運命って信じますか??

あささ

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夏の訪れ、新しい出会い。

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 「はっ...!?」
またあの夢見ていた。汗をかいてTシャツがビショビショに濡れている。今日もシャワー浴びないと...。
毎朝同じ夢を見て、汗を流すためシャワーを浴びて、その繰り返しだ。
しかしあの夢は何なのだろう。
白く靄のかかった、その中に少女らしき...
思い出そうとすると頭が痛む。
そんなことを考えながらシャワーをひねる早朝であった。

 晴天が眩しい夏休みの始め、今日は僕達森之宮家、と言っても父と僕だけだが2人にとっても大切な日である。

この高校1年の夏休み直前に父の再婚が決まった。
生まれてすぐ母は浮気をして金だけ持って逃げた。
その当時は貧相な暮らしを強いられたが、父も勤めている会社ではそこそこの地位を確立して行ったため今では金銭面で困ることはない。
再婚という話が、突然の事で戸惑ったが高校ではあまり馴染めなかったため、その点に関しては心配はなかった。
自惚れでは無いが、客観的には外見も内面も悪くは無いと思っている。まあ、それもこれも、せいなんだがな。
でも、友達と呼べる存在はいたのはいたよ?うん。
まあ...俗に言う黒歴史と言うやつだ。
しかし、馴染めなかったとは言えども、別に僕は根暗で陰キャラな性格をしている訳では無い。一応1度彼女はできたこともある。こっぴどく振られたが...。
それにしても自分的には明るくポジティブな性格だと思ってはいる。
だからこそ僕はまた1から始めるチャンスだと少しウキウキしていたところだ。

 「準備はできたか?そろそろ出るぞ」
シャワーを浴び終え、正装らしい正装はまだあまりないため、制服を身にまとい鏡を確認していた僕に父は問いかける。
『この制服も今日で最後か...。感慨深く...は対してないな。』
と、本当に思い入れないほど学校に馴染んでなかったんだなと1人苦笑いをこぼした。
父も珍しくスーツを着て少なからずの整容は整えているようだ。そして僕に問いかける表情も心做しか柔らかい。それもそうだろう、前記のようなことがあったんだ。再び"パートナー"と呼べる存在ができることが嬉しいのだと思う。
そんな父に「ああ。」と一言。
僕自身も、幼い頃から父の苦労を見てきたから少しでもこれで父が楽になるなら再婚を反対する理由はなかった。
 これは後々聞いた話だがその再婚相手は小学校からの誼みで所謂幼馴染で、父の初恋の相手らしい。
また再婚相手も父と同じような境遇で5年前夫に逃げられたという。
久々の再会で飲みに行った際、酔った勢いで「実は、初恋の相手君なんだ」と言うと
「え!奇遇ね私もなの!」と盛り上がり運命を感じた2人は再婚に至ったそう。運命の赤い糸とはよく言ったものだ。

 必要な家具などは昨日のうちに全て引っ越し業者に配送して貰っているため、残りの荷物を車に詰め込み、16年間過ごしてきた家に別れを告げ車に乗り込んだ。
え?なんでうちではなくて相手の家に行くかだって?それは後々わかる話だ。
 車中では、昔の思い出、相手には僕と同い歳の子がいる、など聞かされたが途中から聞き疲れ、そこから着くまでの半分以上は寝ていた。
 駐車場に車を停め、車から降りた2人は目の前の景色に驚愕する。
 「「でかっ!!」」
親子揃って開口一番これである。
ざっと見て...うん、とっても広い。
なんというかその...とにかく広いのである。
来客用と書かれた駐車場を出てすぐ左、西洋風の両開き門に続き、レンガが敷き詰められた玄関まで続く道、その道中の左右には見事なまでに整備された薔薇園などの花園。
そしてレンガ造りの立派な家本体はお城そのものである。
 「あはは。父さん、どうやら僕はまだ寝ぼけているらしい。」
 「樹希、残念だがこれは現実だ...」
豪邸だと聞いていた父もこのデカさを初めて目の当たりにしてさすがに怯懦になっているようだ。
 2人が白目になって魂が抜けかけているところにいかにも聖母的オーラがある女性と少し小柄ではあるが、黒く艶めかしい髪に、整った顔立ち、モデルのようなスタイルの良さ、全てを兼ね備えた少女が玄関から出てきた。
 「意外と早かったわね。うふふ。」
と品のある声で呼び掛けるその人こそ、父の再婚相手、あるいは新しい義母ははである美和みわさんである。
 「さあ、早く中へ入って」
中に入るよう促され、とりあえず軽くお話をと上げられた客室は30畳程の広さで、如何にもなテーブルと如何にもなソファが並んでいる。つまり高そうなのである。

 その対面で置かれたソファに腰をかけ、美和さんはメイドにお茶を出すよう声をかけた。
『メイドってリアルにいるんだ...』と父と目を合わせていると、
 「今、メイドって本当にいるんだって顔しましたね。大丈夫ですよ、次第になれますから。」
と、クスリと笑われた。

 「改めまして...」
と美和さんが続ける
 「私は、桜田...ではなく今日から森之宮ですね。森之宮 美和です。」
そう、美和さんは何を隠そう日本、いや世界が誇る《桜田製薬》の代表なのだ。
この家がこんなでかいのはこういうことだからで、他に軽井沢にも別荘を持っているという。
 「ほら、華玲かれんも早く」
「華玲」と呼ばれるその子に見覚えがあった。
確か...えっと...うーん。
しかし、どうしても思い出せなかった。
緊張のせいかずっと俯いていたが美和さんに言われ顔をあげる。
 「は、はじめまして。華玲です。これからよろしくお願いしましゅ...ます!」

