とある貴族の家に仕えるメイドですが、奥様の虐めが酷すぎるので、弱みを握って復讐しようと思います。

冬吹せいら

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初めての感情

イライラする……。

最近、メイドリーダーのモカーナが、体調を崩したと言って、なかなか顔を見せない。

……私は、メイドを虐めたいのもそうだけど、あの子にそれを見せつけてやりたいのに。

アーバルド家に、古くから仕えている家の娘だからって、ことあるごとに、知っているような口を聞いてくることが、本当に嫌だった。

いつか、あの子も酷い目に遭わせたい。
というか、もう、そうしてしまってもいいとさえ思っていた。

……なのに、それを感じ取ったかのように、休み始めて。

ストレスがたまると、メイド虐めでは、発散できなくなる。

モカーナへ、メイド虐めを見せつけるという、より気持ちいい行為ができていないので、ストレスと、ムシャクシャした気持ちは、積み重なるばかり。

こうなってくると……。

……私は、そういうお店に、行きたくなってしまう。

街の外れにある、とあるお店。
別に、性的な接触が発生するわけじゃない。
ただ、口汚く、顔の良い男たちに、罵ってもらえるだけ。

罵ってもらって、イライラした気持ちを、メイドたちにぶつける……。

これがたまらなく気持ち良い。

だけど、それがおかしい性癖であることは、自分でも理解していた。
だから、我慢していた。

モカーナへ、メイドたちを虐めているところを見せつける。
それでなんとか、間に合わせていた。

……必然だ。
私が今、あのお店に向かっていることは、必然。

悪いのはモカーナ。

私は悪くない。

「すいません。そこのお方」

いきなり後ろから話しかけられて、思わず体が跳ねてしまった。

振り返ると、そこには……。

……ものすごい、イケメンが立っていた。

帽子を被り、口元を布で隠しているので、顔の一部しか見えていないが、それでも十分、イケメンとわかる。

身長が高く、肌が綺麗で……。
その鋭い目つきに、心を奪われそうになった。

……って、ダメよ。私には、夫がいるもの。

「なんでしょうか」
「いえ、とても綺麗だと思ったので」

低い声……。なんて美しいの?

まるで、心に響き渡るような、心地の良い音色。

これ以上会話していたら、好きになってしまうかもしれない。
危機感を覚えた私は、逃げ出そうとした。

しかし、いきなり足を踏み出したせいで、躓いてしまった。

「きゃあっ!」

私は、確かに転んだ。

だけど、床に体を打ち付けることはなかった。

「大丈夫ですか?」

……彼が、助けてくれたのだ。

抱きかかえられ、その温もりに包まれた私は……。

「……あなたの名前は?」

思わず、尋ねてしまった。

「……カモナです」
「カモナ? 変わった名前ね……」
「少し離れた国から来たのです」
「なるほど……」

この国には、こんなに中性的なイケメンはいない。

納得した。

「あの、わ、私、行く場所があるので……」
「よろしければ、案内しますが?」
「け、結構です」
「そうですか……。では、お気をつけて」

カモナが、立ち去ろうとする。

気が付くと、私はカモナの腕を掴んでいた。

「あれ……」

その反射的な行動が、自分でも理解できず。

ただ、カモナを見上げ、見つめるのみ。

「……綺麗な瞳です」
「は……ひぃ」

カモナの笑顔に、とうとう私は、明確な心の変化を感じ取ってしまった。

これ以上は危険だ。すぐに帰らなければ。

私はカモナの腕を振り払って、一目散に駆け出した。

心臓が、うるさいくらいに鼓動を早めている。

久々に走っているせいもあるだろう。だけど……。

「なんなのよ……。もうっ!」

異性に対して、感じたことが無いほどの、甘い感情。

それをかき消すように、私は必死で走り続けた。
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