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恋の予感、君の横顔。
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それからのことである。
『もしもし?』
「もしもし、彩ちゃん?ちょっと相談いいかな」
彩ちゃん、こと斎田 彩花は華玲の親友の1人である。
『ん?どうした?』
「あ、あのね...なんて言ったらいいかわかんないんだけどさ...」
『はっはーん、さては男だな?』
「へっ?!な、なんでそれを!?」
『ふふふ。伊達に乳児からの付き合いじゃないわよ』
華玲と彩花は同じ日同じ病院で生まれ、しかもお互いの両親が4人とも幼馴染という、割と珍しい関係で、故に乳児からの付き合いである。
『で?どうしたの?』
「だ、誰にも言わないでね。ちょっと複雑な話になるんだけど...」
親が再婚して云々の話を一通り説明したあと、
「で、でね樹希くんといるとたまにドキドキするというか...」
『はぁ。これだから初恋もまだ来てないような未熟者は...。それはね、<恋>よ』
そんな彩花は彼氏はいない。
こんなことを言っておきながら小学校の頃の初恋の男の子が忘れなれないというウブな子である。
「え、え、でもでも私、恋とかわかんなくて、恋?!これが?!」
『ちょ、ちょっ、落ち着いて!
でも、あのさ、昨日初めて会ったんでしょ?それって一目惚れじゃない?』
「あ、その事なんだけどさ...。小さい頃、一応会ったことはあるの。ほら、あの話の...」
一応この内容は話したことがあった。
『あの男の子なの?!例の?!
どんな確率よ...。もうそれの運命じゃない。てか、写真ないの?夏休み明けから高校一緒なんだよね?顔把握も大事よね。よね!』
華玲と彩花は小中高とずっと一緒であるため、樹希とも夏休み明けからは高校が同じになる。
「しゃ、写真?持ってないよ、そんなの。」
『はぁ?じゃあ撮るのよ!てか、撮れ!』
強引極まりない。
そして、ブチッ。切られてしまった。
「はぁ、彩ちゃんってばいつも強引なんだから。...恋、かぁ。」
初恋がない華玲には恋が分からないし、
恋だと言われても正直ピンと来てない。
「はっ!そういえば写真どうしよう!」
唐突に思い出し自分自身にビクッとする。
彩花にキレ気味で言われたが、写真を一緒に撮ってもらう勇気なんてない。
でも、彩花は1番信頼してる友人だ。なんだかんだで言われたことを裏切るようなことをしたくない。
「本当にどうし...」
そう口に出した瞬間、ドアのノック音が部屋中に響く。
「お、おーい、華玲さん?もう朝ごはんできてるから呼んできてって...」
「ひっ!樹希くん?!」
呼びに来たのは樹希だった。
「ん?ど、どうかした?」
「あっ、んーん!なんでもない、すぐ行くね」
一旦このことは忘れてとりあえず朝ごはんを取ろうとした...したかった。
『どうしようどうしよう!樹希くんの顔を直視できない!』
── 一方で、樹希も同様で。
『やっべー!!夜中のことが頭に浮かんでまともに顔合わせれねぇー!!』
お互いにこの状態である。
恋心が分からない樹希でもさすがに夜中の出来事については本当の照れであることはわかった。
しかし傍から見たこの状態は...
