意を促すためにギルドに報告に来た。
「あそこはランダムボスだったのか……だが、滅多に出ないなんて何故言える?」
怪しそうに見つめてくるサブマスに、昔から初心者ダンジョンとして問題がなかったこと、元々雪が降れば中級ダンジョンとなっていたこと、総じて過去に問題がなかったことを説明する。
パパ達からの情報をそのまま伝えるわけにはいかないからね。
「なるほど。運ということか……あのパーティはあんたらに会えてラッキーだったな」
「キミ達が戦ったのはどんな姿形だったのかな?」
「んとね、見た目はフォン系。白銀の毛並みに青い透明な角でめっちゃキレイだった! ただ、鳴いた瞬間から吹雪いて視界ゼロになったけど」
「何だと!?」
「それってまさか……」
ギルマスがバッと立ち上がり、本棚からボロボロの薄い冊子のような本を持ってきた。
本の表紙には【伝説の魔物】と書いてある。
え? マジで?
「これですか!?」
「んん? んー、多分そう。こんな感じ。ただ、この絵より角は小さかったよ」
「……まさかあのダンジョンだったなんて……」
それは幼稚園児がクレヨンで描いたような絵だけど、青い角が植物の根みたいに広がっていた。
どういうことかと聞いてみると、この本は大昔に目撃されたと言われているけど、それ以降目撃されていない魔物、及び魔獣が載っているらしい。
伝説とはなっているものの、狂言や妄言のように信じられていないものがメインのヨタ話本。
実際にいるんじゃないか、いたんじゃないかと言われている伝説とは違う括りみたい。
私達が戦った【ベリルブルーレンヌ】もその一つ。
ダンジョンから逃げ帰ってきた冒険者が見たと証言。説明から絵は描けたものの、数日後に亡くなってしまい細かいことはわからない……と書かれていた。ちなみに魔獣の名前はこの絵を描いた人物が名付けたんだそう。
ジィジがイチ冒険者が目撃したヨタ話なんか知るわけないだろうし、いろいろ納得だわ。
「やっぱり本当にいるんだ……」
「はい?」
「僕は小さい頃にこの本を見つけてからずっと信じていたんだよ! 本物が見られるなら、通おうかな!?」
「さっき滅多に出ねぇって言ってただろ」
先ほどまでの仄暗い瞳ではなく、生き生きと話し出したギルマスにサブマスが冷静にツッコんだ。
サブマスのツッコミにギルマスは打ちひしがれるように「そうだった……」と意気消沈。
「は! ドロップ品は?? 個人的に売ってもらえないかな!?」
「おい、落ち着け」
「ドロップ品は薬草と霊草、宝石だったよ。宝石なら売ってあげられるけど……」
「本当かい!?」
「うん。これだよ」
興奮冷めやらぬギルマスに一センチほどのラピスラズリを見せてあげる。
本当は魔道具もあった。アンクレット型でどんなに吹雪いても方向感覚を失わないというもの。【ホワイ・トイン】なんて名前はふざけてる気がするけど、雪山で重宝しそうな魔道具だった。
何故か消えなかった角には魔力がたっぷり詰まってて、天狐が自分が遭遇したいって言ってたから片方の角はプレゼントしちゃったんだよね。もう片方は私が実験に使いたい。
ギルマスは「わぁ……」と触るわけでもなく、テーブルの上のラピスラズリを見つめている。
小さい頃からの心の拠りどころだった伝説の魔物に魅了されているらしい。
「はぁ……悪ぃな。こいつはそういう話が好きなんだよ」
「それはいいんだけど……あのダンジョンのこと、ちゃんと注意喚起してあげてね?」
「あぁ。もちろんだ。情報感謝する」
仰々しく頷いたサブマスに、ダンジョンでネラース達が狩ってくれていた魔物のいらないドロップ品の買い取りをお願いすると、快く応じてくれた。
ジルがチェックしに来たときには依頼がなかったんだけど……今はドロップ品の依頼が出ていると、そちらも受けて納品することになった。
サブマスにギルドカードを見せると、Cランクということに驚かれ、「だからか……」と、よくわからない納得のされ方をした。
「アランさん、それあげるよ」
「え!?」
「アランさんにとって特別みたいだから。大事にしてくれるでしょ?」
「……はい! ありがとう!!」
ギルマスは本当に嬉しそうに笑った。
おそらく、私が全財産と交換だと言ったら、本当に全財産渡してきそう。
ラピスラズリはまだあるし、アランさんなら転売することもないだろう。
家宝にする勢いで大事にするか、肌身離さず持ち歩くんじゃないかな?
