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正人の話 其の壱捌
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「くそっ! どこにもいねえ! おいっ! どこに行きやがったんだ、ちくしょう!」
伊吹山があったであろうその場所は、やはり他と同様まっ平らな荒れ地と化していた。それでもあいつは、あの白蛇の神は、生き残っているはずだった。
「おーーーい!!! 出てきやがれ!」何度も何度も大声で叫んだ。
隠れる場所なんかないんだ。俺はその場でぐるっと回り、三百六十度景色を見回した。
この地を、伊吹山を、日本を、見限ったと言うのか。
俺はその場にへなへなと座り込み、途方に暮れた。
「ま、仕方ねえか。こんなんなったんじゃ、守るもんもねーしな」
俺は寝転がり、空を眺めた。
宇宙がすぐ触れられそうなほど近い。
そこにうっすらと透けるほどの赤い雲が浮かんでいる。
不思議な光景だった。
俺は空に向け手を伸ばした。
泉の水に手を浸けるように、俺は指先が宇宙に届くのを期待した。その冷たさに触れるのを期待した。けれどそれは叶わなかった。
「仕方ねえか……」もうこの地には、人や化け物どころか、神さえもいない。
月読尊の後を追うか。あいつ、名前は何てったっけな。芹那、とかなんとか言ったな。
俺は踏切へと向かおうとした。と、はるか遠く、後ろの方に、何か光るものを見つけたような気がした。
「ん?」
砂浜に埋まったガラスの破片のように、それはきらりと俺を呼んだ。
「ったく、和也の奴。大事なもん忘れてんじゃねーよ」あんな場所、普通に歩いちゃ三日はかかるじゃねえか。
俺は空を仰ぎ、叫び声をあげ、体の奥に眠る八岐大蛇の魂を呼び起こした。
メリメリと体中の骨が折れ、胸が張り裂け穴が開いた。そこから黒い靄が何かを探るように手を伸ばし、俺の体を包み込んだ。黒い靄は勢いを増し、まるで炎のように体から吹き出した。俺はその黒い炎の中で蝶のように体を変化させた。
「ああ、この体なら、あの白蛇野郎にも勝てた、ってえのにな」
八岐大蛇の体は巨大だった。
それぞれの太さは樹齢千年の大木よりも太く、首をもたげれば標高千メートルの山よりも高かった。
俺はその体で俺を呼ぶ光るもののところへ行った。
それは和也が置き去りにした天叢雲剣だった。
「おや? 誰ですか、あなたは」
その声に振り向くと、天逆毎が独りで碁盤の前に座っていた。
「俺か? 八岐大蛇だ」そう言ったものの、俺の体はすでに正人のものに変わっていた。
「私を倒しに来たわけでもなさそうですが、どんな御用でしょう」
「ああ、友達が落とし物をしてな、それを取りに来た」
「おやおや、大事なものですか?」
「ああ。こいつがないと、その友達は戦えねえんだ」
「そうですか。それは持って行ってあげないとねえ」
「お前はこの地を去らないのか?」
「私、ですか? そうですねえ。何もなくなっちゃいましたからねえ。けれどこの景色も名残惜しいのですよ」
「この景色がねえ」
「あなた、私のことを殺さないのですか? 今なら簡単に首を落とせますよ?」
「俺が? 俺は特にお前に恨みはねえ。それに俺が今この場で倒しちまっちゃあ、おもしろくねえだろ。お前を倒すには、それにふさわしい奴が何人もいるのさ」
「なるほど。あなたのこと、気に入りました」
「そいつはありがたいね」
「ところであなた、碁は打ちませんか?」
「ああ? そんなのやらねえよ」
「そうですか。残念です。こんな素晴らしい空を眺めながら、誰かと碁を打ちたいと願ったのですが、叶わないようですねえ」
「すまねえな」
「いいえ、いいのです。私もそろそろ、他の神々と同じようにこの地を去ろうと考えていたところですから。あなたも行くのでしょう?」
「ああ、そうだな。こいつを届けてやらねえとな」
「ではまたいずれ、会いましょう」