秀 『2人とも妙に顔を赤らめて顔を合わせようとしないな...まさかっ!』
美和 『2人ともなんでお互いに目を合わせようとしないのかしら。しかも顔が赤い...まさかっ!』
『『恋かっっっ!!!!』』
2人の状況は一般論ではそうなるだろう。
秀・美和夫妻はお互いに思っていることが通じあったのか顔を見合せアイコンタクトをとる。そしてわざとらしく切り出すのである。
「樹希と華玲ちゃん、今日はいい天気だし2人でお出かけにで行ってきたらどうだい??」
「それはいいわねっ!最近、近くにできたショッピングモールにでもどう??ほら、お互いを知るためにもこういうの大事よね、よね!デートよ、で・え・と!」
実にわざとらしいが樹希は直視できていないことを悟られたと思ったのか、すんとした表情をして正面を向いた。もう遅いよ。
尤も華玲の方はと言うと
「デ、デート!?樹希くんと、私が!?」
露骨に狼狽している。それを見てにやにやする母。
しかし、この時華玲はさっきのセリフを思い出す。
『写真...。これなら写真を撮る口実になるかも...!』
一旦深呼吸をして、さっきの動揺がなかったかのように樹希へと話を振った。
「わ、私はいいけど。樹希くんはどうですか?」
突然、顔を向けられ一瞬顔を逸らしたが、さっきみたいに直視を避けているとまたわざとらしくいじられそうだったので、平然とした顔で華玲の顔を向き返す。
「僕も別にいいよ。むしろ華玲のこともっと知れるなら断る理由なんてないよ」
そう言って樹希はニコッと微笑む。イケメンである。
『『ま、眩しいっ!』』
美和だけならともかく、実の父である秀でさえそのイケメンスマイルに目が眩んだ。
華玲は平然と恥ずかしがらずそんなことを言う樹希に思わず赤面する。
そう、樹希はさっきの照れからは想像も出来ないが、普通の年頃男子なら恥ずかしがって言えないようなことを平然と言ってのけてしまう、いわば"天然女たらし"なのである。
そんな3人を見て、樹希は「???」という表情をしているのが更に天然女たらしの所業と言ったところであろう。
「よ、よし決まりだな。さぁ2人とも早く食べて準備してきなさい」
「「はーい」」
お互いに夜中のこと、朝のことを一旦忘れて今日は楽しむことに集中しようと心に決めた。
・・・・・・・
「秀さん。私は樹希くんになら華玲のこと任せていいと思うの」
「ああ。俺も、2人なら上手くやってくれると思っている」
朝ごはんを食べ終え、2人が"デート"の準備ために部屋に戻ったあとの会話である。
要するに、義兄妹という枠を飛び出して、この2人は2人の知らないところで公認となったのである。
そんなことも露知らず...
──小一時間後。
「い、樹希くん、おまたせ。」
「うん。それじゃあ行こうか。」
「ううん、僕も今来たとこだよ」というフレーズに憧れていたが、同じ家である点あまりそのセリフは適切じゃない気がしたので普通に返事をした。
「そ、その、服どうかな...。久々のお出かけだからおしゃれしてみたんだけど」
水色のロング丈のワンピースに白いバケットハット、ローヒールのサンダルと実にシンプルであるが夏にふさわしい格好と言える。小柄ながらに凹凸ははっきりして、それでいてすらっとした細身の体型がまたそのシンプルな服装を際立たせている。
「よく似合っている、夏にピッタリな服装だ。そ、その...か、かわいい...よ?」
カァ///と、樹希はそのセリフを言いながら、華玲はそのセリフを聞いて同時に赤面する。
「えへ...えへへ。樹希くんも似合ってます」
「ありがとう」
そしてまた微笑む。そして華玲が照れて顔を隠す。そんな流れで今後とも進めてまいります、よろしく。
家は豪邸であるものの、町は田舎といえば田舎である。
今から行く、ついこの前オープンしたショッピングモールが1番近場である。
バスで1時間程かかるが。
ついてすぐ、目の前に大きい建物が広がる。
「おお!大っきいです!!」
樹希は引っ越す前は割と都会の方だったため驚きはなかったが、華玲にとっては興奮する程であった。
映画館はもちろんのこと、今どきのお店が並び、施設は十分都会の方に引けを取らない作りとなっている。なんと言ってもこの地域の人からすればゲーセンがあるのが感動モノらしい。
「樹希くん、樹希くん!私、あのパンケーキ屋行ってみたいです!」
「あー、今SNSで話題になってるところか。僕も行ってみたかったんだ」
田舎ということもありテレビやSNSで見るほどの行列はできていなくスムーズに席に誘導された。
