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15章
枯れた龍の里
しおりを挟むここですと案内されたのは、大きく頑丈そうな扉の付いた窟だった。
冷気が漏れ出ていて、中は冷凍庫なんじゃないかと疑いたくなる。
『主様大丈夫?』
「大丈夫なんだけど、寒くない? 中、キンキンに冷えてると思うよ。……って、ジル?」
ブルッと身を震わせた私を心配してくれたクラオルに答えると、ジルにおでこを触られた。ガルドさん達やニキーダは顔を見合せている。
「どうしたの?」
「風邪……ではないようですね。セナ様、それはいつからですか?」
「んとね、この里に入ってから。なんか寒いなって思ってたんだけど、ここが原因だったみたい」
「なるほど…………セナ様、ここはどちらかと言えば暑いです。用心した方がよさそうですね」
ジルの言葉に反応するかのように、ガルドさん達は武器に手をかけた。
なんで寒いと用心なの? モヤモヤじゃないよ?
そう聞こうとして、インプがいないことに気が付いた。
私が質問しようと息を吸ったとき、兄者が先に話始めた。
〈話は終わりかな? 早く開けて欲しい。もう時間がないんだ〉
〈……わかった。セナ、我の後ろにいろ〉
「うん!」
インプのことだから後でひょっこり現れるかも。今はこっちに集中しなくちゃね。
グレンが取手を引くと、ガガガガガと歪な音を立てて扉が開いていく。
それと同時に冷気がブワァッと外へ出てきた。
(さっむ! ジィジの国より寒い!)
グレンの影に隠れながら歩みを進める。
中は異空間となっているようで、私達が立っているのは浮遊する島。暗い空には別の島々が浮かび、山がある島、水辺の島、森の島とさまざま。
ゲームでよくある、ラスボスや裏ボスと戦うステージみたい。
〈むっ!?〉
《!》
「セナちゃん!」
グレンが何かに気が付いた瞬間、私はニキーダの腕の中へ。
それとほぼ同時にガキン! と、プルトンが咄嗟に張ってくれた結界が何かを弾いた音がした。
〈ふむ。弾いたか……なかなかの結界だな〉
〈ジジイ! 危ないだろうが! セナがケガをしたらどうする!〉
〈狙いを外すほど耄碌しておらんわ。あのときと寸分違わぬ姿……おヌシじゃな?〉
ゆっくりと前から歩いてきたのはグレンの記憶の中で会ったおじいさん。
おじいさんは先ほどの攻撃などなかったかのように私を真っ直ぐ見つめて問いかけた。
「うん。グレンを助けてくれてありがとう」
〈ふむ。あのときはわからんかったが、よき気を持っておるな〉
〈おい、ジジイ。体はどうした?〉
「体?」
意味が理解できなかった私が思わず聞くと、「あれは精神体よ」とニキーダがこっそり教えてくれた。
つまり、幽体離脱ってこと?
