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 同じ学院に通っていると言っても婚約者であるマリウス王子とは、全く会う事は無かった。

 幼少期に数度屋敷にやって来た事があるだけで、後は王宮で王妃様の定期お茶会で月に1度顔を合わせるのみだった。

 だから、マリウス王子が学院で女生徒達と仲良くしている事を知るよしも無かった。



 学院に通い始めて数日経ったある日の事。全校生徒は同じ門から学院内に入り馬車を降りる為、馬車降り場は常に混雑している。その場所で見知らぬ令嬢に肩を押され、セイラは転んでしまったのだ。学院に通う際に、1人侍女を連れて行く事を許可されている為、すぐに侍女が駆け寄ろうとするが、令嬢の侍女に阻まれてしまう。

「あなた、淑女科の下の方のクラスなのかしら?Aクラスじゃ無いし、Bクラスでも見かけなかったわ。そんなんじゃ、マリウス様も苦労するわね。国王陛下も婚約なんて、破棄してしまえばよろしいのに。ふふふっ」

 それだけ言うと令嬢は去って行った。

「セイラ様っ、申し訳ありませんっ!!お怪我はありませんか?」

 侍女のサリーが駆け寄って来る。

「え、ええ。何なのでしょう・・・?」

「わかりませんが、気をつけましょう」

 立ち上がったセイラの衣服をサリーは整えてくれる。

「ありがとう、サリー。行きましょう」

 2人は教室に向かうために、その場を離れた。




 セイラが授業を受ける間、サリーは侍女達の控え室に向かった。セイラ達の教室は他の科と離れているので、侍女の控室も教室の側にあるのだが、サリーはあえて、他の科の侍女がいる控室に行き、情報を仕入れに行ったのだ。

 そして、先ほどセイラを転ばせたのがマクレガー公爵令嬢だと分かった。マクレガー公爵令嬢の侍女が他の侍女に声高らかに話し、笑っているのだ。一緒にいる他家の侍女も釣られて笑っている。

 セイラ様がお怪我をしなかったから良かったけれど、許せないわっ!!

 サリーはギリッと歯を食い縛った。

 何故、セイラ様があの様な無体な事をされなけばならないのかっ!?どうやって探りを入れようか悩んだが、彼女らは主人の話しをし始めた。

「ミシェル様とマリウス様は相思相愛なのに、あの女が邪魔しているらしいのよ?公爵家の令嬢に対して何様のつもりなのかしら?たかが伯爵家の分際でっ!!ミシェル様も言われてたわ。淑女科Aクラスに入れないなんて、マリウス様の婚約者に相応しく無いって。早く婚約者から身を引いてほしいって」

「ええ、そうでしょうね。ミシェル様の方が断然、マリウス様の婚約者に相応しいと思いますわ」

 1人の侍女の声に

「そうですわっ」

 と言う侍女の声が複数重なった。

 ロンドンリー国では、男子は通常上下の学院に通うが、女子は下の学院には通うが、上の学院に通うのは長女、もしくは上位貴族のみで、下位の貴族は次女いかは通わされず、高位貴族の所に行儀見習いの侍女として出される。なので、この場にいる侍女達は、ミシェル様付きの侍女には逆らわず、少しでも取り入り印象を良くしようとしているのだ。

 サリーは侍女達の噂話しを一通り聞いた後は部屋を離れ、いつもの控え室に戻って行き、セイラにどう報告しようか考えていた。




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