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18 狒狒の王
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それはほんの数十秒(僕は三十秒しか息を止めていることができない)のことではあったけれど、僕はぬめぬめとした八岐大蛇の腹の中で、息もできず瞬きもできず何も考えることもできず、ただただこのまま死んでしまうんだと漠然と頭の中で考えていた。けれど遠くにスサノオの声が聞こえると、八岐大蛇は僕をズルリと器用に地面に吐き出した。あまり気持ちのいい体験ではなかったけれど、僕は息をするのに必死でそんなことを考えている余裕はなかった。そ、それより狒狒の群れは? コトネは無事なのか? 顔や頭を濡らす八岐大蛇のよくわからない体液を拭い、僕は辺りを見回した。
あれ……?
どうなってんのこれ?
僕らを中心とした半径二十メートルほどの景色がすべて真っ黒こげになっていた。生えていたはずの木々はなぎ倒され、真っ黒こげになってシューシューと煙を上げている。
辺りにもう一匹も狒狒はいなかった。
いや、だけど……、生きているのはいないけど、黒焦げになった狒狒の残骸らしきものが辺り一面に転がっていて、みな一様にやはり細く白い煙を上げていた。
いったいこれって……。
「よお、無事だったな!」
その声に目を向けると、顔を煤(すす)で真っ黒にしたスサノオが立っていた。おまけに髪の毛は爆発したように散り散りになってる。何もない時に見れば大爆笑してしまいそうな姿であったけど、いまはそれどころではない。
「す、スサノオ!? なにそれ!」
「なにそれとはあんまりだな、おい」そう言ってスサノオは笑った。
「こ、コトネは?」
「お兄ちゃん!」その声に足元を見ると、何事もなかったようにコトネがそこにいた。
「ぜんぶこいつの仕業だ」そう言ってスサノオは、コトネにじゃれつくハクビシンをつまみ上げ言った。
「ハクビシンが?」
「まあ、まだ子供だからこの程度で済んだが、大人になった奴が本気出したら、さすがの八岐大蛇もやばかったな」そう言ってスサノオはハクビシンを地面に降ろした。
「ハクビシンが、何をしたの?」
「こいつは神の遣いだって、前に言ったろ。言ってなかったか?」
「いや、聞いた気がする」
「神の遣いは、従える神の力を体に宿すんだ」
「従える、神の力?」
「ああ。そいつは雷の神の遣いだ。だから危険が迫ると雷を使って身を護る。まあまだ子供だから使い方がよくわかってないようだがな。今回はコトネが狒狒にさらわれたことをきっかけに、辺りに雷をまき散らしたってわけだ」とスサノオは事も無げに楽しそうな様子で言った。「ま、そんなことより奴が出て来たぞ」
その言葉に目を向けると、炎に照らされた村の奥から、明らかに今までの狒狒とはオーラの違う、目の座った巨大な狒狒が現れた。四つ足で歩いていても、その顔の位置は僕より高い。立ち上がれば三メートルはありそうだ。
「でかいな。何年生きてんだ、ありゃ」そう言うが早いか、スサノオは天叢雲剣をかまえると、「うおりゃあああ!」と叫びながら狒狒に向かって突進していった。
それに応えるかのように狒狒は「おおおおおおっ!」と吠えると、驚くほどの跳躍を見せ空を舞った。あまりの高さに、夜の空とは言え狒狒の姿を見失うほどだった。
そして一瞬ののち地上に落ちてきた狒狒の勢いはすさまじく、その地響きで僕はふわりと宙に浮き、バランスを崩して尻もちをつくほどだった。そして狒狒に飛びこされてしまったスサノオは、やはり狒狒の向こうで尻もちをついていた。狒狒はちょうど僕らとスサノオの間くらいに四つ足で立ち、ほんの五メートルくらいの距離で僕は狒狒と対峙する形となった。
尻もちをつきながら「あぅ、あぅ、あ、あ、あ」と恐怖で言葉も出ない僕をあざ笑うかのように、狒狒はもう一度声高に「おおおおおおおおっ!」と空に向かって吠えた。その姿はまるでもうすでに勝利を確信しているようにも思えた。
と、頭の中にまたあの声が聞こえた。
「一矢必殺」
「え、え、え、あんな大きな狒狒、どうすんの!?」と僕は自分の心の中に問いかけた。
けれど僕のそんな言葉を無視するように、僕は自分の身体が白い靄に包まれるのを見た。
そしていつものように背中から一本矢を取ると、その鏃を舐め弓を引いた。
「信じろ」
と、その言葉に僕が信じるかどうかは関係なく、操られる僕の右手は力を緩め、矢を放った。
すーーーっと空気を切り裂くような音とともに、矢は狒狒の脳天のど真ん中を射抜いた。
そして目を見開いて動きを止めた狒狒が生きているか死んでいるかを見極める暇も無く、後ろから近づいたスサノオが「ずおりゃあああ!」と言って天叢雲剣で狒狒の首を切り落とした。
「やったな!」と言わんばかりのスサノオの表情に、僕はなんだかいいとこどりをされたような気分になったのだけれど、首を落とされてもなおのたうち回る狒狒の体に僕は恐怖のあまり腰を抜かした。
「あっはっは! 弓の名手に剣の達人だ。怖いものなしだな!」そう言ってスサノオは声高く笑った。
「そんなことより和也……」と何かを言いながら戻ってきたスサノオの後ろに、なにやら巨大な影が視界に入った。
「な、なにあれ……」
僕の視線に気づいたのか、「ん?」と言ってスサノオも後ろを振り返った。
「おいおい、嘘だろ!?」と見上げたスサノオの後ろには、高さが十メートルほどもあろうかと言う巨大な狒狒がこちらを見下ろしていた。
あれ……?