〈ふむ。その通り。……時間もないしな。付いてこい〉
足音を立てずに奥へ歩き出したおじいさんを追うと、さらに冷気が増してきた。
おじいさんは巨大な岩に生えたおどろおどろしい木の前で止まった。
それは見るからに不気味で、明らかに異質だった。
〈どういうことだ!? 何故こんなことになっている!?〉
「え……まさか、これ?」
〈ふむ。お前がいなくなってから色々あった。やはりお前ではなかったのだな。それがわかっただけでも僥倖。これだけは言っておこう。お前は正当な血統だ。誇りを持って生を全うしろ。…………最後にお前の成長やお前の主も見れたことだ。朽ち果てるとも後悔はない〉
〈意味がわからん! 説明しろ!〉
優しく目を細めるおじいさんにグレンが詰め寄る。
話す気のないおじいさんの胸ぐらをグレンが掴んだとき、ずっと黙っていた兄者が口を開いた。
――ここは成人の儀を行う場所。グレンが里を去ってからしばらく経ったころ、おじいさんは己の体がおかしなモノに蝕まれていることに気が付いた。
いつどこでこうなったのかわからない。そのせいか以前受けた傷も治りが悪い。そこで体を癒すためにこの場所へ閉じこもった。
しかし傷も違和感も治るどころか、日に日にひどくなるばかり。体は次第に岩となり、そこから禍々しい木が生えた。
おじいさんは体を動かすことができなくなり、精神体で行動するように。
それを見た里の住民達は次第に里を恨んでいるだろうグレンのせいだと噂をするようになった。
諍いが頻繁に起こるようになり、里には負が満ち始めた。
そのことを憂いたおじいさんは里の悪しき気が自分に向かうように仕向けた――
「最近は水が干上がり、魔物が激減。残った魔物も狩り尽くしてしまった。今はほとんどの龍は出て行き、弱き龍や人里に馴染めぬ人嫌いしか残っていない。症状はここ数日で一気に加速……族長が亡くなれば里は終わりを迎える」
なるほどねぇ……だから里に入ったときあんな感じだったのか。グレンに恨まれるようなことしたってことね。おじいさんの症状が進んだのは、グレンに渡した鱗が原因かな? なんで人嫌いなのかは後で聞くとして……
「もし呪われているなら解呪すればいいんじゃない?」
〈それは無理だよ。ここまで進行してしまっては……それに呪いとは異なっているため、解呪では意味がない。あの、全てを癒し奉ると言われている世界樹の雫でも治せるかどうか……〉
「世界樹の雫なら治せるの?」
〈ふっ……今では伝説と言われているくらいの代物だ。散々探し回ったが見つかることはなかった〉
「そうなんだ……」
世界樹って……精霊の国にあったよね? 最近は飲んでなかったけど、めちゃくちゃ美味しいから朝露いっぱいもらった記憶がある。
精霊達に念話で雫はすぐ手に入るのか聞いてみると、朝露の方が全てにおいて効果が高いと返ってきた。
(え……私、バカスカ飲んでたんだけど……)
私の顔が引き攣ったのがわかったのか、〈セナ様は特別ですので〉とウェヌスにフォローになっていないフォローをされた。
「とりあえず、おじいさんをなんとかしよう。体に振りかければいいかな?」
〈は?〉
「グレン、私寒くてこれ以上近付けないから、上から振りかけてくれない?」
何言っているんだと訝しげな視線を送ってくる兄者に構わず、朝露の入った樽を出してグレンにお願いする。
しばし、揺れる瞳で私の目を見つめたグレンは神妙な表情で一つ頷いた。
樽を抱えたグレンが羽ばたき、おじいさんの体に朝露を振りかける。
すると朝露が当たったところからキラキラと光だし、体全体が淡く発光。光が収まると、そこにはグレンよりも巨大な赤いドラゴンが丸く眠っていた。
〈まさか……〉
〈なんと……!〉
驚きながらフラフラと自分の体に近付いたおじいさんが自身の体に振れた瞬間、シュッと消えた。
そしてドラゴンがパチパチと瞬きして目を覚ました。
――おヌシに感謝する――
「私はセナだよ。違和感とかない?」
――あぁ。朽ち果てると覚悟していたが、まさかこのような日がくるとは……――
「よかった、よかった」
喜びを噛み締めるおじいさんと感動した様子の兄者に笑顔が零れる。
グレンからは〈セナ、ありがとう〉と小声でお礼を伝えられた。
グレンにとって大事な人みたいだから、助けられて本当によかった。精霊達のおかげだね。後でウェヌス達にお礼言わないと。
凍えるような寒さはなくなったし、これで一件落着かな?
感動も束の間、空気をぶち壊すようにあの笑い声が響き渡った。
ビクリと驚いた私達は揃って振り返る。
後ろから歩いてきたのは、案の定インプだった。
生首状態で現れるよりはマシ……かもしれない。
「イーッヒッヒ。流石セナ様ですねぇ。おかげで疑問が解決しました」
「疑問?」
「ええ。あのドラゴンの力についてです」
あぁ……そういえばそっちがまだだったね……
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