メニューを渡され、2人ともSNSで気になっていたものを即座に指さす。
「僕はメープルバニラ」
「私はベリーベリー」
ベリーベリーはveryとberryをかけているらしい。
運ばれてきてすぐ華玲はカメラを向ける。
どうやらエンスタに載せるらしい。
樹希はエンスタをやっていないため華玲が撮り終わるのを待って一緒に手を合わせた。
樹希が頼んだメープルバニラはフワッフワのパンケーキにバニラアイス、メープルと文字の通り盛り付けてあり、追いメープルが可能だ。
華玲のベリーベリーは読んで字の如く、パンケーキの上や周りに果実がふんだんに転がっていて、真ん中には巨大なホイップが渦巻いている。
「う~~ん!フルーツがいっぱい幸せ~」
幸せそうに頬張る華玲に、
「華玲、1口貰っていいか?」
と、樹希は口を開き口に入れてくれるのを待つ。
一瞬ぽかーんとなり我に返った。
『え、こ、これって、まさかあーんしてくれ状態?!』
戸惑ったが多分入れるまで口を閉じないと察した。
「あ、あーん。ど、どうですか??」
「ああ、美味いぞ。幸せ~ってなるな」
嬉しそうにニコッと微笑む樹希がイケメンすぎて華玲は直視できなかった。
その後も美味しいものを食べたり、食べたり、食べたりした。食ってしかねぇなこいつら。
2人とも満腹食べ、歩き疲れたためここらで帰ることにした。
「はうあ~、おなかいっぱいです~」
「そうだな。華玲ともいっぱい話せて良かったよ」
「そうですね、なんかもっと仲が深まった気がします!」
あははと笑う2人。こうして自然に笑えるのも今日のお陰だろう。
夫妻から言わせれば、尤も"私たちの"お陰である。
時刻は18時過ぎ。2人が住む町行きのバスは2時間に1本程度しかなく、1時間バス停で待った後やっと乗ることが出来た。
当然、2人以外でバスに乗る人はちらほらしかおらず、途中で降りていったため今は貸切状態である。
今日の思い出に浸って、主にパンケーキあーんを思い出しながら、ふと思い返す。
『写真撮ってない...』
窓側に座る樹希の顔を見る。
海が見える道中、夕日が反射して真っ赤に染めている。そんな景色をバックにしている樹希の横顔はまさに"被写体"そのものである。
そして華玲は無意識のうちにカメラを向けていた。
「カシャ」というシャッター音と共に樹希が振り向く。
「そんな、まじまじと被写体として撮られると恥ずかしいものだな」
と、笑いかける。
そして、まさかまさかで樹希の方から誘うのであった。
「せっかくだし、2人で写らないか?」
樹希くんの方から言ってくるとは、と思ったがすぐに頷く。
「ぜ、ぜひ!」
内カメラで2人の顔を捉える。
夕日をバックに、ぎこちない笑顔であったが、けどそれも何となく絵になっている気がした。
撮り終えたあと、樹希のから写真が送られてくる。
初々しさがある、カップルのような写真。
心做しか樹希の顔にも照れがあったような気がした。
そんな写真を見て、
「今日は本当に楽しかったです!」
自分よりも座高の高い樹希を満面の笑みで見上げて言ったのであった。
『もしもし?』
「もしもし、彩ちゃん?ちょっと相談いいかな」
彩ちゃん、こと斎田 彩花は華玲の親友の1人である。
『ん?どうした?』
「あ、あのね...なんて言ったらいいかわかんないんだけどさ...」
『はっはーん、さては男だな?』
「へっ?!な、なんでそれを!?」
『ふふふ。伊達に乳児からの付き合いじゃないわよ』
華玲と彩花は同じ日同じ病院で生まれ、しかもお互いの両親が4人とも幼馴染という、割と珍しい関係で、故に乳児からの付き合いである。
『で?どうしたの?』
「だ、誰にも言わないでね。ちょっと複雑な話になるんだけど...」
親が再婚して云々の話を一通り説明したあと、
「で、でね樹希くんといるとたまにドキドキするというか...」
『はぁ。これだから初恋もまだ来てないような未熟者は...。それはね、<恋>よ』
そんな彩花は彼氏はいない。
こんなことを言っておきながら小学校の頃の初恋の男の子が忘れなれないというウブな子である。
「え、え、でもでも私、恋とかわかんなくて、恋?!これが?!」
『ちょ、ちょっ、落ち着いて!
でも、あのさ、昨日初めて会ったんでしょ?それって一目惚れじゃない?』
「あ、その事なんだけどさ...。小さい頃、一応会ったことはあるの。ほら、あの話の...」
一応この内容は話したことがあった。
『あの男の子なの?!例の?!