「そうだな。そん時はちゃんと、お前に恨みを持つ奴を連れて行くよ」
「ええ、ええ、ぜひそうしてください。楽しみにお待ちしております」
伊吹山があったであろうその場所は、やはり他と同様まっ平らな荒れ地と化していた。それでもあいつは、あの白蛇の神は、生き残っているはずだった。
「おーーーい!!! 出てきやがれ!」何度も何度も大声で叫んだ。
隠れる場所なんかないんだ。俺はその場でぐるっと回り、三百六十度景色を見回した。
この地を、伊吹山を、日本を、見限ったと言うのか。
俺はその場にへなへなと座り込み、途方に暮れた。
「ま、仕方ねえか。こんなんなったんじゃ、守るもんもねーしな」
俺は寝転がり、空を眺めた。
宇宙がすぐ触れられそうなほど近い。
そこにうっすらと透けるほどの赤い雲が浮かんでいる。
不思議な光景だった。
俺は空に向け手を伸ばした。
泉の水に手を浸けるように、俺は指先が宇宙に届くのを期待した。その冷たさに触れるのを期待した。けれどそれは叶わなかった。
「仕方ねえか……」もうこの地には、人や化け物どころか、神さえもいない。
月読尊の後を追うか。あいつ、名前は何てったっけな。芹那、とかなんとか言ったな。
俺は踏切へと向かおうとした。と、はるか遠く、後ろの方に、何か光るものを見つけたような気がした。
「ん?」
砂浜に埋まったガラスの破片のように、それはきらりと俺を呼んだ。
「ったく、和也の奴。大事なもん忘れてんじゃねーよ」あんな場所、普通に歩いちゃ三日はかかるじゃねえか。
俺は空を仰ぎ、叫び声をあげ、体の奥に眠る八岐大蛇の魂を呼び起こした。
メリメリと体中の骨が折れ、胸が張り裂け穴が開いた。そこから黒い靄が何かを探るように手を伸ばし、俺の体を包み込んだ。黒い靄は勢いを増し、まるで炎のように体から吹き出した。俺はその黒い炎の中で蝶のように体を変化させた。
「ああ、この体なら、あの白蛇野郎にも勝てた、ってえのにな」
八岐大蛇の体は巨大だった。
それぞれの太さは樹齢千年の大木よりも太く、首をもたげれば標高千メートルの山よりも高かった。
俺はその体で俺を呼ぶ光るもののところへ行った。
それは和也が置き去りにした天叢雲剣だった。
「おや? 誰ですか、あなたは」
その声に振り向くと、天逆毎が独りで碁盤の前に座っていた。
「俺か? 八岐大蛇だ」そう言ったものの、俺の体はすでに正人のものに変わっていた。
「私を倒しに来たわけでもなさそうですが、どんな御用でしょう」
「ああ、友達が落とし物をしてな、それを取りに来た」
「おやおや、大事なものですか?」
「ああ。こいつがないと、その友達は戦えねえんだ」
「そうですか。それは持って行ってあげないとねえ」
「お前はこの地を去らないのか?」
「私、ですか? そうですねえ。何もなくなっちゃいましたからねえ。けれどこの景色も名残惜しいのですよ」
「この景色がねえ」
「あなた、私のことを殺さないのですか? 今なら簡単に首を落とせますよ?」
「俺が? 俺は特にお前に恨みはねえ。それに俺が今この場で倒しちまっちゃあ、おもしろくねえだろ。お前を倒すには、それにふさわしい奴が何人もいるのさ」
「なるほど。あなたのこと、気に入りました」
「そいつはありがたいね」
「ところであなた、碁は打ちませんか?」
「ああ? そんなのやらねえよ」
「そうですか。残念です。こんな素晴らしい空を眺めながら、誰かと碁を打ちたいと願ったのですが、叶わないようですねえ」
「すまねえな」
「いいえ、いいのです。私もそろそろ、他の神々と同じようにこの地を去ろうと考えていたところですから。あなたも行くのでしょう?」
「ああ、そうだな。こいつを届けてやらねえとな」
「ではまたいずれ、会いましょう」
「そうだな。そん時はちゃんと、お前に恨みを持つ奴を連れて行くよ」
「ええ、ええ、ぜひそうしてください。楽しみにお待ちしております」
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