みんなには「優しすぎる!」って言われたけど、たまにはこういうのもいいと思うの。ちょっとした幸せをプレゼントっていう自己満よ!
ギルドでの用事を全て終わらせ、帰り道にアチャに紹介してもらった八百屋さんに寄る。
八百屋のおじさんは私達が捕まえた雪下野菜の数にド肝を抜かし、大喜びで数個ずつ買い取った。
キャベツと白菜は数年ぶりの入荷となったらしく、お金も払ったのにお礼だと他の野菜をわけてくれた。
ちょっといいことした気分でお城に戻る。今日はいい夢が見られそう!
感想 1,821
あなたにおすすめの小説
「子を産めない妻はいらない」と離縁されたので、七人の孤児がいる辺境伯家に嫁ぎます~なぜか全員に懐かれました
ゆぷしろん「子を産めない妻はいらない」
七年尽くした夫にそう告げられ、伯爵夫人アメリアは若い愛人にすべてを奪われた。
手元に残ったのは、わずかな生活費と母の形見だけ。居場所を失った彼女のもとへ届いたのは、北の辺境伯グレンからの求婚状だった。
そこに記されていたのは、前夫が一度も見ようとしなかったアメリアの功績。求められたのは跡継ぎを産む妻ではなく、戦争で荒れた領地と屋敷を共に守る伴侶だった。
だが、嫁ぎ先で待っていたのは、親を失い心に傷を抱えた七人の孤児たち。
反発する少年、言葉を閉ざした幼子、飢えを恐れる少女。アメリアは叱るのではなく、一人ずつ寄り添っていく。
やがて子どもたちは彼女を「かあさま」と呼び始める。
そんな幸せを取り戻しかけたある日、彼女を捨てた前夫が再び現れて――。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
お飾り継母のはずでしたが、冷酷侯爵家の幼女たちが離してくれません
五十嵐紫義母と異母妹に虐げられながら生きてきた子爵令嬢セシリアは、ある日突然、“氷の侯爵”と恐れられる辺境侯爵レオンハルトへ嫁ぐことになる。
それは愛のない政略結婚——のはずだった。
けれど侯爵家で待っていたのは、冷たい侯爵ではなく、母を亡くして寂しさを抱えた幼い姉妹だった。
「……おかあさま、いなくならない?」
夜泣きをする次女ミーナ。
無理に大人びようとする長女リリア。
セシリアは戸惑いながらも、温かな食事を作り、小さな手を握り、少しずつ姉妹との距離を縮めていく。
やがて冷え切っていた侯爵家に、笑顔とぬくもりが戻り始める。
しかしその裏では、亡き前妻の死にまつわる秘密と、侯爵家を狙う陰謀が静かに動き出していた——。
これは、“お飾りの継母”として嫁いだ女性が、不器用な侯爵と幼い姉妹に愛されながら、本当の家族になっていく物語。
悪役令嬢の幼女時代に戻ったので、お兄様を救います ~断罪回避より家族優先です!~
由香断罪され、すべてを失った悪役令嬢ルシア。
死んだはずの彼女が目を覚ますと、そこは五歳の頃の世界だった。
今度こそ病弱なお兄様を救い、家族の破滅を回避したい!
幼女になった元悪役令嬢が、前世の知識を武器に運命へ立ち向かう家族愛たっぷりの逆行ファンタジー。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
最強の魔王ですが、転生したら公爵家の愛され幼女でした ~平和に暮らしたいだけなのに、家族も王子様も聖獣も過保護すぎます~
由香かつて世界を統べた最強の魔王。
長き眠りの果てに目覚めると、公爵家の五歳の令嬢リリアーナへと転生していた。
今度こそ平穏な人生を送ろうと決めたのに、父も母も兄たちも超過保護。
さらには王子や聖獣まで集まり始めて……?
本人は世界最強なのに、なぜかみんなに守られてばかり。
愛され幼女が巻き起こす、勘違いだらけのほのぼのファンタジー!
旦那様には好きな人がいる
えくれあ私の旦那様である、テオドール・セルヴァン侯爵様には好きな人がいる。
それは、幼馴染であり、王太子妃でもあるマチルダ様だ。
お二人は、いつもとても仲睦まじいご様子で、そんな叶わぬお二人の恋をそっと見守るのが私の日常だった。
そんなある日、夜会にめったに顔を出さない王太子殿下に、ダンスに誘われて。それがきっかけで、私の日常は少しずつ変化し始めた。