どんな確率よ...。もうそれの運命じゃない。てか、写真ないの?夏休み明けから高校一緒なんだよね?顔把握も大事よね。よね!』
華玲と彩花は小中高とずっと一緒であるため、樹希とも夏休み明けからは高校が同じになる。
「しゃ、写真?持ってないよ、そんなの。」
『はぁ?じゃあ撮るのよ!てか、撮れ!』
強引極まりない。
そして、ブチッ。切られてしまった。
「はぁ、彩ちゃんってばいつも強引なんだから。...恋、かぁ。」
初恋がない華玲には恋が分からないし、
恋だと言われても正直ピンと来てない。
「はっ!そういえば写真どうしよう!」
唐突に思い出し自分自身にビクッとする。
彩花にキレ気味で言われたが、写真を一緒に撮ってもらう勇気なんてない。
でも、彩花は1番信頼してる友人だ。なんだかんだで言われたことを裏切るようなことをしたくない。
「本当にどうし...」
そう口に出した瞬間、ドアのノック音が部屋中に響く。
「お、おーい、華玲さん?もう朝ごはんできてるから呼んできてって...」
「ひっ!樹希くん?!」
呼びに来たのは樹希だった。
「ん?ど、どうかした?」
「あっ、んーん!なんでもない、すぐ行くね」
一旦このことは忘れてとりあえず朝ごはんを取ろうとした...したかった。
『どうしようどうしよう!樹希くんの顔を直視できない!』
── 一方で、樹希も同様で。
『やっべー!!夜中のことが頭に浮かんでまともに顔合わせれねぇー!!』
お互いにこの状態である。
恋心が分からない樹希でもさすがに夜中の出来事については本当の照れであることはわかった。
しかし傍から見たこの状態は...
秀 『2人とも妙に顔を赤らめて顔を合わせようとしないな...まさかっ!』
美和 『2人ともなんでお互いに目を合わせようとしないのかしら。しかも顔が赤い...まさかっ!』
『『恋かっっっ!!!!』』
2人の状況は一般論ではそうなるだろう。
秀・美和夫妻はお互いに思っていることが通じあったのか顔を見合せアイコンタクトをとる。そしてわざとらしく切り出すのである。
「樹希と華玲ちゃん、今日はいい天気だし2人でお出かけにで行ってきたらどうだい??」
「それはいいわねっ!最近、近くにできたショッピングモールにでもどう??ほら、お互いを知るためにもこういうの大事よね、よね!デートよ、で・え・と!」
実にわざとらしいが樹希は直視できていないことを悟られたと思ったのか、すんとした表情をして正面を向いた。もう遅いよ。
尤も華玲の方はと言うと
「デ、デート!?樹希くんと、私が!?」
露骨に狼狽している。それを見てにやにやする母。
しかし、この時華玲はさっきのセリフを思い出す。
『写真...。これなら写真を撮る口実になるかも...!』
一旦深呼吸をして、さっきの動揺がなかったかのように樹希へと話を振った。
「わ、私はいいけど。樹希くんはどうですか?」
突然、顔を向けられ一瞬顔を逸らしたが、さっきみたいに直視を避けているとまたわざとらしくいじられそうだったので、平然とした顔で華玲の顔を向き返す。
「僕も別にいいよ。むしろ華玲のこともっと知れるなら断る理由なんてないよ」
そう言って樹希はニコッと微笑む。イケメンである。
『『ま、眩しいっ!』』
美和だけならともかく、実の父である秀でさえそのイケメンスマイルに目が眩んだ。
華玲は平然と恥ずかしがらずそんなことを言う樹希に思わず赤面する。
そう、樹希はさっきの照れからは想像も出来ないが、普通の年頃男子なら恥ずかしがって言えないようなことを平然と言ってのけてしまう、いわば"天然女たらし"なのである。
そんな3人を見て、樹希は「???」という表情をしているのが更に天然女たらしの所業と言ったところであろう。
「よ、よし決まりだな。さぁ2人とも早く食べて準備してきなさい」
「「はーい」」
お互いに夜中のこと、朝のことを一旦忘れて今日は楽しむことに集中しようと心に決めた。
・・・・・・・
「秀さん。私は樹希くんになら華玲のこと任せていいと思うの」
「ああ。俺も、2人なら上手くやってくれると思っている」
朝ごはんを食べ終え、2人が"デート"の準備ために部屋に戻ったあとの会話である。
要するに、義兄妹という枠を飛び出して、この2人は2人の知らないところで公認となったのである。
そんなことも露知らず...