 『噛んだ』
 『噛んだな』
 『噛みましたわ』
心の中で3人ハモる。
噛んで恥ずかしそうに顔を赤らめ手で覆っている姿が素直にめっちゃかわいい。
その姿を見ていると、
 「あらあら、うちの華玲可愛いでしょ~。
これでもまだ初恋まだなの。樹希くん良かったら貰ってくれてもいいのよ。」
 「ちょっとお母さん、やめてよ!!それは秘密って言ったでしょ~!」
仲がよろしいことで。見てて和むなぁと思いつつ父も軽く自己紹介を挟む。
 「森之宮 しゅうだ。不束者だがこれからよろしく。」
僕にも目線を向けてきたので次は僕の番だ。
 「どうも、森之宮 樹希いつきです。これからよろしくお願いします。」
華玲さんと目が合うと、ふっと顔を背けられた。
ま、まぁそうだよな。突然兄妹ができるなんて受け入れられないよな。僕も反対することは無かったが、全てを受け入れられてる訳では無い。
ちなみになんで兄妹かと言うと、僕が4月生まれで華玲さんが8月生まれだからだ。

 そんなこんなで軽く雑談を済ませた僕達はそれぞれの部屋で荷物整理をしに行くことになった。余っていた部屋だと言うが普通余ることなんてない。これも豪邸の弊害と言ったところだろうか。
そして何故か流れで華玲さんが僕の手伝いをすることになった。
 部屋に来て無言の時間が続き気まずくなった僕が口を開く。
 「あ、あの...」
 「ひゃい!?」
ビクッとなりこちらを向く。
 「華玲さんも蒼台に通ってるんですよね?」
蒼台とは僕が夏休み明けから通うことになっている蒼葉明台高校のことである。
 「は、はいぃ。そうです。」
 「僕、前の高校で全然馴染めなかったんです。だから、良ければまず華玲さんとは仲良くなっときたいなって。ま、まあ一応今日から兄妹ですし...」
兄妹と言えどもそれ以上に同級生でもある。だからまずは身近から仲良くするべし!
 「も、もちろんです!私でよければぜひぜひ!」
いきなり食い気味で驚いたが「兄妹」ということにも対して反論は無かったためそこまで心配しなくていいのかもしれない。
「ありがとう」と笑顔で返すとぱっとまた顔を背けられた。
あれれ?僕なんかしたかな?やっぱり受け入れられないカナ??
 荷物整理の途中だったのでいくつかのダンボールが開けられていて、彼女は徐にダンボールのものを取り出した。
 「あの...これは?」
 「あぁ、それは幼稚園時ぐらいに貰ったんですけどよく覚えてないんですよね。僕、交通事故で頭打って少し後遺症があるって言うか、はは...」
 「そ、そうなんですね。なんかごめんなさい」
申し訳なさそうにする彼女に「全然大丈夫ですよ」と言って落ち着かせる。
 
 そう。あの件とは高校に入って2ヶ月目、6月のことだった。学校の帰り道トラックに轢かれそうになった子供を庇ってそのまま転がり街灯で後頭部を強打した。一部記憶を失ったが幸いにして生活に支障をきたす程ではなく命にも別状は無かった。
しかし、失ったのはそれだけではなかった。
一部の感性、『恋心』が分からなくなったのである。もちろん、ドキッとすることはある。でもそれがどこまで本当の感情なのかが分からないのだ。
事故後僕は一躍ヒーローとなり、女子から告白を受けることが多くなった。
しかし、自分の恋心に疑心暗鬼になるあまり、誰一人として承諾することなく、それが僕の馴染めなかった大きな要因である。
要は男子の嫉妬で、仲間に入れてもらえなかったという訳だ。
 
 荷物整理が一段落して時計を見ると18時を回っていた。
 「そろそろ頃合もいいのでやめにしましょうか、あとは自分でやっときます。ありがとうございました。」
 「いえいえ、私でよければいつでもお手伝いしますよ。では私は1度自分の部屋に戻ってそのまま夜ご飯のお手伝いをしてきます。」
ここまで豪邸でメイドもいる家なのになぜご飯はシェフなどに任せないかについては、美和さん本人が料理好きだからそこだけは自分でやるという意志のもとらしい。そこに華玲さんもちょくちょく手伝っているというわけだ。
 華玲さんが僕の部屋を出る直前に振り返って少し頬を赤らめて言ってきた。
 「あ、あの!華玲...でいいです。それと敬語は禁止です...一応兄妹なんですから。」
...おぉぉぉぉい?!恥ずかしがりながらそんなことを言うのは反則だろおお??なんて本人に言えるわけないから顔に出さないよう自然な笑顔だ答えた。
 「じゃあ華玲と呼ばせてもらうよ。改めてよろしくね。」
 「は、はい!よろしくです!」
そういうと扉をドンッと閉めて行ってしまった。
...しかし正直ドキッとした今もどこまでが本当なんだろうな。
と、そんなこんなで僕の第2の人生(?)が始まったのである。

                 ⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅⚅

 華玲side

 『反則です!反則です!あんな笑顔反則です!』
部屋に戻ってくるやいなや、樹希の顔を思い出してはドキドキして頭から離れない。
さっき初めて会った時から顔を上手く見れなかった。
 「私があげたあのキーホルダーまだ持っててくれたんだ。」
あれは確かに私があげたもの。
北海道旅行で間違えて同じキーホルダーを2個買ってしまったから、たまたま飛行機で隣の席になった男の子にあげたのだ。
それにしてもこんな形で再会するなんて...
運命としか言いようがない。

 「でも、このどうしようもなくドキドキする気持ちは何なのだろう。」
この気持ちは自分では分からない。
明日このことは親友に相談しようと、気持ちを落ち着かせるために母が夜ご飯を準備しているキッチンへとむかった。


 

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