悠久のクシナダヒメ 「日本最古の異世界物語」 第二部

Hiroko

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15 死闘、再び

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 前にもこんなことあったな、と思いながら、僕はコトネに引きずられるようにして本殿の外に出た。
 西の空に月を見つけ、空を見上げたが、雷を落とすような雲は一つも見当たらない。それどころか眩いばかりの星がきらめいている。じゃあ、さっきからなっているあの雷は……。
「この神社はね、昔から雷を使う神の遣いに守られているんだ」芹那のお父さんは後ろからそう説明した。
 そうか、ハクビシンか……。
 それにしてもあれだけの雷を、ちゃんとコントロールして放つってことは、何匹もの大人のハクビシンがいるってことだろうか。それってもしかして、あの時コトネと助けたハクビシンの子孫たちなんだろうか。そう考えると、僕はなんだか胸に温かいものを感じた。
 そんなことを考えている間も、雷は何かに向けて何発、何十発も落とされていった。
 ん? と僕は思った。まだ遠くて、暗くてよく見えないけれど、ハクビシンたちはいったい何に向けて雷を落としているんだ?
 嫌な予感がした。
「ズドンッ! ズドーーーン! ズドーーーン!!!」と何発も何発も雷が落ちる音がする。しかもそれはどんどんこちらに近づいてくる。あれだけの攻撃を受け、逃げることもせずこちらに向かってくるなんて……。
「なんだか様子が変だね……」芹那のお父さんも気づいたのか、そう言った。
「何が変なの?」芹那が聞いた。
「こんなに雷が続くの、初めてじゃないか?」
「そう言われればそうね……」と、芹那の口を塞ぐように、化け物がその姿を現した。
「ヒューーー、ヒューーー」と、か細く、どこか悲し気な泣き声が闇の中から聞こえてきた。
「ま、まさか……」
「ヒューーー、ヒューーー……」
 香奈子は鵺は一匹じゃないと言っていた。けれどまさか、またこんなに早く出会うことになるとは……。
「ヒューーー、ヒューーー」
 まず巨大な鉤爪、そして虎のような模様の足が目に飛び込んだ。
 そして猿のように赤い顔……。
「鵺だ!!!」僕は思わず叫んだ。途端に体が光の粒子を発し、金色の靄に包まれた。「二人とも逃げて!」僕はそう叫んだものの、この鵺から逃げられる場所なんかあるのだろうかと思った。
「和也、どうする気!?」
「戦うよ!」
「その体で? 一緒に逃げて!」
「駄目だ! 僕まで一緒に逃げちゃ、三人ともやられちゃう! 僕が残って戦えば、せめて二人は助けられるんだ!」
「なに馬鹿なこと言ってんのよ!」
「コトネ、頼む! お兄ちゃんは鬼退治をするから、その二人を連れて行って!」
「鬼退治! 鬼退治!」そう言いながらコトネは芹那と芹那のお父さんの腕をつかむと、家の方に引きずるようにして戻って行った。
 ありがとう、コトネ。
 そうつぶやいて僕は、神璽剣を構え、鵺が神社の中に入ってくるのを待った。
 みしみしと嫌な音を立て、巨大な木の鳥居が鵺の手で倒された。
 今度こそ、今度こそ……。
 僕はふと、スサノオの顔を思い出した。
 僕はいつもスサノオに助けられたな……。
 僕はいつも何もできなかった。それどころか、何一つ自分で決断すらできなかった。いつもスサノオに決めてもらい、スサノオに助けてもらい、スサノオの後について行った。でも今、僕の隣にスサノオはいない。いや、僕が、僕がスサノオなんだ。僕は、もう自分で何もかも決めなくちゃいけないんだ。自分で決めて、自分で戦い、人を救わなければいけないんだ。それがきっと、あの時スサノオが言っていた、自分を信じるってことなんだ。きっとスサノオは、自分がスサノオであると信じるだけのことを言っていたんじゃない。スサノオであると言うことがどういうことなのか、考えて生きていくことができるようになれって言ってたんだ。
 鵺は赤い顔に二つの丸い目をさまよわせ、僕を見つけるとだらしなく口を開けながらよだれを流した。
「ヒューーー、ヒューーー」と喉の奥からか細い鳴き声を上げ、鵺は飛び上がったかと思うと、僕の真上から鉤爪を突き立て、突き刺すように落ちてきた。
 僕は足を踏ん張ると、剣を構え、鉤爪の衝撃に備えた。
 ギィイイイイン!!! と言って神璽剣は鵺の鉤爪ごと右腕を真っ二つに引き裂いた。
「ヒャアアアアア!!!」と鵺が悲鳴を上げて飛びのいた。
 やった。鵺を切った。竹刀じゃ傷一つ付けるのがやっとだったが、やはり本物の剣は違う。鵺を倒せるぞ。それを確信した途端、僕は肩の力を抜くことができた。けれどここで気を緩めることはしない。それはコトネの爺様や弓矢の亡霊から教わった。たとえ勝ちを確信しても、敵の息の根を止めるまで、決して気を緩めるな! わかってるよ、そんなこと。僕はあらためて剣を構え、鵺の次の攻撃に備えた。
 鵺は身をかがめ、威嚇するように口を大きく開き、「シャアアアア!!!」と猫のように喉を鳴らした。
 と、今度は上には飛ばず、後ろ足で地面を蹴りつけ、僕に向かって直線的に飛び掛かってきた。
 同じ失敗はしないってかい。頭がいいね。でも!
 僕も極限まで身をかがめ、飛び掛かる鵺の下に潜り込むと、その腹にめがけて神璽剣を突き立てた。腹に剣が刺さっても勢いを殺すことのできなかった鵺の体は、一直線に腹を切り開かれ、黒くどろどろとした臓物のようなものを地面にぶちまけた。
 鵺はまた「ヒャアアアア……」と悲鳴を上げたが、その声にさっきほどの力はない。
 まだまだ……。油断しちゃいけない。僕は自分にそう言い聞かせ、こちらを睨みつける鵺の懐に飛び込み、下から弧を描くように神璽剣を振り抜き、鵺の首を落とした。
「やった……」
「鬼退治! 鬼退治!」いつのまにやらコトネが僕の周りを駆けまわっていた。
 そんなに手こずらずに鵺を倒せたものの、やはりまだ体力の戻り切っていない体にはきつかった。
 僕は息を切らしながらその場にへなへなと座り込んでしまった。
「和也! けがはない?」芹那が家から駆け出てきて、僕の体を抱きしめた。
「うん、大丈夫だよ。神璽剣のおかげで」
「よかった……。ねえ、それより大変なのよ。動ける?」
「大変って、なにが?」そう尋ねる僕の耳に、遠く風に運ばれるようにして、街の方から地響きのような巨大な音が聞こえてきた。「あの音……」
「とにかく戻って。街がね、街がね……、大変なの」



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