──小一時間後。
「い、樹希くん、おまたせ。」
「うん。それじゃあ行こうか。」
「ううん、僕も今来たとこだよ」というフレーズに憧れていたが、同じ家である点あまりそのセリフは適切じゃない気がしたので普通に返事をした。
「そ、その、服どうかな...。久々のお出かけだからおしゃれしてみたんだけど」
水色のロング丈のワンピースに白いバケットハット、ローヒールのサンダルと実にシンプルであるが夏にふさわしい格好と言える。小柄ながらに凹凸ははっきりして、それでいてすらっとした細身の体型がまたそのシンプルな服装を際立たせている。
「よく似合っている、夏にピッタリな服装だ。そ、その...か、かわいい...よ?」
カァ///と、樹希はそのセリフを言いながら、華玲はそのセリフを聞いて同時に赤面する。
「えへ...えへへ。樹希くんも似合ってます」
「ありがとう」
そしてまた微笑む。そして華玲が照れて顔を隠す。そんな流れで今後とも進めてまいります、よろしく。
家は豪邸であるものの、町は田舎といえば田舎である。
今から行く、ついこの前オープンしたショッピングモールが1番近場である。
バスで1時間程かかるが。
ついてすぐ、目の前に大きい建物が広がる。
「おお!大っきいです!!」
樹希は引っ越す前は割と都会の方だったため驚きはなかったが、華玲にとっては興奮する程であった。
映画館はもちろんのこと、今どきのお店が並び、施設は十分都会の方に引けを取らない作りとなっている。なんと言ってもこの地域の人からすればゲーセンがあるのが感動モノらしい。
「樹希くん、樹希くん!私、あのパンケーキ屋行ってみたいです!」
「あー、今SNSで話題になってるところか。僕も行ってみたかったんだ」
田舎ということもありテレビやSNSで見るほどの行列はできていなくスムーズに席に誘導された。
メニューを渡され、2人ともSNSで気になっていたものを即座に指さす。
「僕はメープルバニラ」
「私はベリーベリー」
ベリーベリーはveryとberryをかけているらしい。
運ばれてきてすぐ華玲はカメラを向ける。
どうやらエンスタに載せるらしい。
樹希はエンスタをやっていないため華玲が撮り終わるのを待って一緒に手を合わせた。
樹希が頼んだメープルバニラはフワッフワのパンケーキにバニラアイス、メープルと文字の通り盛り付けてあり、追いメープルが可能だ。
華玲のベリーベリーは読んで字の如く、パンケーキの上や周りに果実がふんだんに転がっていて、真ん中には巨大なホイップが渦巻いている。
「う~~ん!フルーツがいっぱい幸せ~」
幸せそうに頬張る華玲に、
「華玲、1口貰っていいか?」
と、樹希は口を開き口に入れてくれるのを待つ。
一瞬ぽかーんとなり我に返った。
『え、こ、これって、まさかあーんしてくれ状態?!』
戸惑ったが多分入れるまで口を閉じないと察した。
「あ、あーん。ど、どうですか??」
「ああ、美味いぞ。幸せ~ってなるな」
嬉しそうにニコッと微笑む樹希がイケメンすぎて華玲は直視できなかった。
その後も美味しいものを食べたり、食べたり、食べたりした。食ってしかねぇなこいつら。
2人とも満腹食べ、歩き疲れたためここらで帰ることにした。
「はうあ~、おなかいっぱいです~」
「そうだな。華玲ともいっぱい話せて良かったよ」
「そうですね、なんかもっと仲が深まった気がします!」
あははと笑う2人。こうして自然に笑えるのも今日のお陰だろう。
夫妻から言わせれば、尤も"私たちの"お陰である。
時刻は18時過ぎ。2人が住む町行きのバスは2時間に1本程度しかなく、1時間バス停で待った後やっと乗ることが出来た。
当然、2人以外でバスに乗る人はちらほらしかおらず、途中で降りていったため今は貸切状態である。
今日の思い出に浸って、主にパンケーキあーんを思い出しながら、ふと思い返す。
『写真撮ってない...』
窓側に座る樹希の顔を見る。
海が見える道中、夕日が反射して真っ赤に染めている。そんな景色をバックにしている樹希の横顔はまさに"被写体"そのものである。
そして華玲は無意識のうちにカメラを向けていた。
「カシャ」というシャッター音と共に樹希が振り向く。
「そんな、まじまじと被写体として撮られると恥ずかしいものだな」
と、笑いかける。
そして、まさかまさかで樹希の方から誘うのであった。
「せっかくだし、2人で写らないか?」
樹希くんの方から言ってくるとは、と思ったがすぐに頷く。
「ぜ、ぜひ!」
内カメラで2人の顔を捉える。
夕日をバックに、ぎこちない笑顔であったが、けどそれも何となく絵になっている気がした。
撮り終えたあと、樹希のから写真が送られてくる。
初々しさがある、カップルのような写真。
心做しか樹希の顔にも照れがあったような気がした。
そんな写真を見て、
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