悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第二部

Hiroko

文字の大きさ
24 / 52

20 足音

しおりを挟む
「そろそろ戻ろうか」と芹那が言った時には、僕らは登山道をもうすでに軽く一時間は歩いていた。
 そのことを芹那に言うと、「えええ!? そんなに歩いてた!?」と予想通りの反応をした。
「二人とも向こうの世界でさんざん歩くことに慣れちゃってたからね、こういう時、どれくらい歩いてたかわからなくなっちゃうわよね」と言って芹那は笑った。
 それはいいとして、ここから戻るのに一時間、早く戻らないとヤバい……。
「どうしたの? 和也、難しい顔して」
「え? バスが一日四便しかなかったから、早めに戻らないと帰りのバスに間に合わないなと思って」
「そだよね。けどさあ、なんか私たち、道に迷ってない?」
 えっ!? それ軽く言う!? そう思いながら僕は周りを見回した。見回した。見回した……、んだけど、霧が出ていてどこを見ても同じ景色だった。
「ね? さっきから歩いてるの、私たちだけだよ?」
 それと犬……。僕は後ろを付いてくる犬を見て思った。
「なんだろね、この犬」そう言って芹那はしゃがんで犬を撫で始めた。この余裕は天性の天然だなと思いつつ、僕はなんだかさっきからこの犬に違和感があった。見た目が普通の犬じゃない、ってのもあるんだけど……。僕はそう思って犬を観察した。色は茶色で、雑種のように見えるが、やけに目付きが鋭い。年老いているのか? 犬の見た目の年齢なんかわからなかった。ただ目がちゃんと見えているようには見えない。一見痩せているけど、よく見ると思いのほか筋肉質だ。そんな風に考えながら見ていると、僕はだんだんこいつが犬に見えなくなってきた。
「犬とはなんだ!」と突然犬がしゃべった。
 間近で犬を撫でていた芹那はあまりに驚いて「ふゃはあぁっ!?」と変な声を出して尻もちをついた。
「な、なん、なに!? 犬にゃやべった!?」芹那は何を言っているかわからない。
「犬とはなんだ。我は狼の子孫なるぞ」
「お、狼!?」僕は聞き返した。
「その通り。ここでそなたたちのような者が現れるのを待っておった」
「しょ、しょ、しょななない?」
 芹那はちょっと黙って。そう思いながら僕は芹那を抱き起して立たせようとしたが、完全に腰を抜かしていて脚に力が入らない。仕方ないので僕の持っていた水を飲ませ、背中をさすって深呼吸をさせた。
「僕たちのような者って、どう言うこと?」
「助けていただきたい。須佐乃袁尊(スサノオノミコト)、そして月読尊(ツクヨミノミコト)」
「僕たちのこと、わかるの?」
「古(いにしえ)より神の遣いとしてこの山で人々を送り、守り続けてきた故、初見参(ういげんざん)なるも其方達のことは存じておる」
「でも、でも、初めて会ったのにわかるの? 私のことツクヨミとか」
「わかる!」と突然狼が声をあげたものだから、せっかく復活しかけていた芹那はまた「ふゃ!」と言って尻もちをついた。
「ここで多くの者を見送ってきた。悪しき心の者、善き心の者、目を閉じ、その本性を見るのが我が営みゆえ」
「そ、そ、その悪しきって人がきたらどうするの?」
「通さぬ!」
「ふゃ!」
 芹那もいい加減慣れろよ……。僕はそう思いながらまた水を飲ませる。
「で、で、でも、そ、そのあと、追い返しちゃうの?」
「食う!」
「ふゃ!」
 僕はだんだんどちらもわざとやっているんじゃないかと思えてきた。
「それよりさっき、助けていただきたいって言ったけど、どう言うこと?」
「話を聞いていただけるか……」
「うん、まあ、力になれるかわからないけど……」
「実を申すと……」それから狼の話は長かった。寒さと空腹に耐える僕らを前に、たっぷり二時間は話し込んできた。
「つまり、こういう事だね、富士山のふもとにある顛倒結界の中に閉じ込められた、豊玉姫(トヨタマヒメ)と言う人を助ければいいんだね?」
「やっていただけるか。ありがたい……」狼は肩を震わせながら頭を垂れた。
 いや、まだやるとか言ってない……。
「でも、顛倒結界の中にあると言うことは、化け物たちもいるってことだよね」
「化け物とは、怪異のことか」
「そう、それだよ」呼び方が違うみたいだ。
「それ故、豊玉姫は竜宮洞穴から出るのを恐れておられる」
「そうか。じゃあ化け物……、怪異たちを倒せば、豊玉姫も外に出てこれるんだね?」
「やっていただけるか。ありがたい……」
 ちょっと待ってよ……。
「でも僕たち今、剣も何も持っていないんだ。さすがにちょっと武器も無しに怪異と戦うのは……」
「剣があればよいと? ありがたい……」
「あ、あるの?」
「ある!」
「ふゃ!」
「どこにある?」僕は芹那の背中をさすった。
「ご案内申そう」
「え、今から? そこに行くの?」
「さよう。お待ちいただきたい」そう言い残すと、狼はふっと煙でも吹き消すようにいなくなった。
 辺りはもう暗かった。人の気配もない。まあ、道に迷った時点で、人とはまったく会わなかったのだけれど。それになにより寒かった。もうこの寒さから解放されるなら、化け物退治でも何でもマシだった。芹那ももう動けないほどガタガタと震えている。僕はその背中を抱きしめた。その背中ももう冷え切っている。戻る道もわからない。「ご案内申そう」などと言われながら、ただ置き去りにされただけのような気がした。
 と、芹那の体の震えが止まっていることに気が付いた。
「せ、芹那?」僕は芹那の肩を揺さぶった。と、がくりと頭を後ろに垂れてきた。顔が真っ白だ。唇にも色がない。「芹那! 芹那!?」呼びかけにも応えない。
 どうしよ、どうしよ、どうしよ……。
 そんなことを考えていると、どこか遠くの方からズシーーーン……、ズシーーーン……、ズシーーーン……と巨大な足音のようなものが聞こえてきた。









しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...