どうなってんのこれ?
僕らを中心とした半径二十メートルほどの景色がすべて真っ黒こげになっていた。生えていたはずの木々はなぎ倒され、真っ黒こげになってシューシューと煙を上げている。
辺りにもう一匹も狒狒はいなかった。
いや、だけど……、生きているのはいないけど、黒焦げになった狒狒の残骸らしきものが辺り一面に転がっていて、みな一様にやはり細く白い煙を上げていた。
いったいこれって……。
「よお、無事だったな!」
その声に目を向けると、顔を煤(すす)で真っ黒にしたスサノオが立っていた。おまけに髪の毛は爆発したように散り散りになってる。何もない時に見れば大爆笑してしまいそうな姿であったけど、いまはそれどころではない。
「す、スサノオ!? なにそれ!」
「なにそれとはあんまりだな、おい」そう言ってスサノオは笑った。
「こ、コトネは?」
「お兄ちゃん!」その声に足元を見ると、何事もなかったようにコトネがそこにいた。
「ぜんぶこいつの仕業だ」そう言ってスサノオは、コトネにじゃれつくハクビシンをつまみ上げ言った。
「ハクビシンが?」
「まあ、まだ子供だからこの程度で済んだが、大人になった奴が本気出したら、さすがの八岐大蛇もやばかったな」そう言ってスサノオはハクビシンを地面に降ろした。
「ハクビシンが、何をしたの?」
「こいつは神の遣いだって、前に言ったろ。言ってなかったか?」
「いや、聞いた気がする」
「神の遣いは、従える神の力を体に宿すんだ」
「従える、神の力?」
「ああ。そいつは雷の神の遣いだ。だから危険が迫ると雷を使って身を護る。まあまだ子供だから使い方がよくわかってないようだがな。今回はコトネが狒狒にさらわれたことをきっかけに、辺りに雷をまき散らしたってわけだ」とスサノオは事も無げに楽しそうな様子で言った。「ま、そんなことより奴が出て来たぞ」
その言葉に目を向けると、炎に照らされた村の奥から、明らかに今までの狒狒とはオーラの違う、目の座った巨大な狒狒が現れた。四つ足で歩いていても、その顔の位置は僕より高い。立ち上がれば三メートルはありそうだ。
「でかいな。何年生きてんだ、ありゃ」そう言うが早いか、スサノオは天叢雲剣をかまえると、「うおりゃあああ!」と叫びながら狒狒に向かって突進していった。
それに応えるかのように狒狒は「おおおおおおっ!」と吠えると、驚くほどの跳躍を見せ空を舞った。あまりの高さに、夜の空とは言え狒狒の姿を見失うほどだった。
そして一瞬ののち地上に落ちてきた狒狒の勢いはすさまじく、その地響きで僕はふわりと宙に浮き、バランスを崩して尻もちをつくほどだった。そして狒狒に飛びこされてしまったスサノオは、やはり狒狒の向こうで尻もちをついていた。狒狒はちょうど僕らとスサノオの間くらいに四つ足で立ち、ほんの五メートルくらいの距離で僕は狒狒と対峙する形となった。
尻もちをつきながら「あぅ、あぅ、あ、あ、あ」と恐怖で言葉も出ない僕をあざ笑うかのように、狒狒はもう一度声高に「おおおおおおおおっ!」と空に向かって吠えた。その姿はまるでもうすでに勝利を確信しているようにも思えた。
と、頭の中にまたあの声が聞こえた。
「一矢必殺」
「え、え、え、あんな大きな狒狒、どうすんの!?」と僕は自分の心の中に問いかけた。
けれど僕のそんな言葉を無視するように、僕は自分の身体が白い靄に包まれるのを見た。
そしていつものように背中から一本矢を取ると、その鏃を舐め弓を引いた。
「信じろ」
と、その言葉に僕が信じるかどうかは関係なく、操られる僕の右手は力を緩め、矢を放った。
すーーーっと空気を切り裂くような音とともに、矢は狒狒の脳天のど真ん中を射抜いた。
そして目を見開いて動きを止めた狒狒が生きているか死んでいるかを見極める暇も無く、後ろから近づいたスサノオが「ずおりゃあああ!」と言って天叢雲剣で狒狒の首を切り落とした。
「やったな!」と言わんばかりのスサノオの表情に、僕はなんだかいいとこどりをされたような気分になったのだけれど、首を落とされてもなおのたうち回る狒狒の体に僕は恐怖のあまり腰を抜かした。
「あっはっは! 弓の名手に剣の達人だ。怖いものなしだな!」そう言ってスサノオは声高く笑った。
「そんなことより和也……」と何かを言いながら戻ってきたスサノオの後ろに、なにやら巨大な影が視界に入った。
「な、なにあれ……」
僕の視線に気づいたのか、「ん?」と言ってスサノオも後ろを振り返った。
「おいおい、嘘だろ!?」と見上げたスサノオの後ろには、高さが十メートルほどもあろうかと言う巨大な狒狒がこちらを見下ろしていた。
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